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劇場版『G-レコ』第4部&第5部公開記念! 富野由悠季総監督インタビュー

劇場版『Gのレコンギスタ』第4部&第5部公開記念! 富野由悠季総監督インタビュー|「いつまでも『ガンダム』なんか見ているんじゃない」 『G-レコ』を通して未来の子供たちに伝えたい事とは

 

アイディア次第で物語は無限に広がる

――そろそろ劇場版『G-レコ』についても伺わせてください。TVシリーズからの変更点が目立った印象ですが、その変更の意図を教えていただけますか?

富野:今も(このインタビュー時点で)第4部と第5部の制作で大騒ぎなので、覚えていません。ですが一度作品を見返した時に、良くない部分があるなら直したくなるものでしょう。おかしいと思った時点でもう動き出します。

それでサンライズから劇場版の許可が出た頃には、もう一部のシナリオや絵コンテは完成させていました。一度作った作品を改変するとか、手を入れるというのはそういうこと。細かいことを覚えている必要はありません。

覚えている作家も当然いるでしょうが、その場合は、次を作らずに同じものを磨き続けることをしてしまいます。それは工芸品を作ることなんです。売り物を作っているのでは、芸術家とは言えません。だから、僕レベルの人間は芸術家ではないんです。

なぜ一般の方に創作力がないのかは明白で、知らない物を作る基礎がないからです。今NHKで放送されている大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は三谷幸喜氏が脚本ですが、あの構成で物語を視聴者に理解させている。この組み立ては全くもって新しいことです。


 
みなさんからしたら源義経はこうではないと思うかもしれませんが、僕は気に入っています。子供向けの小説では義経は美男子で、紆余曲折あった末に、兄の頼朝と対立し殺される。けれどその説明がひとつもなかった。
 
作中であれだけ戦争が好きだと明らかにしてしまえば、「手に負えないかもしれない」「こいつを好きにさせたら頼朝も義経に殺されるかもしれない」と視聴者に印象付けられるのです。そうやって多くの人が持っている義経の印象をひっくり返しました。
 
新しいものを作ることは、存在しない物を作り出すことではないんです。多くの人が知っている知識の中からでも、また違ったものを視聴者に見せられるものです。


 
『G-レコ』でもTVシリーズが存在した上で、より綺麗にまとめるにはどうするかは考えました。ですがコンテを見ても、どこをどう変えたのかわかりません。何故なら全部書き直しているので、前との比較ができないからです。
 
ひとつだけ言えるとするなら、劇を作っているのだからそれくらいのことはする。そうでないと誰も見てくれないのだから。それだけのことです。


 

――劇場版ではモビルスーツの戦闘シーンがさらにパワーアップしている部分がありました。

富野:おもちゃ屋が売り出したい商品があって、それを何とか成立させるためにギミックを考える必要があります。けれどこれだけ儲けたいロボット物をやっていると、新兵器なんてものは作りようがなくなります。『G-レコ』で言うと、登場する新兵器は全部嘘八百のでっちあげです。おもちゃとしての再現もできないのです。バンダイが困っている事も理解しています。

企画をスタートさせた時に安田朗氏がG-セルフの性能表を書いてきましたが、今回の劇場版ではその全てを作中で使っています。本当なら使いようがない設定だけれど、富野というロボット馬鹿がやると何となくでも使ったようには見える。けれどスピード感で細かい部分を乗り切ってしまったので、ちゃんと使えていたのかは疑問が残っていますね。

特に第5部はひどいもので、見ている人が喜んでくれているならそれでいい、プラモデル化を考えなくていいというところまできました。特に光物なんてプラモデルでは絶対にできないのですが、実物ではなくアニメを作っているのだから文句は言わせません。


 

――『G-レコ』ではおもちゃ化を考えなくて良くなったのですね。

富野:良くはありませんよ。

ただ、最近の子供向けおもちゃを見ていると平気で同じ商品を繰り返し作っていて、それで気が済んでいるんです。おもちゃ屋も、もうロボットにリアリズムを追及して性能を求めることをしていません。

そんな状況でどう儲けを作るか考えても、ロボットものが衰退するのは当然のことなので、どう思われますか? と問われても時代とはそういうものと、返すしかない。だから生き延びるためにどうしたらいいのかとか聞いてみたり、いつまでも『ガンダム』を見てたりしていたらダメなんです。

ですが、バンダイナムコフィルムワークスにいると、『ガンダム』を忘れてしまえ、飽きたならやめろなんて言うと怒られてしまいますね。


 

――監督は常に新しいものにチャレンジしたいのですね。

富野:そりゃそうですよ。新しい物を作る方が楽しいですから。けれど、こんなに過酷なことはないとも思います。この10年かそこらでかなりの数のデジタル制作の作品が出回って、もう地獄です。

視聴者の飽きを待つにしても限度があります。にも関わらず色々な作品でパート2をやっていて、あまつさえすべてのヒーローを集結させるなどと言う、一度やったら取り返しがつかないネタで作品を制作するスタジオも出てきてしまいました。

――そこで負の連鎖が起きてしまっているとおっしゃる?

富野:その言い方は嘘です。何故なら言っていて痛みを感じていないのだから、負の連鎖だとは思っていないのでしょう? そんな状況を良しとしてはいけないので、僕はそういう言い方は一切しません。

だから僕は本気で『ガンダム』を全否定したいけれど、そのことをガンダム関連の関係者は誰一人として理解しようとしませんね。それを面倒臭がっているようでは、これから50年は生き延びられません。

 
おそらく僕は来年か再来年あたりに死ぬのだろうけれど、それでも後50年とか100年ぐらいは生きたいと思っています。この歳になってもそういう事を平気で言っています。『G-レコ』という作品が評価されることも、後30年から50年後だと思っています。むしろそれまで絶対に理解されないという確信があります。

だけど作品を作るということは、自分が死んだ後の世界に遺せるものがあるという証左です。だから常に新しいものを出す。歴史を変えるというと大きなことを言っているように聞こえるでしょうが、その覚悟を持って制作に臨んできました。『G-レコ』ではそこに手が届いたような感覚もあります。きっとそのくらいの覚悟を持って臨めば、登れるものもあるはずです。

 

――その歴史を変えるような感覚に手が届いたのはいつ頃だったのですか?

富野:企画が始まったその時からです。その確信がなければ10年も続けられませんよ。途中で何かに気が付いてしまうと、付け足しがかさぶたの様に剥がれ落ちます。

(C)創通・サンライズ
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