
『僕の心のヤバイやつ』連載インタビュー第5回:遠藤一樹プロデューサー×秋田書店担当編集・髙橋圭太さん&福田裕子さんインタビュー|「市川が自分の力で頑張って山田の心を動かして、成長していく物語なんです」
花田十輝さんにすぐさまオファー
――遠藤さんにお願いすることが決まって、その後はどのように進行されていくんですか?
遠藤:その後すぐに、花田十輝さんに脚本のオファーをしました。花田さんも『僕ヤバ』をご存知だったらしく、「執筆できるか考えてみます」と言ってくださって。最終的にはお受けいただき、それもすごくうれしかったです。シンエイ動画さんとの座組も含めて、良いものができそうだなという確信は最初からありましたね。
その後、赤城監督と、花田さんとシンエイ動画の櫻井(洋介)プロデューサーと、僕、そして桜井先生や秋田書店の皆さんとで初めて顔合わせさせていただきました。
福田:作品の軽い打ち合わせかと思っていたのですが、踏み込んだ質問をたくさんしていただいて。
遠藤:質問攻めにするのも失礼だなと思ったんですが……この作品は本当に緻密なんですよね。サラッと読むと楽しいラブコメ作品なんですけど、読み返せば読み返すほど、伏線が散りばめられている。桜井先生とお話できるのも貴重な機会だと思いまして、思い切って質問させて頂きました。
福田:赤城監督からもたくさん質問をいただき、細かく読み込んでくださっているんだなという印象がありました。
――赤城監督はインタビューで「桜井先生に質問攻めをした」といったことをおっしゃっていましたね。好きなアニメまで聞いたと(笑)。
遠藤:そうです(笑)。こちらの作品に対する姿勢や、スタッフの熱量などを先生にお伝えすることができたらなと思っていました。叙情的な演出に関しては赤城監督なので心配はなかったのですが、こちらもより作品を理解して、同じ方向を向いて丁寧にアニメを作っていきたいなと。それで代わる代わるいろいろな質問をしていきました。
――遠藤さん自身はどのような質問を投げかけられたのですか?
遠藤:僕は何を言ったかな……。実はみんなで質問事項をまとめて、手元にメモを用意していたんですよ。
――インタビューに近い形だったのですね。
遠藤:そうですね。「ここはマストで聞きたい」といった意見を事前に整理して。「この時に山田は何を考えていたんだろう」「市川を意識し始めたきっかけはどこなのか」といった作品の裏側は、桜井先生のイメージをお聞きしておきたいなと。あとは「クラスって全部でどのくらいの人数ですか」とか設定に関することも。
福田:あと「桜井先生がアニメ化にあたって、望んでいることはありますか?」と聞いていただいたんです。
遠藤:最初の質問でしたよね。
福田:そしたら先生は「音楽」と。
遠藤:「間を大事にしてほしい」ともおっしゃっていましたね。
福田:それらを皆さんが丁寧に叶えてくださったんですよね。
遠藤:桜井先生のご希望や、皆さんのお話を聞いて目指すべき映像がイメージできた気がしました。花田さんのシナリオの方向性にも、ものすごく合っているなと。
――当時思い描かれた目指すべき映像というのは、どのようなものだったんでしょうか?
遠藤:「僕ヤバ」には、中学生らしい生々しさや、下ネタやギャグのコミカルさ、市川・山田の関係性の変化の尊さなどたくさん魅力がありますが、その中でもしっかりとエモーショナルな部分を際立たせる方向で良いんだなと。
改めて赤城監督と花田さんに依頼して間違いなかった、と思いました。そして、桜井先生のご希望を叶えるためにも、劇伴作家さんはしっかり選ばなきゃなと。それでその後、牛尾憲輔さんに依頼をさせていただきました。
――牛尾さんはテレビアニメのラブコメの劇伴を手がけられるのは初めてだったそうですね。牛尾さんに声を掛けられた理由についても、詳しく教えて下さい。
遠藤:アニメ映画の『聲の形』の劇伴が素晴らしいなと思っていて、あのサウンドが『僕ヤバ』にも合うんじゃないかなと思ってオファーさせていただきました。おっしゃっていた通り、牛尾さんはテレビアニメのラブコメが初めてということで、最初は「自分にできるのか」と悩まれていて。「どういうイメージの音楽ですか?」と訊かれて、赤城監督にも確認しながら、こちらの希望する方向性をお伝えして。じっくりご検討いただき、お引き受けいただきました。
――いろいろな人間ドラマが『僕ヤバ』だけでなく、舞台裏にもあったのですね。
遠藤:花田さんにしても、牛尾さんにしても、お引き受けいただけたのは「原作が素晴らしかったから」というのが非常に大きいと思います。制作現場のスタッフの方々にも原作ファンがたくさんいます。“好き”が集結した素敵なメンバーで作ることができていますね。
制作陣の熱量があるからこそ生まれるもの
――アニメイトタイムズでは関係者の方々に作品のお話を伺っていますが、皆さん全員が市川のことを自分事として捉えている印象です。
遠藤:髙橋さん、福田さん、桜井先生にも全面的にご協力いただき、良いコミュニケーションを取りながら作っていけているなと、僕としては勝手に思っております。特に作品に近いおふたりと密に連絡を取れていて、本当に頼りにさせていただいています。むしろ頼りっぱなしですね。
髙橋:いや、僕も困ったらすぐ遠藤さんに電話しちゃいます(笑)。それこそ桜井先生との打ち合わせ中にも、疑問が出たらその場で連絡しますね。
福田:全員年齢が近いというわけではないのですが、上下関係のようなものは感じなくて。フラットで、コミュニケーションが取りやすい雰囲気を作っていただいているなと感じます。
髙橋:遠藤さんも、大変なお仕事をされているのが傍から見てもわかります。メールの量とかも本当にすごいんですよ。これだけの量をこなして「死んじゃうんじゃないか?」と思うくらい。
福田:それ、書いて良いんですか(笑)。
遠藤:大丈夫ですよ(笑)。作品に関わることなので全く苦ではなくて、楽しくお仕事させていただいております。
髙橋:その姿を見ていると「僕らも頑張らなきゃな」と思います。それに仕事量だけでなく、皆さんの熱量がすごいんです。だからこそ、ここまでやってこられたと思います。シナリオの会議などでも、編集の僕らの理解度を超えた意見が皆さんから出てくるんです。SNSでの作品の考察に近いような雰囲気。時には、僕らが解釈で言い負かされちゃったりして(笑)。
福田:そっか!と気付かされることもありますよね。
遠藤:この一コマなんだろう、って考えることが出来ますし、そうしなければいけない作品です。また、花田さんのシナリオの完成度が凄いんですよ。
福田&髙橋:凄いですね。
遠藤:それもあって、本当にスムーズに進行できましたね。
髙橋:漫画で敢えてぼんやりとさせていたところが、アニメだとはっきりと表現しなくてはならない部分もありまして……そういう場面も、花田さんがしっかりと提案をしてくださるんです。そして、上がってきたものがまた素晴らしい。
福田:こちらからの要望というのは、もうほぼない状態ですよね。
遠藤:初稿の完成度が高すぎるんです。びっくりするくらいで、初稿の段階で細かい文字直しだけで終わることもあるんですよ。たくさんの素晴らしいクリエイターさんが集まっていますが、特に花田さんのシナリオの完成度には驚きました。一緒にお仕事ができて個人的にもすごくうれしいです。
――赤城監督も「花田さんの大ファンだから」っておっしゃっていましたね。遠藤さんは花田さんが手がけられた作品の中で、特に好きなものがあったのでしょうか。
遠藤:どれも好きですが、特に『響け!ユーフォニアム』と『宇宙よりも遠い場所』が好きなんです。『響け!ユーフォニアム』は小説原作で、アニメでのアレンジが見事ですし、『よりもい』はキャラの実在感が素敵で。そのエッセンスを『僕ヤバ』に取り入れられたらなと思っていました。
――桜井先生は牛尾さんの音楽を実際に聞いてみてどのようなご感想を持っていたのでしょうか。
髙橋:すごく喜んでました。牛尾さんという有名な方に担当していただけるという喜びもありましたし、実際の楽曲が、その場の雰囲気が浮かんでくるような感じで。
福田:優秀な方が自分の作品に参加してくれるというのは、原作者としてとても光栄なことだと思うんです。担当編集のひとりとしても、ありがたいことだなぁと思いました。
















































