アニメ
『鬼神伝』がBD&DVD化でみえた真の姿、押切Pを直撃!

劇場アニメ『鬼神伝』がBD&DVD化。19分の映像が追加されたパッケージ版からみえてきた真の『鬼神伝』の形とは?スタッフが伝えたかったメッセージを押切万耀プロデューサーに聞いた!

『鬼神伝』は、高田崇史の小説『鬼神伝』(2004年・講談社刊)を原作とする劇場アニメ作品。1200年前の平安京を舞台に、現代から迷い込んだ少年・天童純、そして人と鬼を巡る壮大な物語が描かれる。

 BD/DVDの発売を前に、『鬼神伝』プロデューサーの押切万耀氏に作品の魅力、制作にまつわるお話を伺ったので紹介しよう。


──プロデューサーとして、どういった形で作品に関わっているのでしょうか。

押切万耀プロデューサー(以下、押切P):通常は会社で決まった作品を預かって、どういった作品にしていくかのスタッフワークが中心になります。『鬼神伝』の場合は、自分たちでやりたいねと企画を立てたので、少し違ってくるんですが。制作に携わるスタッフを決めた上で、スケジュール管理や予算管理を行なうのが仕事になります。一番最初にスタッフを決める時点で、ある程度作品のクオリティというものが決まってくるんですね。そのことを意識していつも仕事しているんですが、『鬼神伝』は自分の中で一番高いラインを意識してスタッフを選び、現場を統括してきました。


──原作との出会いと、アニメ化に至るまでを教えてください。

押切P:2004年頃に監督の川﨑博嗣さんから、こんな小説(高田崇史氏の『鬼神伝 鬼の巻/神の巻』)が出たんだけど、一緒に映画にできないかという話があったんです。それで僕と川﨑さんで会社に話をして、話が進んでいった感じです。


──構想7年はかなり長いと思いますが、今のタイミングで劇場映画化となった理由などがあれば。

押切P:現場を組むのまでに、予算であったり色々と準備が必要で、実際に制作現場として動き始めたのは2009年頃なんです。それまではずっと準備をしていて、取材などを重ねていました。今回は平安京という、現代では存在しない舞台なので、何度も京都まで行って現存する建物を取材したり、そういった資料集めを4年ぐらいやってたんです。


──これだけ準備期間をかけるのはよくあることなのでしょうか?

押切P:今回はフリーでやっているスタッフを集めたので、タイミングが合うまで全体的なスケジュール調整が必要だったのもあります。それからこの作品を作るために別の場所にスタジオを構えたりしているので、かなり時間がかかっているんです。『鬼神伝』は原作が小説ですから、ビジュアルを一から作り上げるのにも手間と時間をかけています。


──制作チームの人選は『劇場版 NARUTO』第2作などを踏まえているのでしょうか。

押切P:というよりは、川﨑さんと相談して、川﨑さんが欲しいと思う人を優先して、そこから広げていく形をとっています。色々な部分で川崎さんと一緒にやってきた作品ですね。


──現存しない「平安京」を再現する上で、時代考証などの苦労話を教えてください。

押切P:和歌山の古いお寺に行ったり、京都御所の中を取材させてもらったり。奈良に平城京の跡地に朱雀門が再現されているんですが、中心となる通りの朱雀大路の幅が70メートル以上あるんですよ。平安京はそれよりさらに幅があるんですが、実際にその場所に立つと想像以上に広いんですね。そこにぽつぽつ人がいたんだろうな…と想像すると、それでは絵として成立しないんです。リアルにやりすぎると画面がスカスカになってしまったんですね。人口や社会状況を考えれば、そんなに人はいないはずなんですが。


──リアルにこだわることと、演出としての見せ方は違う。

押切P:そうです。やはりそこは現地に立ってみないとわからない部分で、頭ではわかっていたんですが、実際に立つとものすごく広いんだなと。そのあたりのこだわりは、見ている側には全ては伝わらないことはある程度わかって、前提として作っているんです。アニメーションは、言葉は悪いですが絵空事です。それで表現するためにはちゃんと調べて、現実を踏まえた上で虚構を作らないと、描けないんですね。単なる嘘では、これは嘘だとすぐ見抜かれてしまうので。

<br><br><br><br>





『鬼神伝』<br>9月28日(水)発売<br>BD:価格6090円(税込)<br>DVD:価格5040円(税込)<br>発売&販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント<br>(C)高田崇史・講談社/鬼神伝製作委員会

『鬼神伝』
9月28日(水)発売
BD:価格6090円(税込)
DVD:価格5040円(税込)
発売&販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(C)高田崇史・講談社/鬼神伝製作委員会

──それだけこだわった上での作品としての魅力、見所を教えてください。

押切P:やはりアニメーションとしては珍しいシネスコサイズ(16:9よりもさらに幅広)に挑戦したこと、そして川﨑監督の絵の構成力というか、かっこいい絵が光る映画が作りたかったんです。その意味では一緒に作っていて自分でも満足できたし、また反省点も色々と見えました。アニメーションの持つ絵のダイナミックさは見せられたと自負しています。


──見えてきた反省点についても伺えますか?

押切P:僕らは今の子供のリアルさ、現代の子供がそうした状況におかれたらどう動くかを追求したつもりなんです。ただそれが、映画として見た場合は少しストーリーとして弱かったかもしれない、と思います。たとえば主人公が戦いたくない、という部分なんですが、現代の中学生が平安時代に行って、人の生き死にの現場を目にして、それで戦いたいと言うことはないだろうと。困っている人がいるから立ち上がろう…といった嘘くさいものにはしたくなかったんです。それと物語としてのカタルシスといった部分でのさじ加減について、考えるべき部分はあったかもしれません。


──そのあたりについて、川﨑監督とは?

押切P:川﨑監督の良さ、持ち味は、むしろそういった、誰か困っている人がいるなら助けたい、といったまっすぐな少年像にあるんじゃないかとは思います。ただ僕は今回そういった形にはしたくなかったので、それで荒川稔久さんに脚本をお願いしたんです。荒川さんの持ち味は人のリアルな心情を描くことなので、それと川﨑さんのまっすぐさがぶつかることで、人としての悩みの部分などを色濃く出せないかと。そのあたりは川﨑さんと荒川さんに説明してやってもらってます。そういう描き方をしないと主人公の純を表現しきれないんじゃないかと考えました。


──公開時期が10月からGWに延期されましたが、作品のタイプ的にも悩みはあったのでは?

押切P:作業的にもクオリティ的にも納得できない形になってしまったので、お願いして伸ばしてもらった…というのが本音ですね。作り上げる側の人間として、自分たちで納得できない物を丸めて出すことはできないなと。最初の公開に合わせた時期に、公開するだけならできる形で、一本につながった絵はできていたんです。しかしそれでは駄目だとなってやりなおしています。


──こだわりぬいた上で、伝えたかったテーマや主題はなんでしょうか。

押切P:伝わったかどうかはわかりませんが、純は色々な映画や作品とは違って、実際の中学生がそういった状況に置かれたらどう考え、どう動くかを描いたつもりです。それから、そういった作品にも関わっている身としては言いづらいですが、「正義」や「勇気」とはそんなに簡単なものではないのではないか、という疑問も込めています。自分の気持ちに正直になって勇気を持つということが、少しでも伝われば、とこだわった部分です。


──やはり純と同世代の若者に見て欲しい?

押切P:そうですね。中学三年生って、今後の進路なども含め、最初に人生を決めないといけない分岐点だと思うんです。その世代の子供たちに見てほしいとは思っていますし、できれば親子で見てほしいと考えて作っています。


──難しい年頃である純を小野賢章さんが声を当てています。キャスティングの意図についても教えてください。

押切P:中村獅童さんと石原さとみさんに関してはプロモーション展開を織り込んだ上でお願いしたんですが、実はそれ以外のキャスティングは、名前がわからない状態で選考してるんです。音響監督の鶴岡さんがピックアップした人が収録した音声だけが基準です。これは純役の小野賢章さんも含めてです。森久保祥太郎さんだけは『スプリガン』から川﨑監督と一緒で、川﨑監督が大好きな人なので入れていますが、それ以外は本当に声と芝居だけによるキャスティングです。特に頼光役の近藤隆さんは良かったですね。


──BD・DVDの初回生産版には、設定資料集がつくと聞きました。

押切P:僕らが現場で使っていた設定資料がそのまま入っています。量が多いので全部ではありませんが、約100ページあります。アニメーターを目指している人にも参考にしてほしいですね。作品と見比べてもらっても面白いと思います。


──パッケージになるまでに手を入れた部分はありますか?

押切P:ブルーレイには19分尺が長いディレクターズカット版が収録されているんですが、ディレクターズカット版にするにあたり音楽なども全て入れなおしているんですね。だからよりいい感じになってるんじゃないかと思います。あとは幾つかの絵を直したりしています。細かい部分ですね。


──最後にメッセージをお願いします。

押切P:DVDブルーレイ共に、僕らがアニメーションを動かす中で、できることを全て出した作品です。そこを楽しんでもらえればと思います。 (取材・文:中里キリ)


鬼神伝 - オフィシャルサイト


本編より(以下全て)

本編より(以下全て)

(C)高田崇史/講談社・鬼神伝製作委員会
おすすめタグ
あわせて読みたい

おすすめ特集

今期アニメ曜日別一覧
2024年春アニメ一覧 4月放送開始
2024年冬アニメ一覧 1月放送開始
2024年夏アニメ一覧 7月放送開始
2024年秋アニメ一覧 10月放送開始
2024春アニメ何観る
2024年春アニメ最速放送日
2024春アニメも声優で観る!
アニメ化決定一覧
声優さんお誕生日記念みんなの考える代表作を紹介!
平成アニメランキング