
【マンガ家インタビュー】12月16日に「Fellows!」連載中の『ノラ猫の恋』第1巻&短編集『冬の熱』同時発売を控えた長野香子氏にロングインタビュー「心にさびしさを抱えたオジサンを描くのが好き」
優秀な新人を世に送り出すべく創刊された「Fellows!」(エンターブレイン刊)から、また新たな才能が羽ばたこうとしている。12月16日に同誌連載中の『ノラ猫の恋』単行本第1巻と、「コミックビーム」誌で掲載された短編を集めた『冬の熱』が同時発売される長野香子氏は、ビーム編集部に作品を持ち込んでマンガ家になる夢を果たした。
『ノラ猫の恋』は、高校1年の少女・ななが、蒸発していた父からの手紙を受け取り、東京から青森県の弘前に向かう道中で、オカマのキヨシと謎の青年・澤(さわ)に出会うことからはじまるロードムービーテイストの新感覚マンガ。父の生家に着いてみると、なんとその2人も。実はキヨシは父のかつての“恋人”で、澤は会社の同僚だった。そんな3人の奇妙だけど心温まる共同生活が描かれていく。繊細さのなかに力強さが芽生えつつあるタッチは、急速に成長しつつあるマンガ家ならではのみずみずしさだ。
『冬の熱』は長野氏初期の傑作。明治後期から大正を思わせる時代を背景に、1人の画家が若い青年に恋をし、青年をモデルにして画を描いていく。その2人と画家の妻の不思議だが奥ゆかしい三角関係を、あくまで上品にまとめあげた美しい1作だ。
今回は2冊同時発売を控えた長野氏にロングインタビュー。持ち込みからデビュー、連載にいたる軌跡を中心に、2作をより深く読み込むために知っておきたいこと、そして意外な長野氏の秘密(?)まで、余すところなくうかがった――
今回インタビューした長野氏に自画像を描いていただきました!
●投稿より反応がわかる“持ち込み”に、勇気を出して挑みました。
──いよいよ12月16日に「Fellows!」誌で連載中の『ノラ猫の恋』の単行本第1巻が発売されますね。短編集の『冬の熱』も同時発売されるということで、今のご心境からお聞かせください。
長野:こんなことを言ったら怒られそうなんですが、実はまだ現実味がない感じです。校正紙を見て、「出るんだ」というのを少し実感しましたが……。
──『ノラ猫の恋』ですが、最初はどういう形でスタートしたんですか?
長野:最初は女の子とおばさん、年齢層の違う女性2人の物語にしたらどうかとアイデアレベルで話していたんです。その後「おばさんをオカマのお姉さんにしてみたらどうか」とか、「ロードムービー的な要素を入れてみたらどうか」みたいな話が出て、全体のプロットを考えて、第1話のネームを書いて打ち合わせしていきました。
──『ノラ猫の恋』の前に、コミックビームに発表された作品などもあったわけですが、そもそも長野さんがデビューされることになったきっかけは?
長野:コミックビームを読者として読んでいて、ビームマンガ大賞の編集長のコメントが、毎回厳しくも面白かったので、原稿を持ち込んでみようと思ったんです。
担当編集:今のフェローズの前身になった『コミックビームFellows!』の企画が動いている時期でした。それが発売になったのが2006年の10月だから、持ち込みを受けたのはその春ぐらいですね。
長野:桜が咲いてる頃でした(笑)。
──持ち込まれた頃はどんなお話を描かれていたんですか?
長野:男の子2人と女の子1人の三角関係の話を持っていったんですけど、そのときは結構厳しいことも言われました。「もっとコマを大きくとって」とか「線も間違いを恐れてヒョロヒョロ描いてる」とか、そういうことを言われてちょっと落ち込んだんですけど、投稿したことはあっても直接持ち込んだのは初めてだったので、色々なことを言われて目からウロコでした。
──直接持ち込んだことで今に至ったわけですから、人生を変えるきっかけですよね。
長野:そうですよね。ビーム編集部に持ち込んでよかったと思っています。投稿では結果が出るまでに時間がかかるし、どう思ってもらえたかもわかりづらいので、勇気を出して持ち込んでみました。かなりビビっていましたが(笑)。
●ダメなおじさんと若い男女、この組み合わせが好きなんです
──その後はどういった形で作品を発表したんですか?
長野:『コミックビームFellows!』で掲載されたデビュー作から、コミックビームで掲載に至った「冬の熱」。そして今のフェローズで初めての連載『ノラ猫』という流れですね。
──その『冬の熱』ですが、どのようにして生まれた作品なんですか? 『ノラ猫』でもオカマを扱っていて、『冬の熱』でも男の愛を扱っていますよね。奥ゆかしく描かれているのが印象深かったです。
長野:最初はそこまで“男の人の恋愛話”にしようとは思っていなかったんです。中年のダメなおじさんが若いキレイな男の子を見つけて、絵のモデルにするという話はどうかなと漠然と考えていました。その頃言われていたのが「恥ずかしがるな。上品ぶらないでガツンと来るものを描きなさい」ということでした。ネームを見直して、おじさんが若い男の子に恋をするほうが、読む人が心惹かれるかなと。ちょっとカッコ悪いことも正直にやってしまうキャラクターが面白いと思って、そこから話を作りました。
――『冬の熱』でも『ノラ猫』でも、ちょっと世の中から外れたおじさんを描いていますが、何かそこに思い入れとかあったりするんですか?
長野:ダメなおじさんと若い女の子、若い男の子の組み合わせというのが、好きなんだと思います(笑)。
――2作を読み比べると、『ノラ猫』は、より線が洗練されていい意味でシンプルになった印象を受けました。短い間に進歩しているなという印象です。ご自身では絵柄の変遷についていかがですか?
長野:恥ずかしいです(笑)。1度通してみたのですが、恥ずかしくて直視できませんでした。2巡目は普通に読めました。元々は少女マンガを読んでいたんですが、だんだん青年誌が好きになって自分の世界も広がってきました。ビームでは福島聡さんが好きだったので、影響を受けているところがあると思います。福島さんの描かれる女の子の顔はすごく好きでした。
――『ノラ猫』は、先ほどロードムービーという言葉があったように、ドラマや小説でも描けそうな物語を、あえてマンガで描いて成立させていますが、誇張した描写はしないなど、表現の部分で意識はしているんですか?
長野:特に意識はしてないです。ただ、マンガをいっぱい読んできたというわけでなく、同じぐらいの比率で小説も読んできたので、話の作り方は小説っぽいところがあると思います。
――映画からの影響はありますか?
長野:最初、ロードムービー的な話にしようというのがあったので、そういった作品はいくつか観ました。『プリシラ』とか。
『ノラ猫の恋 1巻』/長野香子
2009年12月16日発売
662円(税込)
発行:エンターブレイン
発売:角川グループパブリッシング
●『ノラ猫』と『冬の熱』を両方読むとわかる長野氏の内面世界
――キャラクターに関して具体的にモデルになった人物などはいましたか?ヒロインの“なな”に高1の頃の自分を反映させたりとか。
長野:特にモデルはいないのですが、ななは描きやすいタイプです。前向きだけど、ちょっと暗くて頑固で、でも憎めないような幼いところもありつつ。大人になりかけてる女の子を描くのが好きです。
担当編集:原点がそういう女の子にあることを、短編集を作っていく中で感じました。その部分が切り分けてあったり、男の子の姿だったりはしていますが。
――そうなると『ノラ猫の恋』でファンになった読者の方は短編集もチェックですね(笑)。そしてキヨシさんですけど、彼は気が強そうだけど繊細で。ロッククライミングの回が突然出てきたのは、キヨシさんの魅力を描くためだったんですね。
長野:描き始めたときは探り探り、悩みながら作っていったんですが、描いてみたら思ったよりも勝手に動き出したキャラクターでした。実際に、オカマのお姉さんに会いに行って話を聞いたりもしました。
――キヨシのファッションも毎回オシャレですよね。
長野:キヨシは1話で何度着替えてもいいぐらいにして、毎回楽しみにしてもらえるポイントにしようと思っています。
『冬の熱』/長野香子
2009年12月16日発売
651円(税込)
発行:エンターブレイン
発売:角川グループパブリッシング
●“ご当地性”のあるマンガを模索していてうまれたのが『ノラ猫の恋』
――弘前を舞台にした理由は何かありますか?
長野:これは単に私の故郷だからなんですが、ロードムービー的な物語にするとして、北に行くか南に行くかと考えていた頃、担当さんに「一度育った土地の話を描いてみたらどうか」と言われていたのもあって、じゃあ北にしてみようと。
●実は小説がとても好き。
――なるほど。それでは話題を変えて、そもそもマンガ家になりたいと思ったきっかけは何だったんでしょう?
長野:マンガを描きはじめたのは小学校3、4年の頃です。ノートに1人連載してみたり、20ページごとに扉絵作ってみたり、友達とリレーマンガを描いたりとか。
――その後成長していく過程で多くの人が夢をあきらめるわけですが、そのなかであきらめずに続けたわけですよね?
長野:「いつかペンで描いてちゃんと仕上げてみたいな」と思っていたのですが、最初にペンを入れて描いたのは18歳でした。20歳ぐらいに初めて投稿して、大変でしたがすごく楽しくて。結果はダメだったんですけど、次を描きたいなという気持ちがあって、また1本描いて投稿して。その頃は1本描くのにすごく時間もかかったんですけど、描くごとに自分が少し上手くなってるのもわかるし、描くこと自体も楽しいので、それで本気になってきたというか。
――最初にマンガを描き出した小学生の頃ですが、どんなマンガを読まれていたんですか?
長野:はじめは学研の「科学」に掲載されているマンガや、小学館の学年雑誌などを読んでました。マンガを描くのは楽しそうだとは思っていたので、読んでないわりには結構早く描きはじめたと思います。最初に買ったマンガ雑誌は「なかよし」で、単行本は『きんぎょ注意報!』でした。中学生の頃は『るろうに剣心』などを友達に貸してもらって読んだりとか。青年誌系のマンガをしっかり読み始めたのは18歳ごろからです。
――あと先ほど、小説もよく読まれていたとのことですが、どんなものが好きだったんですか?
長野:日本文学の現代作家ですね。純文学系の雑誌を結構読んでいました。『文藝』とか『新潮』とか。松村栄子さんや鈴木清順さんなどが好きでした。
――結構渋めですよね。小説で好きな作品や影響を受けたものはありますか?
長野:高校生の頃、角田光代さんが好きで読んでいました。現代的な女性の心情を描いたものが好きで、高校生のときは文芸部だったのもあって、自分で小説も書いてました。マンガで現代劇を描くとは思っていなかったんですが、描くにつれて拙いながら技術もついてきて。現代劇的な要素を持ちつつ、マンガの良さが出せるようなものが描けるかもしれないと思ったのが、最初に投稿し始めた頃です。
――これから色々な作品を描いていくと思いますが、“今後こんなマンガを描いていきたい”とか“こんなマンガ家になりたい”など、今後の展望はありますか?
長野:心にちょっとさびしいところがある人を描くのが好きなので、これからも楽しいだけではなく、人のさびしさの部分や、弱いところも描きつつ、読んでいるうちに元気になれるような、何かを見出せるような話を描ければいいなと思っています。
●「Fellows! COLORS」応募者全員プレゼント実施中!
多彩なマンガ家のカラーイラストをA4判の画集サイズで楽しめるブックレット。それが『Fellows! COLORS』。森薫氏をはじめ、入江亜季氏、福島聡氏、佐野絵里子氏、なかま亜咲氏、室井大資氏、鈴木健也氏、長野香子氏、碧風羽氏が参加。もちろんゲスト参加も多数で、描き下ろしもアリ!対象コミックスの帯の応募券を切り取り、「Fellows!」vol.7ないしは8(12/14発売)についている応募台紙に必要事項を記入して応募しよう。詳しくはキャンペーンページへ!
>>「Fellows!」公式サイト
『Fellows! 2009-DECEMBER volume 8』
2009年12月16日発売
定価714円(本体680+税)
発行:エンターブレイン






























