
おつかれサマーにアニメ美術論を語る。日本のTVアニメが国際映画祭への参加が増えている? 個性的な2026夏アニメで見るアニメ業界の変化を追う
2026年夏クールはユニークなアニメが波に乗っています。まるでお店でサーフボードのデザインを眺めるような楽しさで、自分好みを探すようなワクワク感があります。
実は近年のアニメ制作現場では海外市場へのアピールも視野に入れ、そんな個性的なTVシリーズアニメたちを国際映画祭へ進出させる機会が増えています。そこには物語やキャラクターだけではなく、「作り」そのものを作品の個性として見せる動きがあります。
2026年夏クールは、そんなアニメーションのアート性を考えるうえでも興味深いシーズンなのです。
名だたる国際映画祭に進出するTVシリーズアニメ
アニメは、アニメーション専用映画祭と、実写も含む映画祭に応募することができます。
世界最大アニメーション映画祭といえば、毎年の6月にフランスで開催される「アヌシー国際アニメーション映画祭」です。今年はTV部門で『タコピーの原罪』が審査員賞を受賞しました。
他に、『庭には二羽ニワトリがいた。』もジャンル系短編部門「Midnight Short Film Competition」選出、『天幕のジャードゥーガル』はTV部門選出など、長編部門以外での入選が今年の大きな躍進となりました。
また、アヌシーではアニメーションビジネス交流が行われる国際見本市「MIFA」(Marché international du film d'animation)も同時に開かれています。今年は国内アニメ制作者向けワークショップであるグローバル・アニメ・チャレンジ(GAC)が参加しました。『さよならララ』の小出卓史監督は参加者として、ピッチセッションでオリジナルTVシリーズ企画をアイデアプレゼンされていました。
アジア最大国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」でも『ワールドイズダンシング』も放送前に特別賞を受賞。こちらもTVシリーズアニメが受賞する異例の動きと見ます。
「作り」という映像工芸にこだわる
また、映像表現に関しても世界を視野に入れた動きが多い印象です。作品別に現在の状況を見ていきましょう。
セルルックでインディーな『さよならララ』
特徴的なルックで注目を集めるのはキネマシトラス15周年作品の『さよならララ』。先月からはメイキングムービーが公開され話題となっています。そこでは小出監督がキャラクターデザインについて、「セル時代のキャラクターデザインは現在の絵柄よりも立体感がある」と語っています。
シンプルなほど平面的で、細部描写があるほど立体的と思われがちですが、キャラクターの他に背景や撮影も入って初めて「画面」が出来上がるので、画作りにおいては画面の中にキャラクターが立体的に立っているか、というバランスが求められます。それは派手さではなく、自然に見えるという感覚です。
以前の記事で『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』を書きましたが、「影ナシ」手法が本作品で言うセルルックかと言われたら、上記の理由で違うと筆者は感じます。
個人的に、『さよならララ』のキャラクターデザインはインディーアニメの影響も持ち合わせていると感じました。インディーアニメがトレンドとして視聴者に受け入れられ、商業との境目が薄くなることで互いへの影響が現れました。
似たような例で面白いのは、TVアニメ『ダンダダン』第2期エンディングのこむぎこ2000監督。インディーアニメ作家ですが、セルルックに見えても主線がより緩いため、こちらもやはりセルルックは違うものを感じます。
『さよならララ』はオープニングでセル画撮影を行われたことが話題となりました。振りかえると、本作品は確かにセルルックという文脈で腑に落ちます。
「#さよならララ」のオープニングでは、一部にアナログ作画を用いたカットを使用しています。
— TVアニメ『さよならララ』公式✨2026年7月より放送・配信中! (@Goodbye_Lara) July 12, 2026
デジタルで描かれる色鮮やかな作風とはまた異なる、手描きならではの柔らかで奥行きのある優しい風合いを、ぜひ何度もお楽しみ下さいませ。https://t.co/Cjk2DcDIKW… https://t.co/GgErJRVUBo pic.twitter.com/72jVVNHDvw
アナログ撮影技法がロストテクノロジー化しつつある現在、アニメのアーカイブが問われる令和時代に、技術を掘り起こして表現技法を探る作り方は冒険的です。引き算によるディテールによる記号的な視認性によって、キャラクターの立体性をより表すのでしょう。
また、今風の色使いによって不思議と懐かしく、新しく感じさせます。鉛筆の太さで描いたような線のタッチを柔らかく、呼吸するかのような生命感が、最後はどんな「愛」で迎えるか……?
異文化アートの知見『天幕のジャードゥーガル』
同じ星空の下で、私たちは違う文化の表現を許容する時代に入りました。アニメ制作現場における海外スタッフが急増する中で、制作体制や表現の引き出しも多様になってきています。
その代表である『天幕のジャードゥーガル』は海外のアニメーションのルックながら日本特有の3コマ打ちリミテッドアニメーションという不思議な映像の仕上がりです。
アベル・ゴンゴラ監督はビジュアル設定の決定は、海外制作現場から経験の引き出しが色濃く影響していると考えられます。先日公開されたメイキングムービーでは、本作の主線の話し合いで、外枠を無くしたいとアベル監督が意見を出していました。キャラクターデザイナーの吉田健一氏が、手間により主線外しに反対されていましたが、これは原画の指示に従って動きの一連を描く動画職と、出来上がった動画の元に色をつける仕上職が対応に追われるからです。
映像内でアニメーター・太田琴美氏は輪郭に「色トレス」をつけて主線を無くしていると解説しています。黒色の「実線」の他に、影を指定する青やハイライトを指定する赤などの色がついた線で描くときもあります。つまり「色トレス」とは色の線(色TPと呼ぶ。TPはTrace and Paintの略)でトレースすることを指します。動画以降のセクションで、作画注意事項に輪郭線の色指定の指示が入っていると思います。
とはいえ、指示が増えると動画で線画の事故発生や、仕上の段階で色T.P.を服の色に替える作業が発生するので、通常の制作より人の手による手間が生じます。それでも監督は柔らかさを出すためにクラフト感のある制作手法を取ったのでしょう。
また、背景美術も特徴的です。印象派絵画のような茶色系の残しがある厚塗りはトム・トムソンをはじめとするカナダ画家の芸術集団「グループ・オブ・セブン」を思わせる描き方です。キャラクターに主線を外したからこそ見事にマッチしたアートスタイルです。
さらに本作品ではカラースクリプトのスタッフも携わっていますが、この職は海外の制作スタイルから影響が大きいと思います。職務内容は、シーンごと色のイメージボードを作ることでキャラクターや背景、照明の当て方に幅を広げることが可能です。
仮説ですが、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)とその画集に影響を受けて国内制作現場でもカラースクリプトを積極的に招き入れるようになったと思います。特にMAPPAの『呪術廻戦』、トリガー『プロメア』、サイエンス・サル『ダンダダン』が代表的で、これらの並びで既に色の使い方が他のアニメよりビビッドで、より際立つ作品だとわかります。
故郷を思う情景を描く夏アニメ。かのアーツ・アンド・クラフツ運動が始まるような、枠にとらわれず映像内の良質な手作り感を大切にしたアニメ制作が今期のムーブメントとなりました。
一方で、廃路線でダークホースを走る『ヤニネコ』は対比的で次の波乱を起こしそうです。これはまた別のお話。
[文/朴智銀]































