
【作品レビュー】もう俺に『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』を見せないでほしい、あのころの俺に戻ってしまうから
大学生のころから吸っていたタバコもやめたし、酒も付き合いで飲むくらいで、毎晩の晩酌もしなくなった。結婚もして、友達との遊びもめっきり行かなくなり、嫁に迷惑をかけないようないっぱしの男になろうと、のらりくらりと日々を生きる。
もちろん幸せだし、この生活をずっと続けるつもりだ。でも心のどこかに、青春時代に燻ぶらせていた名前のつけることの出来ない何かがずっとそこにはいて、時折何かの栄養を見つけてそいつが動き出す。
いつもは日々の生活に忙殺されて、すぐに姿が見えなくなるそいつが、今回だけは久しぶりに元気になってしまって(いや、ダウナーになって?)、やたらと心の中を這いずり回り、 いてもたってもいられなくなってこんなレビューを書く羽目になってしまった。
今回、そいつが手に入れた栄養はTVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花(以下、上伊那ぼたん)』だった。
結論から言うと、もう俺に『上伊那ぼたん』を見せないでほしいと思っている。だって、作品に感化されてこんなわけのわからない文章を書いてしまっているからだ。小っ恥ずかしくてたまらない。
青春時代、俺は日頃見聞きしたことや思ったことをスマホのメモ帳に無限に書いていた。あのよくわからない青春ポエムのようなものを、今ここで多くの方が見るかもしれない場所に再び書き綴らねばならぬとは……。
でも、『上伊那ぼたん』なら、いや『上伊那ぼたん』だからこそ、小っ恥ずかしいあの頃の自分のままでこの作品のことを語りたいのだ。
なぜか『上伊那ぼたん』からは、あの頃の俺が見たかったものを感じる。
『上伊那ぼたん』は恥ずかしい
最初は見る気なんてさらさらなかった。仕事上で作品を見ることはもちろんあるが、それ以外だと女の子がキャッキャしているのがメインの作品がどうしても見られなくなった。見ているとなんだか小っ恥ずかしいのだ。同じ理由で学生の恋愛ものも見れなくなって、当時激ハマりしていた作品を大人になって改めて見てみたら全然おもしろくなく見えてしまって、ひどく絶望したこともある。
考えが幼かったり、設定が突拍子もなさすぎたり、あまりにも今の自分とかけ離れすぎていて、リアリティに欠ける。
そういったことがあって、いわゆる最近の女の子がたくさん出てくるようなアニメを見られなくなって、「俺も大人になったってことだな!」と何も偉くないのに思い込みでモヤモヤした気持ちを誤魔化したり、逆に「もう俺はこういった作品が楽しめないんだ……」とひどく落ち込むこともあった。
なんとめんどくさい性格なんだろう。いつも感情だけが先走る。しかもそれは誰にも相談することはできない。俺だけの問題だから。俺が大人になってしまった弊害だと思っている。
だから『上伊那ぼたん』も見ないようにしていたし、何ならそもそも眼中にもなかった。視界にすら入ってなかったのだ。「どうせ俺向けの作品ではない」と高を括っていたからだ。アニメニュースサイトの編集者をしているくせに何たる行いか。
そんな鈍感になってしまった自分の心にすっと入ってきたのが『上伊那ぼたん』だった。話が前後してしまうが、主人公の上伊那ぼたんも人の懐に入るのが非常に上手い。俺もまんまと上伊那ぼたんの術中にハマってしまっていたということなのだろうか……。
そもそも見ようと思った理由は、そんな劇的なものでもなく、本当に「なんとなく」だった。ただ、自分の人生においてこの「なんとなく」は馬鹿にできないと思っている。
なんとなく好きだったアニメが仕事につながっているし、なんとなくで仲良くなったのが嫁だし、なんとなく生きてきたから今がある。結果論ではあるが、「なんとなく」は自然発生的なものではなく、これまでの人生の様々な要因によって培われてきた心の感受性が察知した「お前これ好きかもよ?」の合図なのだ。
ともかく、そんなこんな、なんとなくで見始めた『上伊那ぼたん』。正直に言うと、最初はやっぱり恥ずかしかった。
簡単に物語を説明すると、大学の寮があり、そこに新しく入ってきた主人公の上伊那ぼたんとその寮生の女子たちの青春群像劇だ。
上伊那ぼたんのドキッとする言動、やたらとおしゃれなOP、秩父の田舎で寮暮らしの大学生、タバコを吸う先輩の郡上かなで、そして登場する名酒の数々……。
登場する何もかもが綺麗に用意されたおしゃれなもので溢れている。だから大人になってしまった俺は、逆張りをしてしまうのだった。みんなお酒とかタバコとか背伸びしたアイテムが好きだよねぇ。全部やったけど、結局しょうもないよそれ。女子寮とかもあれファンタジーだよ。いろいろと設定やらなんやらを盛りすぎて狙いすぎでは? まぁこういういかにもな設定がみんな好きだよね。やだやだ恥ずかしい。そう思っていた。
そんな気持ちで見ていたら上伊那ぼたんと砺波いぶきがお酒をきっかけに仲良くなるエピソードが描かれていく。砺波いぶきは初めてのお酒の席で、お酒を飲むとげっぷが止まらなくなることがわかり、居合わせた心ない他人からの一言で傷ついた経験があるようだ。そのせいで一人でお酒を飲むようにしていたが、強引な上伊那ぼたんが砺波いぶきのパーソナルな世界に干渉していくことになる。
先ほども言ったが、上伊那ぼたんがなかなかの人垂らしで、するっと懐に入ってくるだけでなく、ぐいっと心の大事なところにも踏み込んでいく。しかもこいつ、それを天然でやってるんっぽいんだよなぁ。やっかいなやつである。
そして、上伊那ぼたんがやたらと砺波いぶきだけにぐいぐい行くのは気になる。なぜここまで行くのか。普通は遠慮してここまで行かんやろ。そうも思ったが、物語を動かすのは常に行動する人間だ。坂本龍馬が「日本を変えないかんぜよ」と行動した結果、日本が変わるきっかけを作り、巡り巡って今の我々がいるのだ。いつ何時も行動する人間を馬鹿にしてはならない。きっと上伊那ぼたんがこの作品の坂本龍馬なのだろう。「酒ば飲まないかんぜよ!」とかそのうち言うのかな。言うわけねーだろ。
あと、郡上かなでが気になる。どうやら郡上かなでは砺波いぶきと仲良くなりたいという雰囲気を感じる。でも奥手でなかなか行動に移せない。元から仲が良さそうな雰囲気は感じるが、なんだかひとつ超えられない壁があるように見えるし、距離の詰め方が下手だ。
しかもそんな中、急に現れた上伊那ぼたんという女が砺波いぶきと急に仲が良くなって、その様子をたまに見かけてしまうのである。
郡上かなで。こいつは報われない女なの? 報われる女なの? だいたいこういう女子間の好意があるなし系は、郡上かなでのような報われない女(決めつけ)が物語の盛り立て役として使い捨てされることがある。気をつけて見守らねばならない。例え捨てられたとしても壁として見ている我々は見捨ててはならない。我々が見捨てたら誰が彼女を救うのか。
……とか、まぁ知らんけどね。まだ作品にそんな興味あるわけでもないし。
しかし、今日は時間があるから次の回も見てやろう。暇つぶしだ。OPがおしゃれだったしもう一回見てやっても良い。俺は「次のエピソード」のボタンをタップしていた。




























