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『ARIA The BENEDIZIONE』佐藤順一総監督インタビュー

『ARIA The BENEDIZIONE』佐藤順一総監督インタビュー|『ARIA』はいろいろな奇跡が起こる、だから『ARIA』だったらやりたい

TVシリーズで描いたプリマ昇格試験、そのシーンの裏側が映画で明らかに

ーー『ARIA The BENEDIZIONE』の物語について、天野先生からネームをもらった時に驚いたことはありましたか?

佐藤:先程話した通り、毎回驚くんです(笑)。今回描いている藍華のプリマ昇格試験のシーンは、TVシリーズでも少し描いていたんです(『ARIA The ORIGINATION』第12話「その 蒼い海と風の中で…」)。原作漫画では描かれていなかったので、アニメで触れようかなと思い、スタンダードな試験を受けたということをOPバックでやったんですけど、天野先生から届いた物語が、昇格試験をもっと濃くした内容だったので、これはどうしようかなと思いました(笑)。

ただ、天野先生が、最後に2人が号泣するというアニメのシーンに合わせてくれていたので、そこをアニメでどう成立させるかは最初の関門でした。

ーー実際、プリマ昇格試験は見どころのひとつでしたが、どのようなこだわりがありましたか?

佐藤:音響に関してになりますが、プリマ昇格試験で藍華が晃を夜明けまで追いかけるシーンです。描く上での問題は、試験が終わる夜明けまでに2人が何を想うかだったんです。そこに回想や、それぞれの想いが入ってくるので、そこにどういう音楽を入れるかが勝負どころでした。

画はすごくアクティブに走っているんですけど、音楽は、晃と藍華の師弟関係を彩るような温かい音楽が流れているんです。ぜひ、そこで流れる音楽も聞いていただきたいですね。

ーー佐藤総監督が特に印象に残っているシーンはどこでしょうか?

佐藤:ネタバレになってしまいますが、藍華がプリマ昇格試験に合格して、「ずっと追い求めてきたのは晃さんなんです」と言ったときに、晃がクイーンにお礼を言うんですね。「あぁクイーン、この愛すべき娘を私に託してくださったことを感謝します」と。そこはすごく印象的でした。

これはシナリオにも書いていないセリフで、絵コンテを描いていたら、ふわっと晃さんがおしゃべりになったんです。その素直な気持ちが出たところが、自分としてはしっくり来て気に入っているし、印象的なシーンになっています。

ーーキャラクターが勝手に話したということですか?

佐藤:そうなんです。絵コンテを描いているときにアドリブで出てくるセリフって『ARIA』だとよくあるんですよ。『ARIA The ORIGINATION』のアリシアの引退式(第13話「その 新しいはじまりに…」)で、完全にアリシアが船から降りてゴンドラを見ているときに、グランマが「プリマ昇格おめでとう、アリシア」と言うんです。そこもふわっとグランマが出てきて。「急に良いこと言うなぁ」って思いながら絵コンテを描いていたんです(笑)。それに近い感覚でした。

ーー今回は姫屋がメインのお話で、とても心に響くシーンが多かったような気がします。改めて藍華の魅力を教えてください。

佐藤:藍華ってすごくニュートラルで、視聴者にいちばん近い存在だと思っているんです。天野先生からよく言われるのは、オレンジぷらねっとは天才たちの会社で、ARIAカンパニーもある種天才なんだけど、幸せの達人たちという感じで、藍華たちが頑張っても手に入れられないものを持っていることは間違いないんですね。

だから藍華や晃は、折に触れて「私たちは何を持っていない。持たされていない」と言うんです。とは言っても才能はあると思うのですが、その「持たざる者」の描写って胸に響くところがあるんです。TVシリーズ(ARIA The NATURAL第18話「その 新しい自分に…」) でも「アリシアになりたい」と言う藍華に向かって晃は、「お前はお前のままでいいんだ」みたいなことを言っていたんですよね。そういう普通の人だからこそ響く言葉が姫屋には多いし、ニュートラルな子だから恋愛もちゃんと描けるんだろうなと思いました。だから我々の感覚に近い、視聴者の目線で描かれた子だなと思います。

ーー監督自身も、藍華に重なる思いはあるのでしょうか?

佐藤:ありますね。僕も凡人の仲間に入っていると思うんですけど、世の中には庵野秀明さんみたいな天才たちがいるんですよ(笑)。それを見て「ああはなれないな」と思うので、やっぱり凡人だからこそわかる世界ってあるよねって思うし、それが藍華の物語では語られるので、印象に残るセリフが多いんだと思います。

ーー努力し続けた人の強さが作品には描かれていたと思うのですが、必ずしも努力し続けられる人ばかりではないし、成功しない人もいると思います。佐藤総監督もこれまで多くのスタッフを見てきて、頑張りを結果に結びつける人の特徴のようなものはあるのでしょうか?

佐藤:う~ん、いろいろなタイプがいると思いますけど、共通しているなと思うのは、できないことを認められる人ですかね。自分はこれができないと認められる人は伸びますよね。だからたぶん努力もするんです。自分の足りないところに気づけない人は、できない理由を外に求めたりする。そういう人は、これまでの経験だと伸びてくることはないですね。

ーー作品にもありましたが、憧れるパワーみたいなものも大事ですか?

佐藤:それは結構大事だと思います。自分の場合「あの人に憧れて」とかはないんですけど、「誰々に憧れて、この仕事を始めました」という人は実際に多いので、やっぱり憧れることって大事なんだなと思います。それが頑張るきっかけになればいいので。

ーー作品のお話に戻りますと、今作では姫屋のクイーン(総支配人)であり藍華の母、愛麗・S・グランチェスタを平松晶子さんが、伝説的ウンディーネの明日香・R・バッジオを島本須美さんが演じています。お二人のお芝居はいかがでしたか?

佐藤:2人共オーディションではなく、僕のほうからオファーしました。平松さんは『ケロロ軍曹』で、斎藤千和さんが演じている夏美のお母さん役をやっていて、そのときの親子感がうまくいったと思っていたんですね。平松さんは、とても柔らかいお芝居をされる印象だったのですが、天野先生が描いた藍華のお母さんは毅然としていて厳しい人に見えたので、その柔らかい感じで、毅然とした演技をしてもらったらちょうどいいのかなと思いキャスティングしました。

でも実際、平松さんに「毅然とやってください」と言ったところ、無理して厳しくやっている人に聞こえてしまい、何度やっても上手くいかなかったんです。なので「普通にやってください」とお願いしたら今の演技になって、これは自分が間違えていたなと思いました(笑)。何度かやってもらった挙げ句、自然にやってもらうことになってしまったっていう。でも、キャスティングは狙った通りでした。

グランマ役の松尾佳子さんもそうですが、明日香というキャラクターがレジェンドなので、キャストもレジェンドな方にやっていただきたいと思って、島本さんにお願いしました。明日香さんは厳しい人というイメージがあったんですけど、やってみたらグランマくらいマイルドで優しくて、後輩や若者たちを見る目線をちゃんと持っているキャラクターになって、これはこれでいい感じだなと思いました。島本さんも自然にやってもらって、この形になったので、僕がつべこべ言わなくても、収まるところに収まるんだなと思いました(笑)。

ーー役者のお芝居の素晴らしさ以外に絵のお芝居も本当に素晴らしかったと思います。キャラクターデザインと総作画監督を前作から引き続き、伊東葉子さんが務めています。

佐藤:デザインに関して、こうしてくださいとお願いすることもなく、伊東さんが描きたいものを描いてくださいとお願いしているんです。最初に伊東さんのデザインを見たのは『あまんちゅ!』で、そのときから天野先生の作品が好きだとおっしゃっていたので、天野先生のテイストをちゃんと生かしたデザインにはなっているのですが、だんだんと密度が濃くなってきているんですよね(笑)。

『あまんちゅ!』はTVシリーズなので、密度を上げすぎると現場が追いつかないこともわかっているので、まだ控えめだったんです。でも『ARIA The BENEDIZIONE』では、相当リミッターが外れている感じがして(笑)。デザインだけではなく、自分で原画を描かれてもいます。最終章で総決算ということもありますが、半端じゃない気合いの入り方をしているなと思っていました。

ーーうつむいたときのまつ毛が本当にきれいで、素敵だなと思いました。

佐藤:そうなんですよね。あそこは結構こだわっているところで、天野先生のテイストをそのまま生かしていると思うんですけど、たぶん手間はかかるんですよ。あれをちゃんと美しく描くのは修正を入れないとダメなんだろうけど、しっかりとやってくれていましたね。だからより伊東さん色の強い、こだわりの画面になっていると思います。

ーーカンパニーごとの特徴の話も少しありましたが、絵的にも姫屋は目が鋭いのかなと思いました。

佐藤:カンパニーごとに作画処理を変えたりすることはないんですけど、確かに姫屋というと血の気の多い感じにはなりますよね(笑)。

ーー島本須美さんが演じた明日香さんも、声は優しかったですが、目は少し鋭さがあるんですよね。

佐藤:そうなんですよ。デザインだけ見ると、キツイことを言いそうな感じがするけど、しゃべると優しい(笑)。明日香さんの名前は『月刊ウンディーネ』に出てきていたけど、絵はなかったので、天野先生からデザイン原案をいただいていて、そこから伊東さんにデザインを起こしてもらっているんです。

ーー写真ではあんなにカッコいい若き日の明日香さんが、実際に出てくると小さくなっているところが面白かったです。これはキャストの方々も面白がっていましたが、頭身が変わる理由はあるのですか?

佐藤:天野先生は、高橋留美子先生の「るーみっくわーるど」ルールですと言っていましたね(笑)。

ーーちなみに、画の演技で素晴らしいと思うシーンはありましたか?

佐藤:画作りに関しては名取監督が仕切っていたので、名取監督からのほうがいろいろ話が出てくるとは思うんですけど、天野先生から原案が来たカットや画に関しては、それを拾って生かしていく感じだったんです。その中で言うと、天野先生が描いた、月をバックにしたカッコいい晃さんは好きですね。原案を伊東さんがブラッシュアップして、色が付き撮影処理が入って音楽が流れると、カッコ良さがさらに増すなと思いました。

あとは藍華がプリマに昇格して、晃と藍華が滂沱の涙で号泣したあと、泣きすぎで目が3になっている2人のシーンがあるんですけど、あそこも結構好きです。このシーンも原案にあったと思います(笑)。

ーーある意味、それも高橋留美子さんっぽいですよね。『めぞん一刻』の惣一郎さんみたいな。

佐藤:そこかもしれない(笑)。

ーー個人的には、後ろから藍華のほっぺたを触っている晃のシーンなどは、すごくいい画だなと思っていました。

佐藤:そこは相当気合いが入っていますし、全カット見応え充分だと思います。

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