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『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー【ネタバレ注意】

ワンピース映画最新作『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー|「今はルフィの目線で見ている人たちが10年、20年経ってもう一度見た時に、今度はシャンクスの目線で見ることができる」【ネタバレ注意】

作品に関わった人全員のベクトルが一致したことで決まったシャンクスの出演

――今作では親子の絆というものがテーマの1つになっているかと思います。監督が本作から感じた親子観や親子の絆についてお聞かせください。

谷口:ただ単にウタをルフィの幼なじみにすると、エースやサボと被ってしまいます。短い尺の中で、明確にルフィと繋がりがあると示すとなると、「シャンクスの娘」というのが一番ワードとしては強いと考えました。

とはいえ、『ONE PIECE』の中で起きている歴史の時間軸を変えるつもりもないので、そこは尾田さんとも「この時間軸でどうだろう?」とお話しし、尾田さんがもともと考えていた設定も取り入れて使うことになりました。

――監督ご自身が、「シャンクスの娘にしよう」とお話しされたのでしょうか。

谷口:プロデューサーから「わかりやすいキャッチコピーがほしい」と言われたという理由もあります。

私たち現場のスタッフ側からの要望でもあり、プロデューサー側からの要望でもあり、原作者側からの「シャンクスも出しちゃおう!」というのもあるしで、言ってしまえば、関わった人全員のベクトルが結果的に一致した形と言えますね(笑)。

親子関係の話でいうと、本作はいびつな親子関係を描いています。シャンクスからすると、ウタという女の子は昔別れた時のままで止まっているんですよ。その子が大きくなっているかもしれないな、とは考えているかもしれない。でも、その人の精神性がどうなっているかまでは想像ができないと思います。

実際にウタと会ってみて、彼女は彼女なりに考えて行動しているので、最後のは彼女を認めて送り出すという構造にしています。

今回の作品で登場する親は、ほとんど無力なんですよ。途中、ウソップが父親について、ゴードンに「うちも親父に育てられていない」と言うんです。今回の主要メンバーは、どの人も生物学上、もしくは保護者としての親的な存在はいるんですが、ずっと守られていたり、何かを託されたりというのはあまりないんです。

結局、彼らは人生を自分自身で選んできているんです。そういった構造の中で、それでも親という情や絆とかはあるけれど、それはたぶんもしかしたら、その人の一方的な情かもしれないし、それによって何が救われるのかというと、たぶん何も救われないのかもしれない。

実は私の作品というのは親がほとんど出てこないんです。出てきてもどこか邪魔だったり、敵だったりします。今まで「親子仲良く」というのができていなかったんですよ(笑)。なので、たぶんそこも反映されてしまっていると思います。

――ウソップ親子の登場シーンについてお聞かせください。

谷口:あそこはコンテを切っていて、どうしてもゴードンを少し認めてあげたくなっちゃったんですよ。あまりにもかわいそうになっちゃって、「ゴードンは何も悪くないよね」と……。そうすると、それに対して理解してくれる人が1人か2人はいてほしいなと思ったんです。

そこで、ウソップが話しかけて、サンジが最終的に認める一言を入れました。あそこで声を掛けるとしたら、親父に放っておかれて育ったウソップとサンジしかいないんです。あれは結果的に、ゴードンというキャラクターの救いが欲しくなって入れてしまったところですね。

今だからこそ話せる映画秘話

――作中のOPナレーションで大航海時代の説明があります。強い者は自由を獲得できて、楽しい時代ですが、今作では弱い者のことも「弱き者は何にすがれば救われるだろう」と説明しています。また、ウタも「新時代では天竜人とか奴隷もみんな同じ仲間」だと言っています。監督の他の作品でも強者と弱者という立場が登場しますが、その辺りは今作でも監督の意向としては意識していることなんでしょうか。

谷口:(しばらく考えて)あるんでしょうね。

例えば、前作劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』のような、次から次へといろいろな海賊が出てきて、明るく、楽しく、お祭りムードのような作り方にすることも、可能と言えば可能だったと思います。ですが、今回の作品に入る時に、海外での『ONE PIECE』の捉え方を教えていただいた中で納得したことがありました。

それは、欧米、特にヨーロッパにおいては「海賊は悪だ」ということです。「その要素は抜きにしてはいけないのだろうな」と思いました。海賊は、ある人から見れば悪だし、荒くれ者だし、法の外にいる存在なんです。結果的に、そういった要素をより押す形で出てきてしまったんだろうと思いますね。

――今作はそういった海外の声も意識しながら制作されていったのですね。

谷口:「海外でも公開したい」ということでしたから、海外の人たちが見た時に、「この作品において、海賊というものを褒め称えるべき存在として描いているのか、必要悪的なものとして描いているのか」という作品のある種の哲学、思想を表す部分はしっかり伝えておかないといけないと思いました。

そこで、あのナレーションを冒頭に持ってきたんです。TVアニメではもっと明るく盛り上げる形ですが、今回のナレーションは、役者さんとも話をして、ニュートラルから始まって、次第にシリアスな方向に、という演出にしました。

――ナレーションの大場真人さんに指導をされたんですね。

谷口:というより、こちらの意図を先に察知しておられた、という感じですね。現場では、先に大場さんの方からも「ちょっといつものTVと変えた方がいいんだよね」と言われましたから。

――確かに、日本では海賊というものにあまりなじみがないですよね。

谷口:そうなんですよ。日本で海賊というと、とある宇宙海賊とか、良い人のイメージになりかねないんですよね(笑)。歴史的にいっても、戦国時代の村上海賊(※1)とか良く扱われることもあったりするので、どこか許してしまう部分があります。なので、日本国内だけの公開だったら、たぶん違う見せ方になったと思います。

※1村上海賊:室町時代から戦国時代にかけて、芸予諸島を中心に活動した海賊(水軍)。

――作品の中で多くを語らない、全てを見せないという演出が際立っていると感じました。特にシャンクスの笑う口元の表情だけを写したり、後ろ姿で終わる場面などが印象に残りました。もちろん『ONE PIECE』の作風ということでもあるかと思いますが、監督の意向でもあったんでしょうか?

谷口:2つありますね。1つはシャンクスという役柄は表現が難しく、下手に強い表情は作りづらいんですよ。最後まで尾田さんと相談しながら制作しました。

もう1つは下手にセリフで言ってしまうと、陳腐になるんですよね。シャンクスのシーンは、見ている人の人生で受け止め方が変わるものなんですよね。今作がシャンクスだけのお話だったら、(このやり方は)危ないからやらなかったかもしれないんですが、幸い、ルフィの方でも描けたので、このやり方にしました。

ルフィの方も入れたので、映画全体としてはたぶんそれで分かるだろうと思っています。もし、シャンクスのところで分からないところがあったとしても、「そこはいずれ分かるかもしれない」ということで胸に置いておいてほしいですね。

尾田さんの描き方とは違うかもしれないですが、そこはマンガとアニメ映画の表現の違いとでも言うんですかね。マンガの場合は1ページ、もしくは1コマにかける時間は読者の自由です。アニメの場合は、映像の前後の流れや時間は表現者のものです。「私たちは言葉で語り切れないから、映像にするんだよね」という思いがありますし、「だから、ここは映像だけでいいじゃない」とも思うわけです。

(アニメの世界でも)セリフでできるだけ語る、補足するというスタイルを取る方もいらっしゃいますし、テレビなら私もその手法は使います。が、それが効果的になっている時もあるし、そうではない時もあります。であれば、今回はその必要はないのではないかと思っていて、ある程度、お客さんが見ていくうちに分かればいいんじゃないのかなと捉えています。

――作中に登場する緊張と緩和のシーンが印象的でした。大切な話をしているところで、「ベポのライブグッズが鳴る」、「ブルック恒例のパンツ見せてください」、「フランキーのオナラ技」など、シリアスなシーンで笑いを入れるというのは監督のアイディアでしょうか。

谷口:それは私、黒岩さん、演出さんのアイデアですね。それを許容してくれるのが『ONE PIECE』の良いところなんだと思います。あとは緊張度を上げ過ぎてしまうと、見ていて辛くなるだろうというのもあって、その緊張を崩したいという気持ちもあります。

ベポに関しては小さくなってしまうので、再登場の時にお客さんにベポだと覚えていてもらうための記号をいくつか付けておく必要があったんですよ。なので、ベポのライブグッズはお客さんに記憶してもらうための映像的な技術という意味合いもありますね。

――他にも小さくなってしまうキャラクターがいますが、それも記号という意味を持っているんでしょうか?

谷口:そうですね。まず、この作品はマスコットキャラクターがいないと、成立しないというのが自分の中にありました。それはなぜかというと、作品の背負っているテーマに重いものがけっこうあるので、それを軽くするためにマスコットキャラクターが必要だと思っていて、脚本段階からお願いしていました。もう一つはマスコットキャラを出すことで能力などの表現がしやすくなる、という意味もあります。

ただ、これは映像上の理屈なので、理解してもらうのには時間がかかりました。最後はもう「サニーくん、出したいんすよ!」みたいなよく分からない言い方になってしまったんですが、ちゃんとこれには理由があったんです(笑)。

テーマが重くなってしまうからこそ、逆に画面の中に軽い要素を入れることで、お客さんがその先も見られるように、持続できるようにするための装置が必要になってくるんですよね。ちょうどベポが、ちょっとトラファルガー・ローの動きを邪魔しそうだったので、彼に小さくなってもらうことにしました(笑)。

――ブルーノを小さくするという設定はどのような着想から来たんですか。

谷口:いやぁ……ブルーノは単純におっさん度合いを下げたかったんですよ。画面に出てくるおっさんがけっこうな数いるので……(笑)。あとは「彼が小さく、かわいくなったら、楽しいよね」という気持ちもありました。

谷口監督が感じる『ONE PIECE』の魅力

――長く多くの人々から愛される『ONE PIECE』という作品ですが、監督から見た作品の魅力を教えてください。

谷口:各キャラクターが主人公のために生きているわけじゃないというところに魅力を感じます。ルフィもしくは麦わらの一味を引き立たせるために存在しているわけではなく、彼らには彼らの過去があり、やりたいことがあり、哲学があり、信念があり、という部分ですね。

だからこそ、読者一人一人にお気に入りのキャラクターができるだろうし、それによって物語に入って行きやすくなるんだと思います。極論ですが、ルフィの考えは理解できないという人がいたとしても、ゾロとかナミを頼りに読んでいけるということです。「シャンクスはよく分からんけど、ベン・ベックマンは分かるぞ!」という人もいると思います(笑)。

あるキャラクターがもしも理解できなかったとしても、読んでいくための別の手がかりがある、というのは群像劇の基本中の基本だと思うんです。歴史を見ても『三国志』、『項羽と劉邦』、フィクションでも『水滸伝』、『十五少年漂流記』や『銀河英雄伝説』など、群像劇というのは、基本的にそれぞれがお気に入り、推しキャラを見つけられることが大事なんだと思います。

――最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。

谷口:『ONE PIECE FILM RED』は、笑いやアクションや感動といった要素を詰め込めるだけ詰め込んで、なおかつ映画館で一番楽しめる状態で音響効果も想定して組んであります。ぜひとも映画館で見て楽しんでいただいて、自分の好きなところを選んでいただけると、楽しいと思います。

そして、二度目を見たら二度目の発見、三度目を見たら三度目の発見があるように作っているつもりですので、もしも気に入られたら何度も劇場に足を運んでいただけると嬉しいです。

――ありがとうございました!

[文・宋 莉淑(ソン・リスク)]

『ONE PIECE FILM RED』作品情報

2022年8月6日(土)全国ロードショー!!

ストーリー

世界で最も愛されている歌手、ウタ。素性を隠したまま発信するその歌声は”別次元”と評されていた。

そんな彼女が初めて公の前に姿を現すライブが開催される。

色めき立つ海賊たち、目を光らせる海軍、そして何も知らずにただ彼女の歌声を楽しみにき たルフィ率いる麦わらの一味、ありとあらゆるウタファンが会場を埋め尽くす中、今まさに全世界待望の歌声が響き渡ろうとしていた。

物語は、彼女が” シャンクスの娘”という衝撃の事実から動き出すー。

「世界を歌で幸せにしたい」とただ願い、ステージに立つウタ。ウタの過去を知る謎の人物・ゴード ン、そして垣間見えるシャンクスの影。

音楽の島・エレジアで再会したルフィとウタの出会いは 12 年前のフーシャ村へと遡る。

スタッフ

原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)
監督:谷口悟朗
脚本:黒岩勉
音楽:中田ヤスタカ
キャラクターデザイン・総作画監督:佐藤雅将
美術監督・美術設定:加藤浩
色彩設計:横山さよ子
CGディレクター:川崎健太郎
撮影監督:江間常高
製作担当:吉田智哉

主題歌:「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」Ado(ユニバーサル ミュージック)
劇中歌 楽曲提供:中田ヤスタカ Mrs. GREEN APPLE Vaundy FAKE TYPE. 澤野弘之 折坂悠太 秦 基博

キャスト

田中真弓
中井和哉
岡村明美
山口勝平
平田広明
大谷育江
山口由里子
矢尾一樹
チョー
宝亀克寿
名塚佳織
Ado
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