『手塚治虫のブッダ-赤い砂漠よ!美しく-』森下孝三監督に聞く

“東映の伝統ここにあり!”――5月28日公開『手塚治虫のブッダ-赤い砂漠よ!美しく-』を完成させた森下孝三監督にインタビュー「今だからこそ“覚悟”して本気で取り組んだ作品」

 仏教の開祖であるブッダの姿を、一人の青年シッダルタ(ブッダの本名)の生涯として描いた手塚治虫氏の大ベストセラー『ブッダ』。世界のマンガ史に輝く金字塔的作品がこの春、遂に待望の長編アニメ作品として劇場公開される。全三部作にも及ぶ長編の第一作目となる本作。公開を控えた今、アニメイトTVでは森下孝三監督にインタビュー。“今、『ブッダ』を映像化するということ”――その理由に迫った。

●「我々はこれだけのものを作れるんだ」東映の伝統を“復権”させるのが『ブッダ』

――今この時代に“手塚作品”という、古典的ともいえる作品を長編アニメという形で世に送り出す理由をお聞かせください。

森下監督(以下、森下):手塚先生の作品からの発想と言うよりは、「今、どのような作品が求められているか」という企画意図からスタートしています。
 もちろん、東映アニメーションとしてはかなり前から『ブッダ』のアニメ化というのを考えておりましたが、何をテーマにするか、どのようなお客さんをターゲットにするかという事と、宗教的なモチーフという事で非常にアニメとして描きづらいという面がある上、更に長編と言う事もあって、予算やスタッフの調整などの面でもなかなか実現できない企画でした。
 逆に言うと、だからこそ色々なアプローチがあるとも考えていまして、バブルの頃にも「今だからこそこういう物語をやろう」という声もありました。
 それは手塚先生のマンガには基本のストーリーラインというか、誰にでも伝わる物語の基本構造がありますので、特に『ブッダ』に関してはどんな時代であろうとも、その時代なりに、“映像化する理由付け”が出来てしまうんです。
 バブルの時代でも、経済が停滞している時代でも、大きな災害があった時でも、原作が面白いが為に実はどんな形でもその時代にハマってしまう、そんな中で、東映の岡田社長の「映画として、大作として、完成度の高い皆の納得するものを作ろう」という発想から今回の企画は始まりました。
 いつの時代でもそれなりに作れるからこそ、本当にお金のリスクを背負って、製作費をかけて本気で作るという覚悟で作らないといけない。中途半端に作ったところで軽くなってしまうような、そういう作品に対して、「東映としても社長を先頭に本気で取り組んでいこう」という気持ちになった事が一番大きな理由ですね。

――逆にいつの時代でも作れるからこそ、“今”だったということでしょうか?

森下:そうですね、やはりそれは「今の時代だから」ということです。今の時代というのは、前が見えない、漠然とした不安がある時代だとか、言葉でいえば色々あるのでしょうけども、皆がこの『ブッダ』という作品に対して、「今、本当に本気で作ろう」と思ったのが今だったという事です。
 それはとても難しい事なのかもしれないけれど、「何かがあったから作ろう」というのは後付けでいくらでも言えるんですよね。
 常にそういう姿勢で作ろうとは思っていてもなかなか作りきれない、またはスタッフとか、予算とか、そういう諸々の理由でなかなか企画として通らないなかで、5年ぐらい前に遂にそこが固まったという事ですね。


●「現在の環境に慣れたスタッフは混乱したかも」――徹底的な“モノ作り”

――つまり全てのタイミングが、今まさにすべて合致したということでしょうか?

森下:そうですね。今にして思えばやはり全ての理由が重なっていたのだと思います。
当時というのは、「東映としても『ドラゴンボール』や『ワンピース』というテレビシリーズやその劇場版ばかり作っていてはダメなんじゃないか」という、漠然とした不安を抱えていた時期でもありました。
 後継者を育てるためにはテレビシリーズだけではなく「我々はこれだけのものを作れるんだ!」というギリギリの事をやらないとなかなか次の世代には席を譲れないと思ったんです。
 宮崎駿さんの作品が海外で評価されたり、CGアニメーションや3Dアニメも生まれてきて、業界の内外がアニメーションの可能性に注目している中で、東映の伝統である長編アニメーションを復活させようという気構えが出てきたんです。
 皆で同時期にそういう事を考える事が出来て、初めてこの企画は出発点に立てたと思っています。
 たしかに、その時代毎に数々のヒット作は出していますけれども、振り返ってみたら「自分達は一体何を作ってきたのか」、「アニメーションで何処まで作れるのか」ということを検証しては来なかった。今回、本当に思い切って「我々の持っている力で出来るのは何処までなのか」という事を、この先の続編にも繋げて成長していくように考えたいと思いました。
 三部作の一作目ということで、色々な処で改善の余地はあるとは思うけれども、時間もかけたし枚数もかけましたし、これだけのものはそうそう簡単には作れないと思いますよ。
 東映という、長編アニメーションで名を馳せた会社だったからこそ出来た事というのはあるかもしれません。ごまかしがきかないというか、ストレートに出来ていますからね。
 そういう意味では現在のテレビアニメに慣れたアニメーターや美術の人は最初は混乱したかもしれません、製作の後半ごろには1800カットのうち1200カットをフィルムにしてからリテイクしましたからね。
やっぱり、「徹底的に満足できるまでやりましょうよ」ということですよ。「それでダメだったら、そこまでだ」と。

●逃げないで照れずにストレートに“命”を描いた超大作。

――現在のアニメファンのなかには、手塚先生の原作マンガそのものを知らない世代も多くいると思われますが、そういった若い世代の観客に対して、この映画はどのような届き方をすると思いますか?

森下:自分では完全に中学一年生をターゲットにしたつもりです。というのは、自分の息子が中学一年の時に初めて『ブッダ』を読んだからなんですが。
 それまで、いわゆる他の少年マンガを読んでいた子供が、「これは面白いよ、すごいマンガだよ」と言った事がありまして、それまでお墓参りにしてもお葬式にしても、ただ親に連れられて行くだけだったものの意味を漠然とではあるが理解し始めたんです。そのきっかけになったのが『ブッダ』だったんですね。そういう意味では今の若い人にも通用するものだと思っていますし、根本的に男の子はこういうストーリーを求めていますよ。
 ただ女の子の求める華やかさはないかもしれないけれど、でも『ブッダ』のようなスト-リーは老若男女誰もが求めていると思っていますし、それだけ力のある原作だと思っています。
 今の時代というのは、そういう事を周りの大人が誰も言ってくれない。誰もが非常にシャイで、ちょっと捻くれた物の見方をした方が自分を隠せるという時代ですから、正面からこういう事を言うのは照れてしまうんですよね。それはアニメも同様で、テレビシリーズのシナリオライターにストレートに書いてくれと言っても「それはちょっと俗っぽいよね」と逃げてしまう。でも実は求められているものは意外とストレートなものだったりするんですよ。
 例えば『魔法使いサリー』で火事になった家に仔犬が閉じ込められてしまう。サリーちゃんは魔法が使えるのに火の中に入って仔犬を抱いて出てくるというシーンは結構感動するんですよ。皆そういう感動に飢えているのに、いざ書いてくれと言うと「魔法を使えば良いじゃない」となってしまう。それで、結局魔法を使えないような状況を作ってから、そういうシーンを書くんだけれども、結果的に話が膨らみ過ぎてややこしくなってしまう。
 でも人間の心っていうのは「火事の中に取り残された仔犬を子供が助けに行く」という状況に対して、魔法が使えるとか使えないとかは関係ないんです。「そういうところがちょっとズレてきた時代かな」というのはありますね。

――最後に公開を楽しみにしているファンの皆様へのメッセージをお願いします

森下:東映アニメーションが久しぶりに会社を上げて挑む大作です。今、こういう時代だからこそ、若い方達に生きる意味や自分自身の人生のあり方を見つめ直して貰える作品だと思います。単なるラブストーリーであったり、親子の葛藤にとどまらない“命”を描いた作品です。是非劇場にお越しください。

『手塚治虫のブッダ -赤い砂漠よ!美しく-』
2011年5月28日より全国公開

<STAFF>
原作:手塚治虫
監督:森下孝三(『キン肉マン』『聖闘士聖矢』シリーズ『Dr.スランプアラレちゃん 』『ドラゴンボール』)
脚本:吉田玲子
演出:古賀豪
音楽:大島ミチル
アドバイザー:ひろさちや 
キャラクターデザイン・総作画監督:真庭秀明
美術監督:行信三
イメージアート:岡野玲子
製作:「手塚治虫のブッダ」製作委員会
制作:東映アニメーション
制作協力:手塚プロダクション
配給:東映/ワーナー・ブラザース映画 共同配給
助成:文化芸術振興補助金
推薦:財団法人全日本仏教会 

<声の出演>
吉永小百合(ナレーション・チャプラの母)
堺雅人(チャプラ)
観世清和(スッドーダナ王)
吉岡秀隆(シッダールタ)

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