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『竜とそばかすの姫』齋藤優一郎インタビュー|【アニメスタジオの今と未来・連載第3回】

【アニメスタジオの今と未来】スタジオ地図10周年企画・齋藤優一郎さんに聞く『竜とそばかすの姫』|現代を描き続けることで「変わらないもの」と「変わるもの」【連載第3回】

映画が映画になろうとしているんだ

ーー実際にお仕事されてどうでしたか?

齋藤:お仕事をしたときは、いろんな意味で大変な監督だと思いました。

『時をかける少女』では角川書店の渡邊隆史プロデューサーと一緒に苦楽を共にしたんですが、多いときには月に540回以上も、作品のこと、監督のことなどで電話し合っていましたからね(笑)。

ーー(笑)。

齋藤:でも、細田さんにはいろんな事を教えてもらったんですよ。僕は、映画は初めてだったし、社員プロデューサーだったし、企画の立ち上げは丸山さんのもとで沢山やったことはあったけれど、映画の企画から、それを作り上げて、宣伝を通して、沢山の人たちに見てもらうまでっていうトータルのプロデュースはやったこともなかったし、映画の現場も初めてというか、実は同時にもう1本の映画の現場も初めてながら持っていたんですが、それにしてもメチャクチャ経験が少ない。

当時、マッドハウスでは全体のプロデューサーは丸山さんがやっていたので、本人嫌がる言い方かもしれませんけど、簡単に言うと“丸山集権主義”だったわけです、そう僕には見えていた。統括プロデューサーなので当たり前なんですが、丸山さんがOKだったら最終的にはなんでもOKなわけです。

でもそんな丸山さんが僕をプロデューサーとして任命する際、1つだけ言ったことがあります。それは「細田くんがやりたいことを出来る限りやってあげて欲しい」ということでした。その時は、そんなことは当然と思ったのですが、実際、作家に寄り添ってそれをやり続けるというのは、映画制作の経験値の無さもあいまって、簡単なことではなかった……。

ーーそこは誰しもが通る道なのかもしれません。

齋藤:そうですね。これはいろんなところで話しているエピソードなんですが、印象的な出来事があって。『時をかける少女』で主題歌と挿入歌を手がけた奥華子さんに、EDをお願いしていたんですが、これがなかなかできなかったんです。

一番最初にあがってきたのが、挿入歌になっている「変わらないもの」なんです。奥さんのイメージとしては、主人公の真琴と未来に帰ってしまう千昭のある種の青春や、ふたりの思い出みたいなものをEDとして表現した方がいいんじゃないかって思ったみたいなんです。
対して細田さんは、今回の『竜とそばかすの姫』にも繋がっているんですが、主体的に自分の人生を選択して、バイタリティを持って、未来を切り開いていく、観客の皆さんの未来も含めた明るさや肯定感を表現したかった。

真琴は能動的に「あなたにも未来がある。私にも未来がある。もう会えないかもしれないけど、いつかまた未来で会いましょう」と千昭を能動的に未来へ帰した。そう考えると、ある種ポジティブな、未来に向かうようなEDになったほうが良いんです。

細田さんに「『変わらないもの』は素晴らしい曲だけどこれは違うんだ」と言われたとき、僕はなかなかイメージができなかったんですよね。

その後、6曲作って7曲までいったんですけど、細田さんが「違う」と言って。音楽プロデューサーからも「いい加減にしなさい」と言われましたね。

もうこのままでは公開まで間に合わないとなったときに、細田さんを朝4時くらいのコンビニに来てもらって「話があります」と言いました。「申し訳無いけどタイムリミットです。この7曲の中からEDを選んでください」と。僕はもう追い詰められて限界だと思っていました。

という話をしたら細田さんは怒るんじゃなくて、諭すように「齋藤さんね。映画も映画になろうとしているんですよ。だからあなたがここで諦めたらそこで終わりですよ」と言ったんです。「映画が映画になろうとしているんだから、そこに全力を尽くすのが監督とプロデューサーの仕事ですよ。だから諦めちゃダメですよ」って。

このままだとダビングも公開も間に合わない。でもそこで、「諦めちゃダメだ」「諦めたらそこで終わりだ」と言われて、本当にそうだ、もう一度頑張ってみよう、頑張ってもらおうとやってみた、その結果、次に出てきたのが「ガーネット」だったんです。

ーーなんと……! すさまじいお話です。

齋藤:細田さんは“映画を教えてくれた人”だと思っています。映画とは何なのか、プロデューサーとは何なのか、監督の役割とは何なのか、ということをすごく教えてもらったと思っています。

という話を細田さんに今もすると、「あのとき、齋藤さん浮ついてましたからね~」って言うんですよ(笑)。

ーー(笑)。

齋藤:「はぁ、今も浮ついてますけど。すみませんね!」みたいなね(笑)。というような関係です。

ーー(笑)。ちなみに、細田監督にインタビューさせていただいた際に、監督は当時「今さら『時をかける少女』をアニメでやるとか古い」とファンに言われたと仰っていました。しかし、蓋を開けてみたら大人気になったわけです。人気になった理由はどう分析されていますか?

齋藤:一言でいうと細田守に才能があったんでしょうね。

ーーやはりそこですか。

齋藤:そこは思いますよ。スタジオ地図は、作品主義、作家主義でやっているスタジオであり、そこで作品を作る監督は作品主義でないわけがない。やはり才能が必要です。

「その才能とは何なんだろうか?」となったときにいろんな考えがあると思いますが、それは“彼の人生から滲み出てきているもの”だと僕は思います。

例えば、『時をかける少女』を一言でどんな映画なのかと言われれば、僕は“後悔の映画”だと思うんです。

人間、後悔がない人はいないですよね。世界中の人たちが後悔を持っていて、その後悔というものをどう捉えて一歩踏み出すか。監督にとっての後悔は、『ハウルの動く城』のこともあると思います。

『ハウル』がなぜ完成させることが出来なかったのかということを総括する中で、もしかした、これまでやってきた自分の演出や自分の作り方にこだわっているだけでよかったのか? 必要だったら頭を下げてでも宮崎駿監督や高畑勲監督に教えも請うべきだったんじゃないか? 多くのスタッフと心を1つにして作品を作るために。なんで出向ではなく、東映動画を辞めて裸一貫でジブリに行かなかったんだとか、いろんな後悔が自身の中にあったんでしょう。

そのときにやりきれなかった事を『おジャ魔女どれみ』でやってみたり、それ以降も消化しようと思って色々やったんだろうけど消化しきれていなかった。

でも、『時をかける少女』は東映動画を辞めて裸一貫で挑戦して、これまで消化できなかったものを自分の人生に正面から向き合って作ることにしたんじゃないか。それは『時をかける少女』のコンセプトでもあり、作品の核になっている部分でもありました。

彼の人生から滲み出てきているものが、作品に真実味や本質を与えている。それは強くあるだろうなと思います。

ーー滲み出てきているもの、ですか。

齋藤:はい。僕の総論として、細田さんの映画は常に子供や若者が「自分は何者なのか?」というアイデンティティに悩みながらも、「自分はこういう人間なんだ」「こういう事をすべきなんだ」ということを決めて、半歩成長して未来に飛び出していくことを描いているんです。

それは『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』からずっと貫き通しています。今回の『竜とそばかすの姫』もそうじゃないですか。

こういう時代の中で、子供と若者がどう生きていくべきなのか? それに対して「そんな彼らが生きていく未来をみんなで肯定しよう」というメッセージがあるからこそ、作品の新しさがあるんですよね。

『時をかける少女』の原作が書かれた1964年という時代の未来というのは、まさに未来都市的な未来を夢見ていた時代だと思うんです。まだ冷戦の真っ最中で、いつ核戦争の瀬戸際まで行ってもおかしくなかった時代、だからこそ21世紀には、人類は戦争とか飢餓とかイデオロギー対立とか経済格差などを克服して人間の叡智によって素晴らしい世界を築いているはずだ、ということを、夢想していた時代だったとも思うんですね

だけど、そうはならなかった、おおきく時代は変わって、かつて夢見られたものがまるで信じられなくなってしまっている中、ではいま僕らの未来とはなんなんだろうということを考えた時、科学技術とかそういう別なものが僕らの未来を豊かにしてくれるんじゃなくて、まさに人間そのものが未来なんじゃないかということを、細田さんは思った。そしてそれを一番象徴しているのが、子どもや若者だと、生まれたての魂そのものが一番未来を象徴していると、考えたんです。

それが、『時をかける少女』を作る理由であり、必要性だったと思います。

若ものたちの主体性と覚悟、そしてバイタリティで大きく踏み出す成長という人生の大きな一歩と、その彼らの未来を祝福したい。まさしく、新しい時代の『時をかける少女』であったと思うし、それを描ききった才能は本当にすごいと思いましたね。

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