
作家・宮田俊哉が苦しみながらも物語を作り続ける理由。血肉を分け与えたキャラクターたちがロンドンを舞台に挑戦する。ライトノベル『境界のメロディ2』発売記念インタビュー
音楽を心底楽しむロンドンのストリートミュージシャンたち。「サムライアーがここにいたら、きっとおもしろい」
――執筆は、どのように進みましたか。
宮田:やっぱり経験しないと書けないなと思って、スケジュールを調整してもらいロンドンへ行きました。2泊4日の弾丸日程だったんですけど、いろんな所へ行って、いろんな景色を見て、目を閉じて音を聞いたり、匂いも感じて、ここにどんな音が聞こえたら素敵かな、と想像してみたり。実際に行かなかったら書けなかった1冊だなと思っています。
実は、ロンドンへ行っても自分の中に何も生まれなかったら、「無理です」って執筆を断ろうと思っていました。そもそも取材旅が初めてですし、行ったとしてもインスピレーションが湧かないかもしれない状態で。それがロンドンに着いたら、本当にたくさんのストリートミュージシャンがいて……50人、60人も観客を集めている方もいれば、ラジカセで音楽を流しながらマイク1本で歌っている方、中には信号の音が聞こえないくらい爆音でキーボードを弾いている方もいる(笑)。
売れたいとか、ここを足掛かりにデビューするぞといったモチベーションの方だけじゃなく、“俺は歌うのが好きだから、歌っているんだよ”といった雰囲気の方もすごく多かったのが印象的で、現地ならではの素敵な文化だと思いました。
みんな自由に音楽を楽しんでいて、 “あ、ここにサムライアーがいたらすごくいいな”と思ったんです。この中にサムライアーみたいな“俺たちはここのナンバーワンになる”と意気込んでいるヤツらがいてもいい、誰がいてもいい。そう思ったら、すごくインスピレーションが湧いてきて、ホテルや帰りの飛行機で書き出しましたね。
――サムライアーとカイによく似た青年(第2巻に登場する新キャラ)が出会う橋のシーンはとても印象的ですが、他にも刺激を受けたスポットや、影響を受けた場所はありますか。
宮田:青年と出会う橋は、たまたま通った橋だったんです。必ず訪れたいと思っていたのは、ストリートミュージシャンやパフォーマーが集まるピカデリー・サーカスや、有名なアビイ・ロード。楽器店が集まるデンマーク・ストリートでは、日本製の楽器もたくさん並んでいて、実際に行かなければわからないことも多かったですし、すごく刺激を受けました。
訪れた場所の写真を撮って、メモったりもしたんですが、それよりも帰国したときに覚えてることをもう1度書き出しました。自分の記憶にちゃんと残っていること、印象深かった場所こそが大事な気がして。
――そんなロンドンを訪れるサムライアーの3人・タケシ、マコト、ミノルは、第1巻でそこまで深く描かれていませんでした。彼らを軸に物語を作るうえで、掘り下げた部分や、追加した設定はありましたか。
宮田:自分の中で構想はあったんですよね。僕は冨樫義博先生の作品が大好きなので(笑)、事前にキャラクターの設定を作り込むという先生の手法を踏襲して、前作の時点でサムライアーの面々のことを考えていたんです。
――ではそのときの構想から3人の描写を?
宮田:ベースはそうなんですが、ちょっとだけ変えたくなっちゃったところもあって……ミノルを酒豪キャラにしたくなったんです(笑)。オレンジジュースとか飲んでいたらカワイイなと思って、1巻ではそういう描写がありましたが、一番酒に強いキャラでもあってほしかったので、酒豪キャラにしました(笑)。
――新キャラクターの青年はどうですか。
宮田:サムライアーが旅立った先でカイと瓜二つの人物と出会ったらどうなるんだろう?というアイデアだけが、今作の執筆の軸としてありました。(第1巻の)お渡し会で会場を回っているとき、移動のタクシーの中で編集さんにそんな話をしたことを覚えています。
宮田さんの経験が登場人物へ投影され、リアルな悩みと成長を生み出す
――改めて、第2巻の執筆を振り返ってみていかがですか。
宮田:第1巻では(亡くなったはずの)カイがキョウスケの前に現れるという、劇的な、大きな変化を描きました。第2巻で描いたのは、第1巻の葛藤とは種類も違って、僕が経験してきた気持ちや悩みを、登場人物たちにちょっとずつ分け与えています。それこそ、どんなインタビューでも言葉にしてこなかったようなことを、彼らが言ってくれているような。
僕はアイドル活動初期の頃、想像していたような華やかな衣装を着られなかったので、周りに圧倒的すぎるスターがいると“僕はサポートメンバーのように見えるんじゃないか、それは嫌だな”と思ったこともありました。
サムライアーのメンバーはタケシのカリスマ性に対して同じように感じていて、それまで言葉にはしなかったけど、青年の指摘に「あっ……」と気づかされる。そんな、小さなことのようで、本人にとっては大きな変化を描けたらなと思ったんです。
また、今までやりたいことを実現してきたミノルは、何でもこなせるが故に苦労をしたことがなく、自分には個性がないと悩んでいると思うんです。僕の周りにも、アイドルって歌もダンスもバラエティもできて、それって本来すごいことなのに、周囲も同じようにできるから自分の個性に紐づかない、そんな悩みを抱えている人がいます。きっと、タレントをはじめ、表に出る人はこの悩みが絶対にあると思います。
デビューすると戦う相手が変わる、というのもリアルなところで、“何が何でもデビューしてやるぞ”とがむしゃらにがんばって、やっとデビューして一歩外の世界へ出てみると、そこはとんでもないスターだらけの世界。競い合うにはキャリアも全然違うし、“これはもう無理だ”と思う瞬間があって、そこから同じ土俵に立つんじゃなくて、自分のスタイルを模索し始めるんです。
それがデビューするってことだと僕は感じたし、サムライアーも同じような気持ちを味わっているんじゃないかと思います。
――そこから抜け出す答えを、宮田さんは見つけたんですね。
宮田:何でもやらなきゃいけないし、そのうえで自分の個性を見つけなければいけない。今は世間のみなさんが“宮田=アニメ好き”という印象を持ってくださっていると思うのですが、そうなるまでに10年くらいかかりました。自分が高校生くらいの頃からずっとアニメが好きだと発信していたけど、「アニオタの人だ」って言ってもらえるようになったのは、20代半ばを過ぎた頃だったから、10年くらいかかりました。
こんなに年月がかかると思っていなくて、もっと早くいろんな人が僕のことを知ってくれると思っていたけど、全然そうはいかなかった。だからきっとサムライアーも、この先10年、まだもがくんじゃないかなって思っています。
――創作活動を続けていると、エンタメ作品の見え方、楽しみ方は変わりましたか。どうしても作り手目線で見てしまうような。
宮田:幸せなことに以前と変わらないんですよ。純粋にエンタメを楽しめてます。声優さんのライブだったり、アニメを観たり、普通のオタクとして刺激をもらっています。オーディションに落ちた作品でも、オンエアされたら「これおもしろいな!」と観れちゃいます(笑)。
――宮田さんもオーディションを受けるんですか!?
宮田:オーディションはめちゃめちゃ受けて、めちゃめちゃ落ちてます。でも落ちた作品の放送を観て「これおもしろいな……あれ、これ僕がオーディション落ちた作品だ」と思い出したことも(笑)。
――オーディションを落ちた作品は観られない、という話はよく聞きますが……。
宮田:けっこうみんな言いますよね。先日もそういう話になったけど、いや僕全然楽しめちゃうんだよな、みたいな(笑)。でも、ライブとかの方が作り手目線で見ちゃうかもしれないです。ずっとやってきてるから、「もう半歩前出た方が照明きれいに当たるのに」とか。
(C)Iqura Sugimoto 2025










































