ディズニー＆ピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』で改めて感じる“日常の幸せ” | ピート・ドクター監督＆ダナ・マレー 製作プロデューサーインタビュー

ありふれた日常の中の幸せを感じられる作品

——本作は非常に素晴らしくて、音楽から音響効果、登場人物のキャラクター描写、ビジュアルに至るまで何もかも新鮮に感じられましたが、本作を成り立たせるために1番心がけられたところ、こだわった部分はありますか？

ピート：うーん……ダナ、君はどう思う？

ダナー・マレー氏（以下、ダナー）：まずは、ストーリーですね。ストーリーは映画製作の中で1番骨が折れる部分ですが、同時に最も楽しい部分でもあります。こだわるという意味では、いつもストーリーに戻ってきます。

その他には、むろんデザインで、ソウルの世界と魂たちもこだわりました。そして音楽も、音楽のおかげで本作にとても多くのことをもたらすことが出来ました。

でも、やはり、私はストーリーだったと言いたいです。ピート、あなたはどう？

▲『ソウルフル・ワールド』ダナ・マレー製作プロデューサー

ピート：あとは、文化的な側面ですね、そこには気を使いました。これほど哲学的な映画であると、感情を揺さぶられないものになってしまうリスクがどうしてもあります。

なので、わたしたちは本作のストーリーをジョーと言う男性の物語にして、この主人公に説得力を持たせて、感情移入が出来るキャラクターにどうしてもしなければならなかったのです。

その彼をアフリカ系アメリカ人という設定にしましたので、これは自分たちにとって1つの課題となりました。自分にはアフリカ系アメリカ人として生きた経験はもちろんなく、またジャズ・ミュージシャンだったこともありませんでしたから、その点ですごくたくさん研究しました。

ダナが、そういう面でのアドバイスをしっかり与えてくれる文化団体を集めてくれたので、ジョーというキャラクターをしっかり肉付けして、出来るだけ説得力のあるキャラクターにすることが出来ました。

——これもまた大きなテーマになってしまうかもしれませんが、22番はジョーに出会うことで人生において何が大切かを知る訳ですが、人生で何が大切か知るためには、人は何をすればいいのでしょうか？　ぜひ、お二人のこれまでの人生経験を踏まえて教えてください。

ピート：人生をテーマに扱うアニメ長編映画を製作するのが1番だと思います（笑）。

ダナー：人生で何が大切かを、もっとよく知りたいと誰もが常に願って務めているのではないでしょうか？

ピート：その通りだね。

ダナー：たとえば、いまこの瞬間を、見失わずに大切に生きること、かしら。それはテクノロジーの発展を考えると、情報がいつも溢れすぎているので、とても難しいことなのかもしれませんが……。

こちらのようにこれだけロックダウンがだいぶ長くなると……もっとも世界中も、どこかの時点ですべてそうなったのかもしれないけれど……。

ピート：そうだね。

ダナー：ともあれ、私たちはみな、自分たちの人生のペースをスローダウンさせたと思います。なので、仕事を確かにしていてもスローダウンする時間を持つようになっていろいろな気付きがあり、自分を幸せにしてくれる、ありふれた日常の中の何気ない小さなことたちにもっと感謝するようになったと思います。

ピート：人生で何が大切かを、人は誰しも一生追い求めるのだと思います。専門家と言われる人たちだって、多くの場合何が起こっているのか実のところ分からないと思いますよ。

少なくとも、私たちはそうでした。そのテーマで本作を作りましたが、ストーリーを作り上げてく過程を振り返ると、まさしく人生とは何か？の答えをなんとか探そうとしていたと言えます。

でもそれは、どういう方法をとっても落ち着きのある答えには容易にならないし、まして90分の映画では、いよいよもって難しいものです。

本作において、少なくともジョーとわたしたちにとって1つの答えとなったのは、先ほどダナが語っていたようなこと、つまり、自分に与えられたものに感謝し、その真価を知るということだと思います。