ハリウッド超大作を日本がコミカライズしたらこんなカッコよくなったぞ!――『トロン:レガシー』単行本発売記念・鷲尾直広先生インタビュー
「コミック アース・スター」誌で連載された『トロン:レガシー』の単行本が発売された。ハリウッド超大作を日本の作家がコミカライズするという展開に世界が熱い視線を注いでいる。
手掛けたのは『機動戦士ガンダム00』を始め数々の先鋭的なメカデザインや、萌え系ミリタリー雑誌「MC☆あくしず」等で魅力的なイラストを描かれているデザイナーの鷲尾直広先生。衝撃のコラボレーションの裏側と秘密に迫った。
●「海外のクリエーターが日本の感覚に近づいている」
――映画のコミカライズということで、一度完結しているストーリーをコミカライズされるということは難しかったでしょうか?
鷲尾先生:漫画は個人のペースで読むものに対し、映画は流れていくものなので、自分なりに読みやすいように交通整理をしたつもりです。コマ割りとかも余り無茶な事をやらずに、保守的というわけではないですが。(コミカライズの決定から作画までの)期間が結構短かったということもあって、あまり映画とは内容を変えずに、解り易さを重視しました。
――では、もしもっと時間があったら入れたい要素もあったということでしょうか?
ビジュアル的にはイラストっぽいコマ割りはもう少し多くても良かったかなとは思いますね。もう少し遊びというか、映画に寄らない方向でもよかったかも知れませんね。例えばアメコミみたいに一枚の絵に細かいフキダシがいっぱいあるようなページとか。
――様々な作品のメカデザイン等で活躍されているので、SFやメカには相当造詣が深いと思うのですが、『トロン:レガシー』の世界はいかがでしたか?
もともと、(1982年公開の)『トロン:オリジナル』の世界はシド・ミードさんがデザインされていたんですけれども、シド・ミードさんも今ではガンダムやヤマトのデザインもされていらっしゃいますし、そういう意味では向こうのクリエーターが日本のアニメの感覚に近づいているのかな、という感覚がありましたね。
――実際の執筆作業はどのような手順で行われたのでしょうか?
日本語に訳した脚本を頂いて、それからネームに起こしたんですけど、実際に劇場に観に行って目で覚えたり、メモを取ったりしました。実は脚本には書かれているのに映画には無いシーンがあったりするんですけど、基本的には「映画が完成品」という考えなので、そういうシーンはマンガでも登場させませんでした。
――コミカライズにあたって特に気をつけた部分などはありますか?
アクションシーンが多いのでそこは特に。ライトサイクルで戦うシーンなんかは、スピード感が出せるようにかなり気をつけました。
――映画内の小ネタを結構丁寧に拾っているという印象があるのですが
そうですね、一見小ネタに見えつつも実は結構重要な伏線になっているというか、脚本に無駄が無かったので、意外に切れる所が無かったんですよ。
コミック版『トロン:レガシー』鷲尾直広
好評発売中/税込価格1400円
(C)Disney
●「イラストもアニメもマンガもみんな一緒、ごく自然に描き分けていける」
――先生はイラストやデザインの分野などでも多くのお仕事をされていますが、イラストのような一枚絵と漫画のお仕事というのは何か違いはあるのでしょうか?
イラストも小説を読まないと描けないものですし、マンガだともっと総合的に演出的なこともしてはいますが、アニメも漫画もイラストもそんなに意識してはいないです。キャラもメカもあまり気にしないで同じつもりで描いてますし、そんなに違いを気にしてはいないですね。アニメの絵コンテを手伝わせて貰ったことがあるんですが、その時も「マンガ描いてるんだから描けるでしょ?」という感じでお仕事を頂いたので、そんなに気追うことはなかったです。それぞれの仕事で書式というか約束事があるので、そこさえ押さえれば後は割とすんなり作業に入れます。
――例えばアニメではTVの画面というフレームが限定されてしまうわけですが、漫画はコマ割りでその辺の緩急をつけられたりというコントロールが効く半面、小説の表紙イラストは一枚で作品世界を表現したりと、一見真逆の方向性のようにも思えるのですが?
子供の頃から漫画もアニメもイラストも観てるわけじゃないですか、だからそんなに意識せずにその仕事ごとに切り替えていけるんだと思います。イラストだったらカメラの位置で構図を決めたりしなくても、イラスト的にまとまりが良ければ見た目を優先して作れますし、逆に漫画でもちゃんとカメラ位置を決めて描くコマもあれば、パースが正確に取れていなくても見栄え優先で画としてかっこいいコマを描く時もありますし、そういう意味では両者はそんなに離れていないと思うんですよ。
――ではその辺の調節はごく自然にできていると?
そうですね…自然に、というよりは無意識のうちに、という感じでしょうか。
――今までに手掛けられたノベルスやマンガやアニメの世界と、今回のようなハリウッドSFとでは何か違いがありましたか?
脚本が余裕のある作りになっていると思いました。事細かにディティールが描写されていなくて、映像にお任せというか、シンプルだけど煮詰めてある脚本という印象でした。普段、日本のアニメの脚本を読みながら仕事しているので、ちょっと不安になってしまうぐらいシンプルで。日本のアニメの脚本の場合、読んだだけでアニメ本編が面白いか否かが解るんですが、『トロン』に限らず、向こう全体の話なんでしょうけど、ちょっと不安になるぐらいシンプルに書かれているんですよね。映像などをより作り込めるように敢えてそうしている部分はあるんだと思いますけど。さっきもお話しましたけど、向こうは「映像になった物が完成品」という考え方なので、頂いたシナリオの中にも実際には映像になっていないシーンもかなりありました。
●「やっぱりメカ描かなきゃ!」
――今回のコミカライズは先生の経歴の中でもかなり珍しい部類のお仕事だと思うのですが、これから更に挑戦していきたい分野やジャンルなどはおありでしょうか?
仕事のジャンルが結構バラバラなので、ノベルスの表紙イラストの僕と、メカデザインの僕とが噛み合っていないというか。女の子のイラストも描いているんですけど、どうやら同じ人間だと思われていないらしいというのをネットで読んで(笑)。全部一緒に描ける手段としてはやっぱりマンガなので、そこをもっと伸ばしていきたいと思います。この事務所を借りた時に、マンガ家だけじゃなくて、デザイナーさんであったりライターさんであったり、何人かの人間で借りているんですけど、そのメンバーで考えているモノもあったりするので、そういうオリジナルのものも描いていければと思っています。それも僕が描くなら「メカ描かなきゃな」という思いもあります。
――確かに最近の流行として、メカが主体の作品は減ってきてますよね。
メカを描く世代というのが僕らの世代(30代半ば)より下でかなり減ってきてますよね。
――プロの方にせよ趣味で描く人にせよ、メカものが主流ではなくなってからかなり時間が経ってしまった感がありますよね。CGになってしまったり…
とはいえCGにしてもデザインは必要ですしある程度絵が解ってないと、CG動かすにもセンスが必要ですからね。僕らの世代がギリギリ、リアルロボットブームの最後の方なんで、それ以降は人が減っているのは確かですね。そのおかげで僕に仕事が来るというのはあるんですけれど(笑)、ちょっとさびしい気がしますね。
――では鷲尾先生の力でリアルロボットブームを復興させましょう!
いやいやそんなおこがましい(笑)。
【コミック版『トロン:レガシー』鷲尾直広】
好評発売中/税込価格1,400円
発行:アース・スター エンターテイメント
※鷲尾直広描き下ろしによる、プロダクションノートも掲載
>>コミック アース・スターONLINE







































