『星つなぎのエリオ』に込められたディズニー＆ピクサーの哲学。「コミュニバース」誕生秘話とSF作品へのオマージュ【制作陣インタビュー】

「キモかわいい」の魔法

ーー日本では「キモかわいい」（不気味だけどかわいい）というジャンルが人気です。物語を通して、グロードンがどんどん可愛く見えてくるのは、まさにピクサーの魔法だと感じました。

ドミー・シー（監督）：グロードンの魅力の秘密は、オリジナル版の声優を務めたレミー・エジャリーの声にあります。これはエイドリアンによる、素晴らしいキャスティングでした。とてもキュートな声と少し怖いエイリアンの見た目という組み合わせによって、不気味さと可愛らしさが絶妙に同居しています。

アメリカでは、先に役者の声を収録するのですが、私たちはレミーに「自由に遊んでみてください」とお願いしました。例えば、グロードンが泣くシーンでは、彼には目がないので口から涙を流すのですが、その音をどう表現するか。彼は水を口に含んでみたり、様々な音の出し方を試してくれました。

アニメーションの素晴らしいところは、多様なテイクを後から組み合わせ、キャラクターの魅力を最大限に引き出せる点です。もちろん、アニメーターたちの力も大きいです。彼らは多くのアニメーションテストを通して、グロードンの個性や少し生意気なところを見つけ出してくれました。監督陣も常に「もっとブルブルさせて」「もっとぽっちゃりと」といったフィードバックを送りつつ、「心は子供なのだから、好奇心を忘れないで」と伝えていました。

ーーエリオとグロードンの友情に加え、親代わりである叔母オルガとエリオの関係性の変化も本作の重要な要素です。

ドミー・シー（監督）：私たちは、これまであまり描かれてこなかったような、新しい形の家族関係を描きたいと考えています。当初、オルガは母親という設定でしたが、両親不在の状況にすることで、エリオの孤独感がより一層明確になりました。

また、叔母という設定によって、物語の結末が予測しづらくなると思うのです。もし母親であれば、観客は「最終的に母親の元へ戻るだろう」と自然に考えるかもしれません。しかし、叔母であれば、彼の最後の選択がどうなるのかは分からなくなるのではないかと。

私が過去の作品（『私ときどきレッサーパンダ』）から学んだのは、どんな口論にも必ず双方に言い分があるということ。エリオとオルガが激しく衝突するシーンでは、その激しさを隠さずに描きつつ、なぜお互いが不満を抱えているのかについても、しっかりと見えるように描いています。そうすることで、喧嘩をしている双方に共感し、「仲直りしてほしい」と応援してもらえるようにしたかった。物語の冒頭で二人の絆は壊れていますが、宇宙への壮大な旅を経て、彼らは再び絆を見つけ出すのです。

「コミュニバース」に込められたテーマ

ーー物語の舞台として、主人公が特定の惑星を訪れるのではなく、様々な星の代表が集う「コミュニバース」という場所を設定した理由を教えてください。

メアリー・アリス・ドラム（制作）：かなり初期の段階からあったアイデアです。今回の物語はある種の“願望成就”であり、エリオにとっての宇宙は「最高に素晴らしい場所」でなければなりません。そこで、多様な背景を持つエイリアンたちが一堂に会する場所というアイデアは非常に面白いと思いました。

孤独を抱えたエリオにとって、全く異なる種族が仲良く共存している場所を見ることは、大きな意味を持ちます。「違っていてもいいんだ」「違いを乗り越えて一つになれるんだ」ということを感じられるからです。これは『モンスターズ・インク』や『トイ・ストーリー』のように、多様なキャラクターたちが共に世界を築くという、ピクサーが描き続けてきたテーマにも通じています。

ーー「コミュニバース」のエイリアンたちは、姿形も生態も全く異なるように見えます。

ドミー・シー（監督）：それぞれのキャラクターに、詳細な経歴や故郷の惑星に関する設定があります。実は彼らが自身の背景について語るセリフなど、カットされた部分も多いのです。

しかし、映画を観ていただければ、彼らの背景を垣間見ることができるはずです。例えば、大使たちが逃げようと荷造りをするシーンでは、ヘリックスが家族の写真を持っていく様子が映ります。彼ら一人一人に物語があり、いつかその全てを皆さんと分かち合えたらと願っています。

ーーこの映画を通して、観客にどのようなメッセージが伝えられたと感じていますか？

マデリン・シャラフィアン（監督）：最も多く聞かれた感想は、「エリオの気持ちに強く共感できた」というものです。やはり、孤独感や「うまく馴染めていない」という感覚は、誰もが持ちうる普遍的なものなのだと改めて感じました。

この物語では、すぐ隣にいるにもかかわらず、お互いが手を差し伸べないために、そこにあるはずの深い絆に気づけず、孤独を感じてしまう姿も描いています。自分とは違う他者に対しても、受け身になるのではなく、自ら手を差し伸べることが大切だというメッセージが、観てくださった方々に伝わっていれば嬉しいです。

[インタビュー／小川いなり]

『星つなぎのエリオ』作品情報

8月1日（金）全国劇場公開
配給：ウォルト・ディズニー・ジャパン

あらすじ

ディズニー＆ピクサー史上最も“やさしい”感動につつまれる物語。

ひとりぼっちの少年・エリオは、一番の理解者の両親を失った寂しさを抱えて、大好きな宇宙にいつも思いを馳せていた。

「この広い世界のどこかに、“本当の居場所”があるはず」彼の切ない願いが届き、星々の代表が集う夢のような“コミュニバース”に招かれる。そこで出会ったのは、同じように孤独なエイリアンの少年・グロードン。「そのままの君が好きだよ」―心を通わせる彼らに迫る、“星々の世界”を揺るがす脅威。

それを救うカギは、孤独なふたりが交わした“ある約束”にあった—。