『伏 鉄砲娘の捕物帳』の宮地昌幸監督にインタビュー

劇場公開直前の最新作『伏 鉄砲娘の捕物帳』の宮地昌幸監督にインタビュー! 作品へのこだわりや、キャスト陣のエピソードを語る!

 2012年10月20日より上映予定のアニメ映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』。2009年にテレビアニメとして放送された『亡念のザムド』の監督・宮地昌幸さんが制作の指揮を執っている。

 原作は、2010年11月に文藝春秋から発売された桜庭一樹さんの『伏 贋作・里見八犬伝』。江戸時代、架空の都として存在した江戸を舞台に、人と犬の血を引きし者、伏(ふせ)は人間の姿に化け、数々の凶悪事件を巻き起こす。そんなとき山から下りてきた猟銃使いの少女・浜路は、信乃という伏に出会い、物語の歯車が回っていく。

 今回のインタビューでは監督の宮地昌幸さんに映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』が誕生するまでの経緯や、配役に関してのこだわりなどをたっぷりと語ってもらった。

■ これまで自分がやったことのない、女の子の成長物語を作ってみたかったんです

――『伏 鉄砲娘の捕物帳』を制作することになった経緯、キッカケは?

宮地昌幸監督(以下、宮地監督):『亡念のザムド』の制作が終わり、ほかの人の手伝いなどをしていたときにプロデューサーの鶴木さんからオファーを頂きました。そのときに桜庭一樹さんが連載していた『伏 贋作・里見八犬伝』を読ませてもらったのがキッカケです。ただ、その時点では連載の終わりが見えてこないような内容だったので、「これは難しいんじゃないかな」とか、そんなことを考えながら、そのまま半年くらいダラダラしていた感じです。

――なぜ監督に制作オファーがきたのか、監督ご自身ではどう思っていますか?

宮地監督:暇そうにしてたからじゃないですか?(笑)。あとはプロデューサー自身が、今作っているアニメ以外のニュアンスのことをやってみたいというか、ちょっと変わった奴に投資してみたいと思ったんじゃないですかね。それと前に作った作品、『亡念のザムド』を気にいってくれたのかなとも思っているんです。「前に作った作品が面白かったんで」と言ってもらえたので、僕としてはそれが嬉しかったです。

――今回の作品におけるテーマとは?

宮地監督:まず、映画としてまとめられる範囲というのがあります。これはもう勘と経験でしかないんですけど、原作のなかにあるどのコンセプトを抽出すればいいのかを決めて、2時間という枠のなかにどれだけうまく乗せていくかです。

 そして自分のやりたかったテーマというのが、浜路という女の子の成長物語。そこを抽出して、原作の持っているテイストに織りこんでいったという形です。少女の成長物語というのを、ひとつ大きな作品のテーマとして制作をスタートした感じですね。

■ 声優という枠を越え、それぞれ役のイメージに合った方を選ばせて頂きました

――声優のキャスティングについて、その理由や収録時のエピソードなどありましたら教えてください

宮地監督:今まで自分のなかで印象の強かった方のお名前を出しながら、その役に合ったキャスティングを音響監督と相談します。たとえば道節役の小西克幸さんについては、初めから「小西さんにしよう」と僕のなかにあったんです。でも現時点で小西さんが僕の思っているのとは別のキャラクター性を持っている可能性もあるので、ほかの方も含めてオーディションをしています。
あと、キャスティングについて話をしているときって現場は佳境に入っているので、オーディションのテープを頂いたら、それをラジカセで流しながら仕事をしています(笑)。

 浜路役の寿美菜子さんについては、オーディションのテープを聞いていたときに「お、浜路の雰囲気に合うな。誰だろう?」と調べたところ、寿さんだったんです。それでぜひ浜路役にとお願いさせてもらいました。

浜路(CV:寿美菜子)

浜路(CV:寿美菜子)

 信乃役の宮野真守さんは運動能力が高いというか、台本を数回読んだだけでキャラクターの性格を掴んで役を作ってきてくれて、それがストライクに近いんです。現場に入ってお話させてもらうと、すでにもう制作側と意思疎通が取れているような感じでしたね。

信乃(CV:宮野真守)

信乃(CV:宮野真守)

 馬加役の神谷浩史さんに関しては、信乃と同じくらい魅力的で力強く、信乃と対決したときにドキドキするような存在感を出してくれる方ということでキャスティングさせて頂きました。もし馬加役の声を宮野さんの声質と似た方にしてしまうと、言い合いになったとき声が重なってしまうので、コントラストをつけるといった意味でも神谷さんはピッタリでした。ただ馬加という役の話として、暗黒面で生きていかざるを得ない男の悲しさを表現したかったので、そこは神谷さんに現場でお会いしたときに説明させて頂きました。

馬加(CV:神谷浩史)

馬加(CV:神谷浩史)

――声優としてアイドル的存在の水樹奈々さんが、イメージとだいぶ違う役を演じることになったキッカケは?

宮地監督:今でいうアイドルと江戸時代のアイドル(花魁)を被せてみたかった、というのもあります。やっぱりアイドル的存在の水樹さんだからこそ、凍鶴役をやったときにそこはかとないリアリティが出るんじゃないかと思ったんです。
スターである水樹さんが、「キラキラしている世界だけども裏側にすごい影を抱えている」という役をやったら、その影にすごく深さが出るんじゃないかなと思ったからです。実際に現場で演技を見ていても、役にブレはなかったですね。

 あと水樹さん演じる凍鶴は、物語前半で浜路が女性として成長していくひとつのトリガーを引く人物なんです。水樹さんにお話した凍鶴のイメージは、初めて山から出てきた浜路が、まるで大きな桜に出会ったような気持ちにさせる感じ。その大桜の年輪も含めて、女の業としてそこに光と影が存在するようにお願いします、と説明させて頂きました。水樹さんも勘が鋭い方なので、パッと理解してくださいました。

 水樹さんも、「あまり普段やらない役をやらせてもらえるので、すごくおもしろいです」って言ってくれて、嬉しかったです。僕はキャラクターを作るとき、光と影がほしいと思うので、どこか実写的な表現の深さを要求してしまいがちです。でもそれがおもしろく感じてもらえたんだと思います。
 それと水樹さんは声質がとてもキレイなので、音声として機械にのりやすいんです。だから「そこはもっと疲れたような感じの声で」などの指示はさせて頂きました。

――そのほかのキャスト陣で印象的なエピソードは?

宮地監督:冥土役の宮本佳那子さんは今回初めてご一緒させてもらいましたけど、おもしろかったですね。寿さんが演じる浜路は男の子っぽいキャラクターなんですけど、声は女の子。冥土を演じてもらう宮本さんには、その対になるような感じでやってもらいました。アフレコ自体はとてもスムーズでしたね。

冥土(CV:宮本佳那子)

冥土(CV:宮本佳那子)

 あと野島裕史さんは、前の作品でも一緒にやらせてもらったので印象に残っています。野島さんの演じる徳川家定は現代社会を反映しているような肝心なキャラクターなので、ちょっと難しいんです。お殿様っていうと、上から目線のお殿様演技っていうのがあると思うんですけど、そういうイメージを捨ててもらいました。そのうえで「無垢で透明な、生まれて間もない赤ん坊のような気持ちでやってください」って細かく指示を出させて頂きました。

野島さんもこちらの要求に応えてくださって、すぐ役に馴染んでくれました。物語後半では透明性のなかにある暴力性を上手に演じてもらいました。これはもう「日本のアニメ界じゃないとできないぞ!」っていうくらいすごい演技なので、ぜひご覧になってください。


徳川家定(CV:野島裕史)

徳川家定(CV:野島裕史)

 あとは前でも触れましたが道節役の小西克幸さん。三枚目でありながら二枚目を演じるという、そのバランス感覚が本当に上手でした。また、お兄ちゃんが妹を引っ張っていってあげるんだけど、同時に頼りないっていう若干中年に足をかけた男の楽しさみたいなのがすごく出ていて、小西さんがますます好きになりましたね(笑)。また、小西さんは現場でも冗談を言って周りを和ませたりもしていただいて、ムードメーカーでもありました。

道節(CV:小西克幸)

道節(CV:小西克幸)

 また小西さん演じる道節の相方、船虫役の坂本真綾さん。船虫はキャリアウーマンで気の強い女性、というキャラクターなんですけど、坂本さんに声を当ててもらった時点で僕のなかで彼女の役が広がっていく感じがしたんですよ。これだったら坂本さんが演じやすいように自由にしてもらった方がいいかな、と思ったので、語尾とか台詞の言い間違いがあってもそっちを優先しちゃいました。あくまで坂本さんが感じたテイストを活かしつつ、録りながら変えていこうと思えた役のひとつでしたね。キャリアウーマンで男に勝ちたい、そんな単純な役ではなくて、そこに女性としての悩み、弱い部分もあるというのを織りこんでもらいました。

船虫(CV:坂本真綾)

船虫(CV:坂本真綾)

 また今回は長屋のメンバーとして、劇団ひとりさんにも参加してもらっています。劇団ひとりさんは別の作品ですでに実力を発揮していたことを知っていたので、ぜひにとお願いしました。おかげで長屋の雰囲気が賑やかになりましたね。

 いちばん悩んだのは物語のラスボス的存在、滝沢馬琴の役でした。台詞の数は少ないんですけど、物語的に重要な言葉を発するので、ただうまいだけじゃ難しい。そうして悩んでいる間に「歌丸さんはどうだろう」と。「作品は江戸時代だし、歌丸さんは落語家。そしてひとりでたくさんのお客さんを楽しませるとなると、小説家であれ落語家であれ同じ……」、そうして自分のなかで考えていくと、すごくピッタリに思えてきたんです。
それからは粘り腰で頼みこみまして、歌丸さんも「ここまで頼まれたんじゃ、やるしかない」と言ってくださいました。台詞としてはひと言、ふた言なんですが、特別な重みみたいなものが出たのでよかったです。ただ声が聞こえるんじゃなくて、存在とともに音がそこにあるって感じなんですよね。実際に映画を見てもらえると、その特別な重さを感じてもらえるんじゃないかと思います。

 また、歌丸さんは僕が役の説明を言い間違えたとき、「え? そこちょっと違わない?」って指摘してくれたんです。それってちゃんと台本、キャラクターを理解してくれているって証拠じゃないですか。それはすごい嬉しかったですね。また歌丸さんに関しては噺家さんなので、自分のリズムを持っていると思うんです。アニメってストップウォッチでセリフを計測するようなガチガチの世界なので、うまく言葉を乗せてもらえるかな、とか制作者側の勝手な心配があったんですけど、しっかりと合わせてくださったので安心しました。

 そして歌丸さんだけではなく、主題歌を担当してもらっているCharaさんにも声優として参加してもらいました。役としては滝沢馬琴と対になる、お道(冥土の母)です。Charaさんは本業が歌手ですので、台詞がメロディのようになるんです。それがすごく独特で、新鮮に感じましたね。

 収録時のエピソードとしては、キャストのみなさんには夏に合宿みたいに集まってもらったんです。スケジュールを押さえるのは大変でしたけど、長屋の雰囲気とかを個別に録ったら雰囲気が出ないと思うんですよ。実際に演じる人の顔を見てもらったほうがリアリティが出ます。僕としては高校時代の夏合宿みたいな気分で、収録が終わったときは切ない気持ちになっちゃいました(笑)。

■ 史実に基づいた江戸というより、本作ならではの江戸を楽しんでください

――原作ファンに向けて、映像化するにあたって注意したことがありましたら教えてください

宮地監督:原作は「真っ赤な~」とか色をたくさん使った言葉が多いので、色使いには注意しました。あとは女っぽい、男っぽいなど色艶の部分がたくさんあったので、そこはやはり性を意識させるような画面構造とか、色使いを表現してみたいなとは思ったんです。そういうこともあって信乃はピンク色にして、わざと女っぽく。浜路は逆に男っぽく。物語の最後で浜路は着物を着るんですけど、それは女っぽくピンクにしたり。ちなみに原作で浜路は冬に江戸へ出てくるんですけど、それを春にして桜吹雪を舞わせてみたり。あとは桜を含めて彩り豊かなカラーコーディネートを意識しました。


 それと『里見八犬伝』という原作がありながら、作り物の世界と現実の江戸っていう世界がときどきリンクするおもしろさ、どっちが本当でどっちがウソなの? っていう部分がポイントでもあるので、とくに今回力を入れたところです。あとは話を複雑にしないでシンプルにしようと作りました。結局は男と女、狩る者と狩られる者の話なんだ、と。最後には浜路が信乃への思いを溢れさせるような、そこにちゃんと着地するようにしたい、というのをコンセプトとして作品を制作しました。これが原作小説を映画にするとき、いちばん気を付けたことですね。もちろん浜路と同じ年齢の子供たちにも楽しんでもらえることを想定しながら作っています。

――世界観、設定についてのこだわりは?

宮地監督:実際の江戸時代ってすごい質素なんです。土と木の世界に近いので、なかなか絵にならないんですよ。だからあえて浮世絵とかの色使いを持ちこんで、さらにアニメーションの世界観がありますから、まるでSF世界の江戸だってくらいの状況や、色にしました。史実に基づいていることも大事なんですけど、放っておいても史実に基づいてしまうものなので色使いは派手に、見栄えはおもしろいほうに向けていきました。江戸時代って資料がいっぱいあるので、そっちに足を取られていっちゃうんですよね。だから強烈に色を使った世界をひとつ作っておいて、それを軸にしました。

 後は大きく4つに分けた舞台をちゃんと出したい、というところ。めちゃくちゃな江戸を作っているふりをしながら、ちゃんと江戸時代の見せるべきものは見せようと努力しました。これは脚本段階での話だったんですけど、まずいちばん最初は長屋住まい。次に吉原、吉原は都心部にあるアミューズメントパークみたいなイメージとして、江戸の狂い咲いた場所として出せないかなと。3つ目は芝居小屋。ある種、虚と実が一緒になるような場所です。最後は原作にもありますが、江戸城です。この4つの舞台は江戸を描く以上、触れたいなと思っていた部分ですね。結果としておもしろくできたかなという手ごたえはあります。

――作品を制作するにあたって影響を受けたアニメ、映画などはありましたか?

宮地監督:監督という立場上、積極的にほかのアニメは見ないようにしているので、近い作品で影響を受けたアニメというのはないんですよ(笑)。それでも日本でアニメを作っている以上、宮崎駿監督などを始めとして偉大な方たちが開拓してくれたうえでアニメを制作しているので、影響というか尊敬の念は常に持っています。

――最後に作品の見どころを教えてください

宮地監督:原作を読んでいない方でも十分楽しめる内容にしてありますので、原作を読んでから見るのもよし、映画を見てから原作を見るのもいいです。そこはこだわらないで見て頂ければと。いちばん見てもらいたいと思っているのは、浜路と同じ年齢の女の子が友達同士で見にいって、なんとなく浜路や冥土に共感してもらえると、これに代わる喜びはないです。その子たちが将来どういう恋をしていくのか、その恋がうまくいこうがいくまいが、きっと恋をした後に成長した自分は残るじゃないですか。ほろ苦いこともあるかもしれないけど、それも含めて「よかった」と言えるような作品にしたつもりです。そういう人たちの勇気になったらいいなとも思っています。

 もちろん親御さんたちにも見てもらいたいですね。あとCharaさんが歌う主題歌『蝶々結び』も、じつは初恋のころを思い出して作ってもらったんです。自分がまさに恋してる、っていうよりも、「そんなこともあったよね」っていう少し大人の目線で歌ってください、みたいなオファーをしました。親御さんが見たら照れくさいかもしれないですけど、どこかときめく部分もあるんじゃないかと。家族連れでもよし、友達連れでもよし、という感じで見てもらえたら嬉しいなと思っています。

<作品データ>
タイトル:伏 鉄砲娘の捕物帳
公開日:2012年10月20日(土)
原作:桜庭一樹
監督:宮地昌幸
脚本:大河内一楼
キャスト:寿美菜子、宮野真守、宮本佳那子、小西克幸、坂本真綾、水樹奈々、神谷浩史、野島裕史、ほか



>>映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」公式サイト

(C) 桜庭一樹・文藝春秋/2012映画「伏」製作委員会
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