ノイタミナ新番組『東京マグニチュード8.0』放送記念 橘 正..

リアルな東京大地震を少女の目を通して描く――ノイタミナ新番組『東京マグニチュード8.0』放送記念インタビュー 橘 正紀監督に聞いた「主人公が13歳であることの理由、アニメならではのリアル感とは」

 もし、現代の東京で大地震が起きて、見慣れた風景や環境が激変してしまったら!? その渦中に巻き込まれ家族とはぐれてしまったら!? しかも自分が無力な子供だったら!? この夏スタートするノイタミナの新作アニメーション『東京マグニチュード8.0』は、そのタイトルの通り、大地震が起きた東京を舞台にした “シミュレーションテイスト”あふれる作品だ。

 主人公は中学1年生の少女・小野沢未来(おのざわ みらい)。夏休みに、弟の悠貴とお台場に遊びに来ていて、大きな地震に巻き込まれてしまった未来が、出会ったバイク便ライダー・真理の力を借り、世田谷にある自宅へ向こう物語を、膨大な取材を基にリアルに描き出す。

 注目の製作陣だが、今回がTVシリーズ初監督となる橘 正紀氏は、プロダクション・アイジーで『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズや、『精霊の守り人』に絵コンテ、演出として参加。6月までノイタミナで放送された『東のエデン』の監督である神山監督とは、いわば師弟関係ともいえる。制作は『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』のボンズと、この春公開された映画『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』のアニメーション制作を手がけたキネマシトラスが担当。実力派が揃った。

 ハイクオリティな映像によって描かれるキャラクターに命を吹き込む声優陣には、小野沢未来役に花村怜美。 その弟である小野沢悠貴(おのざわ ゆうき)役に小林由美子。2人を助けるバイク便ライダー・日下部真理(くさかべ まり)役に甲斐田裕子と、こちらも実力派が揃い、さらにオープニング主題歌にはabingdon boys school。エンディング主題歌には辻 詩音が起用されている。

 この夏最も注目の1作、『東京マグニチュード8.0』。今回は橘監督にインタビューを敢行。第1話の放送を直前に控えた監督に、完成に至るまでの道のり、作品にかける意欲などを伺った。

橘 正紀監督

橘 正紀監督


●子供は知らないうちに大人に守られてる。それがなくなったら……

――まず『東京マグニチュード8.0』は、どのような作品ですか?

橘監督:東京に地震が起きて、お台場に遊びに来ていた姉弟が巻き込まれ、地震で都市機能がマヒした東京を、歩いて自宅まで帰るという物語になります。


――主人公の自宅は世田谷のほうという設定なんですよね?

橘監督:砧(きぬた)のほうという設定です。お台場から砧まで歩いて帰る話になります。


――まず企画が生まれた経緯からお伺いしたいのですが、最初に今回の企画を知ったのは、いつ頃だったのですか?

橘監督:去年の初夏ぐらいです。ボンズの南さん(南雅彦社長)から「実は今、地震の企画がきている。壊れた東京の街を舞台にアニメを作るが、ロボットは出てこない」と(笑)。「リアル指向でいくので、アニメ的な逃げ方は出来ないけど、やってみる?」と言われました。


――当時と現在では内容にはどのような違いがありましたか?

橘監督:まず主人公が違っていました。ノイタミナ枠ということで、女性がシンパシーを感じる主人公にしようという話で、主人公の未来たちを助ける、保護者的な存在の真理さんという女性が最初は主人公でした。ただ、自立した大人が地震にあって何をするかよりも、まだ社会に出ていない子供が地震に遭い、今まで自分を守ってくれた大人が、自分を守ってくれなくなってしまったらどうなるだろうか、ということを考えたら話が膨らみそうだと思って、子供を主人公にしようと、登場人物の立ち位置を変えることにしたんです。


――たしかに大人と違って13歳だと、普通でもお台場から砧まで1人で帰るのは大変ですよね。主人公の家路という物語をどう見せていくのでしょうか?

橘監督:物語の部分では “家族に会いたい”というのが最初にテーマとしてあったんですね。子供って中学生ぐらい子供でも、大人や社会が嫌いといいつつ、やっぱり大人に守られてる。それがなくなったときに、大人が知らず知らずのうちに子供を守ってくれていたんだと気づくわけです。みんないきなり大人として生まれるわけではなく、子供時代を経験してきているわけで、忘れてるとはいえ観ながら思い出す部分はあると思います。そういう意味ではできるだけ等身大の中学生を描こうと、頑張って作っています。


●地震ではロボットアニメのようにビルは崩れないんです。

――作品の資料を拝見しました。膨大な量の取材を行ったそうですが……?

橘監督:地震を研究している者の方々に取材しました。実際に地震が起きた場合の災害規模から、実際に都市災害に対する対策がどの程度進んでいるのか、実際に地震が起きた場合どうしたらいいのか?といったことを聞いて、物語に盛り込める部分は盛り込みつつ、消防や自衛隊、海上保安庁などにも取材しています。ロケハンにも頻繁に行きました。


――実際にロケされてみて感じたことはありますか?

橘監督:実際にお台場のほうから砧のほうまで、ロケハンしながら歩いてみました。 “災害時にはここの道路を通って自衛隊がやってきます”というものがあるんですが、“実際に自衛隊の基地からここまでたどり着けるのだろうか?”とか、そういう問題がいろいろ見えてきました。取材した先で様々な収穫がありましたが、なかでも印象的だったのは芝公園です。下水に直結したマンホールトイレが設置されているなど、人知れず災害対策が進んでいることを実感できました。


――そういった取材で得た情報を基にリアルな東京を描くのですね?

橘監督:脚本協力で参加してくださっている『コードギアス』の演出をされていた村田(和也)さんという方が建築科出身で、“建物の柱って加重が一番かかる下の階の部分が一番太くて、そこから上に行くにしたがって細くなっていくが、円錐上に少しづつ細くなるのではなく、ある部分から急に細くなるそうで、その急に細くなった部分から壊れる”など、そういうことを教えていただきました。一箇所壊れるとだるま落としみたく壊れるんですよ。ロボットアニメに出てくるような、一部が大砲で欠けたような壊れ方は地震ではおきない。“地震での壊れ方”というのをきちんとやっていこうと思っています。


●アニメだからこそ観る側の想像力に訴えられるんです。

――実写でも現在の技術なら映像化できるテーマだと思いますが、それをアニメで描くことの意味や、アニメならではの魅力はどこにあるのでしょうか?

橘監督:実際には、実写ではできない規模というのがあると思います。『252 -生存者あり-』では新橋が描かれましたが、こっちは都内全域ともっと規模が広いです。アニメならではという点では、キャラクターなどの描写で、コミカルな落としどころを見せられるのではないかと思います。


――作画スタッフとはどんなやりとりをされているのでしょうか?

橘監督:表情づけについてはものすごく細かく話しています。キャラクターデザインの野崎さんに1話の作画監督をしてもらっているんですが、「こういう気持ちだから、こういう表情をしているんだ」というやりとりをよくやっていますね。アニメだと、マンガ的な表現、わかりやすい記号にしちゃうことが多いんです。怒ってるから眉を吊り上げて……みたいな。そうなると感情の幅が跳ね上がりすぎて、主人公が何を考えているかわからなくなることがあるんです。きちんとベースになっている部分があって、人は表情を作っていると話しています。


――今、野崎さんのお話が出ましたが、キャラクターデザインに起用したきっかけは?

橘監督:最初、キャラクターデザインのコンペをやったんですよ。先ほど“なぜアニメで作るのか”という話がありましたけど、実写と違いアニメって全てのものが0(ゼロ)から作られているので、観る側がそこに自分の想像をのせるんですよ。例えば、実際に東京が壊れた映像でも、アニメだと画を自分の頭のなかで実写に変換するわけです。画を想像で補うんです。そうしてもらうためには、絵の情報量が行き過ぎないほうがいいというのがあって、キャラクターがシンプルで良かった。あと、ボクの好きな絵柄だったこともあって起用させてもらいました。


●神山イズムを受け継いでどう競うか?本編に期待してください。

――今回、TVシリーズ初監督であることに加え、ノイタミナで4月から放送された『東のエデン』の後番組ということで、神山監督の後をうける感じにもなりますが、プレッシャーはありますか?

橘監督:ノイタミナという枠ということもありますし、神山さんが『東のエデン』を作っていることは聞いていて、神山さんの作るものですから、例によってストーリーのクオリティがものすごいだろうなと。じゃあ自分はそこでどうやって戦っていこうとか、プレッシャーはありましたね。
 物語の面白さが第1にあって、絵のクオリティをいかに保つかという部分では、9課(プロダクション・アイジーの神山監督のチーム)で働いた経験が生きています。神山さんへのメッセージじゃないですが“外に出てこういうものを作りました”っていう、恥ずかしくないものを作りたいというプレッシャーはありますね。観てくれるかわかりませんが(笑)。


――最後に観てくださる方へのメッセージをお願いします

橘監督:実際の東京という街で地震が起きるということがテーマになっていますので、主人公の未来が、被災したなかで家に帰るという物語を、“もし自分が地震に見舞われて、同じ状況になったら、どういう行動をするだろう?”と、未来に気持ちを重ねながら観ていただけると、とても見ごたえがあって興味深い物語になると思います。よろしくお願いします。


●橘 正紀プロフィール
東映アニメーションの演出助手から、ビィートレイン制作のTVシリーズ『ワイルドアームズ トワイライトヴェノム』にて初演出。プロダクション・アイジーにて『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、『精霊の守り人』の絵コンテ、演出。PS2用ゲーム『KOF MAXIMUM IMPACT 2』初回特典映像「The King of Fighters: Another Day」で初監督。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』特典映像「タチコマな日々」の監督を経て、今作でTVシリーズ初監督。


<放送情報>
7 月9 日より毎週木曜24:45~フジテレビ“ノイタミナ”ほかにて放送
※初回放送は25:00 スタート

<STAFF>
監督: 橘 正紀
シリーズ構成: 高橋ナツコ
キャラクターデザイン: 野崎あつこ
セットデザイン: 植田 均
3D監督: 井野元英二
色彩設計: 加藤里恵
美術監督: 中島美佳・小木斉之
撮影監督: 大神洋一
音響監督: たなかかずや
音楽: 大谷 幸
制作: ボンズ/キネマシトラス

<CAST>
小野沢未来: 花村怜美
小野沢悠貴: 小林由美子
日下部真理: 甲斐田裕子

喜多村英梨/豊崎愛生/高平成美/遠藤 綾/沢城みゆき/野中 藍/中 博史/井上喜久子

(C)東京マグニチュード8.0製作委員会

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OPテーマはabingdon boys schoolの「キミノウタ」

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(C)東京マグニチュード8.0 製作委員会
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