
なぜ、マフィア梶田は『シン・ゴジラ』に出演していたのか? 本人に聞いてみた!
庵野監督との出会いと『シン・ゴジラ』への出演
――そんな大ヒット作『シン・ゴジラ』ですが、読者の方が一番気になっているのは、"そもそもどういった経緯でこの映画に出演することになったのか"ということだと思うのです。
梶田:そもそも庵野監督とは去年まで面識がなかったんですよ。それがある日、とあるアーティストさんのライブに招待されまして、歌を聴きながら食事したりお酒が飲めるクラブのような場所だったんですが、なんとそこに庵野監督夫妻も招待されていたんです。庵野監督といえばオレがオタクになる立脚点を作ってくれた憧れのクリエイターですし、ひいてはライターを目指すきっかけでもあったので、これは御礼も兼ねて御挨拶せねば一生後悔すると思い、覚悟を決めて話しかけに行きました。
奥様である安野モヨコさんとは共通の知り合いを通して少し面識があったんですよ。そしたらモヨコさんが「せっかくだから隣に座って話していきなよ」と言ってくれて……。
――大ファンで憧れてる方が横に座っている心境はどんなものでしたか?
梶田:これまでの人生で一番緊張しました。心臓が破裂するかと思いましたね(笑)。
一同:(笑)
梶田:話したいことなんて星の数ほどあるのに、何を話していいか分からない。初デートにのぼせ上がる童貞小僧のような気持ちでした。
――会話のきっかけとなった話題はなんだったんでしょう?
梶田:ちょうどその頃、軍艦島に興味があったんですよ。世界遺産に登録されてしまうということで、立ち入りが厳しくなる前に一度行ってみたいと思っていたんです。(※3)庵野監督は取材で軍艦島に行ったことがあるとのことだったので、色々とアドバイスをいただいたりしたんです。そこからはもう、会話が止まりませんでしたね。帝国海軍の軍艦の話で盛り上がり、宇宙の話、映画の話、果ては庵野監督の生い立ちから今に至るまでを根掘り葉掘り聞いていました。今思うと、完全にインタビューモードに入っていましたね(笑)。
※3:軍艦島は、「明治日本の産業革命遺産」のひとつとして、2015年7月5日に世界遺産に正式決定した。
――職業が活かされましたね。
梶田:それが結局2、3時間ずっと続いて。もう至福の時間でしたね。もちろん『ゴジラ』の話もしたのですが、「どのゴジラが一番好きか」という話題で、やはりお互いに初代ゴジラが至高であるという結論に至りまして。『シン・ゴジラ』についても、「初代に出来るだけ近づけるような作品を作りたい」と話していました。もう大興奮ですよね、一番好きな初代ゴジラみたいな作品を、一番好きなクリエイターである庵野監督が作ってくれるって言うんですから。その晩は家に帰っても気分が高揚して眠れませんでした。
――そこでは『シン・ゴジラ』出演の話はまだなかったんですね。実際のオファーはどんな感じだったんでしょうか?
梶田:お話した日から2日くらい経った頃、モヨコさんを通してメールが来たんです。「カントクが梶田くんに映画に出て欲しいって言ってるんだけど」と、最初はドッキリかと思いました(笑)。監督曰く「その存在感が欲しい」とのことで、そりゃもう尊敬する庵野監督の作品ですから……「自分でよければぜひ」と伝えました。しかし、役者として自己紹介したわけでもないのに映画への出演オファーがくるとは思いませんでしたね。なにが監督の琴線に引っかかったのか、いまだに謎です。
――確かにセリフはなかったですが、強烈な存在感を画面から感じました。
梶田:台本を受け取るまで、どんな役なのかほとんど分からなかったんです。ただ台詞はないと聞いていました。蓋を開けてみると「カヨコの私設ボディーガード(日系人の大男)」という、ヒロインに付き従う役で(笑)。わざわざカッコで日系人という注釈が入っているように、実はカヨコ同様にアメリカ人なんですよね。ちゃんと設定上の理由もあって、日本国内で活動するからこそ目立たないように日系人のSPを雇っているんです。……まぁ、映画を観た人達の感想からすると、むしろ目立っちゃっていたようなんですが。
一同:(笑)
梶田:劇中では一切喋らないんですけど、そもそもSPってそういうものですし。自分でも映画が出来上がってから気付けたんですが、常に仏頂面で黙っているからこそ意味があるキャラクターなんですよね。
――エンドロールにはメインキャスト以外の役名は明記されていませんでしたが、そんな役名だったんですね。
梶田:台本上にはみんな役名が書いてあるんですよ。キャストの数が多すぎるので、しかたなくエンドロールでは役名を割愛することになったんじゃないかと思います。実は注意深く見てみると、驚きのキャスティングがあったりするんですよね。おんぶされて避難する老婆の役を原知佐子さん(実相寺昭雄さん(※4)の妻)が演じていたり、1回観ただけじゃ小ネタを把握しきれない映画です。
※4:映画監督。『ウルトラマン』『ウルトラセブン』では演出を担当し、独特の世界観を作り上げ、特撮の世界を大きく広げた一人。
――すべてはクラブでの偶然の出会いから始まっているんですね。
梶田:一応、自分もちょくちょく役者として活動はしていますが、あくまで本業はライターなので。監督は会うまでマフィア梶田のことなんて知らなかったでしょうし、よくこんな目立つ役でオファーしてくれたなと思いますよね……。(台本を眺めながら)ただ、改めて見ると自分以外にも役者でない方々が結構出ているんですよ。(※5)
※5:映画監督・犬童一心さん(古代生物学者役)、歌手・KREVAさん(自衛隊・第2戦車中隊長役)など、他にも多数の異業種の方々が参加されています。
引き締まった撮影現場だから生まれた緊迫感あるドラマ
――梶田さんは自分の役についてどのような印象を感じていますか?
梶田:石原さとみさんにそっと寄り添う役です(笑)。
――羨ましいです(笑)。撮影中にお話しされるようなことはありましたか?
梶田:まったく無かったわけではないのですが、そんなに和気藹々と談笑するような雰囲気ではありませんでした。なぜかって、『シン・ゴジラ』はかなり緊張感のある現場だったんですよ。シリアスなシーンばかりなので、みなさん役が抜けないんですよね。出番待ちの時間でもリラックスするより、常に自分の動きとセリフを確認していたりするんです。だから自分もその空気感に引っ張られて、現場では映画の役柄そのままの仏頂面を保っていました。
なので、映画公開直前にレッドカーペットセレモニーを取材したLINE LIVEのレポーターをやらせていただいた時は、来てくださったキャストさん全員に「そんなに笑う人だったんですね!」と驚かれました(笑)。石原さとみさんなんか、特に笑っていましたね。現場では徹底してムスッとしたボディーガードになりきっていたんですよ。
――映画本編の緊張感がそのまま現場の空気になっていたんですね
梶田:唯一自分から話しかけたのは、塚本晋也さん(※6)ですね。自分は『鉄男』(1989年)とか、塚本監督の作品の大ファンなんですよ。ライターという職業柄、ミーハーな部分を出すのはあまり良くないので我慢していたのですが、さすがに御挨拶せずにはいられませんでした。
▲生物学准教授・間邦夫役の塚本晋也さんは、中央のタオルを下げている人物。※6:映画監督であり役者。監督代表作である『鉄男』、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞。声優業としては、『メタルギアソリッド4』(2008年)で雷電のライバル「ヴァンプ」を担当。























































