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- 藤崎萌恵
- 大阪府在住のライター。小説、漫画、アニメ、映画など“好き”を追い続ける。

ここで、狂児の魅力が詰まった数多くの名シーンの中から5つをピックアップ! 私たち読者の心を鷲掴みにする狂児の仕草や表情、意味深な言葉たち。あなたはどのシーンが一番好きですか?
狂児は中学生の聡実くんを惑わせて、大いに影響を与えた刺激的な存在。聡実くんの青春の1ページに色濃く刻まれた狂児ですが、地獄のカラオケ大会以降、連絡が途絶えてしまいます。
ここで注目したいのは空港での再会シーン。成長した聡実くんを空港で見つけて、声をかけずにはいられなくなったのでしょうか。かつて狂児のために歌のリストを作ってくれた聡実くん、全身全霊で鎮魂歌を歌ってくれた聡実くん。あの夏一緒に過ごした日々は、狂児の心に深く刻まれているはずです。
狂児は「ほんまは会いたかったよすごく」なんて言いながら、歌ヘタ王になって腕に「聡実」の刺青を彫られたという衝撃的な事実も明かします。聡実くんは思考が追いつかず固まったり頬を赤らめたり。狂児の方はどこか晴れやかで表情が柔らかです。
アニメでは原作にないオリジナルシーンが追加され、出所した狂児がカラオケ大会で最下位になり、腕に「聡実」と彫られ、空港で聡実くんを見つけて声をかけるまでの経緯が明かされました。
『ファミレス行こ。』上巻のラストでは、聡実くんが狂児を背後からハグする思いがけない展開に。このシーンは読者にも衝撃が走りましたが、狂児もまたいつになく動揺している様子。狂児が「……なに?」と振り返ると、聡実くんは「確認」と返し、「また連絡します」と言い残して去っていきます。
聡実くんはあのハグが狂児にとってどうでもいいことなのかとモヤモヤしていましたが、ハグされたときの狂児は顔がこわばり体は固まっているようでした。聡実くんの背中をじっと見つめる狂児の視線、そこに内包する感情は想像以上に重苦しいものなのかもしれません。この衝撃を引きずりながら下巻へと突入します。
狂児が聡実くんの部屋にお邪魔するエピソードは、とにかく情報量の密度が濃くてページをめくる手が止まってしまうほど。聡実くんから部屋に誘われたときの狂児の一瞬躊躇うような表情、そして部屋に入るという選択にも驚かされます。
「僕のことなんやと思ってる?」と投げかける聡実くん。思えば、出会った頃はヤクザの狂児に家を教えることを拒否していた聡実くんが、自分の部屋に誘う日が来ようとは──。すっかり警戒を解いて心を許しているだけでなく、ここでは狂児の内面へと立ち入るわけです。
しかし、思いがけず狂児がさらに踏み込んでくるという衝撃的な展開に。この破壊力の凄い台詞、例えばアニメや実写映画で続編があった場合、狂児がどのような語調で話すのか気になるところです。
「聡実くんは俺とどうなりたいの?」
「俺のことどうしたいの」
聡実くんは、狂児とこれからも会える関係でいたいし、「ずっと一緒にいたい」と告げます。聡実くんの「逆に狂児さんは僕とどうなりたいんですか?」「ヤクザやめられへんの」という問いに対し、「親父が死ぬまではやめへん」と答えた狂児。さらに、ここから核心へ。
「でも 聡実くんが俺を必要としなくなるまでは 一緒におるよ」
最初に聡実くんを必要としたのは狂児の方であることは置いておくとして。可能性を残して聡実くんを期待させてしまうことにもなりますが、この言葉は限りなく現実味のある答えでもあります。
いつも聡実くんに主導権を委ねている狂児。「もう会わんほうがいい」と聡実くんから言われたときには、どこか寂しそうな表情を見せながらも、聡実くんの意思を尊重して承諾していました。聡実くんが会いたいと言ったら会いに行くし、お望みの551の豚まんや、りくろーおじさんも買って行く。
「聡実くんは俺とどうなりたいの?」「俺のことどうしたいの」という台詞もそう、「でも 聡実くんが俺を必要としなくなるまでは 一緒におるよ」も含めて、“聡実くんがどうしたいか”が前提なのです。ただし、そこには狂児の執着も見え隠れしている気がします。
『ファミレス行こ。』下巻では、聡実くんと別れた後、振り返った狂児がじっと見つめるシーンで幕を下ろしました。狂児の本心は推し量るしかないのですが、狂児が聡実くんからのハグに応えなかったことに加えて、このラストシーンは大きな意味合いを含んでいるように思います。
『ファミレス行こ。』上巻ラストとの対比も興味深く、上巻では聡実くんからバックハグされて、下巻で狂児は聡実くんからのハグを躱しています。上下巻ともに、ハグ直後の狂児にフォーカスしたラストシーンが、読了後の余韻をより深めることに。
下巻のラストシーンは狂児の感情がより色濃く映し出されているようでもあり、この繊細な描き分けに魅入ってしまうほど。このまま聡実くんを追いかけてしまうんじゃないかと思わせるような重々しさがあり、あるいは狂児の中で何かしらの決意を固めていくような眼差しでもあり、読み返す度に新たな感情が芽生えて頭の中は今もなお大混乱です。
和山先生と同じく、狂児もまた聡実くんの幸せを願っているはず。これから狂児は聡実くんを待たせるだけなのか、いつかハグに応えるのか。あらゆる可能性に思いを馳せながら、続編を願わずにはいられなくなります。
