「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第35回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、マイペースな自由人・中野タツヤのストーリーをお届けします。普段は何を考えているかわかりづらいタツヤの過去と現在、そして心境が描かれています。

劇団アルタイル『Be With You』
【あらすじ】
ツキプロに移籍するまで、別のモデル事務所に所属していたタツヤ。自由気ままに生きるタツヤに対して、周囲の大人たちの対応は冷ややかだった。そんな彼が、なぜアル劇に加入したのか。そして現在、どんな気持ちを抱えているのか……？

【ストーリー】
「タツヤくん、聞いてる？」
　マネージャーの呆れたような声が、真っ正面からぶつかってきた。ああ、またなんか間違ったかな、とタツヤは思う。
「どうして言われたとおりにやれないかなぁ……。これからはクールキャラで売っていこうって話、したでしょ？」
　でも俺、クールでもなんでもないし。
（……って言ったら、叱られるんだろうな）
　まあ、言わないけど。
「そうやってすぐ黙るんだから。まったく……キミがそんなだと、先輩のモデルたちも困るし、事務所の評価だって……」
　そう言って、また、おっきなため息。
（考えてることを正直に言ったら、それはそれで怒るのに）
　いろんなしがらみがあって大変だなぁ。
　……芸能界って、思ったより面白くないかも。

　――変わってるね。芸能界向いてるんじゃない？
　そういうことを言うひとがときどきいて、気をよくした母が「これ、受けてみたらどう？」と持ってきたのがモデル募集の記事だった。
　ファッションセンスがあるとか、写真に撮られ慣れてるってわけではないけど。ちょっと覗いてこよう、と思ったのだ。
（みんな面白そうって言うし）
　でも、いま思えばたぶん、それが間違いだった。
（「みんな」は「俺」じゃない）
　そんなの、当たり前のことだった。

「中野くんさ。よければ、これ受けてみたら？」
　雑誌のスチール撮影が終わったあと、声をかけてきたのは顔見知りのモデルだった。確か、ツキプロのモデル部門に所属している人だ。
　名前を思い出そうとしていたら、書類を一枚、差し出された。
「……劇団アルタイル、オーディション？」
「うちの事務所がやってるプロジェクトだよ。メンバーにはモデル出身者もいる」
「芝居するの？　俺が？」
「いや、芝居畑の連中もいるけど、ヒジリは相変わらずグラビアでトップ走ってるよ。やろうと思えば、なんでもできそうな感じ。きっと中野くんには合ってるんじゃない？」
　『劇団』と冠されてはいるけれど、仕事の内容はそれだけじゃないらしい。歌に、ダンスに、トークに、ときにはお笑い芸人ばりの体当たり企画に……。
　正直、全然、想像がつかない。
（でも）
　どっちがいいだろう？　想像がつかない毎日と、つまらない理由で怒られる毎日。
　選ぶなら面白いほうを。楽しくなる可能性があるなにかを。
（今度こそ自分で決めたい）
　もう、誰のせいにもしないで済むように。
「俺、入りたい。劇団アルタイル」

「あーごめん、ストップ！」
　曲を遮って、ノブアキが声を上げる。
　今日はお互いの振り付けをチェックしようと呼びかけて集まった、自主練の日だ。
「いまんとこ、やっぱ振付師さんに新しいアレンジ入れる提案していきたい！」
「さんせー」
　タイキがすかさず手を上げる。
「ここ、間奏長いし、もうちょっと見せ場作ってもいいと思う！」
「尺は充分足りそうだし、トライしてみてもいいかもしれないね」
　ダイスケの言葉に、ジュンペイも頷く。
「できることはアピールしていきたいね。採用されるかどうかはわからないけど……」
「ジュンペー。弱気漏れてるぞーしまえー」
　ショウゾウのハッパに軽く笑いが沸いた。
「ごめん、つい」
「石橋叩いて、叩き壊すやつ、ジュンペイの悪い癖なー」
「前回のお披露目公演は、合わせるだけでいっぱいいっぱいだったけどさ」ノブアキが皆を見回して、続ける。「いまならみんな、もうちょいいけるって！」
「そういえば、最近あまり息が上がらなくなった。体力がついてきたのかもしれない」
「なにその他人事っぽい言い方。カズキ、鈍すぎー」

　それぞれが言いたいことを言い合って、ともすれば欠点さえ茶化すけど、居心地がいい。
（なんでかな。変なの）
　トレーニングはしんどいし、うまくできないこともたくさんある。なのに、なにをやっていても楽しい。
（すごく変だ）
　変だけど、すごく楽しい。
「タツヤは？」
　ダイスケがこっちを見て、聞いた。一瞬なんのことかわからなくて首を傾げると「いまの振り付け、タツヤはどうしたい？」ともう一度、丁寧に聞かれた。
（ある。やりたいこと）
　いま考えていることを正直に言ったら、みんな、どんな顔をするんだろう？
（笑ったり……文句言ったり？）
　全然わからない。でも、わかっていることもある。
（きっと楽しいし、面白くなる）
　前までは呆れられるか、怒られるか、距離をおかれていただろう。でも今、目の前にいるひとたちは、俺の言葉を否定しない。ちゃんと受け入れて、一緒に考えてくれる。
　だから、黙っていないでちゃんと言おう。
「俺は――」

今回登場した人物をご紹介！
◆中野タツヤ（CV：飯塚達哉）
独創的な思想と言動によって、周囲を惑わす超絶マイペース人間。時折、表現者としての才能を垣間見せることも。