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BanG Dream! Ave Mujica:柿本監督が明かす、第9話までの制作秘話【インタビュー】

衝撃的な展開の続くTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」。柿本広大監督が明かす、第9話までの制作の裏側。そして気になるAve Mujicaのこれから【ロングインタビュー】

声で作り上げる『Ave Mujica』の世界

──残りの時間はキャスト陣についておうかがいさせてください。本当にすごいキャストが勢揃いしていますよね。

柿本:そうなんです、毎回皆さんに言えることなんですが、「よく集まってくれたなあ」って思っています。

──最初に「本来ならまったく繋がらない人間関係が、音楽だけでつながっている関係性」を描きたかったというお話がありましたが、それはある意味『バンドリ!』で繋がったキャスト陣にも言えるのかもしれませんね。

柿本:確かにそうですね。キャスト同士、もともと何らかの繋がりがある方もいると思いますが、バンドという形で関わるとなると話はまた違ってきますので。そもそもバンドを組むこと自体、初めてという方も多いですしね。

Roseliaの櫻川めぐさん(宇田川あこ役)のエピソードが、僕はすごく好きで。櫻川さんはドラム経験がなかったにもかかわらず、役に入り込むためにいきなりツーバスを習得されたんですよ。それって、僕らからすると「神か?」という感じで尊敬しています。彼女だからこそできたことだと思います。

──すごいことですよね。

柿本:そもそも声優さんだった方たちが、音楽のプロフェッショナルの中に入ってバンドとして遜色のない音を出せるというのは、想像を絶する努力を要したろうと思います。ずっとリスペクトしています。

──Ave Mujicaのキャスト陣の凄さについて改めて伺いたいです。

柿本:三角初華/ドロリス役の佐々木さんは、もともと燈役のオーディションで来られていたんです。いろいろな方の声を聞かせていただく中で「今、初華いたぞ」と感じて。なんだろう、この艶、と。感情のコントロールに長けた声優さんは多くいますが、声の艶や張りを自在に操れる方は本当に貴重なんですよね。ドロリスと初華で声の質感が全然違っていて、オーディションのときから「この人、ここまでコントロールできるんだ」と驚いていました。

それで「ドロリス役のオーディションを受けてくれませんか?」と連絡させてもらったんです。歌唱もやってもらったのですが、これが凄まじく上手い。(Ave Mujicaの)オーディションのときにはギターも持ってきてくれたんです。僕の中で、間違いなくこのひとだと思っていたので、彼女に決まってくれて良かったです。

続いて、豊川祥子/オブリビオニス役の高尾奏音さん。とんでもなくお上手です。あの若さであれだけのキャリアを持っていらっしゃるのも素晴らしいんですが、経験を積むと「こういうキャラクターの方向性なら、こういう声」という引き出しが増えるものですし、そこから演じられる方が多いと思うんです。

でも高尾さんはまず祥子に入ってくれているように感じます。「お嬢様キャラだからこの引き出し」とはならずに、一度祥子の心情になって、そこから声を作るというアプローチをされるんです。すごいなと思いました。ピアノの技術に関してはもう驚愕の嵐です。「なんだこれ」と思わず声が出るほどすごい。だからこそ、彼女が演じる祥子にはリアリティがあるなと感じました。

若葉睦/モーティス役の渡瀬結月さんは、最初はセリフの少ない無口な役柄を想定していたんですが、ストーリーを作っていく中で、最終的に13役を演じることになってしまい……。

──えっ当初は想定されていなかったんですか? じゃあ、渡瀬さんも知らなかったということですか?

柿本:そうなんです。そもそもボーカル以外のキャストはだいぶ前から決まっていて、『It's MyGO!!!!!』が決まった直後に、『Ave Mujica』も決まっていました。ただストーリーを作っていくうちに睦が話のメインになってきて、いきなり「はい、では13役お願いします!」はさすがに負担が大きいだろうなと思い、事前に役の擦り合わせをさせてもらう形をとりました。

演じ分けだけ確認させてくださいとお願いしたんですが、それがとんでもなくうまかったんです。「え、こんな声色も持ってるの?」って。それほどまでに役の理解が深かったんです。感動しました。

八幡海鈴/ティモリス役の岡田夢以さんは、本人とキャラクターが全然違うんですよね。岡田さん自身はとても細やかな気遣いのできる方で、かつリーダーシップを取れるようなしっかりした印象があります。ティモリスはどこか掴みどころがなく、しれっとしたキャラクターですよね。声質を低く低く作ってもらっていたのですが、声を低くすると音を長く使うので、どうしても息の持ちが短くなりやすいんです。

収録前のテスト段階では「この音域でいきましょう」と調整しながら進めていたのですが、本番ではまるでティモリスがそこにいるような演技をされていて驚かされました。要求される難しい音域にも対応して、まるで声帯が伸びたかと思うほどの変化を見せてくれました。半端ねえなと……。

── 祐天寺にゃむ/アモーリス役の米澤茜さんは、声優初挑戦でしたよね。

柿本:体当たりの演技、どころではなく、完全に没頭というか没入した演技で収録をしていただきました。これは有名なお話ですが、声優初挑戦にもかかわらず、セリフをすべて暗記してきていたんです。通常、収録では台本を読みながら演じるのが一般的なんですが、「読むと演技に集中できないので、全部覚えてきました」と。最初ブースに入った時に「あれ、台本持ってないな?」とこちらが戸惑ったんですが、実際に演じてもらったら完璧で驚きました。

しかも、にゃむというキャラクターのいろいろな側面、インフルエンサーとしてのにゃむ、努力家のにゃむ、外では弱さを見せないようにするにゃむ、家族の前のにゃむ、それぞれの場面で、声のトーンを絶妙に変えて演じ分けていたんです。これも、初挑戦とは思えないような完成度でした。

皆さんがすごいからこそ、アフレコも毎回本当に楽しかったです。アニメーション制作ではコンテを切った後、アニメの動きを作る前に声が収録されることが多いですが、キャストの演技が素晴らしいと、アニメーターたちのキャラクター解釈がさらに深まるんです。「なんでこのセリフを、こんな声で読んでるんだろう」と考えることで、より細かい演出や表情が生まれてきます。

声優さんとアニメーターは、直接顔を合わせることこそほとんどないですが、それでも作品を通して深いリンクが生まれていくのがすごいですよね。同じ人物を、違う立場から作り上げていくわけですから。そういった意味でも、キャストの皆さんには本当に感謝しています。

──リアルバンドの活動も素晴らしいですよね。Ave Mujica 0th LIVE「Primo die in scaena」が行われたのは、2023年6月。もうだいぶ月日が経った印象がありますが、当時は謎だらけでありつつも当初から世界観がすごくて。

柿本:びっくりしました。いちアーティストとしての堂々たるライブで、想像をはるかに超える演奏と、まさにAve Mujicaとしての完成された世界感のあるステージでした。

『バンドリ!』シリーズにはすでにRoseliaというメタル寄りのバンドがいて、メタルにそこまで触れてきていない人からすると、RoseliaもAve Mujica も同じ「メタル」という括りで見えてしまうんですよね。そこをどう差別化して伝えるかが難しく、音楽チームとはかなり話し合いました。

メタルヘッズじゃない人たちにどうすれば響くのか、どう差別化するか、というところを考えて生まれた要素の一つが「劇」でした。(Roseliaの)友希那は絶対に「劇」はやらないタイプですから。そしてその「劇」はAve Mujica にとってすごく大きな意味を持っていて、アニメの内容ともリンクしています。

ライブ中の劇部分の脚本は、アニメ本編にも参加している脚本家の小川ひとみさんが毎回書き下ろしてくださっています。ライブパフォーマンス単体でもほんとうに素晴らしいのに、物語との相乗効果で、さらなる深みと面白さが出るんですよね。

──キャストの皆さんのプロ意識の高さがあってこそですね。それこそ、にゃむじゃないですけども、血の滲むような努力があるんだろうなと。

柿本:どのバンドもすごいですけど、やっぱりキャストの皆さんがこれでもかというほどの努力をしてくれている、と言うのはいかにも簡単ですけど、ほんとうにそのおかげだと思っています。リアルバンドとして楽器演奏もこなさないといけないので、練習からライブから、キャストの方々にものすごい負担がかかっています。オブリビオニス役の高尾さんなんて、もう弾き方すごいことになってますから(笑)。

でもだからこそ、彼らが体を壊さずにやり遂げてくれることをずっと願っています。やっぱり、無理をしてしまうと続けられなくなってしまうので。ブシロードさんのバンドサポート体制はもはや円熟期に入っており、安心してアーティスト活動をできる土台が出来上がっていると思うのですが、僕らアニメ制作側もできる限り支えていきたいですね。

変化の過程で新たな葛藤が生まれることもある

──『バンドリ!』シリーズは、もともと海外でも人気がありますが、『It's MyGO!!!!!』『Ave Mujica』に関しては桁違いの人気を誇っている印象があります。世界で注目されている理由について、どう捉えられていますか?

柿本:毎回ただただ驚いています。日本国内でもこれだけ多くの人に受け入れてもらえるとは思っていなかったので、それがワールドワイドに響いたというのは、本当にありがたいことだと思います。

これは自分だけの指標なのですが、これまでの『バンドリ!』は、20〜40代、あるいはそれ以上の世代にも見ていただけるような、広い世代に向けたイメージで制作していました。たとえば40、50代の人たちが見たときにも「ああ、心洗われるな」と、見た後清々しくなって、疲れがとれるような作品を目指していました。

それに対して『It's MyGO!!!!!』や『Ave Mujica』は体力のある世代、10~30代を中心に据えて作ったつもりなんです。仕事で疲れて帰ってきたときに、高校生達の、若いからこそこんがらがった人間模様を見せられたらだいぶしんどいかなと(笑)。忙しいけど、しんどい話もなんとか理解しようと頑張ることができそうな年齢層に向けて作ったイメージです。

そういう世代の方たちは、作品の持つ「迷いや葛藤」に共感しやすい部分があるんじゃないかなと。

──なるほど。

柿本:今って個を大事にする世代じゃないですか。僕たちの世代は、集団の中で少し浮いてしまうことをネガティブに捉えられることが多かったけど、今は「いろいろな人がいていい」という価値観が少しずつ広がっている。そういった時代の変化があるなかで、周りと歩幅が違っていても、自分なりに一歩一歩歩いていく、という物語を作ったつもりでいます。それが響いてくれたのかなと。そうだとしたら嬉しいです。

もうひとつはキャラクターでしょうか。キャラクターから好きになってくれた人が多いんじゃないかなと。キャラクターの作り方も大切にしていて、単なる記号として描くのではなく、一人の人物としての多面性と、同時にそこに整合性を持たせることを強く意識しています。そうすることで、見てくれる方がキャラクターをより深く理解し、感情移入できるのではないかと考えています。

── 個が少しずつ尊重される時代になりつつある一方で、集団からはみ出すことへの怖さは依然としてあるように思うんです。 その中で、どのように自分の居場所を見つけていくのかが、今の世代にとって大きなテーマなのかもしれませんね。

柿本:ちょうど今って過渡期なんですよね。文化って一夜にして変わるものではなく、少しずつ、少しずつ積み重なって変わっていくものだと思います。

個が尊重される流れがあるからといって、それがすぐに社会のすべてに浸透するわけではなく、むしろその変化の過程で新たな葛藤が生まれることもあると思うんです。作品を楽しんでくれている方々にはそういう世代の方も多いのかな、と個人的には思っていました。

ただ、この作品はありがたいことに、いろんな世代の方に楽しんでいただいていると聞いています。……本当に「ありがとうございます」としか言えないところです。たくさんの方々に作品を楽しんでいただけることは本当に感無量です。今後の展開も気を抜かず、大事に作っていますので、ぜひ楽しみにしてもらえるとありがたいです、とお伝えしたいですね。

[インタビュー・文/逆井マリ 編集/鳥谷部宏平]

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TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」

毎週木曜23:00~ TOKYO MXほかにて放送中
ABEMA/dアニメストア/U-NEXTにて地上波同時先行配信

TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」公式サイト
https://anime.bang-dream.com/avemujica/

TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」Blu-ray(上下巻)リリース情報

 
【発売日】
2025年5月28日 (水)

【定価】
19,800円(税込)

【収録内容】
<上巻 収録内容>
[Blu-ray]
・TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」 #1~#7
・ノンテロップOP映像
・アニメ放送直前特番「Ave Mujica: Ante Masquerade」再編集版 前編
[CD]
・オリジナル・サウンドトラック
[封入特典]
・スペシャルブックレット
・特製ステッカーセット

<下巻 収録内容>
[Blu-ray]
・TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」 #8~#13
・ノンテロップED映像
・アニメ放送直前特番「Ave Mujica: Ante Masquerade」再編集版 後編
[CD]
・オリジナル・サウンドトラック
[封入特典]
・スペシャルブックレット
・特製ステッカーセット

★Blu-ray 上下巻同時購入キャンペーン開催決定
TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」Blu-rayを「キャンペーン開催対象店舗・ECショップ」にて同時購入されたお客様を対象に、「サンジゲン描き下ろし収納BOX(Ave Mujicaメンバー複製サイン入り)」+「特典CD」をプレゼントいたします。

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 TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」Blu-ray上下巻+特典CDを収納可能
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 作中アイドルユニット「sumimi」の楽曲を収録

Ave Mujica 1st Album「Completeness」

アーティスト Ave Mujica

定価 5,000枚限定生産特装盤:17,600円(税込)
   Blu-ray付生産限定盤:10,450円(税込)
   通常盤:2,970円(税込)

発売日 2025年04月23日 (水)

商品タイプ
5,000枚限定生産特装盤:アルバムCD+Blu-ray+グッズ
Blu-ray付生産限定盤:アルバムCD+Blu-ray
通常盤:アルバムCD

 
『バンドリ!』公式サイト:https://bang-dream.com/
『バンドリ!』公式X:https://x.com/bang_dream_info

Ave Mujica 公式YouTube:@bang_dream_avemujica
Ave Mujica 公式X:@bdp_avemujica

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