
衝撃的な展開の続くTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」。柿本広大監督が明かす、第9話までの制作の裏側。そして気になるAve Mujicaのこれから【ロングインタビュー】
衝撃的な展開が続くTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」。本作の監督・音響監督を務めるのは、TVアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」をはじめ、『バンドリ!』シリーズを数々手掛けてきた柿本広大監督である。緻密に張り巡らされた伏線、キャラクターの繊細な心理描写、そして音楽×物語が絡み合う独自の表現──監督はどのようにしてこの世界を作り上げたのか。そして、Ave Mujicaというバンドに込めた想いとは?
物語が加速する中、第9話までの舞台裏、人物像の築き上げ方、そして三角初華 / ドロリス(CV:佐々木李子)、若葉睦 / モーティス(CV:渡瀬結月)、八幡海鈴 / ティモリス(CV:岡田夢以)、祐天寺にゃむ / アモーリス(CV:米澤茜)、豊川祥子 / オブリビオニス(CV:高尾奏音)といったキャスト陣の圧倒的な表現力ついても語ってもらった。
※以下、第9話までのネタバレを含みます。
こだわりが美しくもあり、時に捨てられない自分を苦しめることもある
──かなり衝撃的な展開が続いているTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」(以下、『Ave Mujica』)ですが……改めて柿本監督に今作の制作において大切にされていることを伺いたいと思います。
柿本広大監督(以下、柿本):もともとMyGO!!!!!とAve Mujicaは、2つのバンド、10人のドラマの企画として始まりました。その後『バンドリ!』シリーズに合流することが決まり、1クール目がTVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』(以下、『It's MyGO!!!!!』)、2クール目が『Ave Mujica』として展開する形が決まって、そこから改めて物語の構成を固めていきました。
最初にお話をいただいた時に聞いていたのは「メロコアバンド」と「メタルバンド」という2つの括りで、直感的に「対照的な存在だな」と。音楽はジャンルレスでなんでも聴くのですが、とくにパンクは好きで、そのむき出しの感情や衝動的な表現に魅力を感じていました。
一方で、メタルは優れた演奏技術や様式美のイメージがありました。この二つを対比させて描くことで、それぞれのバンドが持つ個性を際立たせていこうと考えました。
──これまでの『バンドリ!』シリーズとは、また違った物語という印象もあります。
柿本:これまでのシリーズでは、バンドメンバー同士の絆や友情を中心に描いてきました。ただ実際の世界では、長く活動を続けられるバンドの方が珍しいといいますか、以前のシリーズ作品を制作していく中で、解散したり頓挫したりするバンドの話の方がリアリティが高いなと思ったことがあって。せっかくこういうお話をいただけたので、前シリーズでは描けなかったことを描いてみたいという思いが最初にありました。
──と言いますと?
柿本:たとえば、音楽性の違いによる衝突や、実力の差が生み出す葛藤、バンド内の意見の食い違いとかって、現実のバンドシーンでもよく見られる問題じゃないですか。私自身、過去にリサーチを重ねる中で、多くのバンドがこうした理由で解散していく姿を目の当たりにしてきました。そういう姿も描いていきたいなと。
また、これまでの『バンドリ!』では、登場キャラクターの「前向きな感情」に焦点を当てて、その気持ちから曲を作ってもらってきましたが、とりわけMyGO!!!!!はメロコア・パンクですし、自分の情けないところ、カッコ悪いところといったいわば「後向きな感情」にもスポットを当てています。
成長物語というよりはなかなか歩き出せない人たちの姿を、2つのバンドを通して描くことがテーマの一つになっています。
──いろいろな理由で前進できない、リアルな姿を描くと。
柿本:はい。『バンドリ!』シリーズはこれまで、音楽や自分自身に対し、キャラクターたちがさまざまな信念や理想、迷いやこだわりを持ちながらも力強く進んでいく姿を描いてきました。でも、それがために苦しんだり、悩んだり、周囲と衝突したりして前に進めない人もいる。そうした「捨てられないもの」を抱いて迷い、立ち止まってしまう感情や姿に焦点を当てて、キャラクターや物語を描きたいと思いました。
制作陣もキャスト陣も作品を理解していることが強み
──柿本監督はパンクやメロコアがお好きだと伺いました。具体的に影響を受けたバンドなどはありますか?
柿本:パンクで最初に好きになったのはRAMONESとSEX PISTOLSですね。
──初期のパンクがお好きなんですね。
柿本:はい。一番好きなバンドは(ハードロックバンドの)THE WiLDHEARTSなんですけども(笑)。そもそも音楽が好きで、バンドの歴史を調べるのも好きです。バンドメンバーの離脱や再結成の流れを細かく追ったり、バンドの歴史を追うのが好きで、好きなバンドについてメンバーの個別の経歴まで調べて楽しむタイプです。
その視点でいうと、MyGO!!!!!とAve Mujicaが、同じバンド(CRYCHIC)から派生して、別のバンドになったことは、実際のバンドシーンでは決して珍しくないことですが、『バンドリ!』の中では前例のない展開だったため「ついにこういう話が描けるぞ」とワクワクしました。
──このタイミングで、「前例のない」展開を描けた理由についても、ぜひ伺いたいです。
柿本:今回のプロジェクトが『バンドリ!』とは別のプロジェクトから始まっているという経緯がやはり大きいですね。当初はゲーム展開も決まっていなかったため、シリーズの制約にとらわれずにストーリーを作ることができ、今までとは違うアプローチが可能になった。プロデューサーの方々がそこの枠組みからあえて外してくださったおかげでできたことです。
──アニメとゲーム、それぞれの特色を活かしながらの制作だったんですね。
柿本:『バンドリ!』と合流後、それまで作っていたものを一度止めて、『バンドリ!』用にリビルドする期間はあったんですが、ゲームサイドの方々にも「アニメチームはゲームのことは考えずに、アニメならではの表現に全振りしてください」と言っていただけたんですね。
そういった言葉をもらったことで、アニメとしてやりたいことにより集中できました。「アニメならではの表現」「アニメでしか描けないもの」にこだわる方向にどんどんエスカレートしていきました。
──ある意味、制作陣も「破壊」と「創造」を繰り返しながら作り上げていくスタイルだったと。
柿本:そうですね。もともと僕の作品の脚本開発のスタイル自体、スクラップアンドビルドが基本なんです。最初に提示する構成案はあくまでたたき台で、キャラクターを掘り下げていくうちにどんどん話が変わっていきます。最初のプロットから物語が大きく変わってしまうことは珍しくないです。
──語弊があるかもしれませんが、最初は見切り発車でスタートしていくということでしょうか……?
柿本:そうとも言えます(笑)。いくつかのランドマークとなるエピソードは決めますが、それ以外はキャラクターの行動、感情に任せます。脚本家さんにキャラクターを動かして頂くうちに、そのキャラの新たな側面がみえることがよくあって。
そこを掘り下げていくとキャラ自身やほかのキャラとの関係性もどんどん変わっていって。そうした変化が起こるたびに、以降の話数の展開の変化をシミュレーションしていって。そこからまた逆算して脚本に伏線を入れる…という作業を延々続けていく感じです。
シリーズに新しく入ってくださる脚本家さんが戸惑うこともあるんですが、途中で諦めて(笑)お付き合いしてくださっています。特にアニメ『BanG Dream! 2nd Season』の後半からは、その作り方が定着してきました。
──それだけスタッフの意識が統一されているということだと思いますが、『バンドリ!』クラスになると、かなりの人数が関わっているので、一貫した方向性を維持するのは大変なのではないでしょうか。
柿本:通常は大規模なプロジェクトになると、多くの外注先と協力しながら制作を進めるのが一般的ですよね。ただ、僕らの場合はインハウス体制といいますか、同じサンジゲンチームでずっと作ることができていますし、『It's MyGO!!!!!』『Ave Mujica』くらいのタイミングになってくると、大変ありがたいことにお互いのことがよく分かっていて。
たとえば脚本の発注でプロットを伝えても、もはや最初の段階だと「どうせ変わるんでしょ」みたいな空気感なんです(笑)。案の定どんどん変わっていくので、通常の脚本の4〜5倍で利かないくらいの作業量になりますが……チーム、脚本家の皆さんが長く付き合ってくださるおかげで、作品が出来上がっていきます。
映像もほぼサンジゲンの中だけで作っていますので、どのアニメーターも何話数にも関わっていて。いろんな話数の幾つものシーンを自分で作っているのでキャラクターへの理解が深く入ってくるんですね。特に『It's MyGO!!!!!』からは、コンテも演出もサンジゲンのクリエイターの方々にお願いしています。
それまではワンシーンを司るアニメーターだった人たちの認識が、話数に及び、シリーズ全体に及び……と、全員どんどんアップデートされていきました。『Ave Mujica』を作っている頃にはもう、演出上のリテイクを出すことはほぼなかったです。
──制作に携わるスタッフ一人ひとりが、まるで“バンドマスター”のような存在になっていったと。
柿本:本当にそんな感じでした。最初の頃はかなり詳細に指示を出していたんですが、気付いたら上がってくる映像に僕の指示より更に細かい表現が詰め込まれていたりして。現場でフィルムをチェックする過程で驚くこともあります。キャラクターの人物像や関係性を、脚本家や演出チームだけでなく、アニメーターや撮影スタッフの一人一人まで、しっかり理解して表現に取り入れてくれているのは、本当に大きなことです。
──では『Ave Mujica』の第9話までの間で柿本監督がアニメーター側からの提案で驚いた場面というと?
柿本:たとえば第6話でモーティスがそよにすがるシーンのカメラアングルが、そよが祥子にすがるシーン(『It's MyGO!!!!!』 第8話「どうして」)と一緒だったのは、スタッフがコンテに自主的に入れてくれたからです。他にも、RiNG前のモーティスのバズ動画を見せられた祥子が「睦など、知りません」と嘯く際、燈と愛音が光を背負って階上にいる構図や、第4話でモーティスが部屋に来る場面のキューブリックのようなカットなども、スタッフの提案によるシーンです。
実は僕、コンテを描くときにキャラクターの目玉を描かないんです。目の形や視線の方向は指示するんですが、表情の微細な部分はアニメーターに委ねたくて。最初のうちは「どんな顔なんですか?」と聞かれますが、そのうち聞かれなくなってきて、前後の話数の文脈から理解した表情を描いてきてくれます。
上に挙げたような演出も同様で、そのレベルで話ができるのは、本当にありがたいですね。僕自身が特に指示を出す部分ももちろんありますが、それ以上に、スタッフがキャラクターや世界観を自分たちで広げてくれるようになっています。
──逆に、現場での監督が特に指示を出したところというと?
柿本:特にといいますか、僕の場合、脚本に入る前に脳内で完成映像を見ている感覚があって、その映像を脚本家さんや演出さんにかいつまんで見せるつもりで口頭で説明する感じで。たとえば、『It's MyGO!!!!!』第3話「CRYCHIC」の主観の話だとか(※燈の一人称視点で物語が進んでいく)、睦の脳内の舞台だとか。話の流れやキャラクターの心情理解を深めるために、打ち合わせではそうした部分の補助になるような話を重点的にします。
また、具体的に発想のソースがある場合は、その映像作品や小説を指定して視聴してきてもらうことで、目指すイメージや物語の質感を共有してもらったりもしていました。




























































