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「雑・前田真宏」展・前田真宏インタビュー|『シンエヴァ』『マッドマックス』『巌窟王』まで

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『マッドマックス:フュリオサ』『巌窟王』までーー「雑・前田真宏」展を開催した前田真宏さんにインタビュー|自身でも感じる「こんな面白いことを描いてきたんだな」

『マッドマックス』への参加には実は……

ここからは前田さんに行ったインタビューの模様をお届け。様々な作品の裏話を楽しげに語る前田さんが印象的でした。


ーーサイン会、お疲れ様でした。久しぶりのサイン会はいかがでしたか?

前田真宏さん(以下、前田):久々にファンの方々と直接お会いできて楽しかったですね。意外な角度からお話する機会があって、面白かったです。

ーーやはり、ファンの皆さんの熱量を感じる機会になったのでは?

前田:そうですね。皆さんすごく熱心でした。平日にも関わらず、遠方からいらした方もいて、「大阪から来ました」という方もいました。大変なことですよね。時間があれば、もっといろいろ描いてあげたかったなとも思いましたけど、できる範囲で頑張りました。

ーー羨ましい……! 展示のほうもご覧になったかと思いますが、いかがでしたか?

前田:すごくいい感じになりましたね。開催の前日、初めて展示を見せてもらったんですが、想像以上の仕上がりでした。平面のプランを見ていた段階では「どうなるんだろう?」と思っていたんですが、現場の方々が頑張ってくださって、とても良いレイアウトに仕上げてくれました。

ーー具体的に、どんな点が印象に残りましたか?

前田:「透け感」ですね。アクリルを使ったトランスルーセントな展示方法をお願いしていたんですが、それがしっかり表現されていて感激しました。レイヤーの重なりによる面白さを生かせないかなと思っていたんですが、見事に実現してくれました。

僕自身、普段フォトショップを使って作業していると、レイヤーが重なったときに偶然生まれる面白さがあって、そういう感覚を展示にも取り入れられたらいいなと思っていたんです。ただ、一部「透けすぎて見えづらい」というご意見もありましたけどね(笑)。

ーー展示スペースの制約もあるかと思いますが、今回、展示できなかった作品も多かったのでは?

前田:ええ、展示できたものよりも、できなかったもののほうが圧倒的に多いですね。画集のほうも同じで、泣く泣く落とさざるを得なかった作品がたくさんあります。本当は、ストーリーやキャラクターの感情の流れも含めて、一つの塊として見せたいという思いもあるんです。でも、スペースにも限りがありますし、全部詰め込んでも一つひとつの絵が小さくなってしまう。それでは良さが伝わらないので、編集の方と相談して、「見せたいものを大きく魅せる」という方向でまとめました。

ーーなるほど。ファンとしては、いつか全てを見てみたいという気持ちがあります。

前田:そうですね。でも、今回は「イントロダクション」的な展示という位置づけなんです。サイン会に来てくださった方は僕のことをよく知ってくださっていますが、多くの方にとっては「名前は知らないけど作品は見たことがある」という状態だと思うんです。なので、まずは「こういう仕事をしてますよ」という全体像をざっくりと見せる形にしました。

次にもし機会があるなら、例えば壁一面に作品を敷き詰めるような展示も面白いかなと思っています。「壁紙みたいにバーッと貼る」とか、そういう展示ができたらいいですね。

ーー今回展示されている作品の中でも、ご自身にとって特にターニングポイントとなった作品はありますか?

前田:どの作品にも一つひとつ思い出がありますが、ターニングポイントになったものとしては『エヴァンゲリオン』、そして意外かもしれませんが『マッドマックス』シリーズですね。特に『マッドマックス:フュリオサ』は大きな経験になったと感じています。

ーー具体的にどのような点で影響を受けたのでしょうか?

前田:やはり環境ですね。自由が利かない部分もありましたが、現地のスタッフがとても優秀で、どうやって自分の考えを明確に伝えるかを常に考えなければなりませんでした。それがとても大きな経験になったと思います。

ーー海外での仕事は、日本の制作環境とは違う部分も多いですよね?

前田:そうですね。特に速度感が違います。クオリティだけでなく、レスポンスの速さが重要なんです。僕がジョージ・ミラー監督のスタジオで仕事をしていたとき、WETA(ニュージーランドのスタジオ)と協業していたんですが、WETAのデザインチームのプレゼンのスピードがものすごく速いんですよ。

例えば、ホテルに戻って夜に絵を描き、フォトショップで色をつけて翌日提出するじゃないですか。でも、その時にはすでに現場で実物が作られ始めているんです。スタッフが「こんな感じでどう?」って実物の写真を送ってくるんですよ。「うわっ、もうできてるの?」みたいな(笑)。しかも、そのアイディアがすごく面白いんですよね。だから「これは負けていられないな」と思って、昼間は打ち合わせ、夜はホテルでひたすら絵を描く、という生活でした。

ーーすごいスピード感ですね。そうした環境での仕事は、どのような影響を与えましたか?

前田:とにかく「描くしかない」という状況でしたね。英語が完璧に話せるわけではないので、伝えるためには絵を描くしかない。そういう環境にいると、もう筆が乗るかどうかなんて言っていられないんです。自分の甘えを捨てて、ひたすら描き続けるしかない。それはすごく良い経験になりました。

ーー展示会では作品の制作年代も紹介されていましたが、『マッドマックス』シリーズへの関わりは意外と早い段階からだったんですね?

前田:そうなんですよ。ジョージ・ミラー監督たちは、90年代の終わり頃から準備していたようです。『マッドマックス:フュリオサ』がまだプロット段階だったころ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のほうはすでにストーリーボードができていました。現地の方が話は全編描いていて、そこに僕が参加する形でした。僕が提案した要素が逆に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のほうにフィードバックされたりして、同じ世界観を共有する中で影響を与え合っていましたね。

ーーそうなると、制作に関わったのはかなり前のことになりますよね?

前田:そうですね。2010年か2011年くらいだったと思います。でも、途中で企画が一時ストップしたんです。アニメの企画も沙汰止みになって、僕自身も忘れかけていました。

それでもご飯は食べないといけないから、カラーさんに拾ってもらって(笑)。「仕事ください……!」ってね。そうしたらある日突然「本編が完成したよ」って連絡が来て、びっくりしました(笑)。

ーーそんなに長い期間を経て完成したんですね。

前田:そうなんですよ。しかも、日本のプレミア上映に呼んでもらって、行ってみたらクレジットに自分の名前が載っていたんです。それまで知らなかったので、「えっ、俺、クレジットされてるの!?」って(笑)。とてもありがたかったですね。

ーーすごいエピソードですね……! そうした海外の作品と、日本の作品とでは、制作の雰囲気も違うのでしょうか?

前田:全然違いますね。日本の業界は、良い面もたくさんあって、長年培われたルールやシステムがしっかりしています。ある意味“村”みたいなものですね。誰がどこにいるか、どう動けばいいかが明確で、仕事が効率的に進むんです。

日本には、漫画やアニメ、映画など独自の文化の「地層」がある。その蓄積の中で作品が作られているので、日本の作品ならではの魅力が生まれるんだと思います。

日本の業界では、ある程度の共通認識があって、ちょっとした言葉のニュアンスでも伝わることが多い。でも、海外での仕事ではそれがまったく通じないんですよ。そこで「どうやって自分の意図を伝えるか?」というのが大きな課題でしたね。

ーーその違いをどのように克服されたのですか?

前田:逆に言えば、それがすごく面白かったんですよ。スリリングというか、挑戦的というか。言葉では伝えきれない部分を、絵を使って説明するしかない。だから、まずは絵を描いて、それをベースに片言の英語で「ああだ、こうだ」と説明していく。それでも、プロットという共通言語があるので、単語やシーンの流れが分かっていれば、なんとか意思疎通はできるんです。

ーーなるほど、まさに「絵が言語になった」ということですね。

前田:そうですね。絵が言葉の代わりになっていましたね。

ーー少し話が飛ぶのですが、先ほど「カラーに拾ってもらった」とおっしゃっていましたよね。今日、展示を見ていて改めて感じたのですが、カラーの作品では前田さんの功績も大きいのではと感じました。ご自身ではどう考えていますか?

前田:いや、それはちょっと言い過ぎですね(笑)。カラーには本当に優秀なスタッフがたくさんいます。そもそも庵野秀明が社長なので、彼がやりたいことに対して「これはどう?」と提案できる人が大勢いるんですよ。僕自身は、その中の一つの選択肢にすぎません。

ただ、付き合いが長い分、「こういうことを求めているのかな?」と考えたり、逆に「こう言っているけど、こういう提案をしたら面白いかも」と考えたりすることはあります。でも、最終的にビジュアルを決めるのは監督たちですね。

ーーでは、最後にこの記事を読んで展示に興味を持たれた方々へ、メッセージをお願いします。

前田:僕自身、キャリアの時間だけは長いんですけど(笑)、あまり過去を振り返ることをしてこなかったんです。だから、今回の展示は自分にとっても意義のあるものでした。一つの場に作品をまとめて見ることで、「ああ、こんな面白いことを描いてきたんだな」と改めて発見がありましたね。

ただ、僕のことをよく知ってくださっている方には、少し物足りない部分もあるかもしれません。でも、俯瞰して見ると「こんな仕事をしてきたんだな」と知ってもらえる良い機会になったと思います。本の方も発売が迫っていますので、ぜひよろしくお願いします。会期も残りわずかですが、お近くにお越しの際はぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。

[インタビュー・文/石橋悠 撮影/小川いなり]

『雑 前田真宏 雑画集』

価格/6,000円(税込6,600円)
判型/A4変形(250mm×210mm)
P数/240P(フルカラー)
責任編集/前田真宏
監修・表紙デザイン/前田真宏
編集協力/野崎透・アニメ特撮
アーカイブ機構(ATAC)
ISBN/978-4-334-10362-0
※流通状況により一部地域では発売日が前後します。

◆『雑 前田真宏 雑画集』特設サイト

「雑・前田真宏」展

アニメーション監督・前田真宏〈株式会社カラー所属〉の初となる展覧会「雑・前田真宏」展を池袋PARCO 本館7FのPARCO FACTORY にて開催いたします。池袋会場を皮切りに、名古屋PARCO、心斎橋PARCOにて巡回予定となります。

本展は、2025年2月28日に発売予定の画集『雑 前田真宏 雑画集』〈光文社〉の刊行を記念して開催。画集に収録される彼が関わった膨大な作品より厳選した画稿を立体的に紹介する内容となっています。

会場では、本展覧会のために描き下ろされたキービジュアルを使用した会場限定カバーつき、PARCO限定 Special Edition『雑 前田真宏 雑画集』や、展覧会記念オリジナルグッズ、GEEKS RULEとのコラボ商品も販売予定です。

巡回スケジュール

<池袋>
2025年1月31日(金) - 2月17日(月)
PARCO FACTORY(池袋PARCO 本館7F)東京都豊島区南池袋1-28-2

<名古屋>
2025年5月16日(金) - 6月8日(日)
PARCO SQUARE (名古屋PARCO 南館7F)愛知県名古屋市中区栄3-29-1

<心斎橋>
2025年7月18日(金) - 8月3日(日)
PARCO GALLERY(心斎橋PARCO 14F)大阪府大阪市中央区心斎橋筋1ー8ー3

※名古屋PARCO、心斎橋PARCOでの巡回情報は、随時PARCO ARTにてお知らせいたします。

イベント期間

2025年1月31日(金) - 2月17日(月)
※最終入場は閉場の30分前
※最終日18時閉場
※営業日時が変更になる場合がございます。詳しくは池袋PARCOのHPをご確認ください。
※2025年2月12日(水)はメンテナンスのため全館休館となります。

会場

池袋PARCO 本館7F PARCO FACTORY
※都内の別PARCOとのお間違えにご注意ください。

入場料

1,200円(税込)

※未就学児無料
※株主優待を含む各種割引は対象外となります。
※未就学児及び小学生のみでのご入場は出来ません。必ず保護者の方と同伴にてご入場ください。
※池袋会場につきまして混雑を想定される場合は、PARCO ARTおよびPARCO FACTORYのX公式アカウント<@parco_factory>にて、入場方法について随時ご案内いたします。

主催:PARCO
企画:caruta + mmp
制作協力・後援:株式会社カラー、ダイアモンドヘッド株式会社

◆「雑・前田真宏」展特設サイト

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