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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。

──Shang Naさんは現在、『抱かれたい男1位に脅されています。』の実写化に取り組まれています。どのような経緯でこのプロジェクトをタイドラマとして進めることになったのでしょうか?
Shang Na:BL作品を実写化しようと考えたとき、タイが最適だなと考えていました。その理由は2つあります。1つ目は、タイBLがとても発展しており、受け入れられる土壌があること。2つ目は、私自身がタイで大規模な作品を複数制作した経験があり、現地での撮影チームがすでに整っていることです。
昨年もタイ映画を制作したのですが、監督と私以外は全員タイ人という環境で行いました。たとえタイ語で制作し、タイのキャストとクルーを使ったとしても、タイBLは日本のアニメと同じように国境を越えて広がる可能性があると考えていました。
──その中で、『抱かれたい男1位に脅されています。』を実写化しようと思った理由についても知りたいです。
Shang Na:この作品を選んだ理由は、まずIPとして大きく、原作のキャラクター設定や感情描写が素晴らしいことです。また、作品の中には多くの名場面があり、それがこの作品を特別なものにしています。
──タイでの制作にあたって、どのような点に重点を置いていますか?
Shang Na:原作の精神をしっかりと維持しつつ、現地の文化や視聴者に合わせたローカライズを行うことです。ただ単にタイBLとして制作するのではなく、アジア全体に通用する作品に仕上げたいと考えています。
──このプロジェクトを通じて、どのような目標を達成したいとお考えですか?
Shang Na:私は、タイBLの枠を超え、アジア全体で認知される作品を目指しています。そのためにも、タイという土壌を活かしながら、日本のIPを最大限に活用していきたいと考えています。このプロジェクトはその第一歩として、原作の魂を尊重しつつ新しい形で多くの人々に届けたいと考えています。
──お話をうかがっていると、製作チームの信頼関係はとても大切なんだろうなと。
Shang Na:そうですね、信頼関係はとても重要です。私はこれまで多くの芸術家やクリエイター、原作者、監督と協力してきました。それぞれが非常に個性的で、また敏感な部分を持っています。その中で、特に重要なのはお互いの専門性を尊重し合うことです。『抱かれたい男1位に脅されています。』の制作チームとの連携は、とてもスムーズでした。
彼らはまず、私が過去に類似の作品で成果を出していることを評価してくれました。そして、原作の要素をしっかり理解した上で、私が「タイドラマ」として制作することを信頼してくれたんです。原作の魂や核となる部分を守りつつ、タイの文化や視聴者に合わせてローカライズすることが必要であると最初から理解してくれていました。また、すごく良い意見もくださっています。
──タイでのローカライズにはどのような工夫をされたのでしょう?
Shang Na:まず、日本の原作をリスペクトしながら、現地に適応するように工夫しました。最初の段階では日本の脚本家を招いて、原作の核となる要素を取り入れたシナリオを構築しました。
その後、タイの脚本家チームとともに、細部をタイの文化や習慣に合わせて調整しました。例えば、キャラクター同士のやり取りや、ストーリーの進行でタイでは不自然に感じられる部分を修正しました。このように、二段階に分けて脚本を作り上げています。
これまで日本のチームとは多くのプロジェクトでご一緒してきましたが、日本の制作チームには慎重なところがあるように感じていました。あくまで私の印象ですが、リスクを恐れているように思います。その一方で、私が関わった成功したプロジェクトでは、リスクを恐れず挑戦するパートナーが多かったことも印象的です。
例えば、『唐人街探案』を制作した際、最初は多くの映画スタジオから「東京でこの規模の撮影は難しい」と言われました。しかし、川村元気さんが「挑戦してみよう」と背中を押してくださったことで、実現することができました。出版社や、本作に携わっている株式会社アニメイトインターナショナルの外川さんも、リスクを恐れずに挑戦する姿勢を持っています。だからこそ、とてもやりやすいです。
慎重さと挑戦心を兼ね備えたパートナーと共に取り組むことで、プロジェクトの成功の可能性が高まります。今回のプロジェクトでも、関係者のサポートを受けながら、慎重に進めつつも新たな挑戦に踏み出しているところです。
──脚本作りの際、特に難しかった点や注意された点はありましたか?
Shang Na:原作の核となる部分を守ることが最も重要なポイントでした。原作側のスタッフとの話し合いでは、どの部分が作品の本質であり、何が視聴者に最も強い感動を与えるのか、細かく確認しました。その後、タイの文化や習慣に合わせて調整を加えた際にも、常に原作の精神が損なわれないように気をつけました。
また、脚本段階でどれだけ詳細に練り込むかによって、最終的な撮影の品質が決まると考えています。脚本が完成した時点で、私はすでに作品の仕上がりがイメージできていました。
脚本作りは大変なこともありますが、それ以上に、10年もの間作品を描き続けている桜日梯子先生のほうが、はるかに多くの苦労をされていると思います。その情熱と努力には本当に敬意を抱いています。私たちも、先生が築き上げてきたこの作品の世界観を大切にしながら、映像作品としてさらに魅力を引き出せるよう、全力で取り組んでいきたいと思っています。
──『抱かれたい男1位に脅されています。』の実写化について、選んだキャストや制作のこだわりを詳しくお聞かせいただけますか?
Shang Na:キャスト選びは大変でした。特に西條高人というキャラクターは、大スターとしてのカリスマ性を表現できる人が必要でした。私は最初、実際に既存の大スターを起用するか、それとも新しい才能を発掘するか、2つの選択肢を考えました。最終的には、比較的フレッシュな俳優を選ぶという道を選びました。
その理由は、今回のプロジェクトが3シーズン構成を予定しており、長期的な契約が必要だからです。新しい俳優であれば、役柄に集中して取り組むことが可能で、長期間にわたりキャラクターの成長を描けると考えました。
──主演はスマートさんとブームさんです。まずは西條高人役のキャスト選びで意識されたポイントについても教えて下さい。
Shang Na:高人はとても難しいキャラクターでした。彼は大スターなので、視聴者が彼を信じられるような外見と雰囲気が必要です。そのため、身長や外見がキャラクターに近いことが条件でした。さらに、東アジア系の顔立ちで、日本人や中国人の視聴者にも違和感なく受け入れられる俳優を探しました。
また、俳優自身の演技力も重要ですが、私たちの役割は「スター」を作り上げることだと考えています。衣装やメイク、セットなど、映画的な演出を駆使し、俳優を高人というキャラクターに見せる努力を惜しみませんでした。そして、演技ワークショップを通じて俳優自身の信念や自信を強化していきました。
──では、東谷准太役はいかがですか?
Shang Na:准太は比較的選びやすいキャラクターでした。彼は若く、ハーフのような外見を持つ俳優が多いタイでは比較的見つけやすいです。ただ、彼の性格は「小狼狗」と表現されるように少し腹黒く、賢くて強気な部分があります。これは、タイの俳優にはあまり見られないタイプでした。タイの俳優はどちらかというと温和な雰囲気の人が多いので、若くて可愛らしい外見ながらも、役柄に自然と馴染む俳優を探しました。
青春ドラマの経験から言えば、若い俳優にはあまり演技を「作らせる」べきではありません。その人の素の魅力を引き出すことが重要です。その点で、准太役は比較的スムーズにキャスティングが進みました。
──キャストについても、俳優同士の関係性が重要だと感じます。撮影中の雰囲気はいかがでしたか?
Shang Na:俳優同士の関係性は素晴らしかったです。まるで西條高人と東谷准太そのもののように、最初はお互いを知らないところからスタートし、次第に信頼し合うようになりました。撮影中もお互いに台本を読み合わせたり、アドバイスをし合ったりするなど、非常に良い関係性を築いてくれました。このような信頼関係は作品にも表れており、役柄の感情や雰囲気が自然に伝わるものになったと思います。
──制作段階ではどのような工夫をされていますか?
Shang Na:原作が持つファンタジー性や、視聴者の「理想」を壊さないことを重視しています。ただし、制作過程の詳細を公開すると、俳優や制作チームが「努力している姿」にフォーカスされすぎてしまい、視聴者が作品の世界観に没入しにくくなるリスクがあります。そのため、こうした裏話はタイミングを見て発信し、ドラマの評価に良い影響を与えるようにしています。
──原作に登場するさまざまな名シーンは、ドラマではどのように表現されるのか気になるところです。
Shang Na:ご安心ください。原作ファンが大好きな名場面はしっかりとドラマに取り入れていますし、原作の持つ「スケール感」や「表現の大胆さ」にもこだわっています。もちろん、実写化することで表現に限界が生じる部分もありますが、可能な限り原作の魅力を損なわないようにしています。観ている方が「これぞ、だかいち!」と感じられるような仕上がりを目指しています。
──『抱かれたい男1位に脅されています。』の実写化で期待されていることを教えていただけますか?
Shang Na:私が特に期待しているのは、この実写ドラマを通じて『抱かれたい男1位に脅されています。』というIPのファン層をさらに拡大することです。既存の漫画ファン、アニメファン、ドラマCDファン、日本や中国をはじめとする世界中のファンに加え、実写ドラマをきっかけに初めてこのIPに触れる人々を増やしたいと考えています。そして、彼らが実写ドラマを観た後に原作の世界に戻り、漫画やアニメを楽しむという「螺旋的な相乗効果」を生み出し、最終的にこのIPをさらに大きく育てたいという思いがあります。
──ではプロジェクト全体を通じての目標を教えてください。
Shang Na:私の目標は、まず原作ファンに満足してもらえる作品を作ることです。もちろん、二次元のキャラクターを完全に再現するのは難しいですが、可能な限り原作の精神を尊重し、ファンが「これは自分の知っているキャラクターだ」と感じられるように努力しています。
また、実写ドラマを通じて新しいファン層を開拓することで、このIPがさらに広がり、より多くの人々に愛される作品にしたいと考えています。このような素晴らしいIPを託してくださった先生や関係者に応えるためにも、全力で取り組んでいます。最終的には、新しい視聴者にも楽しんでもらえる作品に仕上げたいと思っています。
──最後に、今後のBL作品制作への展望をお聞かせください。
Shang Na:BLは広い可能性を秘めたジャンルですので、今後もさまざまなテーマに挑戦していきたいと思います。また、感情の真実性を重視した作品を通じて、観客に新たな体験を提供していければと考えています。
【取材・文/逆井マリ】

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神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
