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劇場アニメ『不思議の国でアリスと』篠原俊哉監督にストーリー・映像・音楽のこだわりを聞く

劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』篠原俊哉監督に聞くストーリー・映像・音楽のこだわり|「お茶会のシーンで床が斜めになっていく映像と音楽がシンクロしていて音階がちょっとずつ下がっていくんですよ」

ルイス・キャロルの名作「不思議の国のアリス」を日本ではじめて映像化したアニメ映画『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』が、2025年8月29日(金)から全国の劇場で公開。本作は、人生に迷う大学生の安曇野りせが、亡き祖母が遺した招待状に導かれて、”不思議の国“へと入り込んでしまう物語。彼女はそこでアリスという少女と出会い、一緒に旅をすることになります。次々に出てくるへんてこりんな住人たち。そして、巻き起こるハチャメチャな大騒動。アリスとめぐる冒険のなかで、りせはどんな未来を選ぶのでしょうか。

アニメイトタイムズでは、監督の篠原俊哉氏にインタビュー。ストーリー・映像・音楽それぞれのこだわりや、監督自身の大学生時代のお話についてもお聞きしました。「世間を舐めていた」という監督が、アニメ業界に入って痛感したこととは……。

 

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誰かに届く言葉は直接的なものじゃなくて、その人自身が自ら近づいていけるようなもの

──監督は「不思議の国のアリス」にどんな印象をお持ちでしたか?

篠原俊哉監督(以下、篠原):僕はもともと児童文学が好きで色々と読んできたのですが、この作品はかなり早い時期に子どものために書かれた小説ですよね。1865年刊行ですから、当時は童話というくくりはあっても、純粋に子供に楽しんでもらう目的で書かれたものはまだほとんどなかったんじゃないかと思います。そういう意味で現代的な児童書のスタート地点に立つような作品であると思います。

 

 

──それはそれでひとつの文学なのかも。

篠原:隙間がたくさんあるから「不思議の国のアリス」を題材にした色々な作品が後世生まれたのかなと。ある種、同人誌の元ネタみたいな感じかもしれないです。

──物語に想像の余地がたくさんあるというか。

篠原:そうですね。

──そんな「不思議の国のアリス」を日本ではじめて映像化した本作。制作していくうえで大切にしたこと、意識されたことを教えてください。

篠原:たくさんありすぎて何をお話するか迷ってしまいますが、いちばんは面白い作品にしたいなぁということ。面白いというのは主観的で漠然とした言葉ですけど、とにかく面白いものにしなきゃということは常に意識していました。あとは色々と隠しテーマを忍ばせてはいますが、それが主張しすぎないように注意しました。

 

 

──隠しテーマを忍ばせているんですね。

篠原:そうですね。さらっと表面だけ見ても面白いけれど、ちょっとレイヤーを変えてみたときにも違うものを受け取ってもらえる作り方というのは、いつも意識していることです。とは言え、誰かに届く言葉って一方的に放出するだけではダメで、受け取る人自身が自ら近づいていけるようなものだと思うんです。
若い人たちにオヤジが説教っぽく色々言ったって、言葉は届かないじゃないですか。「うるせえよ」って。僕自身も、若い頃はそう思っていましたし。ですから、一方的な押し付けにならないバランスや、ギミックをどう仕込むかというのは、本作を含めて作品を作るときにはいつも意識しています。

 

アニメの主人公としては、エッジがまるでない子に

──脚本担当の柿原優子さんとは、どのようなやり取りをされましたか?

篠原:柿原さんとは何度も一緒にやってきて、作品について気になることを気兼ねなく話せるので、いつもと同じようにやっていました。ただ、本作に関しては主人公のりせをどういうポジションの子にするか、或いはりせの現実での悩みをどうワンダーランドに反映させるか等で悩んで、なかなか物語がうまく転がらなかったんです。ちょこまか性格を変えたり、設定を変えたりということを繰り返してしまったので、だいぶご面倒をかけてしまいました。

──りせは「失敗しないように空気を読んでるはずなのに、みんなと同じようにやってるのに、なんでうまくいかないんだろう」と、人生に悩んでいる大学生です。ただ、その悩みって実はわりと普遍的なものというか。誰しもが持っている悩みに近いのかなと感じています。

篠原:ただ、そうなるとアニメの主人公としては、エッジがまるでない子になっちゃうんですよね。

 

  

──ヒーロー・ヒロインとしては尖りがないというか。

篠原:そうですね。アニメって基本的にはエッジの尖ったものを描く方が適しているメディアじゃないかと思うんです。逆境に負けないパワフルな人、意志の強い人、とにかく前を向いて進んでいく人…そういう人が果敢に困難に立ち向かい克服する、そういう物語が共感を呼びやすい。でも僕はそっちの畑はあまり得意ではなくて。むしろ、人の持っている脆い部分とか弱い部分を前に出す作品のほうが好きなので、「こういう主人公はオレがやるしかねえ」という気持ちがありました(笑)。

──なるほど(笑)。映像の面ではいかがでしょうか? 見せ方で工夫している点などぜひ教えてください。

篠原:自分がアニメーター出身ではないというのもありますが、描き絵の面白さを生かした絵作りよりも実写的なレンズを意識した絵作りが好きなんです。レンズって同じ被写体を捉えていても焦点距離や画角を変えるだけで、心象も含めて印象が大きく変わってきます。これまでも光と影の使い方だったり、露出や被写界深度等カメラレンズ的な効果を利用して主人公の感情に結び付ける絵作りを意識してきました。

──なるほど。

篠原:本作ではワンダーランドの感覚的な柔らかさ・温かさを表現するために、水彩画タッチをベースに置いたのですが、水彩画ってレンズ的な表現と必ずしも相性がいい訳ではないんですよ。どうやってその折り合いをつけていくかは、自分的にひとつの挑戦でした。

 

 

──個人的には音楽もすごく印象的で。音楽でひとつの物語を紡いでいるような感じがありました。音楽の面ではどういうリクエストをされましたか?

篠原:基本的にりせの心情に寄り添うこと。走ってる時に疾走感のある音楽を付けるのでなく、どういう気持ちで走ってるかを重視するということですね。コトリンゴさんの音楽、とても素敵ですよね。適度なファンタジー感とあたたかさが心地よく、音色のチョイスも素晴らしかったです。例えば終盤近く、透明になったりせが「寂しい」とアリスにこぼすカットのバックでアコーディオンの和音が鳴りますが、それがため息のように聞こえるんですね。りせの心情を見事に表現していて、一種の感情の増幅装置になっていました。

──確かに、ストーリーと音楽がシンクロしていたと感じました。

篠原:面白いなと思ったのは、お茶会のシーンで床が斜めになっているところ。木管で奏される持続音の音階がちょっとずつ下がっていくんですが、これ楽譜上では視覚的に傾いた床のように見えるんじゃないかと。

──楽譜を見ても楽しいかも。

篠原:かもしれないです。ご本人には伺ってませんけど(笑)。コトリンゴさんとは1曲ずつ綿密な打ち合わせをしましたが、ラフの段階での音源を作曲の都度送ってくださって、それに対してこちらがリアクションを返す、という贅沢な進め方ができました。こういうやり方は初めてだったので、新鮮でしたね。

 

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