
TVアニメ『ワンダンス』原作者・珈琲先生、モーションキャプチャを担当する伊折役のYOUTEEさん、壁谷役のYU-KIさん、Shigekixさんにインタビュー|ブレイキン、そしてコミュニケーションとしてのダンスについて語る
2025年10月より放送開始となるTVアニメ『ワンダンス』(原作/講談社『月刊アフタヌーン』連載中)は、ストリートダンスをテーマにした青春ストーリー。4月には、主人公・小谷花木(こたに かぼく)役を内山昂輝さん、ヒロイン・湾田光莉(わんだ ひかり)役を羊宮妃那さんが担当することが発表されました。
『ワンダンス』には、吃音症を抱える高校生・小谷花木(カボ)が、ダンスに没頭する同級生・湾田光莉(ワンダ)との出会いをきっかけに、自分の殻を破り、言葉では伝えきれない想いをダンスで表現していく姿が描かれています。
本作をアニメ化するのは、名門スタジオ・マッドハウスとCG演出に定評のあるサイクロングラフィックスのタッグ。そして、ダンスプロデューサーには世界的ダンサー・RIEHATA氏。作中でも重要な存在となるダンスシーンは、RIEHATA氏監修の下、実力派ダンサー達が実際にパフォーマンスした動きをモーションキャプチャーによって、アニメ化。圧倒的なリアリティを追求していることが伝わってきます。
今回はアニメ化を記念して、原作者・珈琲先生とプロブレイキンチームKOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)から『ワンダンス』のモーションキャプチャダンサーを担当するYOUTEEさん(伊折役)、YU-KI(壁谷役)さん、そしてブレイキン日本代表としてオリンピックにも出場されたShigekixさんの4名にインタビューを実施。
作品への想いや表現としてのダンス、そしてアニメ『ワンダンス』の見どころまで、クロストークで語っていただきました。
距離を置いた経験が強み
ーーまずは珈琲先生に、『ワンダンス』のアニメ化が決まったときのお気持ちをお伺いさせてください。
珈琲先生(以下、珈琲):「本気ですか?」と思いました(笑)。漫画で描くのもめちゃくちゃ大変な作品なんですよ。それをアニメにするなんて……作画が本当に大変だろうなと。実際に制作工程を説明していただいたんですけど、想像以上でした。衣装の揺れやシワ、観客のリアクションまで、全てをモーションキャプチャーで収録していると聞いて、「ここまで手間をかけてもらえるんだ」って。本当にびっくりしましたし、ありがたいです。
ーー珈琲先生ご自身も、もともとダンスをされていたと伺っています。
珈琲:……ちょっとだけ、ですね。こんなにすごいダンサーの皆さんの前で「ダンサーです」なんて言えないレベルですが(苦笑)。19歳くらいで一度ダンスを辞めたんですよ。あの頃は「もうダンスとは無縁の人生になるだろうな」と思っていました。
ーーそこから、ダンスを題材にした漫画を描こうと思われたきっかけは何だったんでしょうか?
珈琲:漫画家になって、でも漫画もあまり売れていなくて。「せっかくなら人生で一つくらい、自分の“集大成”になる作品を描こう」と思ったんです。自分にはダンスの経験と、学生時代に吃音症だったという背景があって、その二つを持っている人間ってなかなかいないと思ったんです。だったらそれを活かして、物語にしてみようと。
ーーそのダンスの経験が、こうして漫画という形で表現されるとは思っていなかった?
珈琲:本当に、思っていなかったです。というか、自分でも「ダンスを漫画にするなんて無理でしょ」と思っていました。でも、「やるしかない」と自分を奮い立たせて、半ば無理やりやった感じです。
ーーそんな中で、今回、実際に活躍するプロのダンサーの皆さんとインタビューを受けているというのは……?
珈琲:めちゃくちゃ不思議な気持ちです。僕がダンスをあのままやっていたとしても、きっとこのトップダンサーの3人には会えなかったと思うんですよ。
Shigekixさん(以下、Shigekix):いやいや、会場で会っていたかもしれませんよ?
珈琲:いやいやいや……。会場で同じ場所にいたことがあったとしても、直接話すような機会はなかったはずです。
ーーダンスと漫画、それぞれ全く違うアウトプットの形ですが、両方をミックスすることで“表現の楽しさ”を感じられているのでしょうか。
珈琲:楽しさ……そうですね。表現としては、おそらく僕しかやっていないことが多いと感じています。あまりやっていないことに挑戦できるっていうのは、やっぱり楽しいですね。
ーーそれはダンスにも言えることだと思うのですが、どうでしょう?
珈琲:特にB-BOYたち(ブレイクダンサー)にとっては“シグネチャームーブ”(自分だけのオリジナルの動き)をすごく大事にしていますから。誰もやっていないようなことを発見したときって、すごく興奮するものなんですよ。
一同:そうですね。
ーーやっぱりそういう世界なんですね。YOUTEEさん、YU-KIさんは、伊折役、壁谷役として作品に直接携わられています。『ワンダンス』という作品に触れたときの第一印象はいかがでしたか?
YOUTEEさん(以下、YOUTEE):第一印象としては、「ダンス経験者も未経験者も楽しめる漫画」と感じました。間口が広い中で、ダンス経験者が“それめっちゃわかる!“確かにそうだよね”って深く頷くようなマニアックな表現も織り込まれていて。本当にいろいろな方に楽しんでもらえる作品だなと。
珈琲:ちなみに、具体的に何かひとつ教えていただけませんか?(笑)どうしても知りたいです。
一同:(笑)
YOUTEE:個人的にすごく好きなシーンがあって。コンテストのシーン(原作第10話)で伊折が「音のこだわりはダンスに出る」といったことを言うんですよね。
僕はDリーグをやりつつ、コンテストにも出ているのですが、やっぱり音楽って一番こだわる部分なんです。ダンスは音楽がなければ成り立たないので、こだわりを持って作っていきます。そのお話の中で、音源の圧縮形式、たとえばWAVかMP3、MP4か……というところまで掘り下げられていたんです。
WAV形式だと音がクリアなんですが、MP3だと圧縮されて音質が落ちるんです。大きな会場で聴いたときにそれが顕著に出るので、やっぱり僕自身、WAVを選ぶのですが……そういう細かいこだわりが描かれていて、「うわ〜、めっちゃわかる!」と思いました。
珈琲:嬉しいです、ありがとうございます。
ーーお二人とも大きくうなずかれていましたね。
Shigekix:B-BOYの中でもYOUTEEはかなりマニアックな人なので(笑)。今の話を聞いていて、確かに“音”に触れているからこそ見える視点があるなと。ダンスを知らない方が読むのと、彼のような人が読むのとでは、同じ作品でも感じ方が全然違うんだなって。
ーー音楽では漫画では直接表現できない部分だからこそ、その他の描写にすごく気を遣うのかなと感じました。
珈琲:正直、「マニアックな人にしか伝わらないかも」と思いながら描いた部分もあります。でも『ワンダンス』は、ダンスを全く知らない人でも読めるし、同時にダンスをめちゃくちゃ好きな人が読んでも納得してくれるような漫画にしたかったんです。そういうふうに受け取っていただけて、本当にありがたいです。
ーーYU-KIさんにも、『ワンダンス』という作品に触れたときの第一印象をおうかがいさせてください。
YU-KIさん(以下、YU-KI):さっきYOUTEEが言ったことに重なるんですが、僕も「ここめっちゃやばいな!」って思った部分があって。(原作第7話で)「“フィーリング”を出すには環境がすごく大事」って描写があるんですけど、僕自身、福岡でずっと練習していて、すごくいい環境だったんですよ。東京に出てきてからはまた違う環境にいるんですけど、それでもやっぱり「環境が人を育てる」と実感することがあります。作品を読んで「自分に置き換えて考えられるな」と思いました。
珈琲:例えば、オーディエンスのリアクションでしょうか?
YU-KI:それもありますし、成長する上で、環境や人って本当に大事だなって。人ってやっぱり、互いに影響し合って成長していくものですよね。
ーー皆さん、本当に深く作品を読み込んでいらっしゃるのが伝わってきます。
YOUTEE:ダンサーには全員に読んでほしいですね。ティッキングという動きが作中に出てきたときに「そこまで描くんだ!」と驚きました。ポップダンスというひとくくりにされがちなんですけど、その中にも、アニメーション、ブーガルー、さらにヒットという技があって、さらにティッキングがあって……。そういうディテールまでしっかり説明されていたのはすごいし、「ヒットってどうやってやるの?」と思っていた人にも伝わる内容になっている。本当に分かりやすいんですよ。
珈琲:ティッキングを見たことある人には「ああ、あれね」って伝わると思うんですけど、知らない人には動きがイメージできないかもしれないですよね。だからそこは「各々、YouTubeとかで見てみてください」と思いつつ描いてます(笑)。
ーー私自身は素人なのですが、視覚的にも伝わりやすい作品になっていると感じました。
Shigekix:そう思います。さっきの話とも少しかぶりますけど、ダンスを知らない方でも理解できますし、僕らみたいな現場の人が読んでもちゃんと楽しめるのはすごいなと。お話を伺っていて、珈琲先生が一度ダンスから離れて、距離を置いた経験があるというのも、むしろ強みになっているんじゃないかと思ったんです。
珈琲:おお……。
Shigekix:ずっとダンスにどっぷりの人だと、こだわりがどんどん強くなって、どうしても内側からの目線で「そっちには刺さるけど、あっちには刺さらない」みたいなものーー外側の人に響かないようなものを作りがちになってしまう気がするんです。でもこの作品は、そのバランスが絶妙なんですよ。
実際僕自身、たとえば映像やCM、プロモーション映像を作るときに「ダンサーが見ても“おっ”と思うもの」を入れたいと思ってしまうんです。でも、そうなると今度は一般の方が引いてしまう場合もある。そのバランスを取るのが大事だと日々感じています。「どこまで攻めて、どこで引くか」のバランス感覚が必要なんです。そういう意味でも、『ワンダンス』は、いろいろな人に届く絶妙なバランス感覚を持っていると思います。漫画として一般の人にどう伝えるか、ダンサーとしてどう刺さるか。その目線というのは、珈琲先生のバックグラウンドが効いているんじゃないかなと。
珈琲:ありがとうございます。Shigekixさん、お話が本当に上手いですよね。
一同:(笑)。
珈琲:オリンピックのときも思ったんですけど、よくこんなに綺麗に喋れるなって。
Shigekix:いやいや、もともと話すのが得意だった訳ではないんですよ。小さい頃はもの静かなタイプで、最初にYOUTEEやYU-KIに会ったときも、今ほど喋る感じではなかったと思います。でも、ダンスを通じて表現する、アウトプットする術を覚えていくと、自然とコミュニケーションにも慣れていったというか。喋る場面でも少し社交的になった気がします。
ーーやはり「表現する術を覚える」という部分が、言葉の面にもつながっていくんですね。
Shigekix:そうですね。ブレイキンやダンスを通じて、自分の思いや考えを“見せつける”ことに対するこだわりや喜びみたいなものを感じたんですよね。最初は「見せるのが恥ずかしい」「否定されたらどうしよう」という気持ちもありましたが、今では「どう思われようが、表現すること自体が素敵」と実感しています。
珈琲:アートもやられていますよね。
Shigekix:そうですね。僕はアートもやっているんですが、そういうところにも影響が出ていると思います。
ーーやってみることで感じる喜びが大事なんですね。
Shigekix:本当にそう思います。どうですか?
YOUTEE:その通りですね(笑)。僕たちはD.LEAGUEという舞台で活動していますが、やっぱりダンスひとつで人を笑顔にできるというのは……自分の場合は、ダンス以外ではできないというか。他のどんな手段でも感じられない魅力だと思っていますし、自分の好きなダンスで、誰かの生活を少しでも豊かにできたら、本当に素晴らしいことだと思います。














































