『月刊コミックゼノン』創刊記念堀江編集長特別インタビュー

『月刊コミックゼノン』」編集長・堀江信彦氏、副編集長・持田修一氏インタビュー「上手い漫画家は“動画的なコマ割り”ができる。そんな新人を育ててイノベーションを起こしたいんです」

 10月25日(月)に創刊された『月刊コミックゼノン』は“伝説の編集長”堀江信彦氏が『コミックバンチ』に続いて手がける新漫画雑誌だ。

 堀江氏はかつて『週刊少年ジャンプ』時代に『北斗の拳』や『シティーハンター』などを世に送り出し、ジャンプ黄金期を作り出した後、『週刊コミックバンチ』を創刊。映画や80~00年代を通してマンガ界をリードしてきた人物。「編集長としてはおそらく最後の挑戦」と堀江氏が語る『コミックゼノン』だが、そこにはペースダウンした今のマンガ界、そして出版界の殻を打ち破る“秘策”の数々が盛り込まれていた。

 単なる漫画雑誌では終わらない『コミックゼノン』の全貌について、堀江氏と副編集長の持田修一氏に聞いた――

写真左が持田氏、右が堀江氏

写真左が持田氏、右が堀江氏

●“吉祥寺を面白がってみようかな”吉祥寺をテーマにして王道の少年漫画を生み出したい

――吉祥寺に密接に関係した雑誌を作られるということですが、何か心境の変化などがあったのでしょうか?

堀江氏(以下堀江):心境の変化というより、僕らが“吉祥寺という街で生活してきた”ということと、秋葉原に代表される漫画の姿というものに対して、僕らは違う形を思い描いていて、それを吉祥寺という街の名を借りて表現しているということかなと。

――違う漫画の姿というのは正統派の少年/青年漫画というイメージでしょうか?

堀江:そういうことですね。構えて読むのではなくて、もののついでに読みながら、生き方の情報を読むというか。漫画を読むために知っておかなきゃいけない“特別な暗号”みたいなマニアックな言葉がないものが元々の漫画だったと思うので。

――吉祥寺にこだわる理由とは?

堀江:吉祥寺という街が好きで、吉祥寺をそういった漫画の発信地にしたいなと思ったので、“吉祥寺を面白がってみようかな”と思ったんです。吉祥寺は僕が原(哲夫)君や北条(司)君に若い時に住んでもらった場所。そこからまた僕らが漫画誌を創刊するというのは面白いかなと思って。
漫画家さんが通う出版社のある街ではなくて、漫画家さんがいる街から発信するほうが面白いと思ったんです。今までは漫画家さんが神保町なんかに足を運んでたけど、そうではなくて、漫画家さんが住んでいる街に僕らが足を運んで、そこで作るという、より描き手に近い場所から発信されるというのかな。

――今までより漫画家さんを中心として作られる雑誌なんですね。

堀江:例えば、漫画家さんからすると、描き始めた時から雑誌の発行部数が減ってメディア力が落ちてきている。メディア力が落ちると単行本の売上にも関わる。だったら他の雑誌を数誌募って作品を同時に掲載して、その数誌で部数を補えばいいじゃないかという漫画家さんの理屈がある。だから『コミックゼノン』に載った作品は発売1週間後だったら他の雑誌に作品を載せても構いませんよという方針なんです。
『ゼノン』の創刊号は7万部だけど通常は5万部程度にしようと思っているので、作品をいろんな人に見てもらう為に、いろんな雑誌に載せて見てもらうということをやろうと思っています。


●うちの作品は“発売一週間後なら他の雑誌に載せてもいい”ことにしたんです

――一般的に漫画は雑誌で読者の人気を得て単行本で収益を上げるというイメージなのですが、『コミックゼノン』は違うのでしょうか?

堀江:それはうちも同じで、他誌に掲載しても単行本の権利はうちが持ちます。だから漫画誌よりも、フリーペーパーなど漫画を載せたいけど自分たちでは漫画のノウハウがないという雑誌や、この作品があることによって読者に手にとってもらうことができるメリットを活かせる雑誌の方がいいと思ってます。元々僕らの会社は漫画の配信会社になろうと思って作ったので、今回は携帯サイトの配信と雑誌の発売を同時にやります。

――吉祥寺に限定してしまうと読者の敷居が高くなってしまうのでは?

堀江:雑誌で収益を得るということを考えていないので、むしろ買ってもらうのは吉祥寺に住んでいる人だけでも構わないんです(笑)。そうなると「なぜ雑誌を出すのか?」と思われるでしょうけど、これは“新人を発掘するため”なんですよ。雑誌は新しい才能を発見、発掘するのに一番合理的なんです。面白い作品と一緒に発表されることで読者が新しい才能と出会って、面白いと思って評価してもらうことによってその新人が伸びてくる。
携帯では知っている人の作品しかダウンロードしないので、一緒に読んでもらうということが難しいんです。昔は雑誌を“新人を探す”読み方をしていたのに、最近は目的のものだけを読むようになって、“ついで読み”をしなくなってしまっているので、『ゼノン』の携帯配信は雑誌まるごとダウンロードする形にして、新しい作家との出会いを演出したいと思ってます。

『月刊コミックゼノン』創刊号<br>定価650円(創刊号は800円)

『月刊コミックゼノン』創刊号
定価650円(創刊号は800円)

●セリフなしで読ませる力を試す「マンガオーディション」で新人を見つけ出す

――今後のマンガ界を見据えての新人発掘法や、新人の育て方のポイントなどを教えてください。

持田氏(以下持田):今まで『コミックバンチ』などでも新人賞を行っていました。1つの話を作ってもらってそれを評価するわけですが、漫画家さんによって話作りが上手い人や画が上手い人、ネーム力があって演出が上手い人などいろんなタイプがいて、それが全部揃わなければ賞が取れない、デビューできないということがあったんです。
でも僕らは、演出力、ネーム力、そのキャラクターが持っている心情や感情をどういう風にコマを割って画を描いて表現していくのかというところを見たいし、能力のある人を即戦力として生み出していきたいというところがあるので、『ゼノン』では“マンガオーディション”という賞を作りました。セリフなしで1シーンを描いてもらって、キャラクターの心情をどうやって表現するかを審査します。そのような能力のある人は、作品のストーリーやテーマを編集者と一緒に考えてすぐデビューできます。
能力を見極める為のオーディションということで『シュート』や『アタック』の大島司さんに見本で、“一目ぼれの瞬間”をセリフがない状態で描いてもらいました。ページをめくらせる力を持った新人を発掘して即戦力としてデビューさせていけるような雑誌でありたいなと考えています。

堀江:漫画は元々、動画のコンテを原稿用紙にレイアウトし直したもの。動画的なコマ割というのがとても大事なんです。原作者になってつくづく思うのは、“あらすじをそのままコマ割りする”人はつまらないけど、セリフがなくても伝えられるような“動画的なコマ割り”をしてくる人は面白くなるんですよ。そのセンスがあればやっていけるんです。

――コマ割のセンスを磨く為のポイントはあるのでしょうか?

持田:良質な作品を読むということは当たり前なんですが、うちの雑誌で言うと原先生や北条先生の作品の、あるシーンの“間”をまず模写してみるとか。全部似せて描いた時に“なぜそのコマがあるんだろう”とか、時間の経過の表し方とか、気づくことってたくさんあると思うんです。原先生や北条先生など一流の漫画家さんは動きの中でしっかりと登場人物のリアクションだったり、時間経過だったりを描き込まれているので。見せ方の基本を身に付けるということが一番大事ですね。

堀江:最近の漫画は人と別れる時に桜が吹き流れるとか、“叙情的なシーン”がなくなってきているんです。それも動画的なコマ割りのセンスだと思うんですけど、そういったシーンを入れていくとマンガはもっと面白くなるんですよね。

――吉祥寺にあるカフェ『CAFE ZENON』や携帯サイト『ZENON LAND』など、雑誌にとらわれない展開をされていますが、今後の展望をお聞かせください。

堀江:僕らの雑誌は“見て、触れて、感じられる雑誌”ということなんです。“触れて”の部分は原画が展示されたり、漫画家さんの講演会があったりなどという“CAFE ZENON”で、“触れて”という部分に“空間の雑誌”としての意味があるわけです。『コミックゼノン』は紙の雑誌(月刊コミックゼノン)、電子の雑誌(ZENON LAND)、空間の雑誌(CAFE ZENON)でひとつのもの。この3つのトライアングルがあることでビジネスチャンスが広がると思うんです。
“北条司30周年”で、彼の作品のキャラクターを他の漫画家さんに描いてもらって、雑誌に掲載すると同時にカフェで原画を展示したり、携帯サイトで待ち受け画面にして配信したりとループさせることができる。
そういったビジネスチャンスを発見していくのは僕らですが、ビジネスチャンスが広がるような仕掛けをしていきたいと考えていて、紙の雑誌が売れない時代なので、例えば電子書籍と紙の雑誌を連動させたり、イノベーションを起こして新しいモデルケースを作っていきたいと思っています。

>>COMIC ZENON(コミックゼノン)公式サイト
>>CAFE ZENON公式サイト

『いくさの子 ‐織田三郎信長伝‐』<br>漫画/原哲夫 原作/北原星望

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『エンジェル・ハート 2ndシーズン』<br>北条司

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