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『グスコーブドリの伝記』杉井ギサブロー監督インタビュー

「ブドリがハッピーエンドを迎えてもいいと思った」――宮沢賢治の名作童話が現代によみがえる! 7月7日公開『グスコーブドリの伝記』杉井ギサブロー監督が語った「今の世界に送るブドリの物語」

 2012年7月7日(土)から丸の内ピカデリー他で全国ロードショーされる映画『グスコーブドリの伝記』。この作品は日本が誇る国民的作家、宮沢賢治が書いた童話をアニメーション化した作品になっている。

 あまりにも有名な童話の映像化に挑むのは、『タッチ』や『あらしのよるに』、『豆富小僧』などを手がけた巨匠、杉井ギサブロー監督。

 杉井監督は1985年に、ますむら・ひろし氏のコミック版『銀河鉄道の夜』のアニメ化で、宮沢賢治の作品を映像化している。今回も『銀河鉄道の夜』同様に、ますむら・ひろし氏がキャラクター原案の、ネコのキャラクターによるファンタジー世界が展開する。

「映画はずいぶん原作を脚色しています」と語る杉井監督。基本的な構成は同じだが原作から大きく変わった箇所や新たに加わった描写も多いこの作品、国民的童話をどう杉井監督は現代によみがえらせたのだろうか?

杉井ギサブロー監督

杉井ギサブロー監督

●僕はアニメの監督だから「どうアニメにするか」を考えた結果、この形になりました

――今回の映画、赤ひげのもとで働くシーンの解釈をはじめ、原作とは大きく変わった部分が多くて驚きました。

杉井監督:賢治の童話はしっかりとできていて、そのままなぞってもちゃんとした映画になりますが、『グスコーブドリの伝記』をアニメーションとして見てもらうために、今の時代に向けての伝え方があると考えました。それは童話をそのままなぞることではないと思ったんです。

 僕はアニメの監督だから、いかにアニメとしての作品にするかが仕事。この映画は全体が「幻想と現実を行ったりきたりする」という構成になっているんですが、その理由は結局「最後」から来てるんです。映画のラストは「幻想シーン」。現実にはありえない「幻想シーン」で終わりたいという思いがあって、幻想と現実を行ったりきたりさせています。

 映画は作り手が一方的に観客に送り出すものだから、ある種の約束事がいるんです。幻想から現実、現実から幻想へ、という流れを繰り返すことによって、観客は「あっ、この映画はブドリが夢と現実を行ったりきたりしながら進んでいくんだ」ということがわかってくる。その約束が成立してはじめてラストで「幻想として」ブドリはあの結末を迎えることができるんです。


――なぜ最後を「幻想」という形で終わらせたんですか?

杉井監督:童話でははっきりとは書かれてないのに、一般的にはブドリがダイナマイトかなにか仕掛けて、自分もろとも火山を噴火させて……と読まれているじゃないですか?


――はい、僕もそう思っていました。

杉井監督:この童話の結末は一般的には「ブドリが火山にダイナマイトかなにかを仕掛けて自己犠牲で……」と解釈されている。でも賢治ははっきりと書いていません。「ブドリが一人島に残りました」と書いてあって、その次は翌日の情景描写、火山が噴火した後を書いている。書いてないことってすごく大事なことなんです。普通は自己犠牲で火山を噴火させ……となるが、そこをそうじゃないだろうと語りたかった。

 映画としては「ブドリがダイナマイトかなにかを仕掛けてボタンを押したら、ドカーンっていって、それで火山が噴火して……」っていうのが一番ドラマチックですが、賢治はそういうつもりでこの童話を書いてるわけじゃないと思うんですよ。

 わざわざ「ブドリの伝記」として語られる話なのは、賢治は「こういう少年がいた」ってことを伝記として語りたくて書いたからだと思います。それで何を伝えたかったというと、ブドリが一番求めたのは家族4人で過ごした子供時代、その平和な時間を守りたいということですよね?

本編より

本編より

――今回、家族4人の幸せな時間を冒頭できっちり描いてますね。原作だとあそこは数行しかないわけですが。

杉井監督:あと学校と。ブドリが一番幸せだった時間。それはみんなにとっても幸せな時間。それを手に入れるためならなんでもすると考えたとき、コトリが現れた。でも現実にはどうやったって救えない。賢治としては「多くのひとのためにそう思えることを大事にしなさい」と伝えたかったはず。賢治のテーマは、世界じゅうの人が幸せにならないと自分の幸せもないということで、逆に考えれば「自分が何かして世界が救われるならなんでもする」ということです。


――映画では噴火自体もはっきり描かれていなくて、ハッピーエンドって解釈もできる物語になっています。

杉井監督:「生と死の世界」という分け方以外にも違う分け方もあると思っています。僕らが死ぬのは肉体がなくなるということで、僕らの命は実は別の次元のようなところにあって、そこでは別の生命力というものを持つのかもしれない。この3次元とは別に超越した次元のようなものがあるとすれば、それが我々が「死の世界」と呼んでいるものかもしれない。映画でコトリが「こちら側」と呼んでいる世界が「死の世界」と呼ばれるものなら、コトリは「死神」になるが、そう捉えなければ別の見方もできます。


――それは銀河鉄道の夜にも通じますね。

杉井監督:賢治の中では生と死は循環しているもの。僕らは命を自分中心に考えるから「死んだらもう終わり」と考えるけど、そうではなくて肉体は死滅しても生命は循環して再生してまた成長して……、そういう考えがあるとしたら、「生の世界」「死の世界」といった分けかたではない。生命というものの捉えかたがあっても良いと思うんです。


――そうなると最後の言葉、「たくさんのブドリが~」と言う言葉の意味は、ブドリの命がたくさんのオリザになって生まれ変わって、たくさんの家族が幸せに暮らすことができたということになりますかね。

杉井監督:ひとつの命が数万の命として復活する。命の存在をそのように考えたほうが賢治の生命観に近いのかな、というように思えるのです。


<スタッフ>
原作: 宮沢賢治
監督・脚本: 杉井ギサブロー
キャラクター原案: ますむら・ひろし
監修: 天沢退二郎・中田節也
キャラクターデザイン・総作画監督: 江口摩吏介
美術監督:阿部行夫
音楽: 小松亮太

<キャスト>
ブドリ: 小栗旬
ネリ: 忽那汐里
ブドリの母: 草刈民代
クーボー博士: 柄本明
コトリ: 佐々木蔵之介
ナドリ: 林隆三
赤ひげ: 林家正蔵


>>映画『グスコーブドリの伝記』公式サイト

   

(C)2012「グスコーブドリの伝記」製作委員会/ますむらひろし
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