
『コミックゼノン』から10年ぶりの新作マンガが遂に発売!『いくさの子 織田三郎信長伝』第一巻発売記念 マンガ界の巨匠・原哲夫先生にインタビュー!
『北斗の拳』、『花の慶次』等、デビュー以来熱い漢(おとこ)の生き様を描き続けてきたマンガ界の巨匠、原哲夫先生10年ぶりの新作マンガ『いくさの子 織田三郎信長伝』。
その記念すべき第一巻の発売を記念して特別インタビューを行った。今なおマンガ界に燦然と輝く巨星の言葉を胸に刻んで欲しい。
●信長を描く、「その時」が来た
――10年ぶりの新連載に再び戦国ものを選ばれた理由やきっかけなどはあるのでしょうか?
原:織田信長は前田慶次を描く前から描きたかった人物だったんです、僕にとっての戦国ものの入口は劉慶一郎先生の「一夢庵風流記」だったのですが、それまで『北斗の拳』のような近未来的なものしか書いてなかったので、戦国時代というテーマを扱うというのはというのは初めてだったんですよ。
ただ僕の場合はやっぱり「絵」から入るので、絵の世界感が合うかどうかというのが非常に大きな問題なんですけれども、僕は筋肉描写が凄く好きでして、何故なのかは解らないけれども、若いころからずっと戦う男の筋肉ばかり追いかけてきていましてね、そういう自分にとって日本の戦国時代というのは凄くマッチしたモチーフだったんです。
『花の慶次』の頃から堀江さん(当時の担当編集者、現コミックゼノン編集長)と組んでやってきているんですけれども、「いつか信長をやるだろうな」とは思っていましたね。だから今ちょうど「その時が来た」という感じでしょうか。
●今の僕には「少年」がスター
――「織田信長」というモチーフは今までにも数多くのマンガで題材にされていますが、「少年時代の信長」を描くマンガというのはかなり珍しいですよね。
原:ある意味本当に危険なんですよ。少年時代って誰も描いてないし、それで話題になった作品もないですからね。
とてもリスキーではあるんですけれども、僕の場合は常にそういうところに挑戦していくスタイルなのでね、前田慶次の時も当時は誰も知らない無名の武将だったのに、あの後で急にもてはやされたりしちゃってね(笑)。
そういう意味では他の人が描いてないようなところを描くというのが僕には合ってるというか、力が発揮できるというか、色々な演出やチャレンジが出来るので、そういう所を開拓していきたいんですよ。
少年がカリスマになる過程というのは皆さんも興味のあるところだと思うし、信長を単なる「やんちゃなガキ」じゃなくて、しっかり描いていきたいと思っています。
色々な方が描き尽くしたところを僕が描いても意味が無いと思うし、僕自身少年を主人公にするということ自体、初めてみたいなところがあるので、そういう意味でもチャレンジですね。
僕も50歳を前にして「若さ」というものが凄く愛おしく、眩しいものになってきちゃったんですよ。自分がまさかそんなことを思うようになるとは思わなかったんですけどね。
それまでは完成した男が魅力的だったし、そういう物を描きたかったんだけど、今は未完成だけど、まだ将来に夢も希望もあって、可能性に溢れている少年に凄い憧れみたいなものがあって、輝いて見える、魅力があるんですよ。
だから今の僕には少年がスターなんです。若い時には完成したかっこよくて強い男に憧れて、ああいう風になりたいという願望がありましたけど、今は少年の輝きに憧れていて、そういう物を魅力的に描ければな、と思って描いてます。
――では原先生ご自身の憧れが常にマンガの主題であると?
原:そうですね、マンガというのは常に憧れというか自分の願望が無いと描けないですよ。才能を持っている少年というのは常に魅力がありますしね、ゴルフの石川遼くんとか、ああいう人はすぐにスターになるじゃないですか。
そういう人はただの少年じゃなくて、大人もファンにする魅力があるんですよ。
今はこういう時代だから、みんな若い人に凄く期待していると思うんですよ。
そしたら本当に若い人の中から凄い人が出てくるし、しかも男も女もルックスも良い子が多いんですよね。そういうのが今の時代なのかなと思って。
――原先生が感じた今の時代がそのまま作品に反映されているということでしょうか?
原:信長の少年時代というのは親父が戦に負けて勢いが弱くなって「織田家がヤバい、どうしよう」という状況で、この12歳の天才的な少年しか頼りがない、他にすがるものが無いという状況なんですよ。このままでは今川にやられちゃう、という時の本当に織田家の希望の光だったと思うんですよ。
この少年の才能をなんとか開花させたい、という親父たちの気持ちが伝わってくるんですよね。だからこれは親父と息子の関係の物語でもありますので、そこはしっかり魅力的に描いていきたいですね。
●目指すは「桶狭間」!
――今は少年期を描いてらっしゃるわけですが、やはり大人になってからの信長を描く構想もあるのでしょうか?
原:当面は桶狭間の合戦を目標に描いていきます。『花の慶次』の時もそうだったんですけど、僕は新しいスターを描きたいと思っているので、桶狭間の合戦までにも信長の周りにいたであろう無名の人達にスポットを当てて描きたいんですよ。
当然、今川義元みたいな大物も出てくるんですけど、魅力のある裏方の人達がまだまだいるんですよ。そういう人達を魅力的に描いていきたいですね。
――確かに、信長を描く上で欠かせない教育係の平手正秀も非常に大柄かつ豪放磊落な人物として描かれるなど、原先生独自の解釈がかなり盛り込まれている感じですね。
原:多くの方に描かれてきた人物は、嘘にならない程度にそれまでとは違う切り口で、今まであまり描かれていない人物はもっと魅力的に描いていますね。だから今川義元はどうしようかというね…信長の前に立ちはだかる、ある意味一番の大物ですからね。
男としてもかなり魅力的な年頃なんで、楽しみにしていて欲しいですね。
――ではこれからはその桶狭間に向かって一直線に盛り上がっていくという事ですね?
原:今川義元にしてみれば今はまだ12歳の信長の存在なんか気にしてもいないんですよ。親父の信秀を敵として焦点を合わせているんですよね。
そういう「誰が何処を見ているか」というところをリアルに描いていきたい。
――では最後に読者の方へのメッセージをお願い致します。
原:「戦国時代」という戦争が当たり前の非常事態を日常として生きている少年・信長の生き方を見て貰って、現代の自分に通じるものを感じて貰えたらなと思います。
現代とは常識も感覚も何もかも違うんですけど、歴史を知るという事は必ず何かの役に立つので、これからも楽しみにして貰いたいし、今の自分達の生活にも何か感じるものが芽生えるんじゃないかなと思うので、この作品がそのきっかけの一つになればいいなと願っています。
僕自身も現代人が昔の時代を描くという意味を探りながら描いていますし、その時代に生きた人達の生き方や考え方を知ることが今の僕達にどのように繋がってくるかという事が凄く大事だと思うんです。
いわば現在と過去を繋げることが僕の仕事、役割なのかなとも思っていますので、そういう世界を見て貰いたいなと思っていますね。
――今日はお忙しいところありがとうございました。
一見、強面のルックスながらも、時に冗談を交えながら非常に穏やかな物腰でインタビューに応じて頂いた原先生。
落ち着いた佇まいの中からも、時折百戦錬磨のプロの気迫を感じさせる厳しい言葉と、マンガへの飽くなき情熱を感じさせてくれたインタビューでした。
<TEXT:渡辺 佑>
>>原哲夫先生公式WEB
>>月刊コミックゼノン公式HP
こちらは原先生がご使用されている画材の数々
『いくさの子 織田三郎信長伝』第一巻
漫画:原哲夫 原作:北原星望
630円(税込)
















































