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『劇場版 PSYCHO-PASS』冲方丁&深見真 脚本家対談

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』冲方丁さんと深見真さんが語る常守朱と狡噛慎也「朱は特殊な考え方を持たない、狡噛は『俺ルール』が強い」

 

朱と狡噛は恋愛になっていくような空気感ではない

――本作は朱と狡噛が物語に大きく関わってきます。ふたりの関係について、冲方さん・深見さんはどのように感じていますか?

深見:劇場版で朱と狡噛のラブストーリーを描くみたいな流れも考えられるとは思うんですよ。でも、あのふたりの関係ってそこまではいかない、要するに恋愛になっていくような空気感ではないんですよね。

どちらかと言えば仲間であり、同じ相手と戦っている戦友でもあるみたいな。脚本を作るうえでも、ふたりの関係性や距離感は常に意識していました。

 

 
冲方:恋愛にしてしまうと、お互いの性格の違いがそれぞれの事件と同じくらいのウェイトになってきてしまう気がしますし、「PSYCHO-PASS サイコパス」の空気が変わってしまうと思うんです。

「あの事件が起きたけどそれはさておき、なんであなたはそんなに無愛想なの?」みたいな展開を入れるのは、ちょっとあのふたりっぽくないなと思って。

そういう意味では、あの距離感が絶妙だと思うんですよ。朱はジェンダー的な意味合いでの理想の立ち位置ということも含めて。

――今回のインタビューに合わせて過去シリーズを見直したのですが、朱って最初から主義・主張が変わっていないなと改めて感じました。「シビュラシステム下においても、法の秩序が大切」と当初から言っています。そこも朱というキャラクターの魅力なのかなと個人的には思いました。

冲方:非常に素朴ですよね。特殊な考え方を持たず、当たり前のことを当たり前に発言する勇気を失わない。ある種、全く空気を読まない存在ではあるのですが、その点は狡噛と似ているかもしれません。

朱は本能的にシビュラみたいな存在は必要だけれども、全委託するのは危険だと分かっているんですよね。システムだろうが人間だろうが、全委託すると直ちに独裁者が生まれるわけですから。

深見:ですね。

冲方:朱は「シビュラは社会に必要だけれど、そのストッパーは必ず用意しなければいけない」という、非常に健全な発想の持ち主です。彼女は「シビュラは薄気味悪いし、倫理的に許せないから破壊する」という考え方ではないんですよ。

深見:倫理観から外れたことをやったとしても得したもん勝ちだよね、という空気を朱は許しません。彼女のように正しい倫理観を持っている存在を正面から描くことは、今の時代だからこそ大事なんだろうなと思っています。

 

 

―― 一方の狡噛は、法では裁けない悪があるという考えのもと、公安局刑事課を離れます。狡噛は朱とは対極的に、シリーズを通して考え方などが変化している気がします。

冲方:これは「PSYCHO-PASS サイコパス」の登場キャラクターすべてに言えることですが、自分の存在で精一杯だったところから、段々と他人にも自分の力を分け与えるようになっていきましたよね。

狡噛は本作で独善的な正義からしっかり卒業しました。トラウマも克服しましたね。もし未だに「槙島(聖護)」って言ってしまうならば、彼は前に進めていません。それだと朱にすごく置いていかれちゃう。

深見:狡噛って、最終的に追い詰められたら暴力に訴えるという考え方ではあるんです。法律もシステムも役に立たないと分かったから、自分の判断で槙島を撃ちました。

ある種危険な思考ではありますが、その考え方に視聴者のみなさんが全く共感できないほどぶっ飛んではいなくて。決して暴力至上主義ではないんです。狡噛も悪いことだと分かってやっているんですよね。

そういう意味では、正しい意味での確信犯と言うか。その暴力に頼っちゃう短絡的なところが、朱はすごく嫌なんでしょうけどね。

冲方:正義に抵触しない限りは手を出さないですからね。

深見:ですね。その正義は本人のなかのルール。朱は一般の人にも通じやすい倫理観を持っていますが、狡噛はそこに「俺ルール」が加わっちゃうんですよ。そんな狡噛をシビュラシステムは許しませんが、彼の便利さにも気が付いているんです。

――なるほど。

 

 
深見:シビュラシステムにとって狡噛は、使い方さえ間違えなければ最高のパフォーマンスを上げる駒なんです。

冲方:狡噛って、この世界でまだシビュラシステムの正体を知らなくて。知らないまま己の正義を失わずに上手く秩序のなかで生き延びている。なかなか稀有な存在です。

深見:彼は海外に行って傭兵の真似事をしながらも、虐殺や戦争犯罪を憎むという真っ当な心は持っていますから。

冲方:あと狡噛って、組織から逸脱して解決する力を発揮できちゃう人なんです。それを上手く使っている組織が外務省なんですよね。ただ、狡噛自身も上官が自分を利用しようとしていることを分かっています。

深見:そう。分かったうえで、彼はぜんぶやるんです。

冲方:危機的状況下に一人で行けって言われても、躊躇せずに行っちゃうのが狡噛。でもこれは、ちょっと自罰的な行為でもあるのかもしれないですね。自分は何かを犠牲にしなくちゃいけない、みたいな。でもその考え方も過剰じゃないんです。

ヤバいと思ったら撤退するのが狡噛らしいなと思います。掘り下げると非常に面白い人物ですよね。

 

 

「PSYCHO-PASS サイコパス」はあり得るかもしれないディストピアを描いている

――狡噛は一匹狼のように見えて、実は組織にとっては歯車として非常に優秀な存在なのかもしれません。

冲方:一匹狼に見えても常に群れの一角を成す、下手をすると群れを率いちゃうところがあります。宜野座(伸元)も彼についていきますから。

深見:狡噛って、不思議と一線は外さないであろうという安心感がないですか?

冲方:ありますよね。やられたらやり返すじゃなくて、あいつの頭のなかに独自の裁判官がいるような気がします。

深見:やっぱり「俺ルール」が強い人なんですよ(笑)。

冲方:俺のなかに法律がある人。ただ、正義も大事ですが、それのみになってしまう危険性も狡噛は分かっているんです。そのストッパーとなる存在として、朱を認めているっていうのもあると思うんですよ。

今回登場する砺波告善(となみ つぐまさ)は、ストッパーがなくなった狡噛の成れの果てなのかもしれません。

 

 

――最後に、おふたりが感じる「PSYCHO-PASS サイコパス」の魅力・面白さは?

深見:確か「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズが始まる前の打ち合わせで、この作品は100年後の世界を描くという話があったんですよ。

ただ、100年後がどうなっているのかなんて誰にも分からないだろうから、まずは10年後、20年後を想像しながら描いていこうと当時の本広克行総監督や塩谷監督、虚淵玄さんと話し合った記憶があります。それが、すごくハマった形になった気がしますね。

SFを見たい方って、ガジェットやテクノロジーだけに興味があるんじゃなくて、新しい技術や概念が生まれたときに、人類がどう対応するのかを見たいんだと思うんです。そのSFにおける役目を「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズは何とか果たしているんじゃないかな。それが魅力だと思っています。

冲方:まさに深見さんがおっしゃっている通りだと思います。SFって、人類の生活の在り方を一変させてしまうようなテクノロジーが生まれたとき、人々はどういう行動をするのかを描くものだと思うんです。

本作は『マイノリティー・リポート』の系譜で、「犯罪を未然に防ぐことで犯罪を消滅させれば、幸せに違いない」という過程を実際にやってみたらどうなるんだということを描いている気がします。

エンタメを楽しみながら自分たちの今後の生活や社会への思いを馳せてしまう、そういったテーマ性を非常に強く打ち出している力強い作品ですね。

日本が世界から孤立すると真っ先になくなるものが「食料」と「エネルギー」ということも、ちゃんと描いているんですよ。その辺がリアルなんですよね。

現実に根差したSF、あり得るかもしれないディストピアを描いているという点で、非常に考えさせられる作品ですね。「PSYCHO-PASS サイコパス」は、自分たちのコミュニティはどうあるとよくなるのかを考えるきっかけになると思います。

 

映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』作品情報

公開日

2023年5月12日(金)全国公開

レーティング R15+

イントロダクション

人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来。あらゆる心理傾向が全て記録・管理される中、個人の魂の判定基準となったこの計測値を人々は「サイコパス(PSYCHO-PASS)」の俗称で呼び習わした。

犯罪に関する数値〈犯罪係数〉を測定する銃〈ドミネーター〉を持つ刑事たちは、罪を犯す前の〈潜在犯〉を追う。

2012年にスタートしたオリジナルTVアニメーション作品『PSYCHO-PASS サイコパス』。10周年を迎えたシリーズ最新作であり集大成となる本作は、劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__』と第三期TVシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』をつなぐエピソード。これまで〈語られなかった物語〉がつむがれる。

常守朱と狡噛慎也、慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフをつなぐミッシングリンク。変わりゆく時代の中で、人々が貫く正義とは――。

ストーリー

2118年1月。公安局統括監視官として会議に出席していた常守朱のもとへ、外国船舶で事件が起きたと一報が入った。

同じ会議に出席していた厚生省統計本部長・慎導篤志とともに現場に急行する朱だったが、なぜか捜査権は外務省海外調整局行動課に委ねられていた。

船からは、篤志が会議のゲストとして呼んだミリシア・ストロンスカヤ博士が遺体となって発見される。事件の背後には、行動課がずっと追っていた〈ピースブレイカー〉の存在があった。

博士が確立した研究…通称〈ストロンスカヤ文書〉を狙い、〈ピースブレイカー〉の起こした事件だと知った刑事課一係は、行動課との共同捜査としてチームを編成する。そこには、かつて公安局から逃亡した、狡噛慎也の姿があった――。博士が最後に通信した雑賀譲二の協力を得て、文書を手に入れるべく出島へ向かった一係だったが…。

〈ストロンスカヤ文書〉を巡り、予想を超えた大きな事件に立ち向かっていくこととなる朱と狡噛。その先には、日本政府、そしてシビュラシステムをも揺るがす、ある真実が隠されていた。ミッシングリンクをつなぐ〈語られなかった物語〉が、ついに明らかになる――。

スタッフ

監督:塩谷直義
構成:冲方 丁
脚本:深見 真、冲方 丁
キャラクター原案:天野 明
キャラクターデザイン・総作画監督:恩田尚之
色彩設計:鈴木麻希子
美術監督:草森秀一
3DCGI:GEMBA
撮影監督:荒井栄児
編集:村上義典
ベースド・ストーリー原案:虚淵 玄
音楽:菅野祐悟
音響監督:岩浪美和
アニメーション制作:Production I.G
制作:サイコパス製作委員会
配給:東宝映像事業部

主題歌:「アレキシサイミアスペア」凛として時雨(Sony Music Labels Inc.)
エンディング・テーマ:「当事者」EGOIST(SACRA MUSIC)

キャスト

常守 朱:花澤香菜
狡噛慎也:関 智一
宜野座伸元:野島健児
六合塚弥生:伊藤 静
唐之杜志恩:沢城みゆき
霜月美佳:佐倉綾音
雛河 翔:櫻井孝宏
須郷徹平:東地宏樹
花城フレデリカ:本田貴子
雑賀譲二:山路和弘
ドミネーター:日髙のり子 
慎導 灼:梶 裕貴
炯・ミハイル・イグナトフ:中村悠⼀
舞子・マイヤ・ストロンスカヤ:清水理沙
甲斐・ミハイロフ:加瀬康之
慎導篤志:菅生隆之
砺波告善:大塚明夫

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』配信情報

下記配信サービスにて配信中
・Amazon Prime Video
・DMM TV
・dアニメストア

公式サイト
公式ツイッター(@psychopass_tv)

 

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