
UNISON SQUARE GARDENロスの私は彼らの軌跡をアニメで辿ることにした──ジグザグすぎる10人のあまりにも不明瞭で不確実な箱根駅伝物語『風が強く吹いている』を語りたい
2026年7月15日。大好きなロックバンド・UNISON SQUARE GARDENが活動を休止した。10年以上彼らのファンだった私にとって、そのことは思っていた以上に心にぽっかり穴を空けた。
もちろん活動休止後も手元にある彼らの素晴らしい音楽を聞くことはできる。でも、それでも寂しさは募って仕方がない。
どうにかしてこの寂しさを紛らわせる方法はないだろうか──そう考え、私は彼らがタイアップしたアニメ作品の中でまだ触れたことのなかったものに触れてみることにした。
私がまず手に取ったのは「Catch up, latency」がオープニング主題歌を務めたアニメ『風が強く吹いている』。「Catch up, latency」といえば、先日行われた活動休止前最後のライブ「Sentimental Period」の最後に演奏された楽曲だ。
まずは原作小説を読んでみたところ、バラバラな10人が織りなすドラマと長距離走や駅伝競技の面白さ、奥深さに魅せられ、小説を読み終えるや否や、アニメを一気見。
「Catch up, latency」の歌詞と重なるシーンが度々登場したこともあって、どっぷりその魅力にハマり込んでしまったのである。そこで、歌詞を想起させた部分を中心に、その魅力を語らせてもらうことにした。
たった10人で箱根駅伝出場を目指す物語
本作は、寛政大学の10人の学生が毎年新年に行われる箱根駅伝への出場を目指す物語。
箱根駅伝は10人のランナーが襷を繋ぐ競技であるため、たった10人で目指すということはギリギリの人数で挑むということを意味する。
さらに驚くべきはそのメンバー。なんと10人中7人が長距離走どころか陸上競技未経験者なのだ。
主人公の蔵原走(くらはらかける)は、仙台の高校で天才ランナーとして部活動に励んでいたものの、暴力事件を引き起こしたことで退部を余儀なくされ、東京の寛政大学に進学。
親から渡された上京資金を使い果たしたカケルは、磨いてきた走りを万引きに使ってしまった。夜道を逃走するカケルが偶然遭遇したのは清瀬灰ニ(きよせはいじ)。
カケルの走りを見たハイジは自転車で後を追い、「走るの好きか?」と問う。
思わぬ問いかけに足を止めたカケルは、同じ大学の4年生だというハイジに誘われ、格安学生寮・竹青荘(通称アオタケ)への入居を誘われる。
行く宛のなかったカケルは誘われるがままについて行くと、そこには9人の寛政大生が暮らしていた。
早速行われたカケルの歓迎会で、ハイジは「この10人で箱根駅伝を目指す!」と高らかに宣言。寝耳に水の住人たちが聞かされたのは、アオタケが「寛政大学・陸上競技部錬成所」だったという事実。
そんなつもりなどさらさらなかったアオタケの住人たちは「騙された!」と口々に抗議するが、入学してからの3年間、メンバーが揃うのを待ち続けていたハイジの執念は半端ではない。
住人の心理を巧みに掌握しながら、時に強引に箱根駅伝へと向かわせていくハイジ。こうしてアオタケ陸上部10人の箱根駅伝を目指す日々は始まったのだった。
最速の男・カケルと最遅の男・王子の化学反応
高校生時代から指折りの長距離選手だったカケルは、当然のようにメンバー最速を誇る実力の持ち主だ。
陸上競技の世界をよく知っているからこそ、カケルにはハイジの言う「箱根駅伝出場」が現実として捉えられないどころか、競技を舐めているようにさえ見えてしまう。
彼がそう思うのも無理はなく、初めの頃はメンバーのほとんどが箱根駅伝の“予選会”に出るためのボーダータイム(5,000mを16分30秒以内に走り切る)をクリアしていなかった。中でも最も遅いのは運動そのものが苦手な漫画オタク・柏崎茜(あだ名:王子)。
そのタイムは予選会出場ボーダータイムの倍以上。走る姿勢もグズグズで頼りなく、そのせいか王子はなかなかタイムが縮まらない。カケルから見ると怠けているようにさえ見え、カケルは王子と衝突し、深い溝ができてしまう。
しかし、速くはないものの王子は決して怠けているわけではない。むしろ彼なりに必死で走っているのである。
しかし、いつも先頭を走るカケルは、王子はもちろんメンバーの走る姿をちゃんと見たことがなく、タイムだけを見て怠けていると判断していたのだ。
カケルは、いつも練習を仕切るハイジの代理を務めたことをきっかけに、先頭を行く自分は振り向かなければみんなの走る姿を見ることができないことに初めて気がつく。要は、自分から歩み寄らなければ相手を理解することはできないということ。
そう気付いたカケルは、王子に漫画を借りたり、部屋で一緒に過ごしてみたりと不器用ながら王子を知ろうとする。すると、王子に合わせた走る姿勢の改善方法を思いつき、いっしょに姿勢改善に取り組むように。
そうすると見えてきたのは速くはなくても王子がちゃんと本気で走っているということ。
その後、2人が揃って参加した記録会で、良いタイムを出せそうなほど好調な走りをしていたカケルが、きつさのあまり姿勢の崩れた王子に合わせて減速し声をかけるシーンは、カケルが自身の記録(速さ)よりも仲間を大切に思うようになったことを証明するものであり、その人間的な成長に強く胸打たれるものだった。
一方の王子も、自身のタイムよりも自分のことを気にかけるチームのエースを前に憎まれ口を叩きながらも奮起して姿勢を立て直す。このやりとりも、2人で練習に取り組んだ時間があったからこそだろう。
以前までの関係ならば、そもそもカケルは王子に合わせてペースを落とすなんてことはしなかっただろうし、たとえ声を掛けたとしても王子は自分とは人種さえも違って思える天才ランナーの言うことなんて聞く耳も持たなかったはずだ。
相手に歩み寄って関係を築いたからこそ、2人はちゃんと“チーム”になれたのだ。
この2人の姿に、主題歌のサビである「ジグザグすぎてレイテンシーが鳴ってる それが意外なハーモニーになって」の部分が重なる。
陸上競技を極めてきたカケルと漫画オタクの王子が、こんなに仲を深められると誰が思っただろう。カケルがチームを想うきっかけとなるのが王子だなんて全く想像もしていなかった。
また、作品タイトルの真逆を歌った印象的な歌詞「風なんかは吹いてないのに何かが頬を通過したのは 風なんかは吹いてないのに君の心に追いついたせいかな」の部分も、カケルが離れていた王子の心に追いついたことを歌っているように感じられた。
カケルと王子が紡ぎ出したハーモニーは、やがてチーム全体の一体感を高め、王子は徐々にタイムを縮めていく。
5,000mを走り切るのに30分以上かかっていた王子が、ついに30分を切ったときのアオタケメンバーの喜びようはまるで箱根出場が決まったかのようだった。傍から見ていた人達は「あれの何がそんなによかったんだ?」と困惑。
しかし、それでいい。この嬉しさを味わえるのは、王子の頑張りとカケルの成長を間近で見ていたアオタケメンバーと我々だけの特権なのだから。
























