音楽
夏アニメ『気絶勇者と暗殺姫』OPテーマ「天伝バラバラ」吉乃インタビュー

キーワードは「平成女児アニメ」!? 気鋭の歌い手・吉乃、夏アニメ『気絶勇者と暗殺姫』OPテーマ「天伝バラバラ」の新境地に迫るインタビュー!

2024年秋クールに2本のアニメ作品のタイアップ曲――「ODD NUMBER」(『ひとりぼっちの異世界攻略』OPテーマ)と「なに笑ろとんねん」(『来世は他人がいい』EDテーマ)でメジャーデビューを飾った新進気鋭の歌い手・吉乃が、早くも3曲目のアニメ主題歌を世に放つ。その楽曲が、TVアニメ『気絶勇者と暗殺姫』のOPテーマ「天伝バラバラ」。極度の人見知りで女性耐性がないためすぐ気絶してしまう勇者トトと、彼の命を狙う3人のヒロインたちから成るパーティー一行を描いたハーレムデスラブコメディ作品を賑やかに彩る、ボカロPの柊マグネタイトが書き下ろした懐かしくも新しい1曲だ。吉乃にとっても新機軸となる本楽曲に込めたこだわりについて、本人へのインタビューで深掘りした。

 

ラブコメ×ダークな設定に寄り添った「天伝バラバラ」

──今回でアニメのタイアップは3作目になりますね。

吉乃:ありきたりな言葉になっちゃいますけど、お話をいただいた時はとても嬉しかったです。昨年の10月クールに『ひとりぼっちの異世界攻略』と『来世は他人がいい』の2作品でタイアップを担当させていただきましたけど、やっぱり次があるとは限らないものなので。私の場合、普段使っているSNSがXなので、アニメをリアタイする時はハッシュタグをつけてポストしたりしているんですけど、いろんな方から反応をいただけるんですよね。自分のYouTubeチャンネルのコメント欄を見ていても、海外の方からの反応も増えてきているので、アニメをきっかけに広がりが生まれているのを実感しています。

──新曲「天伝バラバラ」は、TVアニメ『気絶勇者と暗殺姫』のOPテーマになりますが、作品の第一印象はいかがでしたか?

吉乃:原作の漫画を読ませていただいたのですが、とても新鮮でした。ラブコメは昔から好きで、恋愛漫画や少女漫画も読んできましたし、アニメも観ていて、いわゆる“ハーレムもの”と呼ばれる作品にはあまり触れておらず……こう、ちょっと艶やかなシーンをまじまじと見るのが初めてだったので「うおーっ!」ってなってしまいました(笑)。

──しかも本作は、ただのハーレムラブコメではなくて“ハーレムデスラブコメディ”ということで、3人のヒロインが主人公を暗殺しようと狙う“デス”要素が入っています。

吉乃:それも含めて、この先の展開がどうなっていくのか気になりますよね。「天伝バラバラ」は慌ただしいラブコメ要素や、3人のヒロインたちの、かわいくてクールでちょっと艶やかな部分にフォーカスを当てていて。私の中で男性主人公1人に対してヒロインがたくさんいるアニメといえば『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』の印象が強くて、そのOPテーマの「Girlish Lover」というキャラクターソングが大好きだったんですよ。なので、その楽曲のような「わっ、アニメが始まった!」感を出しつつも、自分らしさを表現できる楽曲ということを考えたうえで、ボカロPの柊マグネタイトさんにいろいろお伝えをして楽曲を作っていただきました。

──なるほど。ちなみに吉乃さんは3人のヒロインのうち、どの娘が気になりますか?

吉乃:ええー!どうなんだろうなあ……見た目的には完全にシエルちゃんですけど、やっぱりアネモネさんですかね。

 

 

──アネモネと言えば、キャストの上田瞳さんは『来世は他人がいい』の主人公・染井吉乃役を演じていて、同アニメのEDテーマ「なに笑ろとんねん」を担当した吉乃さんとは再びのご縁となります。上田さんも吉乃さんが本作の主題歌を担当することが発表された時、X(旧Twitter)で反応されていました。

吉乃:今回もご縁がありとても嬉しかったですし、触れていただき光栄でした。以前に『ウマ娘(プリティーダービー)』好きの友達に誘われて、ウマ娘のリアル脱出ゲームに行ったことがあるんですけど、ゴルシ(上田瞳が演じるウマ娘・ゴールドシップ)の声優の方に認知してもらえているなんてとてもありがたかったです。

──アネモネを選んだのは、上田さんが演じていること以外にも理由はありますか?

吉乃:シエルは見た目がロリっぽくて、ゴアは人懐っこそうな感じがするなかで、アネモネはクールなお姉さんキャラで、こういったキャラクターが主人公のトトにどうアプローチしていくのか、とても気になります。私も人に好意をアピールするのが結構苦手で、自分と重ねて見てしまいそうですし、アネモネを参考にしたいなと思います。

──ありがとうございます。楽曲の話に戻りまして、今回の新曲「天伝バラバラ」を柊マグネタイトさんにお願いした経緯は? 吉乃さんは以前にコンピレーションアルバム『PALETTE5』(2022年)で、柊さんの代表曲「マーシャル・マキシマイザー」をカバーしていましたが。

吉乃:そうなんです。以前はこういう形でまたご一緒できるとは想像もしておらず。マグネタイトさんは幅広くおもしろい楽曲を作る方という印象があって、私は「終焉逃避行」という楽曲が特に好きで、さっきお話したラブコメのドタバタ感のあるマグネタイトさんの楽曲を聴いてみたい気持ちがあってお願いさせていただきました。この作品のOPテーマでは、がっつりボーカロイドのような楽曲はちょっと違うのかな、というイメージが自分の中にあって。その意味でもいろんな作風をお持ちの方にお願いしたかったんです。

──吉乃さんから具体的にお願いしたことはありますか?

吉乃:クールでキュートで艶やかという要素以外だと、「平成女児アニメっぽくしてください」ということと、「チャイナっぽさも入れてほしいです」とお伝えしました。単純に私がそういった楽曲を歌ってみたかったというのもあるんですけど、懐かしい感じにしたかったんですよね。MVやジャケットも平成っぽさもありつつ令和感のあるものになっていて、そういう平成カワイイ系のイラストを普段から描かれている「ひみつ」さんというクリエイターの方にお願いしました。目の描き方などがとってもかわいいんですよ。

──確かに曲調も、フューチャーファンクや昔ながらのユーロビートが混ざったような雰囲気があって、懐かしくも新しい印象です。吉乃さんとしては、どんな部分に作品との寄り添いを感じましたか?

吉乃:やっぱりドタバタ感はすごく感じますよね。楽曲のトラック自体もそうですし、歌詞もサビの“天伝バラバラ 幸不幸 輝く雨霰 散って舞って”みたいに、賑やかかつ情景が浮かぶ感じがいいなと思っていて。音もカラフルですし、この作品のオープニングでこの曲が流れている絵がパッと目に浮かびました。

──サビの歌詞でいうと“諦めちゃうにはちょっと早いかもね 手伸ばして もう一度”というフレーズも絶妙ですよね。

吉乃:恋愛の意味でもう一度手を伸ばしているのか、「次は殺ってやるぜ!」みたいな意味で手を伸ばしているのか。どちらにもかかっていておもしろいですよね。その意味では、とてもかわいい曲なんですけど、ちょっと意味深な曲になりました。

 

 

──歌ううえで意識したことはありますか?

吉乃:普段よりはかわいめな声で歌いました。歌い出しの歌詞が“嫌嫌(やーや) もう嫌嫌”なんですけど、“やーや”の時点でこの曲は普段の私の歌い方ではダメだ!と思って(笑)。他にも“はいはい”とか“来来世ばいばい”みたいに同じ言葉を繰り返すフレーズがたくさん入っていて、その語感のかわいさを表現するために、声の出し方も結構変えました。

──ということは、吉乃さんにとってかなりの挑戦になったのでは?

吉乃:「歌ってみた」でいうと、昔、syudouさんの「デイバイデイズ」を男女デュエットをイメージして、男性パートの方はがっつり低い声、女性パートの方は高くてかわいい声で歌ったことがあって。でも、その時は「歌ってみた」という作品だったので、そこに吉乃のアイデンティティは必要なくて、とにかくその楽曲が映えることを意識して歌っていました。「天伝バラバラ」は吉乃としての楽曲になるので、自分らしさを出しつつも、楽曲に求められるかわいらしさは出せたのかなと思います。

──実際、ポップなかわいらしさもありつつ、吉乃さんらしいクールさも感じられるアプローチだと感じました。

吉乃:この曲では声でも「キュートでクールで艶やか」というのを表現したかったんですけど、多分クールは自然にそうなると思ったので(笑)、それ以外の部分は特に意識して録音しましたね。それこそ「なに笑ろとんねん」では要所要所で大人っぽいエッセンスを出して歌いましたけど、「天伝バラバラ」の場合は、四六時中その意識で歌っていて。もっとかわいい声で歌うこともできますけど、でも、それだと吉乃ではなくなるし、現にその部分はヒロインのキャストのお三方がEDテーマのキャラソン(「スキマジカン」)で表現してくださっているので、私は自分らしさもありつつ、楽曲に寄り添うことを意識して歌いました。

──ご自身の中で、特にこだわったポイントがあればお伺いしたいです。

吉乃:サビは流れで歌った方が聴き手も気持ちいいだろうなと思って、自分の今持っているものを出してサラッと歌わせてもらったんですけど、AメロやBメロの少し淡々とした部分、あとは特に歌い出しを気をつけました。この楽曲はイントロもとてもかっこよくて、おもしろそうな楽曲が始まった感がある分、私の歌い出しの“嫌嫌(やーや)”が微妙だったら、そこで聴くのを止めてしまうと思うんです。だからこそ“嫌嫌(やーや)”はフックになりつつも違和感がないように、しっかり耳に残る声質をこだわって録りました。それとこの曲はパートごとに分けて録ったんですけど、それも私はあまりやってこなかったことなので、そういう意味でもすごくチャレンジになりました。

──普段は通しで録ることが多いんですね。

吉乃:レコーディング環境の変化として、前までは結構セルフレコーディングで歌を録ることが多かったんですけど、最近はA&Rの方と一緒にスタジオに入って歌録りをさせていただいていて。私の場合、1人で作業していると結構煮詰まってしまうことが多いのですが、そんな時に客観的なアドバイスをもらえるので、すごく勉強になっています。ただ、私はこだわりが強いので、ひとつのブロックに対して20テイクくらい録って、そこからどのテイクを使うか選ぶ作業も発生するので、時間がかかって……A&Rとエンジニアの方には本当に申し訳ないなと思いながら作っています(苦笑)。

──今回の「天伝バラバラ」もそれだけこだわりを持って作られたということですね。ちなみに、このユニークな曲名にはどんな印象をお持ちですか?

吉乃:勇者パーティーのてんでんばらばらな感じにピッタリでおもしろい曲名ですよね。実は元々「テンデン」だったんですよ。後から「天伝バラバラ」に変更しました。覚えやすいですし、個人的にもお気に入りのタイトルです。

 

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