私が表情に乗せきれていなかった佐藤の想いをずっと滲ませてくれるんです──『笑顔のたえない職場です。』佐藤 楓役・雨宮 天さん×原作・くずしろさん対談インタビュー

くずしろ先生が描く“ワーキングガールズコメディ”『笑顔のたえない職場です。』（講談社「コミックDAYS」連載）がTVアニメ化！　2025年10月6日（月）よりTOKYO MX・AT-Xほかにて放送中です。

漫画業界を舞台に繰り広げられる本作は、すべてのはたらく人が共感、親近感を持つことができる優しく、温かい物語。笑えて、熱くて、ちょっぴりラブ!?　キャラクターたちが織りなす“漫画家ライフ”に注目が集まっています。

アニメイトタイムズでは本作をより深く楽しむためのインタビュー連載を実施中です。第3回となる今回は、主人公・双見奈々（CV：夏吉ゆうこ）の担当編集である佐藤 楓役・雨宮 天さんが登場。前回、前々回に引き続き、原作者・くずしろ先生との対談が実現しました！

雨宮さんが“たった二文字”に込める愛。そしてくずしろ先生が涙した「声優・雨宮 天」の凄さとは？　“くずしろ流・癒やされ術”も飛び出した、アニメ振り返りインタビューをお楽しみください！

「『これだけは絶対伝えよう』と思って来ました」

──先ほど、くずしろ先生（ぬいぐるみ）と一緒にお写真を撮影させていただきました。先生と触れ合ったご感想はいかがでしたか？

佐藤 楓役・雨宮 天さん（以下、雨宮）：まずサイズ感に驚きました（笑）。本当にずっと触っていたくなるような心地良さでしたね。

実は普段から、先生（ぬいぐるみ）より一回り大きい、似た材質の丸い抱き枕を抱いて寝ているので、ちょっと“お布団感”があって。家のお布団に帰ってきたみたいな感覚がありました（笑）。

──先生も撮影の様子をご覧になっていましたが、いかがでしたか？

原作・くずしろさん（以下、くずしろ）：もう幸せでしたね……！

雨宮：（雨宮さんの横に鎮座する先生のぬいぐるみを見て）今、ここから声がしている状況なんですね（笑）。

──そうなります（笑）。それでは、本作へのご出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。

雨宮：とにかく「やりたい！」と思っていました。というのも個人的な話ですが、作品や登場する色々なキャラクターと重なることが多いと感じていて。

今のお仕事に憧れて、好きで、やりたいと思いながら日々を過ごしていますが、本気だからこそ壁にぶつかることも多いんです。自分の実力不足や進んでいく中で選択に迷うこともある。もっとお仕事がしたい気持ちはあるものの、その気持ちにメンタルが追いつくかわからない……などなど、色々なことを考えて葛藤しながらお仕事をしています。

例えば、双見は自己肯定感が低くてネガティブなキャラクターですが、昔の私はまさに彼女のような性格だったんです。先輩が話しかけてくれたときも「失礼なことを言ったかも……」と落ち込んで、泣きながら帰ることもあって。

もちろん佐藤という役を演じたい気持ちもあったのですが、それ以上に「この作品に関わりたい」という想いが強かったので、出演が決まってとても嬉しかったです。

──先生は、雨宮さんが演じる佐藤 楓の声を初めて聞いたときは、どのように感じましたか？

くずしろ：初めて聞いたときから、もう「佐藤」でしたね。雨宮さんがご出演されている他の作品を見ていても思うのですが、特別に声色を変えているわけではないのに別のキャラクターになっているといいますか。

「雨宮さんの声」だとわかるのに中身が違うんですよね。例に漏れず、ウチの佐藤もインストールして演じていただきました。

しかも私の想像を上回る表現をしてくださって！　初めて演技を聞いたときの感想ではないのですが、最近改めて気付いた雨宮さんの凄さがあるんです。ちょっと語ってもいいですか？

──ぜひお願いします！

くずしろ：第1話で、双見のネームを見た佐藤が「いいんじゃない？」って言ってくれるシーンがありましたが、大前提として、私にとって「いいんじゃない？」は褒め言葉ではないんです。

「OKだよ」というニュアンスの言葉は「商品として一定のラインを超えた承諾」の言葉であって、褒めているわけではない。だから双見も褒められたとは思っていなくて、そのあと浅倉（栞 CV：佐伯伊織）に「佐藤から褒められたことがない」と愚痴を言う。

そのシーンのアフレコで皆さんの演技を聞いたとき、双見の「一回も言われたことない……」というセリフだけがどうしても引っかかったんです。夏吉さんの演技は素晴らしいのにどうして……と考えていたのですが、佐藤自身も褒めている自覚がない「いいんじゃない？」に、双見への信頼や「ネームが面白かった」という気持ちが滲んでいるから、（雨宮さんの演技を）聞いていると褒め言葉のように感じるんですよ。

「佐藤は無自覚だけど褒めてるよ、双見！」って（笑）。雨宮さん演じる佐藤は、そんなニュアンスを含んだセリフが本当に多くて。私が描ききれていなかった、表情に乗せきれていなかった佐藤の想いを、雨宮さんはずっと滲ませてくれるんです。

雨宮：ありがとうございます……！　嬉しすぎて鳥肌が立ってます！（笑）

くずしろ：近所を散歩していたとき、この凄さにふと気がついて一人で泣いてしまいました（笑）。「あー！　雨宮 天ってスゴいんだ!!」って。……すみません、感極まって呼び捨てしてしまいました……。

雨宮：えぇー！　とっても嬉しいです……！

くずしろ：今日は「これだけは絶対伝えよう」と思って来ました。

雨宮：役作りとしては、やはり原作から受け取ったものからしか作れないんです。今おっしゃっていただいた私の佐藤は、先生が描いた佐藤を読んで感じたことを表現させていただいた結果だから……なんというか、“両想い”ですかね！（笑）　本当に嬉しいです！

くずしろ：（笑）。大前提として自分が今より漫画家として力不足で拙い作品を描いていたことは否めないのですが、私は新人の頃、「いいんじゃない？」を言われすぎて「これは褒め言葉じゃない」と感じたことが多くて。「いいんじゃない？」と言われつつ、実際にはダメ出しが多かったり全没だったり……「時間がないからこれでいいんじゃない？」を浴びまくっていたんですよね。あの頃の双見のように、なかなか漫画が上手くいかずにドロドロに腐っていた私が欲しかった、編集からの「いいんじゃない？」はこれだったのかぁ……と思っていました。

雨宮：先生からそう言っていただけるなんて嬉しすぎる……！　どうしよう（笑）。

くずしろ：本当に良い声を当ててくださってありがとうございます。これを伝えられたので、今日は満足です（笑）。

雨宮：（嬉しくて）今日は眠れなくなっちゃうかも！

──先生から直接レスポンスをいただける機会も貴重かと思います。

雨宮：本当に！　でも、先生は本当にお忙しいのにアフレコ現場にも来てくださって。しかも帰り際に「ここが良かったです」「ここに感動しました」と言葉にして伝えてくださるんです。あんなにたくさんの回でアフレコに来てくださることも難しいのに、毎回言葉を尽くして愛を伝えてくださいました。

……でもさすがに今のお言葉は大打撃でした（笑）。幸せ大打撃です！

──（笑）。雨宮さんが佐藤 楓としてアフレコに臨むまでの準備や心構えについても教えてください。

雨宮：物理的な準備で言うと……ちょっと恥ずかしいのですが、とにかく原作の佐藤のセリフを声に出して読んで、自分の中でしっくりくるまで繰り返しました。

漫画を読んでいると頭の中でキャラクターの声がすることがあると思いますが、それを自分の声に置き換えていく作業ですね。録音して確認して「私の考える佐藤のトーンじゃない」「これだとさすがに愛情が伝わらないな」と、試行錯誤をしていました。

クールで、それほど大きく表情が変わらないところも佐藤の魅力だと思うんです。だからこそ、じわっと気持ちが滲む瞬間やシチュエーションによって熱くなるギャップを大切にしたかった。出し過ぎない中に滲む温度感を大事にしました。大人っぽいけれど、どこか愛嬌のある不器用感といいますか。

──第1話終盤、アポなしで双見の家に訪れた佐藤の「来ちゃった」も印象的でした。

くずしろ：「来ちゃった」、めちゃくちゃいいんですよ!!　どうしてあの「来ちゃった」が出せるのかがわからない……!

雨宮：ありがとうございます（笑）。あのセリフは、あざとさが出てしまうと佐藤の魅力から外れてしまうなと思っていました。

佐藤は長く話すわけではなくシンプルな言葉で気持ちを伝えるキャラクターなので、難しさもあって。双見への距離感や佐藤が持っている情報量を、短いセリフの中に込めるのは難しかったのですが、こだわって演じさせていただいたのでお褒めいただいて嬉しいです（笑）。

──改めて、先生が思う雨宮さんの「来ちゃった」の魅力をお聞かせください。

くずしろ：もちろん褒め言葉として、本当に意味がわからないんですよ。

雨宮：（笑）。

くずしろ：あざとくないのに、とぼけた可愛さが残っているけれども佐藤が真面目なのがわかるし……どうしてあの「来ちゃった」が出せるのかが本当にわからなくて、すごいなぁと（笑）。

雨宮さんは私の想像を遥かに超えてくるんですよね。これから放送される回でも、ちょっとしたセリフに雨宮さんの優しさやねぎらい、ほかにも色々な感情が入っているのを感じるといいますか。その一言を聞いて私、そのシーンを“一ページぶち抜き”で描いたような気になってしまって（笑）。

雨宮：褒め言葉すぎます！（笑）

くずしろ：「あれ、原作ってこんな感じだったっけ？」「え、こんな良いセリフだったっけ？」って（笑）。

他のキャストさんも、アフレコ現場で「感想を伝えてくれた」と言ってくださるのですが、言いたくなるんです、オタクだから！　「あれ、やべえよ！」って（笑）。

雨宮：このインタビューの録音データがほしいです（笑）。