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小林靖子が紐解く『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の特異性【インタビュー】

岸辺露伴は刑事でも探偵でもなく、ただの“漫画家”である――『岸辺露伴は動かない 懺悔室』脚本・小林靖子さんの言葉を通して、シリーズの“特異性”を紐解く【インタビュー】

 

常に“そこにいる露伴”の芯を大切にしたい

──小林さん自身は、露伴という人物の在り方について、どのように捉えていらっしゃいますか?

小林:基本的には初登場時の露伴がベースになっていると思います。

──『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の「漫画家のうちへ遊びに行こう」ですね。

小林:あの頃から「漫画のためなら何でもする」という信念を持ったキャラクターでした。あの頃は、場合によっては人殺しまでしそうでしたが……(笑)。例えば、昔の人には「漫画よりも絵画や芸術の方が格上」という意識があって、褒めるつもりで「この漫画は芸術だ」と言うことがあると思います。ただ、露伴にとってはそれが侮辱になり得る。誇りを持って漫画を描いているし、「漫画」という媒体そのものに意義を見出して、突き進んでいる人物。常に“そこにいる露伴”と言いますか、そういう芯は、シリーズ全体でも意識しています。

 

 

──実写シリーズでは、原作以上に泉京香の存在も際立っていると感じます。彼女のセリフや露伴との掛け合いを描くにあたって、大切にしていることはありますか?

小林:京香がいないと、実写ドラマとしては成立しないんですよ。露伴の色々な表情を引き出してくれたり、状況を分かりやすく視聴者に説明したり……。古くはホームズとワトソン。あとはテレビドラマ/映画の『トリック』もそうですけど、視聴者目線のキャラクターがすごく重要なんです。

それと同時に、彼女のおかげで重い題材でも少し笑えて、息抜きができる。そういう意味でも、露伴と京香の掛け合いは欠かせません。そういうところが作品の“顔”にもなってくるので、「面白くなってほしいなあ」という気持ちで書いています。

──あれだけ追い出されても、何度も家にやってくる京香は本当にすごいです。

小林:全然くじけないですよね(笑)。ものすごくポジティブな人だからこそ、露伴の側にいられるんだと思います。

 

  

実際の懺悔室はイメージと違う?

──今回のタイトルでもある「懺悔室」という場所について、小林さんご自身はどのようなイメージをお持ちでしょうか?

小林:私自身、教会にはあまり行ったことがなくて……ほとんどドラマや映画の世界で見るだけでした。日本人って、神社に行って無言でお祈りすることはあっても、自分の罪を“告白”するという文化はあまりないですよね。だから「懺悔室」という場所自体、イメージが湧きづらい部分があって。

『ゴッドファーザー PART III』でも、神父に告白するシーンがありましたけど、ああいうのを観ると「どんな人でも神の前では告白するんだ」と思わされます。やはり宗教観の違いがすごく現れる場所だなと。

──確かに。仕切られた空間で、ただ“罪を告白する”ための場所というのは不思議ですよね。

小林:監督がロケハンに行った際、教会や懺悔室の写真をいくつか見せてくださったんですけど、想像していたものとは全然違っていました。私はてっきり“告白する人”がボックスの中に入るのかと思っていたんです。でも実際は、“神父さん”がボックスの中に入っていて、告白する人は外から見えるような構造になっている。「全然イメージと違う」と思って、個人的には新しい発見でした。

原作を読み直しても、そのあたりの構造は明確には描かれていないんですよね。露伴はボックスの中に入っていましたけど、告白する人がどうなのかはハッキリ分からない。“告白する人”が入っていると思っていたけど、意外とそうじゃないのかなとか。脚本を書くにあたって、改めて考え直す必要がありました。

 

 

──また、先ほどもお話に挙がっていましたが、やはり「ポップコーン対決」のシーンを楽しみにしている方は多いと思います。

小林:ポップコーンを口でキャッチするだけなのに、本当に鬼気迫るというか。あんなにも投げている人を応援したくなるシーンって、なかなか珍しいですよね。原作を知らない方ほど驚くシーンだと思います。

──今作が「ヴェネツィアでのオールロケ」と伺った際、真っ先に「ポップコーン対決を現地で……!?」と思いました(笑)。

小林:やったみたいです(笑)。本当にすごいですし、普通はやらないと思います。

 

“死に方”に宿る荒木先生の美学

──アニメ・実写問わず、小林さんが手掛ける『ジョジョ』の脚本では、オリジナルシーンや脚色が加えられていても、“荒木先生らしさ”が全く損なわれないですよね。

小林:保てていたなら良かったです。荒木先生が描かれる世界観って、ハッキリしているんですよね。制作陣には『ジョジョ』好きな人たちが集まっていますし、その中で作っていきますから、自然と世界観に沿ったものになるんじゃないでしょうか。オリジナルシーンに関しては、必ず先生の許可をいただくようにしているので、それによって、大きく逸脱せずに済んでいるのかなと。

 

 

──逆に、荒木先生とやり取りされる中で、驚いたことはありましたか?

小林:よくありますね。「ここは重要だろう」と思っていた部分が意外と変更OKだったり、逆に「ここにこだわっているんだ!?」と思うことも。

今回の「懺悔室」で言うと、印象的だったのは水尾の“死に方”です。原作と実写で少し変わっているんですよ。やっぱり実写で「首を持って現れる」のは、ギャグっぽく見えてしまう可能性があって……ちょっと『アダムス・ファミリー』っぽいというか(笑)。断面が見えてしまうのもよくないですし、R指定がつくようなことも避けたい。

そこで「首は切りたくない」という話になったときに、荒木先生は“死に方”に物凄くこだわっていて、実際に絵を描いてくださったんです。これまで一度もなかったことなので、驚きました。意外と言っていいのか分かりませんが、ものすごく細かいところまで見ていらっしゃいます。

──最後に、今作の公開を楽しみしているファンへのメッセージをお聞かせください。

小林:ファンの皆さんにとっては待望の映像化ですよね。それが現地ロケで実現している。美しい街で“ポップコーンを投げている”だけで最高だと思います。ドラマからのファンの方には、今回も露伴と京香がしっかり活躍しますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

 
[インタビュー/小川いなり]

『岸辺露伴は動かない 懺悔室』作品情報

岸辺露伴は動かない 懺悔室

あらすじ

漫画家・岸辺露伴はヴェネツィアの教会で、仮面を被った男の恐ろしい懺悔を聞く。それは誤って浮浪者を殺したことでかけられた「幸せの絶頂の時に“絶望”を味わう」呪いの告白だった。幸福から必死に逃れようと生きてきた男は、ある日無邪気に遊ぶ娘を見て「心からの幸せ」を感じてしまう。その瞬間、死んだ筈の浮浪者が現れ、ポップコーンを使った試練に挑まされる。
「ポップコーンを投げて3回続けて口でキャッチできたら俺の呪いは消える。しかし失敗したら最大の絶望を受け入れろ…」。奇妙な告白にのめりこむ露伴は、相手を本にして人の記憶や体験を読むことができる特殊能力を使ってしまう…。やがて自身にも「幸福になる呪い」が襲いかかっている事に気付く。

キャスト

岸辺露伴:高橋一生
泉京香:飯豊まりえ
田宮:井浦新
マリア:玉城ティナ
ソトバ:戸次重幸
水尾:大東駿介

(C) 2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 

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