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BanG Dream! Ave Mujica:柿本監督が明かす、第9話までの制作秘話【インタビュー】

衝撃的な展開の続くTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」。柿本広大監督が明かす、第9話までの制作の裏側。そして気になるAve Mujicaのこれから【ロングインタビュー】

柿本監督が描きたかった「才能」

──そんな中で、監督ご自身が特に力を入れて描いたキャラクターはいますか?

柿本:全キャラ同様に力を入れているつもりですが、一番展開に影響力があったのはやっぱり睦でしょうか。彼女の内面をどう描くか、それがその後の展開にどう繋がるか……気付けば物語全体の中でも重要な鍵になっていきました。

睦は、人格形成的に未熟な部分があり、彼女の心情は常に流動的なんですね。過去が積み重なったからといって、必ずしも次の睦がそれを受け継いでいるわけではない。彼女にとっては「今」が最も重要なんです。

──彼女の場合、いわゆる成長物語ではないんですよね。

柿本:そうです。睦の心の中では、すべてがその場その場で変化していく。そこをどう表現するかはひとつの大きな挑戦でした。またその睦の状況を、外の人たちがどう認識しているのかというところも重要なポイントでした。

たとえば睦の母、女優の森みなみは、睦のことを「才能」としてしか見ていません。幼い頃から多数の人物像を当たり前に演じ分ける睦を見続けてきた彼女にとって、睦の変化は演技の一環であって、解離性同一性障害のようなものとしては認識していないんですね。

──「才能」。まさに物語の核の一つですよね。

柿本:才能って、ある程度その分野に造詣がないと気付けないものだと思っています。たとえば、『It's MyGO!!!!!』で言うと、燈の才能にそよは気付いていない。そよの「私ね、燈ちゃんの歌詞、前から苦手だったんだ」といったセリフもそこから出ています。味の辛さは辛さとして認識できないと単なる痛みになるのに似て、燈のむき出しの言葉が惹起する感情に、そよは忌避感を覚えています。

立希はすぐに気づく。彼女は幼少期から才能のある人、つまり姉の近くにいたから、それを理解できるし気付くことができる。恵まれた環境で育った祥子も同様、幼い頃から数多くの芸術に触れてきたから、そうした才能を見極める目、審美眼を持っています。

みなみは本人の才能もあったけれど、にゃむのように地道な努力を積み重ねて成長した部分もある。だから睦の才能にはすぐに気付いてしまう。睦が持っているものは、自分が何より一番欲しかったものだからです。

──言葉にするのは難しいですが、努力だけでは補えない領域があるのも事実で、それが時に残酷に映ることもありますよね。もちろんそれがすべてではない、という前提ですが、例えば音楽の世界では、クラシックに顕著な気がします。幼少期からクラシックがそばにあったり、勉強していたりした人はやはり、他の方の才能にも敏感ですよね。

柿本:そう思います。クラシックの世界は、いわば「型」がしっかりしている分、それを理解している人にとっては、横溢にしろ逸脱にしろ、それがどれだけすごいのかが明確に分かるんですよね。

我々のアニメ制作の現場でもあります。本人は特に表に出さないんですが、「この人、めちゃくちゃすごいな」っていうクリエイターはいます。それに気づくには一緒に仕事するこちら側にもある程度の知識や経験が必要だったりするんですよね。まったく同じではなくても、似たようなことは現実世界でもいくらでもあるんだろうなと思っています。

──特にメタルは、最初のお話にもありましたが、技術も求められるジャンルですよね。パンクとはまた違った難しさがあるというか……。

柿本:パンクは勢いやメッセージ性が大事で、技術や技巧がすべてではないジャンルだと僕は思っています。あふれる感情を、音楽を、ライブで表現する。逆にメタルは、アンサンブルの中で個々の演奏が際立つ、洗練された音を求められるジャンルだと思っていて。だからこそ演奏技術はもちろん、表現の精度、緻密な音楽性が求められるという。

『バンドリ!』全体にもいえることですが、『It's MyGO!!!!!』も『Ave Mujica』も、すごく難しいプロジェクトだと思います。でも、本当にいいメンバーが奇跡的に揃ったなと、改めて感じています。

柿本監督ならではの物語の編み方

──第9話までの間で、監督として特に印象に残っている場面というと、やはり睦にまつわるところでしょうか。

柿本:そうですね。睦の内面が崩壊していることが表に出て、それが周囲に露呈してしまう。第6話でもその一端が描かれていますが、周りの人がそれをどう受け止めるのかを入念に考えていきました。どこまでが「真実」として受け入れられ、どこまでが「誤解」として捉えられるのか。それを突き詰めていくと、心の距離が大きなテーマになってくるんですよね。

それと同時に物理的な距離も、すごく大事だと思いまして。人間関係って、物理的な距離も意外と心理的な距離に影響するなと思っていて。

──物理的な距離、ですか。

柿本:たとえば、睦と祥子は物理的に距離が近いですが、近すぎて睦の変化に気づけなかったり、Ave Mujicaの解散での実際の距離があいている間に、今度は祥子よりそよと睦のほうが心理的距離が近くなっていたり。実際の距離と心の距離って「意外とそんなもんだよな」とも思うんですよね。

昔すごく仲が良かった人と距離が遠くなると、近くにいる人と仲良くなっていったり、嫌いだった人も物理的に離れれば気にならなくなったりとか。逆にそれを超える人間関係もあったりとか…。そんなことを考えながら作っていました。

そうすると、好きだ、嫌いだ、という相手が同一人物の中にいるってどんな感覚なんだろう……と。

──特に睦の多重性は、整合性を取るのがすごく大変そうですね。整合性という言葉が合っているかはわかりませんが……。

柿本:実際、本当に難しかったです。セリフ自体は脚本家さんが書いてくれるので、セリフひとつひとつを吟味していく作業が続きました。具体的なセリフを並べながら、「このセリフはどういう意図で書きました?」などとキャッチボールして、人物像を具体化していく。すると、最初に用意した展開の中で「そもそも、こういうことをこのキャラクターは言わないんじゃない?」「これは矛盾してない?」という部分も出てくるんですよね。

たとえばモーティスは睦を攻撃しているけれど、同時に「睦を守ること」が自分の存在意義だと気づいている。だとしたら、彼女が睦を完全に否定するようなセリフを言うだろうか、といったように。脚本家さんたちと一緒にひたすら突き詰めていきました。

──矛盾がないように突き詰めていくわけですね。でも雲を掴むような話というか……。

柿本:最初はかなり混沌としていました。脚本家さんに口頭で「その話数はこう始まり、こういうことが起こり、こう終わります」という大まかな流れを伝えながら「このキャラクターの心情はこう始まって、こう変化していく」といった説明を加えていくのですが、そうやってアウトプットしていく中で少しずつこちらの頭の中も整理されていきます。

まずは主要キャラクター5人分、場合によっては10人分の流れを口頭で説明して、それに対して脚本家さんがその場でフィードバックをくれるのですが、ここで容赦ないツッコミもきます(笑)。それを繰り返しながら、その場で矛盾点を洗い出して修正していく。そうすると、意外な部分に引っかかることがあって、掘り下げていくと実はそこが物語の本質だったりする、といった発見を重ねながら、ひたすら取捨選択を繰り返して物語を組み立てていきました。

──特に『Ave Mujica』は、そうした試行錯誤が顕著だっただろうなと。

柿本:普通に話を作っているときは、まず発注前に一人で6つくらい話の筋を出します。そこから絞っていくのですが、『Ave Mujica』の場合は、全部やめるところから始めます。その後第2段階として、最初の案をひねったものが3つくらい出てくるのですが、またそれを全部やめる。

──なんと。どうするんですか?

柿本:まさに「どうするんですか?」ってなってからようやく本筋を考え出す、という感じでした。前編である『It's MyGO!!!!!』でキャラクター達が縦横無尽に動き回ってくれたおかげで、後編の『Ave Mujica』は更に複雑になりました。前後編の話数の展開をリンクさせるというような仕込みも考えていたので、更に混迷しまして。『It's MyGO!!!!!』の物語を作っている間にも、並行して常に『Ave Mujica』のことを考えてはいたんですが……。

睦のことを考え始めたら、それまでの流れが一度全部崩れてしまったんですね。いろいろな資料を読みつつ検討を重ねていく中で、彼女のような存在が本当に無垢なまま、この年齢までいられるものだろうかと考えたとき「いや、これはこのまま来れてないな」「人格として成長させてもらえてないな」という結論に至りました。

彼女は、おおよそ才能が99%のアンバランスな存在で、自分自身といえる部分はたった1%に過ぎず、その1%はようやく見つけたギターの中にある。そういう危うい面すら持つほどの「才能」もまた、僕が描きたかったことのひとつでした。

──まさに才能の話ですね。ところで、先ほどそよのお話がありましたが、『It's MyGO!!!!!』の時とはまた違う活躍を『Ave Mujica』の中でしていますよね。

柿本:『Ave Mujica』に出てくるMyGO!!!!!のメンバーは、MyGO!!!!!を結成したことによって、少しだけ気持ちに余裕ができています。だからCRYCHICの元メンバーのことまで想うことができる。「貧すれば鈍する 鈍すれば窮す」 じゃないですが、物事がうまくいかない時はたいてい、視野が狭くなってしまっていますから。

物語の中でそれぞれのキャラクターの欠点にフォーカスはしていますが、そもそも彼女たちは決して悪い人間ではない、という前提が全員にあります。そよも本来は面倒見の良い人であって、つらくあたってしまった罪滅ぼしの意識もあるから、睦に対してああいうふうになるだろうなと。

MyGO!!!!!メンバーに生まれた少しの余裕については、とりわけ立希に顕著だと思っています。彼女も心に余裕がない時期がありましたが、認め合える仲間と一緒にやれている今は、人間関係に対する目の良さや思いやりを持つ、本来の立希に戻っています。

──そして、第7話「Post nubila Phoebus.」でCRYCHICは再結成することに。

柿本:CRYCHICの解散がMyGO!!!!!の始まりであるのなら、Ave Mujicaが解散しないとCRYCHICは再結成できなかったんです。でもみんなでステージに立ったことで違和感を覚え、その心の距離を実感する。その時に彼女たちは「これはもう終わりなんだ」と悟るんですね。その瞬間の空気感を作りたいなと思っていました。

──燈の涙の意味はいろいろと想像が膨らみましたが、CRYCHICの終わりを感じて、涙をしたという理解で合っていますか。

柿本:はい。彼女たちは、自分たちがもう以前の自分たちと同じではないことに気付いてしまった。燈も自分の中でCRYCHICをやる違和感のようなものを実感したんだと思います。彼女はその場の空気を読むのが難しい人ですが、他でもないCRYCHICのメンバーと、その終わりを共感して涙を流したんだと思います。

──なるほど。

柿本:それと、燈は祥子のことをずっと考え続けてきたけれど、この最後のステージで「結局、自分は祥子のことをわかっていなかった」ということに気付いたんだと思います。「人間になりたいうたⅡ」は、“祥子のことをいくら考えても自分にはわからない”という歌詞にしてくださいとオーダーしました。

燈にとって「人間になりたい」という願いはずっと変わらないテーマで、MyGO!!!!!を結成して少し人間らしくなった気がするけれど、でも祥子のことを考えると「やっぱりわからない、私はやっぱり出来損ないで、人間にはなれないかもしれない」となってしまう。「でも、それでも考えることはやめたくない」という想いに至る。その心情が楽曲にも反映されています。

ただ、睦は燈なみに雰囲気に鈍感で、また半分寝ているような状態がずっと続いていたので、むしろ残酷な希望を抱いてしまいます。他の4人は心がスッキリした状態なのに「またCRYCHICができるかも」と思ってしまう幼さがあった。その幼さは、睦のテーマのひとつにもなっていますね。

──CRYCHICのライブに観客はいなかったですが、視聴者が一番の観客で。違和感も、吹っ切れた感もありました。

柿本:ライブって、その場その場の空気感がすごく大事で。観客はいなかったけど、あれは間違いなくCRYCHICのライブであり、同時に「解散ライブ」でもあったと、伝わるように作ったつもりです。CRYCHICは凡百のバンドといいますか、やっている本人たちにとってはすごく美しい思い出だけれど、あくまでも幾千と消えていくバンドのひとつとして描きたかった。

だからこそ、大勢の観客がいる前で華々しくというよりは、誰も知らないところでひっそりと終わる。現実でもそういうバンドって多いと思うんです。解散ライブをしてくれるだけでありがたい、っていうケースもありますから。

──実際のバンドでも「実はあのときが解散ライブだった」ということもありますもんね。明確な「終わり」があるバンドもあれば、そうではない形で終わるバンドもある。

柿本:そうなんですよね。僕はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが大好きなのですが、ミッシェルは最後にしっかりと解散ライブを見せてくれましたよね。あの日のライブ映像は今でも毎日のように見ています。

──わかります。実は私はあの場に行っていたんです。私も毎日のように見返しています。

柿本:うわあああ!?? 羨ましい……! 僕にとってミッシェルって「バンドって本当にかっこいいな」と改めて感じさせてくれる存在なんです。「バンド、かっこいい!」と思ってもらえるようなことを、『バンドリ!』でも描きたいと思っています。

そういえば、最初にピストルズの話をしましたが、僕はジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)も大好きなんです。すごくクレバーな人なのにピエロを演じていて。シド・ヴィシャスがファンからメンバーになって、しかもホンモノのパンクになってしまって、ジョニー・ロットンはさぞ疎ましかっただろうななどと……話がだいぶ逸れました。

(C)BanG Dream! Project
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