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【考察&レビュー】『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。』が完結! 狂児は何を思うのか?

【考察&レビュー】『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。』が完結! 成田狂児は何を思うのか? あの夏から始まった縁と、2人が辿り着く幸せの形

和山やま先生の漫画『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。』がついに完結!

歌が上手くなりたいヤクザ・成田狂児(なりたきょうじ)と、狂児に歌の指導を頼まれる合唱部部長の中学生・岡 聡実(おかさとみ)。あの夏から始まった聡実くんと狂児の交流を描く物語は、深い余韻を残して幕を下ろしました。

「僕は狂児とどうなりたいんやろ」と思い悩む聡実くん。一方で狂児にとって聡実くんとはどのような存在なのか。狂児は何を思うのか。これまでの言動を辿りながら、聡実くんをじっと見つめる視線に潜む感情に触れていきます。

※本稿には、『カラオケ行こ!』『ファミレス行こ。』のネタバレが含まれます。

 

全く違う世界に住む2人が運命的に交差

 

『カラオケ行こ!』は2020年9月に単行本が発売(ビームコミックス/KADOKAWA刊)。著者は、『夢中さ、きみに。』『女の園の星』などでも注目を集める和山やま先生。「COMITIA129」にて同人誌として頒布された作品に加筆修正と描き下ろしを加え、待望の単行本化を果たしました。

さらに、続編『ファミレス行こ。』上巻が2023年12月、下巻が2026年3月に発売。2024年には実写映画化、2025年にはTVアニメ化を果たし、コミックはシリーズ累計200万部を突破しています。

中学3年生の合唱コンクールの日。合唱部部長の岡 聡実は、四代目祭林組の若頭補佐である成田狂児に「カラオケ行こ!」と誘われ(拉致され)、ここから2人の奇妙な縁が始まります。

祭林組では年に4回カラオケ大会が開かれ、そこで歌ヘタ王になると組長に刺青を彫られるという恐ろしいルールが。刺青を絶対に回避したい狂児は、何としても歌ヘタ王にならないようカラオケで聡実くんの指導のもと特訓することに。

カラオケという個室空間を舞台に2人の対話メインで物語が進む一方で、中学校の部活では声変わりに思い悩む聡実くんの姿がありました。

全く違う世界に住む2人が運命的に交差し、歌の特訓を通して交流していくなかで、狂児は何を考えているのか当初は見えにくかった部分も。しかし全編を読み終えると、狂児はずっと聡実くんのことが大好きだったんだなと改めて思い知らされます。

和山先生の漫画は1コマにおける情報量の密度が高く、静かで力のある画風で描き出す表情や仕草、そのわずかな変化に感情が潜んでいるのです。

『ファミレス行こ。』は様々な解釈が生まれる作品。筆者にとっては、カラオケで深めた繋がりを昇華し、一緒にいることを願う聡実くんと狂児が対等な関係として始まる物語でした。2人が思い描く未来は限りなく現実的であり、その中で最も幸せな形が誠実に描かれています。

 

もっと離れられなくなる罪深さ

狂児と出会ったあの夏。ヤクザの面々に囲まれる恐怖を味わった日、聡実くんは狂児とはもう付き合いきれないと言い放っていました。だけど、狂児があっさりと引く素振りを見せると、聡実くんは「狂児さんだけなら……」と切れかけた糸を結び直そうとします。

そこで狂児という男はこういうことを言うんですよね。「この車は基本後部座席にしか人を乗せへんけど、助手席に乗った人間はなんでか俺から離れられへん。女も聡実くんも。乗り心地がよろしいんでしょうなぁ」と。

別れを持ち出されたら引き止めはしないけれど、次の瞬間、相手はもっと離れられなくなってしまうという罪深さ。多感な時期の少年にとって、あまりにも刺激的です。

そんなわけで2人の関係はしばらく続き、聡実くんは狂児のことが気になったり苛立ったりと苦悶する日々。狂児はというと、飄々としているようで感情が分かりやすく表面化することがあります。

聡実くんが危険区域に足を踏み入れて元組員の“宇宙人”に連れ去られそうになったときには、今まで聡実くんの前では見せたことのない怒りが。翌日、宇宙人が車で突っ込んできた際にボコボコに殴ったのは、聡実くんのことで相当怒りを覚えていたから。狂児は聡実くんが何を言おうと怒らない懐の深さを見せながらも、聡実くんの日常を脅かす相手には獰猛さを隠しません。

一方、聡実くんは狂児が事故で死んだかもしれないという失意のあまり、大事な合唱祭を無断欠席して祭林組のカラオケ大会へ。変声期から逃げていたことの後ろめたさは、逃げずに狂児への鎮魂歌を歌い切ったことで、ある意味昇華できたように思えます。

自分のせいで前途ある聡実くんの人生に少なからず影響を与えてしまったこの一連の出来事で、狂児にも思うことはあったはず。狂児の人生の歯車が狂った瞬間は組長との出会いであり、奇しくもその場所はカラオケ屋でした。

そんな狂児と共に過ごした時間は幻のようで、「聡実くんを置いて死なれへんもん」と言い残してから3年間、狂児から連絡はなし。だけど、久しぶりに訪れたカラオケ屋で見つけた狂児の名刺が、現実の証であるかのように聡実くんの心を震わせていました。その後、腕に「聡実」の刺青を彫られた狂児本人が姿を現します。

“狂児が始めた物語”であることはさておき、聡実くんのことは穢したくないし、真っ当な大人になってほしい。だけど聡実くんを離してあげられないのも本音。空港で成長した聡実くんを見つけて声をかけているあたり、理性を保つことができていないのですが、そういった感情の揺れはその後も見え隠れしています。

 

「聡実くんは俺とどうなりたいの?」

 

再会したことで2人の運命は再び動き始め、物語の舞台は2人きりのカラオケから、様々な人間を引き寄せる深夜のファミレスへ。

深夜の常連客である怪しい2人組のオジサン、マンガオタクのバイトの先輩をはじめ濃いキャラクターたちが登場。皆それぞれに謎めいており、随所に仕掛けられた伏線、点と点が繋がって見えてくる彼らの人生、聡実くんと狂児も巻き込む人間ドラマが実にお見事です。

大学1年生になった聡実くんは、東京で勉学に励みながらファミレスでアルバイトを始め、狂児とは時々会ってごはんを食べるように。ある日、「もう会わんほうがいい」と狂児に告げた聡実くんは、別れ際にハグしてしまったことに悶々とするようになります。この時も、狂児があっさり別れを了承したように思えて、寂しさを覚えていたのでしょう。

かつてヤクザが中学生の合唱部員とカラオケで過ごした奇妙な関係には、“歌を教えてもらう”という目的がありました。しかし4年後、その目的はなくとも“会ってごはんを食べる”という関係へと明確に変化。正確には、遠距離の2人が約束して一緒にご飯を食べることに理由は存在します。

聡実くんは歌を教える必要のなくなった自分が狂児にとって何なのか考えていました。カラオケの練習に自分がいなくても大丈夫なら、この関係の意味は……?

これについては、聡実くんの大学の友人・マナちゃんが本質を捉えた答えを授けてくれています。「好きでも“好き”にそこまでの原動力はないし、まして好きでもない人に価値のあることなんかしない」と。聡実くんのハグもそうですが、狂児が聡実くんと会い続けているのは、紛れもなく何かしらの原動力があるからです。

聡実くんはあのハグが狂児にとってどうでもいいことなのか計りきれずにいましたが、狂児がハグについて触れないのは、すごく気にしているからだよと言ってあげたくなります。狂児は聡実くんの出方を待っていたのだと思うのですが、「僕のことなんやと思ってる?」と問われたことで、一歩踏み込んだ言葉が飛び出します。

「聡実くんは俺とどうなりたいの?」
「俺のことどうしたいの」

満を持して核心をついてくる凄まじい台詞の力。このシーンには何度も引きずり込まれてしまいました。狂児は良識のある大人。だけど大人ではいられない瞬間もあり、その境界線に色香が漂います。

「ずっと一緒にいたい」という聡実くんの想いに、「親父が死ぬまでは(ヤクザ)やめへん」「でも聡実くんが俺を必要としなくなるまでは一緒におるよ」と返事した狂児。相手に委ねるような言葉であえて選択させているのは、聡実くんが選ぶ道を大切にしたいからだとは思うのですが、少しでも可能性を残して期待させるので、聡実くんは離れることができなくなるわけです。

聡実くんがずっと一緒にいたいと告げなかったら、立場上、おそらく狂児からは口にしなかったであろう言葉。そこには、聡実くんを繋ぎ止めたい気持ちに抗えない狂児の本音が潜んでいます。2人はごく当たり前のように、一緒にいることを願う言葉を伝えているんですよね。

聡実くんは自分なりに悩んで、考えて、行動して、狂児と向き合っています。ひとつは、聡実くんは狂児のことが好きで、これからも会いたいということ。これに関しては、“狂児が生きている”という事実に希望を見出す境地に至っています。

もうひとつは、普通の大人になりたいということ。聡実くんは狂児にヤクザをやめてほしいけど、やめたとしても自分が背負える人じゃないと考えており、ヤクザである限り狂児が自分を受け入れないことも、やめたとしても自分のところに来るとは限らないことも理解していました。これを踏まえて、聡実くんは一歩を踏み出す決意をします。

 

一緒にいることを願う2人の幸せの形

 

かつての聡実くんは大人の狂児を前にしたときに自身の未熟さを痛感し、余裕のある狂児に苛立ち、それは4年経っても消えないままでした。

狂児の腕に彫られた「聡実」の刺青を消して欲しいのは、歌の指導で繋がっていた“過去の象徴”だからなのかなと思います。これがある限り狂児から離れられない、これを消すことでスタートラインに立てるのだと。

「聡実」の刺青を消してもらおうと貯めたお金は、元々狂児との関係を終わらせるためだったようですが、対等な関係のスタートラインとして意味を持つものに。

渡そうとしたお金を川にぶちまけてしまい、反射的に狂児が冷たい川へ飛び込もうとすると、聡実くんは吹っ切れたように笑い出します。狂児の想いを受け取ると同時に、あの夏からくすぶっていた呪いが解けた瞬間であるかのように見えました。残ったお金でファミレス代を奢り、対等な関係の一歩を踏み出せたのではないでしょうか。

和山先生は「この漫画では“聡実くんの幸せを考えて”描いていこうと思う」と仰っていました。朝までファミレスで過ごし、憑きものが取れたような笑顔を見せる聡実くんと、自然な笑みを浮かべる狂児。これからも時々会って、話して、笑って過ごす2人の姿が見えるような気がします。

狂児は「また連絡して」「ほなまた」と言い残して次に繋げて、聡実くんから呼び出されたら必ず会いに行く。突然聡実くんが会いたいと言ったら、仕事があっても予定があっても、可能な限り調整して飛んで来るのでしょう。

狂児は聡実くんのことを大切にしており、あらゆる場面から狂児の愛情を見出すことができます。聡実くんへと近づく危険な要素をきっちり排除しながらも、ヤクザである自分が会うことをやめないという矛盾は生まれていますが、実のところ狂児にとって聡実くんが“特別”な存在であることはずっと明確なのです。

聡実くんとの接し方には変化が見られるようになり、以前はゼロ距離もお構いなしだった狂児ですが、いつの間にか距離を保って接するように。聡実くんのハグに応えないことが全てを物語っているかのようであり、感情の重みを思い知らされるシーンとなっています。

『ファミレス行こ。』では聡実くんと会って別れた後の狂児の表情が何度か確認できるようになるのですが、別れた後に振り返ってじっと見つめる狂児の姿を映し出す和山先生の手腕によって、最後の最後に再び狂わされることに。

ハグを返さないことにラストシーンの振り返りと重い視線を重ねることで、狂児の葛藤が際立ち、鋼の忍耐力で聡実くんを大切にしていることが実感できるのです。本人には伝わっていない部分もありますが、聡実くんは狂児に大切にされてきたことを何年もかけて知っていくのかもしれません。

聡実くんは狂児が好きで、ずっと一緒にいたい。狂児は聡実くんが必要としなくなるまでは一緒にいる。その言葉を噛み締めながら、ファミレスで穏やかに笑い合う聡実くんと狂児の姿に安堵を覚えました。これが今の2人の幸せの形であり、新たな始まりなのだと。

狂児は出会った頃のうすら笑いではなくて、そこには優しい目と自然にこぼれる笑みが。会話や表情を見ていると、聡実くんは狂児にとって心を許せる相手であり、何の肩書きもない“成田狂児”でいられる相手なのだろうと思います。これからの聡実くんの幸せを願いつつ、狂児の幸せも願いたくなる物語でした。

個人的に一番共感できるのは、美味しいものを食べさせたいし、美味しそうに食べてくれたら嬉しいということ。この感情は愛しい相手に芽生えるもので、聡実くんもいつか、そんな狂児の気持ちを抱きしめることになるはずです。

 

この記事をかいた人

藤崎萌恵
大阪府在住のライター。数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。

 

コミック『カラオケ行こ!』

 

コミック『ファミレス行こ。』上巻

 

コミック『ファミレス行こ。』下巻

 

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