声優
水瀬いのりさんが語る映画『ここさけ』主人公の気持ち

不安もあったけど、挑戦することを恐れずに──水瀬いのりさんが語る映画『心が叫びたがってるんだ。』主人公の気持ち

 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、あの花)のスタッフが贈る新たな青春群像劇『心が叫びたがってるんだ。』(以下、ここさけ)が、2015年9月19日(土)より全国の映画館で公開される。本作では、言葉を封印された少女・成瀬順と、全く接点のない男女3人の歯がゆくも切ない、不器用な青春ストーリーが描かれている。

 主人公の順を演じるのは、様々な話題作で主要キャラクターを演じる水瀬いのりさん。声を封じられてしまうという難しい役どころを担当し、そして『あの花』というビッグタイトルを背景に持つこの作品に彼女はどう向き合ったのか。本稿では、その答えを見つけるべく行ったインタビューの模様をお伝えしていこう。


■ 「声にして伝えることだけが意志ではないですから」

──本日はよろしくお願いします。『ここさけ』の取材を何度か受けられたと思いますが、一番聞かれたことは何でしたか?

水瀬いのりさん(以下、水瀬):「今、一番叫びたいことは?」でしたね。もうないです(笑)。


──ですよね(笑)。順は今まで演じられてきたキャラクターとは、かなり異なる性格をしていたと思いますが、どのように演じられましたか?

水瀬:今回は作品の雰囲気もそうなんですけど、ナチュラルでリアルな人間の群像劇が軸にあるんだなと台本を読んで感じました。ポップで可愛いアニメのキャラクターというよりは、ちょっとドラマとか実写に近いような。順は一人の女の子として作品の中に生きているんだな、というイメージで見ていました。あまりデフォルメをせず、普通に話している感覚でお芝居をしている感じでした。

──台詞も言葉にならないようなものも多かったですね。

水瀬:「私は……です」のように、お腹が痛くなってしまって真ん中の言葉が出せないのが順の感覚です。文字に書いてある事だけを読むと「私は  です」ですけど、その間に呻いていたり、口は動いていたりとか、音には出せないけどもがいていたりしていて、台本を忠実に読んだというよりは、間の「……」の部分も順が頑張って生きているところを出そうとしました。そこは自分で思う順の息遣いを入れたりだとかしていました。大変でしたけど、参考にするものがないし……。自分の中では想像しながらお芝居をしていたんですが、監督の想像している声やお芝居になっているのかは、やってみないとわからないので、すごく不安はありましたね。


──台本ってどんな感じで台詞が書かれていたんですか?

水瀬:「私は……です」とか、「いや……です」とか、「私……の」とか、「…………」とか、「私は!……です」とか。その「……」の間にも順は何かを話そうとしているので、そこでピタッと演技をやめてしまわないように気を付けました。

──あの言葉が出ない部分は二度三度見直してみると新たな発見がありそうな気がしました。

水瀬:そうですね。声にして伝えることだけが意志ではないですから。順の場合は、心の中でたくさんお喋りをしていて、それが人と違って音に出せないだけで感情はあるし、言いたいことだってたくさん心にしまっているんです。でも、学校のような集団行動する場所だと、そういう子は浮いてしまうし、「あいつなんだよ」「全然喋らないよな」と周りが騒がれてしまう。そんなシーンも作品では描かれているのでリアルだなって思いました。


──そういうところも『あの花』スタッフだなって感じさせられました。そんな順が教室で歌うシーンもありましたが、どんなディレクションがあったんですか?

水瀬:歌は本編のアフレコが終わった後に収録しました。歌も芝居と一緒で自然なものを要求されました。ちょっとした音のしゃくりやビブラートって歌うことに慣れているからやることで、順たちは慣れていないし、戸惑いながら歌うので、慣れた感じは出さずに音程を忠実に真っ直ぐ歌っています。作品を通して、等身大の高校生の頑張りを描くということだったので。私たち役者も「上手く歌おう!」というよりは、「誰かに届くといいな」という気持ちで歌いました。

──歌う機会も多いですから、その分だと注意されたんじゃないですか?

水瀬:そうなんです。歌う癖って自分でも知らないうちについていたりするんですよ。「今のところこうなってたの気づきました?」って収録した音声を聴かせてもらって、「そこは真っ直ぐ歌うようにしましょう」と話し合いながら収録しましたね。スタッフさんもとても優しくて、とても和やかな雰囲気で進められました。


──なるほど。アフレコはみなさんで行われたんですか?

水瀬:はい。クラスメイト役もたくさんいて、それだけ声優さんがいるので、アフレコブースにもたくさん人がいました。年齢も幅広くいらっしゃって。でも、初めてお会いするかたもいっぱいいましたが、共演したことのある役者さんもいっぱいいたので、そういう意味では学校っぽかったなって。本番が終わるとみんながガヤガヤ話し出したり、音響さんが入ってくるとみんなスッと姿勢を正したり(笑)。長編だからとピリピリした空気もなく、休憩中のお弁当を選ぶときも「どれにするー?」って話したり。和やかで和気あいあいとしてましたね。

 ネタバレになっちゃうので少ししか言えないですけど、ちょっとキャー! って恥ずかしくなっちゃう男性と女性のシーンがあって、そこを何度か録り直していたんです。最初に収録したら、どうやら生々しすぎちゃったみたいで(笑)。そこで頑張って演じた役者さんたちが恥ずかしくて無言で戻ってきたときは、みんなで「なんか嫌だね(笑)」って話してました(笑)。シナリオも女性目線だからこそ、そういうリアルな高校生な感じが出ていますね。順の声が出なくなったきっかけもそうですけど、現実味がしっかりとあって、夢とか希望とはまた逆のほうから、そういう要素を持ってくるところがすごいなと思いました。だからこそ、そのシーンは役者さんの顔が思い浮かんで劇場で笑ってしまいそうです(笑)。

 内山さん(坂上拓実 役:内山昂輝さん)とか雨宮さん(仁藤菜月 役:雨宮天さん)とか細谷さん(田崎大樹 役:細谷佳正さん)とかとも「何なんだろう? やだー!」って冷やかしたりして話していました。それもクラスっぽいなって感じで、何でも言い合えるような雰囲気でしたね。みんなで作っている感じがして、楽しかったです。

 
■ 「挑戦することを恐れずに進んでいきたいなと思います」

──リアルという話が出ましたが、水瀬さんも高校を卒業して間もないですから、感情が入っちゃう部分とか「こういうことあったな」と思った部分もあったんじゃないですか?

水瀬:ひとつのことをやろうと言ったときに、みんなが満場一致しない感じはリアルだなって思いました。私も文化祭とかは頑張っていたんですけど、体育祭とか運動が好きじゃなくて……(笑)。本気を出さない感じとか、「暑いー」って言っちゃうとことか、そういうちょっとした集団行動で個性が出ることって大人の社会に出るとやっちゃいけないことだし、それが常識ですよね。でも、学校生活の中ってそういうことをあんまり考えていなかったなって。何かを言った後で人の顔色を伺うみたいなことって学生時代はあまりしてなかったなって感じました。言いたいことは言うし、嫌なことは嫌だって言うし、そういうのを怖がってなかったなって今では思いますね。

 私も大人の人たちに囲まれてお仕事をしていくと「今は言わない方がいい」とかがわかってきて。それと同時に、学生時代の雰囲気とは違う中で生きているんだなっていうのを思い知ったり。自由な空間ではなくなったなとは感じています。


──それは誰しもが感じることですね。俺も若かったなって……。

水瀬:だからこそ、大人のかたが見たら懐かしいと思いますし、誰しもが通って来た感情の動きを再発見できると思います。

──それも踏まえて、水瀬さんオススメのシーンとかありますか?

水瀬:やっぱりミュージカルがキーになっているので、ミュージカルのシーンですかね。ヒロインが声を出せない女の子だけど、みんなでミュージカルをするというストーリーで、果たして出れるのかっていうのもポイントですよね。みんなでミュージカルをやるってことになったら、きっと順もその中に入っていくことになるんだろうし……。そうなると喋れない女の子がみんなの前で歌ったり、何かを発信することをやるのかっていうのは、みなさんも楽しみにしているところだと思います。果たして順は歌うのか? それともやっぱりダメなのか……。私たちもちゃんと演じたので注目してもらいたいです。


──話は飛びますが、映画のキャンペーンで様々なことをやると思いますが、水瀬さん的にやってみたいことはありますか?

水瀬:西武ドームの始球式は茅野さん(『あの花』本間芽衣子 役:茅野愛衣さん)と一緒に出るんですけど、私にとって茅野さんはすごく憧れの女性で……。アフレコ現場でもすごく優しくて、気配りができて、視野が広いかたなんです。自分が『あの花』を劇場で見ていた世代として“めんま”(本間芽衣子のニックネーム)の声の人と一緒の舞台に立てる、一緒にキャンペーンができるという空間が夢のようです。

 「一緒に盛り上げていこうね」と声をかけてくださる、その時間が嬉しくて。茅野さん以外の『あの花』キャストのみなさんとも一緒になって朗読とか、同じ秩父が舞台ですしアナザーストーリーなど、何か交わったりとか面白そうですね。拓実くんと“じんたん”(『あの花』主人公・宿海仁太)とか、けっこう合いそうですよね。“あなる”(『あの花』安城鳴子)と菜月とか。そういうちょっとした、直接じゃなくてもいいので、街ですれ違うとか、そういう絵が見てみたいなって思います。そんなことができたら、私としては夢が叶うなって。

──それはいいですね! しかし、すごくファン目線(笑)。

水瀬:めちゃくちゃファンなので!(笑)


──(笑)。そんな『ここさけ』ですが、どんな人たちに見てもらいたいですか?

水瀬:そうだなぁ。大人が見たら当時を振り返ると思うんですけど、まだ高校生になってない世代の中学生とかが見に行ったら、どんな感情を持つのかなって単純に気になります。高校っていうものに対する中学生のイメージというのが私にはわからないんですけど、私が考えるのは、高校が中学よりかは大人に近づく場所というイメージです。そういう中学2年生や3年生の子たちが『ここさけ』を見て、高校に対するイメージはどうなるんだろうなって。

──面白い視点ですね。どうなるんだろう。

水瀬:すごく気になりますよね。高校生って未完成で未熟だけど、少しずつ大人になっているところがキラキラしていますし。


──確かに。人生で一番楽しい時期かもしれませんね。では最後に、『ここさけ』を通して水瀬さんが感じた思いを締めのコメントとしてお願いします。

水瀬:最初はやっぱり声を出せない役ということが自分にとってはすごくプレッシャーでしたし、この子を演じていいのかという思いもたくさんあった中で本編のアフレコが始まって、少しずつ拓実くんたちの演技に引っ張られながら順というキャラクターを作っていきました。新しいことにチャレンジするのって、すごく勇気がいるし、今までやっていないものをみなさんに披露するのは、賛否両論含めてすごく不安で。今回は自分の地声を軸にしてお芝居をしているので、より自分の考えを出していると思います。着飾っていない自分の声が出ているという部分では、すごく全てをさらけ出したような感覚でお芝居をしたし、どのように受け止められるかはわかりませんが自分としては全力を出しました。

 私のお芝居が誰かの心に届いていたら嬉しいし、私の声が心に響いたという人が一人でも多くいればいいなと思えたので、これからも新しい役に挑戦することを恐れずに進んでいきたいなと思います。よりいろいろな側面から私の声を楽しんでもらえるように、これからも新しい挑戦にチャレンジしていきたいです。新しい社会人のかたや進級して高校生になるかたとか、恐れずに自分らしくぶつかっていってもらいたいなって思いました。


■作品情報
映画『心が叫びたがってるんだ。』
公開:2015年9月19日

【STAFF】
原作:超平和バスターズ
監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
音楽:ミト(クラムボン)
演出:吉岡忍
美術監督:中村隆
プロップデザイン:岡真里子
色彩設計:中島和子
撮影・CG監督:森山博幸
編集:西山茂
音響監督:明田川仁
企画・プロデュース:清水博之・岩田幹宏
プロデューサー:斎藤俊輔
アニメーションプロデューサー:賀部匠美
製作代表:夏目公一朗・植田益朗・清水賢治・中村理一郎・久保雅一・落越友則・坂本健
製作:「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会
(アニプレックス/フジテレビジョン/電通/小学館/A-1 Pictures/ローソン/ローソンHMVエンタテイメント)
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
宣伝:KICCORIT

【CAST】
成瀬順:水瀬いのり
坂上拓実:内山昂輝
仁藤菜月:雨宮天
田崎大樹:細谷佳正
城嶋一基:藤原啓治
成瀬泉:吉田羊



【STORY】
心の殻に閉じ込めてしまった素直な気持ち、本当は叫びたいんだ。

幼い頃、何気なく発した言葉によって、家族がバラバラになってしまった少女・成瀬順。そして突然現れた“玉子の妖精”に、二度と人を傷つけないようお喋りを封印され、言葉を発するとお腹が痛くなるという呪いをかけられる。それ以来トラウマを抱え、心も閉ざし、唯一のコミュニケーション手段は、携帯メールのみとなってしまった。

高校2年生になった順はある日、担任から「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命される。一緒に任命されたのは、全く接点のない3人のクラスメイト。本音を言わない、やる気のない少年・坂上拓実、甲子園を期待されながらヒジの故障で挫折した元エース・田崎大樹、恋に悩むチアリーダー部の優等生・仁藤菜月。彼らもそれぞれ心に傷を持っていた。

担任の思惑によって、交流会の出し物はミュージカルに決定するが、クラスの誰も乗り気ではない様子。しかし拓実だけは、「もしかして歌いたかったりする?」と順の気持ちに気づいていたが、順は言い出せずにいた。そして、だんまり女にミュージカルなんて出来るはずがないと、揉める仲間たち。自分のせいで揉めてしまう姿を見て順は思わず「わたしは歌うよ!」と声に出していた。

しかし、発表会当日、心に閉じ込めた“伝えたかった本当の気持ち”を歌うと決めたはずの順だったが…。


>>映画『心が叫びたがってるんだ。』公式サイト
>>映画『心が叫びたがってるんだ。』公式Twitter

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