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本気でアニメ業界をめざす人のための 喰える・喰えない話:第1回

本気でアニメ業界をめざす人のための 喰える話 喰えない話 第1回「プロデューサー業について~古里尚丈さん~」

 アニメを仕事にする――  一般に「好きなことを仕事にできる」のは、充実した日々を送れる、幸せな生き方のひとつといえよう。しかし、アニメファンに「アニメ関係の仕事に就きたいですか?」と聞いても、躊躇する気持ちが先に立つのが現実ではないだろうか。

 唯一、声優だけが「憧れの職業」と見做され、狭過ぎる門と少なすぎる席を巡って夢追い人たちが鎬を削る日々を繰り広げている。

 アニメ業界は、仕事の選択肢として「有り」なのか、「無し」なのか。アニメは「趣味で楽しむ」ものであって、「仕事で関わる」つもりはない、という主義の問題。絵が描けない、という能力の問題。アニメーターは休みがなくて給料も安いらしい、という生活面の問題。どんな業界なのかよくわからない、という情報の問題。

 「無し」とする理由はいくつもありそうだ。しかし、絵が描けなくてもできる仕事がアニメ業界にはあり、人手は不足している。

 この連載では、アニメ業界の大先輩からアニメ制作の業務内容や実態を伺い、将来の選択肢のひとつとして「アニメ業界への就職」を考えるための判断材料を提示することを目的としている。

 第1回目は、アニメの制作現場を根底で支える仕事であり、アニメ『SHIROBAKO』でも有名になった「制作進行」から、「制作デスク」「プロデューサー」へと続く「制作畑」の王道を歩まれたベテランプロデューサー・古里尚丈さんにご登場いただいた。

 制作進行時代に『天空の城ラピュタ』などに参加し、サンライズではプロデューサーとして『舞-HiME』『舞-乙HiME』シリーズなどを手掛け、独立してアニメ企画会社を興した今も第一線で活躍する古里さんの、本当に役立つアニメ業界のお話をどうぞ!

▲古里尚丈(ふるさと なおたけ)<br>アニメプロデューサー。1982年、日本アニメーションに制作進行として入社。1985年にスタジオジブリで『天空の城ラピュタ』の進行を務めた後、1988年からサンライズへ。進行、設定制作、制作デスク、アシスタントプロデューサーとして「勇者シリーズ」などを手掛け、1996年に大人気作品『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の新OVAシリーズを任される形でプロデューサーに昇格。2004年には「舞-HiMEプロジェクト」をスタート。2008年にチーフプロデューサーに。2011年にサンライズを退社し、おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』などの企画を手掛ける

▲古里尚丈(ふるさと なおたけ)
アニメプロデューサー。1982年、日本アニメーションに制作進行として入社。1985年にスタジオジブリで『天空の城ラピュタ』の進行を務めた後、1988年からサンライズへ。進行、設定制作、制作デスク、アシスタントプロデューサーとして「勇者シリーズ」などを手掛け、1996年に大人気作品『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の新OVAシリーズを任される形でプロデューサーに昇格。2004年には「舞-HiMEプロジェクト」をスタート。2008年にチーフプロデューサーに。2011年にサンライズを退社し、おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』などの企画を手掛ける

プロデューサーの仕事とは?
――アニメ制作における、プロデューサーの業務について教えてください。

古里尚丈さん(以下、古里):まずオリジナルアニメなのか、原作モノなのかによって、考え方も進め方も、かかる月日(スケジュール)もかなり違ってきます。またオリジナルアニメの中にも、ゼロから作る完全オリジナルと、玩具を販売することを踏まえながら作るオリジナルという種別があります。後者は厳密に言えば、玩具が原作と言えなくもないのですが、玩具には世界観も物語もないわけだから、それを作り出すという意味でオリジナルアニメという言い方をしています。

オリジナルアニメを作る際のプロデューサーの役割ですが、まず何を作るのか。例えば『GEAR戦士電童』『激闘!クラッシュギアターボ』『出撃!マシンロボレスキュー』といった作品は、玩具会社が持っている「こういう機構がある玩具を作れる」というノウハウと、アニメ制作会社の「こういう物語が作りたい」という願望が組み合わさった時に、新しい玩具と新しいアニメが生まれるわけです。

一方、完全オリジナルの場合は、何もないんですよ。真っ白い紙に何を描くのかを決めなければいけない。どういう想いで、誰に向けて、何を作るのか。その場合のプロデューサーのやり方には、いくつか方法があるんです。オリジナルアニメの企画を作れる人を見つける、あるいは集める。そして集めた監督、シナリオライター、キャラクターデザイナーといったクリエイターたちを信じて任せる。ただその際、監督であれば、何を作りたいかというモチベーションのある監督を見つけなければいけない。

僕が『舞-HiME』などを作った時は、そのモチベーションはプロデューサーである僕のほうにあったんです。「主人公を含め、女の子がたくさん出てくる」「超能力系のバトルものにしたい」「10人くらいの女の子が、バトルロワイヤル形式で戦う」といった形で、僕がまず「こういうアニメを作りたい」というキーワードを作って、それをキャラクターデザイナーの久行宏和さん、シナリオライターの吉野弘幸さんに絵や文章を書いてもらい、さらに必要なスタッフを交えて話し合いながら形にしていくというやり方を取ったんですよ。プロデューサーが指針を決め、その指針に合うスタッフを集めることで、プロデューサーの思い描くゴールに向かっていくわけです。

あるいは、プロデューサーから出すのはスケジュールとターゲットくらいで、登場するキャラクターとか、超能力ものになるのか、恋愛ものになるのかといったことは、全部クリエイターさんにお任せする場合もあります。僕の場合は、僕がTVシリーズで一番最初に関わった『星方武侠アウトロースター』以外は、ほぼ自分で指針を出しています。

『アウトロースター』の時はまだプロデューサー業がなんなのかがわかっていませんでしたから。それまでやってきた制作デスクやアシスタントプロデューサー、さらに前の設定制作や制作進行といった仕事と、プロデューサーの仕事は、リンクしている部分もあるけれど、基本的にはまったく違うんですよ。

一般的な会社が「どういう商品を作るのか」を考えるのと同じように、「どんなアニメを作るのか」を決める。僕がサンライズにいた当時は、第8スタジオ、あるいは第10スタジオというスタジオ名を貰っていたので、「スタジオで来年、再来年は何を作るのか」を決めなければいけないわけですよ。何十人かのスタッフがいるわけだから、当然仕事が必要なんです。

僕はオリジナルアニメを作り続けたいと思っていたし、勇者シリーズなどをやってきた人間だから、やはりアクションものが作りたい。ただ、2000年前後からロボットアニメというものが時代に即さなくなってきていたので、サンライズの持っている「伝統芸能のようなアクションアニメの見せ方」を違った形で見せられないか、新しいアクションの見せ方はないかと常に考えていました。

1999年に『星方天使エンジェルリンクス』を作っていた頃には、どうも「萌え」と称される、女の子がたくさん出てくるアニメーションが今後より増えて、ヒットしていく時代になるんじゃないかという予感がありました。そこで翌年の『GEAR戦士電童』に、「C-DRiVE」という中学2年生の女の子3人のアイドルグループを出してみたところ、彼女たちをメインにしたCDドラマがヒットしたんです。そこで「考え方は間違っていない」と確認しつつ、色々勉強し、またお客さんの反応を見ながら、ついに「時は来た」みたいな感じで生まれたのが、2004年10月新番組(9月末からの放送)の『舞-HiME』なんです。

常に情報を集めながら、何年か後のアニメ業界のトレンドや、商品として何を作ればいいかというのをずっと考え、スタジオとしての利益の追求も行いつつ、自分が作るべきものを時代から読むのがプロデューサーの仕事ですね。


――アニメの指針を作るのもさることながら、ビジネスの視点も重要なわけですね。

古里:プロデューサーの役割とは、予算の確保、スケジュールの確保、スタッフの確保、クオリティの確保、利益の確保。これが全部揃わないと、プロデューサーではない。この中で、スタッフ確保に関しては、アニメを作っているスタッフの中からスターを生み出すことも大切な仕事なんです。当然、アニメをヒットさせて利益を上げることも必須ですし、様々に複合された責任を背負うのがプロデューサーだと思うんですよ。


――そうなると、何かを作りたい、表現したい欲求が強過ぎる人は、資質としてはプロデューサーよりもクリエイター寄りになりますか?

古里:そう思います。ディレクター色が強くなりますね。ただ、プロデューサーによっても当然個性があるので、得意不得意は出てきます。そして、弱いところには他の誰かが入ればいいわけです。ひとりで全部やっているパワフルプロデューサーもいれば、2~3人で組んでやってもいいんですよ。


――『宇宙戦艦ヤマト』の西﨑義展さんなどは、すごくパワフルなプロデューサーという印象があります。

古里:『ヤマト』は、西﨑さんご本人の個性が出まくりだと思います。『ワンサくん』ではミュージカル風の作風に挑戦していましたし、ミュージカルがお好きだと聞いた記憶があります。「自分が作りたいもの」が相当ある人ではありますね。それでも、クリエイターではないわけですよ。何か作りたいものがあって、それに向けてスタッフやお金を集めていくというスタイルは、まさしくプロデューサーですね。


制作に必要な能力

――アニメ業界を描いた『SHIROBAKO』によって、制作進行をはじめ、どんな職種がアニメの現場にはあるのかを垣間見ることができました。古里さんはプロデューサーになられるまでに、制作進行、設定制作、制作デスク、アシスタントプロデューサー、プロデューサーというルートを通られたそうですが、それぞれどんな仕事なのかを教えてください。

古里:僕が進行だった時代と今とでは、作業の進め方が多少違うんですよ。当時はセルをフィルムで撮影する時代でしたが、今はもうセルはないですし、撮影もカメラからパソコンに切り替わったので、作業の効率化が相当図られているんです。そして、重いセルを運ぶといったことがなくなりましたね(笑)。制作進行の仕事で唯一変わっていないのは、「人と人の間を繋ぐ仕事」という点だと思いますね。

制作進行の仕事として原画が上がったら、それを集めて演出家に渡します。演出家がチェックしたものを、作画監督に渡します。作画監督が修正したものを、動画に回します。動画が描き終わったら、回収して動画チェックに回します。動画チェックが終わったら、色指定に回します。色指定が終わったら、仕上げ&特殊効果に回します。仕上げが終わったら、背景と組み合わせてパソコンで撮影の作業をします。CG作業もあります。

撮影が全部終わりました。カット1からラストカットまで繋ぎます。編集のため、編集スタジオにデータを送ります。編集が終わりました。音響会社に素材を持っていきます。そして、音響会社ではアフレコをやり、声、効果、音楽を合わせるダビング作業を行います。完パケの音データができました。絵も揃いました。リテイクも直りました。映像と音声を合わせる作業としてビデオ編集です。そのビデオ編集で納品フォーマットを組んだHDカム(デジタルデータが収録された専用のテープ)を放送局に納品します。

これだけの作業があって、その間の物や情報の移動は、すべて制作進行がやるんですよ。だから進行の仕事は何かといったら、各々の間を廻って歩いて、いつまでに仕上げてくださいという情報をしっかり出して、それを守らせるのが大きな仕事ですね。


――『SHIROBAKO』以降、アニメ業界の門を叩く人が増えて、制作進行も増えたものの、どんどん辞めたと耳にします。やはりそれだけきつい仕事なのでしょうか?

古里:どんな仕事でもそうですが、きついかどうかは本人の捉え方だと思います。僕は21歳で業界に入った時から、家に1ヶ月も帰れないことが普通だったんです。でもつらいとは思わなかったんですよ。それを「つらいし、仕事として選んでも大変なだけだよ」と言うのは簡単なんですけど、残った人もいるわけじゃないですか。


――昔は今よりさらに忙しくて過酷だったのでしょうか?

古里:汗水流すような忙しさで言えば、昔のほうが忙しかったですね。各セクションからセクションへ物を動かす際に、車で移動していましたし、セルは重かったです。でも、今はインターネットでのデータ配信がありますから車の移動は減っています。今の忙しさは、全体スケジュールが短いからなんです。昔はセルとフィルムを使っていたため、あるタイミングを過ぎると撮影が間に合わなくなって、落ちる(納品出来なくなる)んですよ。それが今はパソコンを使うことで、けっこうギリギリまで粘れるようになったんです。その結果、昔は1話の作画以降を2~3ヶ月で作っていたのが、1ヶ月で作っているような状態ですからね。


――制作進行に必要な資質があるとしたら?

古里:一番はコミュニケーション能力ですね。もうひとつは、打たれ強いこと。忙しくても、忙しいと思わない人、それが当たり前だと思える人。


――先程、アニメの制作工程を教えていただきましたが、絵は描けないけれどアニメが好きで、情熱だけはあるという人がアニメ業界を目指すとして、現実的に選べる職種というと何があるのでしょうか?

古里:アニメファンよりも、アニメを知らないで入ってきた人のほうが、残ることが多いですね。アニメが好きというのは必要なんですけど、必要以上に好きだと怖い。僕の経験から話しますが、撮影が終わったセルを愛おしそうに見ていた制作進行がいたんですよ。つまりその人は、セルが欲しいんです。僕らは、出来上がったアニメーションがお客さんにどう評価されるかを楽しみにしているわけだけど、撮影を終えたセルを廃棄する際に「もったいない!」と思うような人は、アニメ制作に関わるのは無理ですよね。アニメを作ることが好きなのではなく、セルが好きなわけですから。

マニアといっても、角度によっては役に立つ場合と立たない場合があるんです。そして制作進行の仕事の上では、マニアックな知識などは逆にいらないんですよ。それよりも、営業に向いているとか、人とのコミュニケーション能力が高いとか、ビジネスができることが重要なんです。


―― 一般的な社会人としてのスキルが求められるわけですね。

古里:普通の人であれば問題ないんですけど、そこにほんの少しだけ「映画が好き」とか、映像を観る力が必要なんですよ。特に制作デスクやプロデューサーになると、その能力がないといけなくなってくるんです。シナリオの決定稿を決めたり、このキャラクターで行こう、このデザインにしようといったことを判断するのは監督とプロデューサーなので、監督とは違う角度でジャッジする能力がなければいけない。その能力を培うためには、「小説や映画、舞台などを観る」。そして、「本物を見る、知る」といったことは必要でしょうね。


――制作進行の次にされた設定制作ですが、これはどのような仕事なのでしょうか? また、制作進行をどのくらいやってから移られたのですか?

古里:日本アニメーション時代とスタジオジブリ時代は制作進行で、25歳からサンライズに入社して1年間制作進行をやり、その後2年間設定制作をやりました。

制作進行は、いろんなセクションの間を取り繋いで、物を移動させたり情報を伝達する仕事だと先程話しました。設定制作は、設定を作る人たちの間を取り持つ仕事です。サンライズはロボットアニメが多いため、設定の数が他の会社さんより少し多いんです。制作進行が、自分が受け持つ話数1本を担当するところを、設定制作は全話数のキャラクター、メカデザイン、美術などの設定を担当するわけです。『ミスター味っ子』では、メカではなくお料理の設定がありましたね(笑)。

それをすべて統括するのが制作デスクです。1話数1話数がどう動いているか、設定作業は滞りなく進んでいるか、シナリオや監督という中枢がしっかり作業をしているか。それらをトータルで把握して、クオリティ、スケジュール、納品までを考えるわけです。


――制作進行を務められた人であれば、設定制作まではそのままのスキルを活かして進める感じですか?

古里:そうなりますね。


――その先の制作デスクになると、今度は別の能力が必要になる?

古里:全体を把握できる力、トータルで見る力が必要になります。リーダーシップも少し必要かな。制作デスクは、プロデューサーが「こんなアニメにするぞ」と出した指針を実現するために、プロデューサーの右腕になって制作現場を取り仕切るんです。実際にアニメを作っているのは、デスク以下の進行たちなんですよ。


――次に、アシスタント・プロデューサーという職種についてですが、これはどんな仕事をするのでしょうか?

古里:僕は1年やりましたけど、プロデューサーと制作デスクの間の役職ですから、デスクがきちんとした仕事をしているとほぼ仕事がないんです(笑)。ですから、一所懸命プロデューサーの仕事ぶりを観察していました。


――そしてプロデューサーになった途端に、会社としての利益を求められるようになるわけですね?

古里:そういうことです。


――ということは、作品作りをしたい人にとっては、むしろ制作デスクのままのほうがいい場合もある?

古里:職人気質の人は、制作デスクに向いていますね。「うちのプロデューサーが営業して取ってきたこの仕事は、オレが絶対やる!」みたいな、企画や営業はしたくない、アニメだけ作りたいという人が向いているんです。


アニメ制作の職種とキャリアアップ

――アニメ業界は賃金が安いと言われます。たとえば制作になって、仕事として喰えるようになるのはどの辺りからなのでしょうか?

古里:喰える喰えないですか? まず、生活のための必要最低限がクリアされているなら、後は給料をどう捉えるかだと思うんです。月に100万貰っても、仕事のわりに安いと思う人は思うだろうし。僕が日本アニメーションに入った当時は、給料を1割源泉徴収されて、通帳に9万円入っているのを見て「すげぇ貰ってる!」と思っていたから(笑)。家に1ヶ月帰れないのに家賃23000円を払って、そこから今度は食費やら何やらで使って。それでもつらいと思っていないし、給料が安いとも思っていないんですよ。


――それが一般的にもまぁまぁな額になるのは、制作デスク辺りからになるのでしょうか?

古里:30年以上前の話ですけど、僕の場合は日本アニメーションにいた2年間の最後の頃で12万くらい。ジブリの頃が13万くらいで、サンライズで14万くらいから始まって、制作デスクの時は20万くらいでしたね。それでも、1回も安いと思ったことはなかったな。

制作進行は給料制なので、個人の資質としてそれを安いと思えば安い。程好いと思えば程好い。それよりも明らかに大変なのは、クリエイティブな部署です。作画や仕上げ、絵コンテを描く、演出をする、シナリオを書くといったことは、出来高ですから。1本いくら、1枚いくらの世界なので、病気をしたり、家庭の事情で作業ができないとなれば、お給料が貰えないわけですよ。今はその辺りが改善されてきて、作画さんも社員化されて給料制になっている会社も増えています。


――馬に乗った人間が軍団規模で登場するなど、最近は人間や動物をCGで描写するような作品も増えてきました。CGは、値段的にはどうなのでしょうか?

古里:昔は1カット数百万という時代もありました。そう、すごい高かったんですよ。今、テレビシリーズで使えるようになったということは、値段が安くなったんです。10年くらい前までは、CGは特殊なものという扱いだったので、高かったんです。元々は、実写の映画やCMに使うものじゃないですか。値段単価の設定が違うんですよ。だから25年前くらいにCG屋さんがアニメ業界に来た頃は、映画など大きな予算があるアニメでしか使えなかったんです。それが、CG屋さんの努力もあって値段が下がったんですね。


――制作、設定、作画、CGと、アニメ制作の代表的な職種について教えていただきましたが、ほかにはどんな職種があるのでしょうか?

古里:音響ですね。効果音とかを作る人です。


――その場合は、音響制作会社に就職するわけですか?

古里:そうです。音響関係は、僕が知っている限りなので浅くなりますが、特殊な技能は多分いらないと思いますよ。入ってから、助手を経験して憶えていくことになります。でも、音楽だったり、演技などに興味があって勉強の必要はあるかなと思います。


――音響の中には、どんな仕事があるのでしょうか?

古里:効果音を作る仕事。ミキサー、調整という仕事。音響監督という仕事。それからアニメ会社でいう制作進行に近い、音響周りのスケジュールなどをまとめる音響制作。ざっくり言うとこんな感じです。


――新人が最初に就く仕事は?

古里:音響制作の助手。次に、音響監督の助手ですね。


――音響監督を目指すとすると、今度は演技に関するスキルが必要になるわけですか?

古里:そうです。だから、声優さんが音響監督になることも多いです。もうひとつが、音響監督の助手から音響監督になるパターンです。あとは極まれに、アニメの監督が音響監督になる場合もあります。


――それ以外には、どんな仕事がありますか?

古里:改めて列挙すると、演出の部署、作画の部署、仕上げの部署。仕上げには色指定という特殊な才能を持った人が必要です。それから背景の部署、撮影の部署、編集の部署、ビデオ編集の部署。


――編集は、編集会社に入るわけですか?

古里:アニメの編集会社ですよ。実写の編集会社に入っても、アニメはやらないので。


――編集になるには、どんな技能が必要なのでしょうか? 会社に入ってから、仕事の中で憶えられるようなものなのでしょうか?

古里:映画監督がよく「ナニナニ組」といって、絶対に仕事を頼みたい照明マンとかカメラマンとか、ライターとかを抱えているじゃないですか。その中に必ず編集も加わるんですよ。実写はカメラを何台も回して、2時間の映画のために100時間くらい撮っているわけです。そこから2時間の映像を作るから、編集作業というのはものすごく大切なんです。センスも必要だし、理屈も必要だし、監督の意図を汲んで作るわけだから、昔から実写映画において編集というのは立場がすごく上だったんですよ。だからオープニングテロップに名前が載るんです。それくらい、編集にはセンスが必要なんです。

ただ、アニメーションの場合は絵コンテがあって、1カットあたりの秒数やある程度の動きまで示されているので、100時間ある映像から2時間の作品を作るわけではない。23分くらいの絵コンテからテレビフォーマットの21分にするので、アニメーションの編集マンには、実写の編集とはまた違う技術が必要だと思います。


――動画サイトに、アニメの名場面を編集して曲に乗せた動画がよくアップされていますが、あれが編集に必要なセンスになりますか?

古里:PVを作るセンスに活かせますね。アニメーションの場合は、コンテがあるので流れは見えますが、アニメーターが描いた絵の動きをカットごとにアクションで繋ぐ自然さや、頭と尻に「間」、いわゆる余韻を残すのか? キャラクターの動きなどは、セリフだけでなく効果音や音楽がどう入るのか? といったことも計算して、その「間」を作ったりします。

ただ、編集業務というのは、それほど人数を必要としないんですよ。今、アニメの編集スタジオが何社あるかはわかりませんが、毎年募集と言うよりは、欠員補充的なところが多いのではないかなと思います。フリーになって、20年以上ずっと1人でやっている人もいますしね。


――そうなると、就職先としてはなかなか選びづらいですね。

古里:編集会社さんの欠員募集を見つけないといけませんので、大変ですね。元々の会社の少なさや必要人数の少なさから、入りにくい業種ではあると思いますね。

僕は中学や高校の時にアニメを観て、映像業界って面白そうだなと思ったけれど、シナリオは書けない。絵も描けない。だから制作進行をやると考えた。それでいいと思うんですよ。その後に「演出やりたいな」と思ったら、演出助手になればいい。


――制作進行から演出というパターンもよくあるんですか?

古里:あります。逆に、演出を直にやる方法はなかなかないんですよ。演出会社というのもないし。


――演出をやりたい人が、最初から演出助手として入ることもある?

古里:あります。いきなり演出をやる人もいます、そういう人はある意味天才ですけどね。『鎧伝サムライトルーパー』の監督を手掛けた池田成さんなんて、いきなり絵コンテでしたから。彼は、大学時代に8ミリで映像を撮っていたんですよ。高松信司さんもそうだと聞いています。多分庵野秀明さんもそうじゃないですか。あの時代の人たちは学生時代に8ミリを撮っていたり、マンガを描いていたりして、才能の片鱗を見せているんですよ。

あと、制作進行から設定制作、文芸、シナリオというコースもサンライズにはあります。


――文芸というのは何をやるのですか?

古里:今はほとんどなくなりましたけど、シナリオの制作進行です。文芸からシナリオライターになった人たちは、サイライズにも何人かいますよ。そういう意味では、制作進行が次のステップに行くためのスタート地点みたいな考え方はありますね。


――まっすぐ進めば制作デスク、プロデューサーと進み、希望によっては演出やシナリオのほうにも進めるわけですね。アニメ業界に就職する場合、制作進行はその後の発展性を考えると、第一歩として最適なのかなと感じます。

古里:よくある話で、「将来何になりたいのかまだわからないから、ひとまず大学に行こうかな」というのに近い。でも、何かになりたいなら、近くに行かなければ何も始まらないんですよ。僕は青森出身ですけど、青森にいたってなれないから、まず東京に行こうと。そしてバイト求人誌で日本アニメーションが制作進行を募集していたのを見て、日本アニメーションに入ったんです。


――制作進行になりたての頃、楽しかったことは何でしたか?

古里:何も知らないから、すべてが新鮮で楽しいんですよ。つらいことはなかったですね。家に帰れないこともつらくなかったし。当時は自分が演出になりたいと思っていましたので、タイムシートやレイアウトを見るのも楽しいし、上手な原画マンに会うのも楽しい。怒られるのは楽しくないけど、怒られるということは何かを教わっていることだから、今考えると勉強になりました。


――振り返って、何かのポイントになった作品というと何になりますか?

古里:当たり前だけど、一番最初にやった作品は憶えていますよね。僕は『ふしぎの国のアリス』をやったので、先日もジョニー・デップの『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』を観に行きました。同じ原作の作品だから、やっぱり気になるわけですよ。あとはジブリの『天空の城ラピュタ』。サンライズに入ってからは、『勇者エクスカイザー』が一番思い出深いですけど、「勇者シリーズ」が以後の自分を作った作品だと思っているんです。

そしてやはり『舞-HiME』『舞-乙HiME』の2作は、かなり上にいる感じですね。もちろん、どの作品も生みの苦しみを経験しているから、ひとつひとつが大切で、順位は付けられないですけどね。まぁ、ターニングポイントになった作品といえるかな。


アニメ業界で生きていくコツ

――本気で就職を考えた際、アニメ業界の今後や将来性というのは実際どうなのでしょうか?

古里:2016年7月新番を見ても、ものすごい本数が放送されているわけだから、アニメ業界は活況と言えると思うんですよ。つまりこれって、スタッフ不足に繋がるわけです。ということは、いろんな要職に若い人や、今まで陽が当たらなかったけれども能力が高い人にスポットが当たる可能性が高まるんですよ。


――現在、アニメ業界に人はかなり必要とされている状況ということでしょうか?

古里:どのセクションも足らないです。ただ、ある程度の才能は欲しいじゃないですか。でも才能豊かな人はどこに行くのかというのが問題で、安い安いと言っている業界に才能は来ないんですよ。だからスタッフは欲しいんだけど、なかなかいいスタッフが来ない。しかも若者は減っているわけです。そうなると、5年後、10年後、30年後というのは業界が尻窄みになるのはあからさまですよね。逆に、いろんな人にチャンスだけはあるわけです。


――つまり、がんばって生き残れば、上に行ける可能性がある?

古里:う~ん、どうだろう……。でも、残るために必要なのは、鈍感なことですよ(笑)。今はストレスに押し潰される人が多いじゃないですか。ストレス回避に効果的なのは鈍感力ですから。そして、アニメ好きという内向的な人が多い中で、制作進行は営業マンだから、必要なのは営業マン的要素なんです。コミュニケーション能力、明るさ、人が好き。そういう人が来ると、生き残れる可能性が高いですね。

さらに、10年後、20年後のことを考えると、ビジネス周りが構築できるスキルを持っている人が制作は欲しいんです。だから、「アニメが好き」だけで来ると、ギャップに嫌になって辞めていくわけです。

とにかくこの業界は、忙しいのに給料が安いなと思ったらアウトなんですよ。いろんなところが鈍感にならないと。だけど、情報収集や人間関係に関してはすごく神経質に、鋭敏に捉える。プロデューサーに必要なのは、そういうことではないかなと思いますね。


――プロデューサーの楽しみとは?

古里:僕は「オリジナルアニメーションを作る」ことを生き甲斐にしているので、新しい物語、新しいキャラクター、新しい世界を作れる、何かを生み出せるというのは、幸せな仕事に携わっていると感じますね。

僕はありがたいことに、起業した2011年から『ファイ・ブレイン~神のパズル』を25話数ずつで計3部作、3年やらせてもらって、キングレコードさんとサンライズで『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』を25話数、バンダイナムコオンラインでゲーム用の短編アニメーションを24本と、5年間で5作を作らせてもらった。すごいことですよね。これがプロデューサーの楽しみですよ。

僕がなぜプロデューサーになったのかといったら、何もできないからプロデューサーをやっているんですよ。絵が描けない、文章が書けない、音楽も作れない、色も塗れない、背景も描けない、ロボットの設定も書けない、絵コンテも描けない、声優もできない。アニメを作りたいのに、何もできない。何もできない人がアニメーションを作る方法のひとつである、プロデューサーになるしかなかったんですよ。


――最後に、この商売は喰えますか? 喰えませんか?

古里:僕はギリギリ喰えてきました。ただ、アニメ業界一般で考えると、クリエイターや声優たちが喰えずに、バイトや親の仕送りで苦労しているのを見てきたのも事実です。クリエイターは出来高ですからね。才能があっても、人付き合いが下手だと仕事が来なかったり、すごい絵を描くけど手が遅かったら稼げないわけですよ。


――線が1本気に入らないと紙を破くという、芸術家肌のアニメーターさんの話も聞きますね。

古里:近い人は見たことがあります(笑)。でも、僕はアニメーターは職人であっては欲しいんですよ。一握りの天才と、たくさんの職人がいる形が一番いいと思っているんです。そして時々現れる天才が、時々大ヒットを打つ。だけど天才が100人いて、職人が10人だと、制作現場は成り立たない。ということで、天才も職人も来て欲しいわけです。

あとはビジネスとして、アニメーションを使って業界全体でお金儲けを考えられる人がいたら素晴らしいですけどね。そういう人が大きな会社にいれば、他の会社にも波及しますから。アニメ業界というのは、お金儲けをしたい人よりも、作品を作りたい人が多いんですよ。


――確かに、「作りたいもののために情熱を注ぎ込めれば、採算度外視でも幸せ」みたいな人が多い感じがします。

古里:金儲けという言葉があまり好きではないのかもしれないけど、アニメーションというものを使ってお金儲けができる人というのが業界には少ないんですよ。


――喰えるか喰えないかではなく、“業界全体を喰わせてくれるような商売人”を求む、ということでしょうか?

古里:そういうのを“喰えない奴”って言うんじゃない?(笑)

[取材・文/設楽英一]

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