
一番大変だったのはアラバキ!? 巨大怪物体のオーディション! シンカリオンにプロレスをさせる苦労など今だから話せる『シンカリオン』プロジェクトのCGのないしょ話|山野井 創さん×滝田 勇介さん×久能木 亮さんロングインタビュー【シリーズ10周年記念】
歴代で一番大変だった巨大怪物体orアンノウンは?
──シリーズを通して相当数の敵キャラが登場しましたが、ファンの方からこんな質問を頂いています。
描くのに苦労した巨大怪物体orアンノウンはなんですか?
(無課金兄さん さん)
山野井:富士山で戦ったやつかな。
久能木:アラバキですね。
滝田:もうダントツでアラバキがきつかったですよね。
──皆さんが声をそろえるほどアラバキは大変だったんですか?
山野井:でかいし、妙に光って触手があって動きまくるし。
滝田:データ上も重いですし。
3人:あー(笑)。
山野井:アラバキはレンダリング(3D空間に作成したモデルや照明、カメラなどの情報を計算して、2Dの画像や映像に変換する作業)のコストが凄く高いんです。なんでこんなデザインにしちゃったんだろうって思いながら見てました。
滝田:しかも、アニメーションをつけると、CG演出の大畑さん(大畑 晃一さん)から「もっとでかく!」「もっと迫力が欲しい!」って言われたりして(笑)。
──個人的にはヴァルドルも大変そうかなと思ったのですが。
山野井:ヴァルドルは人型のメカだから、そんなに大変じゃないです。アラバキのように触手が動いたりする方が大変なんです。
久能木:人型であれば普段からCGアニメでも触ることが多いので、あまり意識せずにアニメーションを作れます。ただ、アラバキのような特殊造形に関しては、答えがないというか何を参考に動きを作ればいいのか悩むことがあるんです。
触手の動き自体は作れたとしても、カメラで捉えた時に何本も動いていると邪魔になったりするので、そういったバランスを取るのもすごく難しかったですね。
──それで言うと「ダークシンカリオン ケンタウロスモード」のように下半身が馬で上半身は人型といった組み合わせだと、2体の生物として分けて考えなければならないから大変だったりするのでしょうか?
滝田:ボーン(CGを動かす際の骨のようなもの)の構造としては下半身の馬と上半身の人で2体分が入っているので、それぞれ別々に動かせるような機構は備わっています。ただ、四つ足は結構大変だから嫌ですね(笑)。
──四つ足以上の多足系だと、例えばマイティクラブのようなカニ型の場合、やはりリアルなカニの動きを参考にしてアニメーションの動きをつけますか? それとも自分の頭で想像したカニの動きをつけていますか?
久能木:参考として本物の動きを見たり、取り入れることは絶対に意識しているので、頭の中の想像だけで動きをつけることは基本的にないです。ただ、アニメに落とし込んだ時にリアルすぎてちょっと気持ち悪くなったり、アニメには合わない動きというのも存在するので、そこはアニメーターが上手く調整する部分ですね。
実はレンダリングコストが高い地下整備場
──アラバキのレンダリングコストが高いという話がありましたが、『シンカリオン』シリーズのCGシーンのレンダリングにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
山野井:ものによりますが、どちらかというとレンダリングコストが重いのはシンカリオンや巨大怪物体とかよりも「BG(背景)」だよね。
滝田:BGは重いです。
山野井:BGの中でも捕縛フィールドやキャプチャーウォールはそうでもなくて、地下整備場が重いです(笑)。よく見るとフォークリフトやコンテナが置いてあるんですけれど、それら全てにリグ(3Dで作ったものに動きを付ける際の仕組みやコントローラー)が仕込まれているので、モデルの情報量が半端じゃなく重いんですよ。
それだと全く運用ができないので、社内の工藤(BGモデリングディレクター)が色々なものを削除して軽くしました。それでも地下整備場は、1コマ10分ぐらいはレンダリングの時間がかかるのかな。
久能木:地下整備場にシンカリオンを置いてレンダリングしようとすると更にかかります。
滝田:オクルージョン(物体同士が近づいたりして光が遮られることで生じる影のこと。物体の凹凸がよりはっきり見えるようになる)が多くて、時間がかかるんですよね。
久能木:背景に置くシンカリオンのモデルもそうですけど、1つのBGをCGソフトがレンダリングするには「素材1個にかかる時間×個数」分のレンダリング時間が必要になるんです。
レンダリングスピードが速い素材も存在するんですけど、オクルージョンはすごく時間がかかるので、地下整備場のレンダリングコストが一番重かったのは間違いないですね。
大変だった「オーバークロス合体」のバンク制作
──シンカリオンの変形シーンの決めポーズや動作といった演出はCGチームに一任されているというのを以前に拝見しました。このような座組みになったのは、どういった流れからですか?
山野井:アニメ化以前のPVは全部SMDE内で演出コンテから何から全て自社でやっていたんです。それを見た池添監督が、これで良いという話になって。それで変形シーンや決めポーズはCGチームで全て作ることになったのが大きな流れかなと思います。
もし初期の頃からアニメ本編とCGの変形バンクを同時に作っていたら、コンテで指示がきていたかもしれません。制作スタイルとしてCGが先に動いているという要素は大きいと思います。
──ということは変形バンクにおけるパーツが分かれたり、回転したりする動きも、実際に手を動かしながら考えているんですか?
山野井:CGをいじりながら考えてるよね。
久能木:恐らく僕の前任のCGディレクターも同じような感じで制作していたと思うんですが、玩具のシンカリオンの機構を見たり、実際のCGデータを触りながらでないと、なかなか動きを構築できないんですよ。
もちろん頭の中に映像のイメージはあるので、最初に字コンテを作って流れを決めてから、実際におもちゃを触りながら変形バンクを組み上げていくんです。だから、僕の場合は字コンテ、Vコンテという流れで作っていました。
──変形バンクに関してはファンの方からも質問を頂いています。
(何でも屋 さん)
久能木:以前に滝田と話したんですが、大変だったと言えば僕は第1期後半の「オーバークロス合体」ですね。
久能木:毎週、新しい機体でオーバークロス合体を行うので、その変形バンクを作らないといけないんですよ。普通のバンクであれば、既にできている映像に他のキャラクターを当て込んで入れ替えれば良いので、CGスタッフとしてはやりやすい作業ではあるんです。
でも『シンカリオン』シリーズって各新幹線の形やデザインが違うじゃないですか。しかもサイズ感も違うんです。例えば「シンカリオン E3つばさ」とかは小さめなので、それを当て込もうとしても映像として上手くいかないんです。サイズが変わったことでカメラワークやアニメーションも変えなければならなくて、それが毎週続いたオーバークロス合体は大変でした。
山野井:アニメ制作が最初の頃は「合体に使う車両数が増えるほど大変」というイメージだったんだけど、オーバークロス合体は車両数は少ないのに、そのイメージを超えて大変だったよね。
──滝田さんも頷かれていますね。
滝田:この質問をもらった瞬間に「オーバークロス合体」って思いましたね。バンクという名の一回しか使われないカットだし、それなのに他のバンクと同等のクオリティを求められるし。車両のサイズや突起物も少しずつ違うから、完全に同じようにはいかなくても同じ印象になるように作らなければならないので、それを毎週やるのはきつかったです。
──車両サイズが異なるということですが、変形バンクだけ車両サイズを変えるような調整をしたんですか? そこは嘘をつかずに作っていましたか?
久能木:『シンカリオン』シリーズでそういった映像の嘘はやっていないと思います。そこは嘘をつかずに作っていました。
山野井:ただ、オーバークロス合体ではないところだと、「シンカリオン E5はやぶさ MkⅡ」の変形時に車両が半分に割れる時の幅をちょっと縮めたりはしていたんじゃない?
滝田:「E5はやぶさ MkⅡ」の時はピッタリ合わないと気持ち悪かったので多少はやったかもしれないです。でもシリーズ全体でそこぐらいしかやっていないと思いますね。
山野井:むしろ、そのためにだけにモデルのサイズを変更する方がもっと大変で、それはできないという判断だった気がします。
──第2期以降の「Z合体」と「ビークル合体」はパーツが多くて大変でしたか?
久能木:オーバークロス合体の経験もあって、第3期のビークル合体は基本的に同じシステムで変形するように僕が作っていたので、バンクとして差し替える時もそこまで大変ではないです。
ただ、第3期は「SRG合体」のボリュームが大きくて、そっちの方が大変だったかもしれないです。
山野井:Z合体は単純にパーツを差し替えるだけだから、そこまで大変でもなかったと思います。ビークル合体もベースになるシンカリオンが1両で変形するので、簡単に言えば変形の物量がそれまでの半分になっているんですよね。そういう意味で言うと、やはり2つの新幹線が合体して変形するオーバークロス合体はきついです。
ただ、この場に安田さんがいないからわからないけれど、多分本当に一番きつかったのは「シンカリオン ALFA-X」だったと思うんです。「シンカリオン ALFA-X」は安田さんが1人で担当してましたから。
アルファモードとエックスモードがあって、さらに「シンカリオン E5はやぶさ」とオーバークロス合体すると8両合体。変形に8両も使うって意味不明じゃないですか(笑)。僕が知っている限りでは、あれが絶対に一番きついんですよ。













































































