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「ブブキ・ブランキ×亜人」3DCGアニメの未来に在るモノとは

「ブブキ・ブランキ×亜人」3DCGクリエイター対談――3DCGアニメが目指すミライの形

 2016年10月より放送中のTVアニメ『ブブキ・ブランキ 星の巨人』、そして『亜人』(第2クール)。両作品に通ずるのは、全編が3DCGで制作されていることです。この機会に、アニメイトタイムズではそれぞれの作品でCGスーパーバイザーを務める方をお招きし、さまざまなトピックを語り合う場を設けました。

 ご登場いただくのは、『ブブキ・ブランキ 星の巨人』(以下、ブブキ)から株式会社サンジゲンの鈴木大介さん、『亜人』から株式会社ポリゴン・ピクチュアズの岩田健志さんです。お二人は映画『スターウォーズ』のVFX(映像効果)や、ゲーム『リッジレーサー』などを通じて3DCGの世界に触れて以降、アニメ制作会社やゲーム開発会社でのディレクション業を経て、現在は3DCGのクリエイティブを取り仕切る立場でお仕事をなさっています。

 対談では、自作で力を入れたポイント、自社スタジオならではの強みを伺うのはもちろん、お互いに作品を鑑賞して「このシーンはすごかった!」と健闘を称え合う場面も。さらに、3DCGアニメーションの未来に至るまで、たっぷり語り合いました。両作品ファンならずとも、今後は制作の現場に入りたいと思う方にも参考になるはずです。

 前編では、主に『亜人』に関するトークを中心にお届けしましたが、後編では『ブブキ』の見どころや、3DCGアニメの未来に至るまでを語り合いました。

 それでは以下、後編をどうぞ!


『ブブキ』の絵作り、ここがすごい!

▲株式会社ポリゴン・ピクチュアズ 岩田健志さん(左)、株式会社サンジゲン 鈴木大介さん(右)

▲株式会社ポリゴン・ピクチュアズ 岩田健志さん(左)、株式会社サンジゲン 鈴木大介さん(右)

──(前編で)『亜人』について感心したポイントを鈴木さんに伺いました。次は『ブブキ』でグッときたシーンを岩田さんからお聞かせいただけますか。

株式会社ポリゴン・ピクチュアズ・岩田健志さん(以下、ポリゴン・岩田):ものすごくいっぱいありますよね。ほんとうに「なんだ、このいいアニメは」と……涙なくしては語れないですよ。

なにより、ちゃんと日本アニメの系譜に則っての作品だと思うんです。今までのアニメのいいところがちゃんと詰まっているのがグッときます。たとえば、バトルシーンと日常のカット、それからお色気のバランス配分が絶妙ですし、ストーリー構成もうまい。『ブブキ』を見ていると、『亜人』はもうちょっとサービスの成分が不足していたのかな……と思えてきたくらいです。

株式会社サンジゲン・鈴木大介さん(以下、サンジゲン・鈴木):お色気なんて言ったら『亜人』だって、(下村)泉ちゃんが衣装を着替えて「なんだその服は!」と詰められ、とっさに隠す可愛いシーンがあるじゃないですか。あそこは素晴らしくて、つい巻き戻しましたよ(笑)。

ポリゴン・岩田:『亜人』は基本的に覗きたがりの願望があるのか……って、なんの話をしてるんでしょうね(笑)。すみません、話を戻すと、『ブブキ』には構成の巧みさだけでなく、たとえば流背(「流線背景」の略称。スピード感のある移動を表現するために、背景をはっきり描かずに流れるような描写で表現すること)の勢いなんて、まさにこれまでのアニメで培われた文化だなと。あとはデルマタッチ(鉛筆の質感を用いて効果線や影などの画面効果を表現すること)も使われていますよね。

▲流背が使われているシーン

▲流背が使われているシーン

サンジゲン・鈴木:デルマタッチとタタキ(絵の具を付けたブラシを叩いて飛ばし、勢いのある表現を付ける作画手法)は、それこそ『天元突破グレンラガン』仕込みです(笑)。流背に関してはちょっとしたエピソードがあります。『ブブキ』は1期の1話と2話は、小松田大全監督としても「宮﨑駿アニメを3DCGで作ってやる!」くらいの気持ちがあって、現場としてもかなりカロリーが高い作業が多かったんですね。

▲デルマタッチが用いられているシーン

▲デルマタッチが用いられているシーン

ポリゴン・岩田:その心意気はすごいですね。

サンジゲン・鈴木:ただ、「このままでは最終話までたどり着けない」と判断し、監督に直談判してカロリーを減らすようにカットを調整したんです。たとえば、「体は止まっていて服だけがなびいてて動きを出す」とか「止めや引きをうまく使って相手を殴っているように見える」とか。流背もその工夫のひとつです。でも、そういうふうしたら逆に「アニメらしく」なったんですよ。あとは、キャラクターが倒れるときにあえて映さないとか。

ポリゴン・岩田:「ドサッ!」って音がして、カメラを切り返すとキャラクターが倒れている。すると、見ている人は「殴られたんだ」と理解する。視聴者の想像力に任せる部分ですね。

サンジゲン・鈴木:アニメが培ってきた表現って、実はこういうところも財産なんですよね。この工夫があるから毎週作り続けられる。そのあたりは監督の絵コンテのパワーがすばらしく、そういう工夫でカロリーを削いでいき、逆に見せるところはバッチリ見せる。それも日本アニメのスタイルになっていますし、3DCGアニメでも取り入れていっていいと思うんです。

ポリゴン・岩田:わかります。あと、レンズフレア(太陽などの明るい光源を表現するために、放射状や円形の光を付ける映像効果)をサンジゲンさんは使わないですよね。大っぴらには言っていないけれど、使わないと決めているのかなと思っていたのですが。

サンジゲン・鈴木:たしかに使ってないですね、ほとんど。たぶん、うちの「撮影部」が心に決めているのかなって気もします。サンジゲンの体制として「CG部」は素材を出すだけで、エフェクトに関してはほとんどやらないんですよ。

ポリゴン・岩田:そうなんですね。

サンジゲン・鈴木:たとえば、ビーム光線も「CG部」が白黒の素材だけは出すけれど、それをもとに「撮影部」が最終的に光らせたり反転させたりする。レンズフレアって、割と撮影効果としては「最後のごまかし」みたいに使われることも多いじゃないですか。それで「撮影部」が作品全体を通して見た時に、レンズフレアがどのカットにも入っていたらしつこいから、バランスを考えて極力入れないようにしているのだろうと思います。

ポリゴン・岩田:レンズフレアは「レンズで見た時」に起こるものですから、サンジゲンさんはあくまで「人の目で見ている印象」をお客さんも伝えたいのかなと感じました。たとえば、ロボットの腕が合体してハマるときって、レンズフレアをちょっと足したい気になるけど入れない。それはキャラクターを含め、その光景を見ている人の「目で見た印象」を大切にされているのではと、僕は勝手に解釈していました。

サンジゲン・鈴木:面白い視点です!ただ……どうだろう、そこまで考えているかな?(笑)。でも、レンズフレアの代わりに撮影部はパラ(画面に影を落としたり、グラデーションを重ねたりする映像効果)は、よくかけるんですね。ほとんどの全カットでパラを光の方向性に合わせてかけて、それで雰囲気や空気感を出そうとしています。レンズフレアは「太陽を直接見たとき」や「ロボットの合体」で一回くらい光るかもしれないくらいで、「撮影部」がここぞ!というときに抑えているのでしょうね。


3DCGでギャグ表現をするのは難しい!

ポリゴン・岩田:あとはギャグ表現って3DCGだととても難しいのに、『ブブキ』では果敢にやられていますよね。3Dで正確に作られたものを、あえて「崩す」作業はともすれば崩し過ぎてしまうのが心配になるので、なかなか手を出しづらいんですよね。

サンジゲン・鈴木:わかります。実は、今まではあまりやってなかったのですが、『ブブキ』からはキャラクターの顔の各部にコントローラーをつけたんです。たとえば、コントローラーを引っ張ると頬がつられて伸びます。なぜ付けたかというと、うちのアニメーターって自分が担当するカットでモデルを勝手に変えちゃう傾向があるんですよ。その作業そのものにはOKを出しているんですけど、それこそカットごとにみんなが変えるものだから、それなら最初から仕込んでおいた方が楽なんじゃないかと。

『ブブキ』は2期からコントローラーを付けたのですが、そしたら今度はみんなが顔を変えすぎちゃって、監督から「もう少し元のキャラクター性を残して」と初のリテイクがきてしまいました(笑)。今のところ、コントローラーは諸刃の剣ですね。

ちょっと話が逸れましたが、ギャグ表現は顔のコントローラー以上に難しいんですよね。目がバッテンになったり、白い丸だけで表現したりするのは、2Dアニメでは当たり前に使われていますが、3DCGアニメではハードルが高い。

ポリゴン・岩田:なかなかの度胸が必要ですよね。

サンジゲン・鈴木:だからギャグが多い回は、こちらもディレクターの選任は慎重になります。『ブブキ』の1期では『キルラキル』でもディレクターをしていた石川真平くんにお願いしていました。彼は作画に明るいディレクターで、キャラクターの顔をのっぺらぼうにして別パーツで目を置いたりするくらいに派手なギャグ顔も結構出てきますね。

でも、ほぼ「描く」くらいに変えないと、3DCGでギャグ顔って出来ないんですよね。それか、あらかじめギャグ顔を作っておく方法もありますけど、初期の絵コンテって勢いで描いている部分もあるし、なかなか初期段階でギャグ顔の設定まで出ないですからね……。だいたい用意してあっても、キャラクターを動かし始めてからでないとハマりにくいと思う。かなり手作り感が強いですね、ギャグ顔は。

ポリゴン・岩田:ほんとうに。もういっそ「イチから描かしてくれ!」って思います。

──サンジゲンとしては、それほどの苦労があっても、なぜ3DCGでギャグをやりたいのですか?

サンジゲン・鈴木: (『ブブキ』の)小松田大全監督には3DCGでギャグをどこまでできるか試してみたい、3DCGの限界を伸ばしたいという気持ちがあったんですね。監督はもともと2D畑だったんですけど、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』を見て号泣して、それで「3D最高!」となった方で。だから3DCGの可能性を信じていらっしゃるのもあって、あえてトライしたのかなとは思います。


『ブブキ』2期は「芝居」と「ロボ」が見どころ!

──3DCGの可能性というお話が出ましたが、『ブブキ』2期でさらにパワーアップした見どころなどを教えていただけますか。

サンジゲン・鈴木:現場の修練度が上がって、アニメーターがますます芝居をわかってきたこともあって、キャラクターの掛けあいでの表情芝居は、より気持ちが伝わってくる仕上がりになっています。心の通わせ方が格段にアップしたように感じますね。手前味噌ですけど、あまりにも良すぎて仕上がった映像をチェックしながら泣きましたから(笑)。

──「芝居がわかる」を具体的に伺ってもいいですか?

サンジゲン・鈴木:アニメーターがキャラクターを掴んでいった、ということでしょうね。
このキャラクターはこういう表情はしない、このキャラクターだったらここではこんなふうに動くだろうと、適切なときに適切な表情や動作を描いてくれています。

──2クール目という続き物ならではの洗練ですね。

サンジゲン・鈴木:あとは、僕らの持ち味のロボアクションがさらにできるようになっていますから、そこも見どころです。というか、1期はロボットが合体する条件が厳しすぎて……最終話でやっとパーツが揃ったようなところがあるので(笑)。水を得た魚のようにロボアクションができるのは作品としての進化かなと。


3DCGアニメの未来はどうなっていく?

──1期よりも2期、そして今後もますますと進化する3DCGアニメが楽しみです。お二人にお聞きしたいのですが、未来のアニメを考えた際に、3DCGは今後どのように関わっていくと考えますか。展望があれば教えてください。

サンジゲン・鈴木:2Dアニメはなくなってはいないと思います。ただ、3DCGで作る人やスタジオはもっと増えてほしいですね。

ポリゴン・岩田:小規模なスタジオや、個人からも作品が出てくるように、3DCGアニメの裾野が広がったらいいですよね。媒体もテレビだけじゃなくて、自分たちがストリーミング配信できるとか。

サンジゲン・鈴木:あとは、技術的な話でいうとレンダリング(音声や映像などすべての素材を1つの動画にまとめる処理)はなくなるかなと。おそらくリアルタイムで「もっと早く、楽に」作れる環境になるかなと。その分、こだわりたい部分に時間をかけたいところです。

ポリゴン・岩田:たしかに。あとは、たとえばリアルタイムのソリューションに落とし込めれば、「あのカットを別のアングルで見たい」とか、視聴者参加型のコンテンツに二次展開、三次展開もしやすいですよね。

サンジゲン・鈴木:ただ、それだと作る方は気を使いますね。「逆側から見たら実はパンチが当たってない!」とか言われたりして(笑)。でも、そういうコンテンツも作られるようになっていくのかもという気はします。

ポリゴン・岩田:現段階でも、亜人の作り方だと一つの3Dシーンに複数のカメラを配置してスイッチする作り方をしています。そのスイッチをお客さんに委ねられる可能性はあります。ただ、それは「見せたいものを意図して見せる」という作品の良さとは別のところにある、アトラクションの要素かなとは思います。でも、「ワンソース・マルチユース」は今後の展開としてはアリなのかなと思います。

サンジゲン・鈴木:あとは、それこそVRでセル調の作品をやれたらいいな。僕はVRもすごい好きなんで、可能性を感じます。

[文・長谷川賢人 / 撮影・Re-Zi]

 
作品情報
■『ブブキ・ブランキ 星の巨人』
2016年10月1日(土)夜9:30からAT-X / TOKYO MXほかにて放送中


>>TVアニメ『ブブキ・ブランキ』公式サイト
>>TVアニメ『ブブキ・ブランキ』公式Twitter(@bbkbrnk)

■TVシリーズ『亜人』(第2クール)
2016年10月7日(金)よりMBS・TBS・BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送中


>>アニメ【亜人」公式サイト
>>アニメ『亜人』公式Twitter(@anime_ajin)

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