この記事をかいた人

- 藤崎萌恵
- 大阪府在住のライター。小説、漫画、アニメ、映画など“好き”を追い続ける。

すう先生の大人気BLコミック『キスは捜査のあとで』が、渡部 秀さん&齋藤璃佑さんW主演で実写ドラマ化。渡部さん演じる天然人たらしのアラフォー人情派刑事・多古井平助と、齋藤さん演じる毒舌エリート後輩・塩野 秀が織りなす、ノンストップ・ラブコメディです。
第6話では、切ないすれ違いを経て、ついに多古井と塩野が想いを通わせることに。離れようとしていた塩野に、多古井は溢れ出す想いを真っ直ぐに伝えました。
本稿では、ドラマ『キスは捜査のあとで』第6話「終わりにしたくない」をレビュー。多古井が塩野の手を掴んだ瞬間、それは何をおいても自分の気持ちに正直になれた瞬間でした。
※本稿はドラマ『キスは捜査のあとで』第6話までのネタバレを含みます。
塩野と過ごす時間に幸せを噛み締めていた多古井。しかし、誰にでも優しく周りの目を気にしてしまう彼の迷いと言動が、塩野を深く傷つけてしまいます。
キスをしたことも「好きです」と伝えたことも、全部忘れるようにと多古井を突き放す塩野。「合わなかった」と別れを告げて静かに去り、多古井はひとり立ち尽くしていました。
その日以降、塩野は多古井と距離を置くように。あれだけ多古井のことばかり目で追っていたのに、今は目を合わせることすらしなくなっていました。目を合わせたらまた、目が離せなくなってしまうからなのか。
塩野は、想いを閉じ込めようとすると冷たい態度になってしまいます。心から大好きで焦がれ続けた人と、一度は希望を持って向き合うことができたのに、彼は自ら離れることを決意しました。心が引き裂かれる思いであっても気丈に振る舞い、だけど多古井への想いを隠しきれていない様子に胸が痛くなります。
塩野が本部への異動準備を進めていくなか、多古井はこのままではダメだと焦りながらも、声をかけることができずにいました。あの頃とは逆転して、多古井が塩野を追いかける状況に。尾行しているだけで可愛いアラフォーが愛くるしい。
多古井と塩野のすれ違いを感じ取っていた同僚の江川(演:⼯藤 遥さん)は、塩野が去る前にわだかまりを解くよう、多古井の背中を押します。そっと見守り心から応援してくれる同僚の存在は、温かく心強いもの。本エピソードでは、同じく同僚の長谷川(演:金井勇太さん)も多古井と塩野の関係を知ることになります。
取調室に佇む塩野は憂いを帯びた様子でしたが、ここでキスをしたあの瞬間からの多古井との日々に、思いを馳せていたのでしょうか。そこへ多古井が姿を現します。
多古井は「お前にとんでもなく失礼なこと⾔った」と誠心誠意で謝罪しますが、塩野の意思は変わらず、返ってきたのは「合わないからやめましょう」という揺るぎない言葉でした。
「誰に紹介しても恥ずかしくない相手と普通に恋愛して普通に結婚する。そういうのが合ってるんだと思います」と、まるで自分に言い聞かせるように告げる塩野。「多古井さん」ではなく「多古井主任」と呼び、自分の傷を抉るような言葉ばかりを残して取調室をあとにします。
またしてもひとり残されて立ち尽くす多古井。その胸にはお揃いのボールペンを挿したまま、手には塩野が捨てたボールペンを握りしめていました。多古井さん、塩野が捨てたボールペンを拾っていたんですね。
多古井は塩野との思い出のボールペンを大切にしていて、その証拠にあれだけ周りから興味本位で詮索されたにも関わらず、隠しもせずに堂々と胸に挿しています。
多古井が持ってきた“たこ焼き”の行く末は、原作から少し変えてまろやかな表現になりましたが、傾いていくカメラワークで原作を想起させる不穏も。ぽつんと取り残された“たこ焼き”は多古井自身と重なるようでした。
塩野との関係を“終わりにしたくない”のに想いが届かない。多古井は断れない人だから、無理して自分に付き合ってくれていたと塩野は考えているのでしょう。しかし、“終わりにしたくない”のは塩野も同じはずです。ふと多古井のデスクへと向けてしまう塩野の眼差しには、わずかに決意の揺らぎが見て取れます。
スナックのママ・みすず(演:菊川 怜さん)の前では、「誰に対しても優しくして気を持たせるようなことして、でもそういうところがあの人らしいっていうか」と多古井への愛しさを語る塩野。同時に、遠い存在のように「俺には届かない人」だと切ない表情を浮かべていました。
塩野の送別会が⼤将(演:⽮柴俊博さん)の居酒屋で開かれ、集まった⼭ノ道署の刑事たちによって賑わいを見せていました。しかし、多古井の心は沈んだまま。
そんな多古井に、⼋⽊(演:ドロンズ⽯本さん)が塩野へのエールを託します。やはりこういった盛り上げ役を任されるのは多古井で、彼自身も皆の期待に応えるべく、おどけた様子で場を盛り上げようとします。
だけど、多古井は塩野のことを語る度に、自分がどれだけ彼に惹かれていたのか、自分がどうしたいのかを思い知ることに。皆に向けた名演説も塩野へのリスペクトを感じるものでしたが、いつの間にか多古井の想いがどんどん溢れ出し、塩野と過ごした日々が自然と思い出されるほど多古井役の渡部さんの演技が真に迫っていました。
「塩野に何度も助けられ、一緒にいてどれほど心強かったか」
これは本当に心からの想いなんだろうなと、多古井の口から聞けてよかったと思った言葉。
塩野は多古井の良さをたくさん知っていますが、多古井もまた塩野の良さを言い尽くせないほどたくさん知っていたのです。多古井は塩野と一緒にいて、塩野のことをちゃんと見て、塩野の想いに触れて、いつの間にかどうにもならないほど好きになっていました。
しかし多古井は、塩野に伝えるべき肝心なことをまだ伝えていません。溢れる想いを抑えきれずに塩野の手を取った多古井は、周りのことなどお構いなしに外へと連れ出します。
「好きなんだ お前が」と真っ直ぐに想いを告げる多古井。それを聞いて目を見開く塩野。そして多古井は、全て正直に打ち明けます。
塩野と一緒にいるときの自分は恋愛にバカになっていて、多古井はそれを周りに知られるのが恥ずかしくて、自分のことも塩野のことも否定することに。
塩野を守ろうとしながらも、ちゃんと塩野のことを考えることができていなくて、その場の空気を悪くすることも気にしてしまい、結果的に一番大切にしたい人を一番傷つけてしまったのです。
どうしたらいいのか分からなくて、どう言葉にしたらいいのかも分からない。それでも塩野との関係を終わりにしたくなくて、なかったことになんてしたくなくて、塩野に自分の本当の想いを伝えたかった。
そんな多古井のぐちゃぐちゃの感情をさらけ出す、渡部さんの昂っていく演技に震えてしまいました。そして渡部さんに呼応するように、齋藤さん演じる塩野は閉じ込めていた感情を解放していきます。
塩野はずっと多古井のことを見てきたから、多古井のことを誰よりも知っています。だけど、自分がこれほど多古井から愛されていることは知らなかった。そして今、ようやく多古井の本当の想いを知ることができた塩野は、多古井に歩み寄って強く抱き締めていました。
「なんで…自分が何言ってるか分かってます?」
「せっかく逃げ道用意してあげたのに…」
そう言いながらも、塩野は多古井を抱きしめる力を強めていて、“もう逃したくない”と言わんばかり。多古井が塩野の腰と背中に手を回すと、塩野は嬉しさを噛み締めるように多古井の頭をしっかりとホールド。
それは、ようやく想いが重なり、共鳴し合うかのような幸せの抱擁。BLドラマ史に刻みたい名シーンでした。
もともとは恋愛が面倒だと感じていた多古井。第1話で「振り回されてもいいくらいマジになれる相手に出会っていないだけ」という布石が投じられていましたが、まさに塩野は多古井にとって“マジになれる相手”ということなのでしょう。
居酒屋で多古井が塩野の手を掴んだ瞬間、それは多古井が何をおいても自分の気持ちに正直になれた瞬間でした。周りの目なんてどうでもいいほどに。
この作品は塩野の恋を叶える物語でもあり、同時に多古井が幸せになる物語でもあったんですね。塩野の恋が叶ってよかったという多幸感と、多古井がありのままの姿で感情をぶつけることができてよかったという安堵感をもたらしてくれました。
多古井は“みんなが求める多古井”ばかりを気にするのではなく、大切なものをちゃんと大切にできるようになっていくのではないでしょうか。
想いを通わせた後、塩野の部屋で爽やかな朝を迎える2人。どこか親密さを匂わせながら穏やかに会話を交わし、ふいに塩野が多古井に顔を寄せて頬にキス。愛に満ちた時間が流れるその後ろには、お揃いのボールペンが並んでいました。第6話の序盤と終盤の塩野の「おはようございます」の対比も眩しいです。
次回はいよいよ、大前田洋と伊達ジョージが登場! 遠距離恋愛となる多古井と塩野に、彼らはどう絡んでくるのでしょうか。原作『キスは捜査のあとで』の続編『キスは捜査のあとで アゲイン』がどう映像化されるのか、次回も心待ちにしています。
| 作品名 | キスは捜査のあとで |
|---|---|
| 放送形態 | 実写ドラマ |
| スケジュール | 2026年7月26日(日)~ ABCテレビにて |
| キャスト | 多古井平助:渡部秀 塩野秀:齋藤璃佑 江川まり子:工藤遥 長谷川次郎:金井勇太 八木保:ドロンズ石本 大将:矢柴俊博 松雪みすず:菊川怜 |
| スタッフ | 原作:すう『キスは捜査のあとで』(Jパブリッシング) 脚本:村田こけし 演出:大内隆弘 浅見佳史 プロデューサー:藤田洋平 寺川真未 川西琢(ABCリブラ) 制作協力:ABCリブラ 制作著作:ABC |
| 主題歌 | 「なつめき」OCTPATH |
