映画『はじまりのみち』の原監督にインタビュー

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』などで知られる、原恵一氏が初の実写映画『はじまりのみち』に挑戦! その心境について聞いた!

 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『河童のクゥと夏休み』、『カラフル』の監督を務めた原恵一氏初の実写映画監督作品『はじまりのみち』が、6月1日に公開となる。本作は黒澤明氏と並ぶ日本映画の巨匠、木下惠介氏の軌跡を描いた実話で、生誕100年記念作品となる感動大作だ。

 初の実写映画監督、そして生粋の木下ファンである原氏が木下惠介氏生誕100年記念作品というものにに取り組んだ経緯とは? 様々な葛藤や作品に込めた熱い思いを語ってもらった。

<b>原恵一監督</b><br>群馬県出身。アニメ制作会社で「エスパー魔美」などの演出を手がけ、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)や『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年)、『河童のクゥと夏休み』(2007年)、『カラフル』(2010年)など多くのアニメーションを手掛け、国内外で高い評価を得ている。

原恵一監督
群馬県出身。アニメ制作会社で「エスパー魔美」などの演出を手がけ、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)や『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年)、『河童のクゥと夏休み』(2007年)、『カラフル』(2010年)など多くのアニメーションを手掛け、国内外で高い評価を得ている。

■ 断ったら「僕は今まで何してきたんだ」って思いもあって監督を引き受けました

――まず初めに『はじまりのみち』のテーマとなっている木下監督の魅力について教えてください。

原恵一氏(以下、原):僕にしても木下監督はリアルタイムの日本映画の巨匠ではないんです。知ってはいましたけど、作品は見てはいませんでした。僕が物心ついたころにはテレビに進出していて、『木下惠介劇場』とか『木下惠介アワー』とかそっちのほうの人というイメージが強くありました。

 でも20代半ばに木下監督の50年代とか60年代の映画を見たときに、ものすごく感動したんですよ。木下監督とは、こんな映画を作っている人だったのかと。なんでこの人がこんなに評価されてないのかと思いました。「これはちゃんと伝えないといけない」とそれからずっと思っていて、ことあるごとに木下監督はすごいという話をしてきたんですよ。そうしたら今回の映画の話を頂き、それはもうやるしかないなと(笑)。

――初めはどういったきっかけで木下作品を見るようになったのですか?

原:恐らくたまたまどこかのオールナイトで、黒澤明監督や小津安二郎監督とかそういった作品と一緒に見たのがきっかけです。「あれ? 木下惠介監督って、こんな面白い作品作る人だったんだ」ってそこから興味を持ったんですよね。でもやっぱり黒澤作品ほど見る機会が少ない監督だったんですが、特集上映などがあると足を運び、観ていった感じです。そうしたら、すごい作品がたくさんあって、ますます「木下惠介、すごいぞ」と思うようになりました。

 でも実際そういう評価をされてる時代があったわけですよね。黒澤明監督と木下惠介監督というのは日本の二大巨匠だったので。でもなぜ黒澤明が語られるけど木下惠介が語られなくなったのか。それは黒澤作品は外国の人が見て評価して、それが逆輸入されてまた見られるようになったというのが大きいと思うんですよ。海外の評価の影響で、日本の若い人も見るようになっていった感じです。

 木下監督もそういう風に評価されるようにならないかなとずっと思っていたときに、今回の映画を任されたのですごく責任重大だなと思いました。でも非常にいい作品ができたなとも思いましたね。初めての実写ということで慣れないことも多くて、わからないことだらけで、最後までわからないことも多かったんですが、良い映画ができたと思います。

 まずは映画の形にしていこう思っていたところから始まった本作ですが、完成してみると役者さんやスタッフの人からも素晴らしいと言われ、正直こんなにいい作品になるなんて思ってもいませんでした。その驚きはアニメでは味わえないと思います。アニメは監督が一度絵コンテで納得した流れを作って、それを元に作業が進んでいきますからね。でも、実写では、役者さんが実際に演技するまでは、完成系は存在しませんから。

――最初、監督が実写のオファーを受けたときに迷いなどはなかったのですか?

原:迷いもありましたよ。最初は脚本だけという話だったんです。後から、監督を含めて自分からお願いして引き受けたんです。当初は「うわぁどうしよう。実写かぁ」と思いましたね。でも、木下監督の生誕100年記念作品という企画で、その依頼断ったら僕は今まで何してきたんだって話じゃないですか。そう考えたら「もうこれはやるしかないな」っていう気分でしたね。

――監督業を担当されることに、気持ちが切り替わったきっかけを覚えてますか?

原:脚本を書いているうちに、これ自分で監督したらいいんじゃないかなって思ってきたんです。良くも悪くもこれを誰か他の監督がやって、それを自分が見たときにどんな気分で見ることになるのかなって思いましたね。木下作品を抜き出した場面もあると思ったので、「(担当する監督が)どんな作品のどんな部分を選ぶんだろう」って考えると、それを含めて全部自分自身が、監督として関わったほうがいいんじゃないのかなって思いました。自信はなかったですけど、「監督もできませんか?」ってお願いしたのをきっかけに、監督を担当することになりました。

<b>《木下惠介監督 プロフィール》</b><br>静岡出身。1912年生まれ。監督デビューは、31歳の時の『花咲く港』(1943年)。「柔の木下、剛の黒澤」と例えられ、黒澤明と人気・評価を二分し、戦後の日本映画界を牽引。テレビ界にもいち早く進出、「木下恵介劇場」「木下恵介アワー」で日本のテレビドラマの礎を築く功績を残した。代表作として、『二十四の瞳』、『楢山節考』、『カルメン故郷に帰る』、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート『永遠の人』などがある。1998年、86歳で逝去。

《木下惠介監督 プロフィール》
静岡出身。1912年生まれ。監督デビューは、31歳の時の『花咲く港』(1943年)。「柔の木下、剛の黒澤」と例えられ、黒澤明と人気・評価を二分し、戦後の日本映画界を牽引。テレビ界にもいち早く進出、「木下恵介劇場」「木下恵介アワー」で日本のテレビドラマの礎を築く功績を残した。代表作として、『二十四の瞳』、『楢山節考』、『カルメン故郷に帰る』、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート『永遠の人』などがある。1998年、86歳で逝去。


映画『はじまりのみち』予告編

■ 「同じ画は二度と撮れない」という儚さが、実写の良さ

――先程、こんなにもいい作品になるとは思ってもいなかったと仰いましたが、それはなぜでしょうか?

原:僕は監督にはなりましたけど、実写の現場というものがよくわかってないんですよ。役者さんにも演出の指示をきちんと出せているのかも怪しかったですし、それはスタッフさんに対してもです。とにかく僕自身が初めてのことだらけで、いっぱいいっぱいの状態で日々撮影に立ち会っていたし、気持ちの余裕も全然ありませんでした。無事に全てのカットを撮ることができれば十分だという気持ちでいました。

 役者さんやスタッフさんからすると慣れていることだと思うんですけど、あんな状況でドラマを作っているのかと思いましたね。撮影前は、ガサガサとした状況なんですが、撮影がスタートすると役者さんたちは、すっとその瞬間だけ物語を演じる。そして、それを撮るっていうそんなことの積み重ねで映画ってできているんだっていう驚きがありました。僕なんかは戸惑うばかりですよ。だって戦争時の撮影をしているのに、周りを見たら現代ですからね(笑)

――資料をみると、場所を変えながら様々な場所に足を運んで撮影していたようですしね。

原:その適切な場所自体が狭い限られた部分しか切り取れないんですよ。本当にこういう状況で劇映画って作っているんだなと思いました。撮影中に飛行機は飛んでくるわ、救急車は来るわで(笑)。田舎に行くとなんか放送がいきなり始まったり、撮影している奥で車が通ったり。よくみんな集中できるなって思いました。アニメではそういうことは起こらないですから。

――アニメでは書き直しもできたりしますからね。そういう意味では、予想外なところで人と人が作り出す奇跡みたいなものにたくさん出会ったという感覚なのですか?

原:そうですね。この映画のキービジュアルになっているシーンなんかにしても、たまたま東向きで、葉っぱがキラキラ輝いていてっていう偶然のものなんです。アニメではそういったものを考えて計算しないといけないんですよね。でも実写ではこの同じ画は二度と撮れないっていう儚いところがまたいいんだと思いますけどね。だからアニメって奇跡があんまり起こらないんですよね。実写もそうそう起こらないですけど。

――映画の中で監督が今まで培ってきたアニメの経験が生きたところはありますか?

原:それは一切考えなかったですね。それを持ち込むのはやめようと思っていました。ただ演出に関しては自分の中の蓄積があるので、方法というか撮影の合間にスタッフさんたちと話しました。でも、アニメだと普通こういう場面ではこう撮るんでこうしたいっていうのはなるべく言わないようにしました。実写の常識的な撮り方でいいと思いましたね。

――絵コンテをしっかり用意するといったアニメのルールというものはあまりなかったのですか?

原:絵コンテも部分的には描いたんですけど、自分で描きたいからという理由で描いたものはありません。日没狙いの限られた時間で撮りきるためにカット数が知りたいので絵コンテ描いてくださいとか、雨のシーンも同じ理由で依頼があって描きました。

――本来監督は今までの映画作りだったら絵コンテもしっかり描いていたと思います。それをあえてしなかったのは今回は実写だから、チャレンジだからということですか?

原:はい。でも時間があったら描いたかもしれませんね。今回はその時間もなかったので。しかし、描いたとしてもその通りにならないっていうのもわかりました。実写だとその通りの場所もそう都合よくありませんからね。

■ 「心の底で繋がっている」木下惠介監督への想い

――この作品の魅力はどんなところにあると思いますか?

原:この映画の中の人は輝いているなと思いますね。普段は自分が監督したアニメでこんなこと言わないですよ。それくらいこの出来上がりに僕自身驚いているんです。素晴らしいなって。それは僕以外の力が大きいんだと思います。役者さんだったりスタッフさんだったり、そういう人たちがちゃんと仕事をするとこんなによくなるんだなって(笑)。人事みたいですけど。それを是非確かめてもらいたいですね。

 気に入ってもらえたら、木下作品も見てもらいたいです。

――監督にとって木下監督というのはどういった存在ですか?

原:20代の半ばに木下作品をまとめて見る機会があって、それ以来僕の作るアニメに一番影響を与えてくれているのは木下監督の作品です。それは全く嘘じゃないと思いますよ。

――あの作品で悩んでいるときに実は木下作品のあれを見たというのはあったりするのでしょうか?

原:そういうことはないんですけど、心の底で繋がっていますね。木下監督の映画を見ていなかったら自分が作る作品が全然違うものになっていたと思います。対象への距離の取り方とか。

 「品」って言葉は誤解を生むかもしれませんけど、品格が違うんですよ。木下監督の映画だけじゃないと思いますが、品格を感じるような映画を撮っている監督は他にもいます。しかし、品っていうのは作品作りで大事じゃないかなって思っています。やっぱり僕は、下品な作品は嫌いなんです。下品なものを人に見せ付けているやつはどっか卑しかったり、好きになれないっていうか。品格を守っていい作品を作っている人は好きですね。そういう風にいろんなことを勝手に学んだ気がするんですよ。

――では最後に、もしこの映画を見た後に見てほしい、オススメの木下監督作品はありますか?

原:『永遠の人』です。イメージ変わりますよ。『二十四の瞳』の監督がこんなものを作っていたんだって。

《ストーリー》
時は戦中。映画界に政府から戦意高揚の国策映画づくりが要求された時代。木下惠介が昭和19年に監督した『陸軍』は、その役割を果たしていないとして当局から睨まれ、次の映画の製作を中止にさせられてしまう。夢を失った木下は松竹に辞表を提出、病気で倒れた母、たまが療養している浜松市の気賀に向かう。失意の中、たまに「これからは木下惠介から本名の木下正吉に戻る」と告げる惠介。戦局はいよいよ悪化の一途をたどり、気賀も安心の場所ではなくなる。惠介は、山間の気田に疎開することを決め、その夏、一台のリヤカーに寝たままの母を、もう一台には身の回り品を乗せ、兄と、頼んだ「便利屋さん」と自分の3人で、夜中の12時に気賀を出発し山越えをする。17時間歩き通し、激しい雨の中リヤカーを引く3人。ようやく見つけた宿で、母の顔の泥をぬぐう惠介。疎開先に落ち着いて数日後、たまは不自由な体で惠介に手紙を書く。そこにはたどたどしい字で「また、木下惠介の映画が観たい」と書かれていた。

《スタッフ》
監督・脚本:原恵一
プロデューサー:石塚慶生、新垣弘隆
協力:静岡県・浜松市
製作:「はじまりのみち」製作委員会(松竹、衛星劇場、サンライズ、静岡新聞社)
配給:松竹

《キャスト》
木下惠介:加瀬亮
木下たま:田中裕子
木下敏三:ユースケ・サンタマリア
便利屋:濱田岳
学校の先生・ナレーター:宮﨑あおい
木下周吉:斉木しげる
庄平:光石研
こまん:濱田マリ
木下芳子:藤村聖子
木下作代:山下リオ
義子:相楽樹
やゑ子:松岡茉優
城戸四郎:大杉漣


6月1日(土) ロードショー

>>『はじまりのみち』公式HP
映画『はじまりのみち』予告編 - YouTube

(C)「はじまりのみち」製作委員会
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