
時代を超えて交差する「よい芸」と“古典”を現代に表現する意義──アニメ『ワールド イズ ダンシング』監督・黒柳トシマサさん×アニメーションプロデューサー・溝口侃さん対談インタビュー
「室町時代だから」という時代考証を敢えて外して
──作品の演出についてもお伺いします。第一話「自然居士」を舞っているシーンの音楽に、恐らくあの時代の日本にはなかったであろう楽器の音が入っているのが印象的でした。
黒柳:能の音楽ですから当然和楽器は入ってくるだろうと思いつつ、今僕たちがイメージするような“日本的な音楽”って実は江戸時代のものなんじゃないかと思っていたんです。江戸より前の室町時代においては、まだ“日本的な音楽”ができあがっていなかったのではないか、という仮説がなんとなく自分の中にあって。
音楽の篠田(大介)さんとも相談をして進めていったのですが、そうすると日本というよりもオリエンタルな音楽になっていくんじゃないかと。なので、和楽器を入れてもらえるところは入れてもらいつつ、国を超えて別の楽器が入ってくるのも全然ありだろうという考えのもと、今回のような曲を作っていただきました。
──たしかに「室町時代の音楽とは」と問われても、学んだことがない気がします。
溝口:制作最初期に、室町時代にあった楽器のリストを貰ったのですが「ん?」ってなっちゃたんですよね(笑)。どういう音が鳴るのかわからなくて。
黒柳:どういう音楽かもわからなくて(笑)。
溝口:“猿楽”が“能楽”に至っていく物語として作った本作において、我々の考えで申し訳ないのですが色々な解釈をしています。あの時代の日本に、西洋の楽器なんてなかったと思うんですよ。でも「創作の過程」だから、手探りでやっていこうという気持ちを反映させた結果、音楽も含めて違う形になっているのかなと思っています。
おっしゃっていただいたとおり今回の「自然居士」 には西洋楽器も入っていますが、和楽器的なものも入っていて、笛なども使っています。一方、これから出てくる曲はまったく和ではないものもあるんです。その面白さは、単純に「室町時代だから」という時代考証を敢えて外してやっている部分です。僕らなりにエンターテインメントとして、このシーンを面白くするという目的に沿って考えて作っていったものでもあります。
──それこそ“現代の”猿楽のような。
溝口:そうですね。実際、能楽と名付けられた後も、時代によって能楽を演じるスピードが変化しているようなんです。今は中間ぐらいのスピードらしいのですが、明治の時はすごく遅かったとか、江戸は逆に早かったとか。能楽も、本当の意味でずっと一緒ではないんですね。だから「あり得たかもしれない」という想いを馳せながら一つひとつの演目と向き合っています。
──演目を丸々描くことが難しい中で、作品における“大事なところ”をピックアップするという工程にも工夫がありそうだなと思っていました。
黒柳:そうですね。何をやっているかわからないという状態はマズいんです。ぎゅっとまとめているけれど、どういう演目なのかを示すヒントが少しでもあるといいなと思っています。
現代語訳にしてストーリーに立てたものを歌詞にしてもらって、それを後ろで歌うことによって「『自然居士』 はこういうストーリーなんだ」と、うっすらわかってもらう。実際の能と同じような形を取りつつ、よりわかりやすくすることが今回のコンセプトです。
──実は大学時代に能楽を一度観に行ったことがあるのですが、やはり難しさを感じました。知識が浅いゆえに何もわからず……。
黒柳:あはは!
溝口:そうですよね(笑)。
──ですが今回のアニメーションを見て「こういうことだったんだ」と認識できました。
黒柳:聞き流してしまえばただの曲として流れていってしまいますが、歌詞だけに注目して聞いてもらえば、ストーリーがわかります。きっと能も、恐らくそういうことなんだろうなと。
──能がコンテンポラリーなものというお言葉には「流行りのもの」という解釈に加えて「当時の人にとって取っつきやすいもの」でもあったのかなと想像していました。
溝口:能楽は、家元関係なくプレイヤーになれるんです。教えてくださった津村先生も「津村」を継いでいらっしゃいますが、元々は家の人ではなくて。大学時代から能楽を始めて、鍛錬を重ねてプロになった方なんです。そういった意味で、能楽師には誰でもなれるんですよ。
この「誰でもなれる」というところが良くて、能楽は武家の習い事になっていくんです。自分たちができるからこそ、武家さんたちと時の将軍たちにどんどん保護されていく。能はずっとそういう形なんです。
これってアニメなどもそうだと思うんです。アニメーターや制作進行って、ある種誰でもなれる……家は関係ないですからね。室町時代のことを厳密に考えれば諸説あると思いますが。
──間違いなく身近なものではあったと。
溝口:そうですね。今となっては観劇から取っつき始めると難しいと思われるかもしれませんが、やること自体はみんなできる。自分も大学でやり始めましたから。
──この時代にわかりやすくアニメで見られるなんてありがたい……!
黒柳:わかりやすくなっているかは、わからないですが(笑)。
































