『キューティーハニー』はなぜ人気か? 永井豪先生が理由を語る!

『キューティーハニー』はなぜ、いまだに人気なのか? 永井豪先生が、その理由を自ら語る!

2004年に公開された映画『キューティーハニー』から、約12年。再び如月ハニーが、実写映画となって2016年に復活します。『キューティーハニー』と言えば、『ハレンチ学園』、『デビルマン』、『マジンガーZ』と、さまざまな名作を世に送り出した、漫画家・永井豪先生の作品。1970年代に「アニメ×コミック」のメディアミックスの可能性を示した先生の偉業は、まさに生きるレジェンドといえるもの。そんな、メディアミックスの先駆者といえる永井豪先生に、最新作の映画『CUTIE HONEY -TEARS-』と、当時の『キューティーハニー』の誕生秘話、当時のアニメ産業の様子などをうがってきました。

▲漫画家・永井豪先生

▲漫画家・永井豪先生

新しいハニーの誕生に感激

──まずは『CUTIE HONEY -TEARS-』をご覧になられての感想をお聞かせください。

永井:今回の映画は、これまでの作品とまったくコンセプトも世界観もまったく違うんですけれど、それでもハニーの"ポリシー"はちゃんと活かしてくれてるんですね。そのうえでまったく新しいハニーが誕生したことに、作者としては大喜びです。

──庵野秀明監督の『キューティーハニー』(*1)や、ドラマ版の『キューティーハニー THE LIVE』(*2)といった、過去の映像化作品ともまた違ったアプローチでしたね。特に庵野監督のときは原作の要素を拾いつつ、意図的にアニメ的な表現をされていたので、今回の新作とは対照的でした。

永井:庵野さん独特のすごくユーモアのある味付けでくるんでいただいて、あれはあれで楽しかったですね。それと比べると今回は思いっきり違う要素を狙っていて、笑いやエロチシズムということより、アクションであるとか、あるいは"哀しみ"の感情など人間ドラマの部分を膨らませているので、またぜんぜん違った作品に仕上がってます。

*1:2004年5月公開の庵野秀明監督作品。ハニーを演じたのは佐藤江梨子。実写とアニメ表現を織り交ぜた「ハニメーション」と呼ばれる手法や、倖田來未による『キューティーハニー』主題歌のカバーが話題に。ちなみに『シン・ゴジラ』の尾頭ヒロミ役で話題となった市川実日子も大活躍。
*2:2007年から深夜枠で放送された実写ドラマ。全25話。『牙狼〈GARO〉』シリーズを手掛けたスタッフが多く参加していることに加え、平成仮面ライダー作品などで知られる脚本家の井上敏樹がシリーズ構成を担当しており、ハイレベルなアクションと過激なドラマが見どころ。3人のハニーが登場するなど、多くの独自設定も特色。

──敵組織としておなじみの「パンサークロー(*3)」が登場しないなど、大胆なアレンジにも驚かされたのですが。

永井:ええ、まったく出ないですね(笑)。まぁ、それはそれで構わないというか、わりとファンの方は「なんであれが出ないんだ」みたいなことをおっしゃられることもあるかもしれませんが、そこに一番うるさくないのが実は原作者だっていう(一同笑)。

*3:『キューティーハニー』に登場する国際秘密犯罪組織。戦闘員を除いては幹部・怪人ともに全員が女性で、宝石や貴金属を専門に狙う。ハニーが変身に使う「空中元素固定装置」を狙うのも、あらゆる宝石などを無限に作ることが可能となるからである。なお、後の作品では人間ではなく、魔族のような存在として描かれているものも多い。

──今回、西内まりやさんが演じられたハニーについては?

永井:やはり時代ごとに求められる女性像が変わっていくんだなということになるんですが、現代は彼女のようなモデル出身で、女性からの支持も高い方を起用して新しいハニー像を創るというのも正解でしょう。途中でファッションショーのようなことをやって次々に衣装が変わっていくなんてのは、西内さんだからこその魅力です。そこでおなじみのテーマ曲が流れるのも嬉しかったですね。

──ハニーで"黒"がベースの衣装というのも、これまでと大きく印象的が違いました。

永井:今はアメコミの映画化作品などもシリアスな味付けのものが主流ですけど、今回のハニーでも黒い衣装を含めて、そういったところが強調されているように感じました。最初は少し暗い感じでハニーが登場するのも、そういうことなんだろうと納得して観ていましたが、それが最後は……いや、これはまだ言わないほうがいいかな(笑)。とにかく、ハニーの本質をとらえた結末になっていると思います。

──ハニーと対決することとなる、ジルを演じた石田ニコルさんはいかがだったでしょう?

永井:彼女も美しかったですね! 非常にクールな雰囲気で良かったと思います。

──ジルもまた、かつての「シスタージル(*4)」とは大幅に違う描かれ方をしてましたね。

永井:そうですね。"悪"というよりは、つい"綺麗だなー"ってところにばかり目が行ってしまいました(笑)。

*4:パンサークローの大幹部。ハニーの生みの親である如月博士を殺害し、親友の秋夏子をも焼き殺した仇敵。しかし、原作版で空中元素固定装置の不調でヌードになってしまったハニーにときめきを覚えるなど、ややレズ趣味の側面もある。

──ちなみに今回は、企画段階から「原作とは全然違う」という作品の方向性をお聞きになられていたのでしょうか?

永井:その時点で「近未来を舞台に、まったく新しいハニーを創る」とのことだったので、「どうぞ、どんどん自由にやってください」って了承したのは覚えてます。

──アニメ作品のほうもそれぞれテイストは大きく違いますし、様々なアプローチが可能なのも『キューティーハニー』なのかもしれませんね。

永井:女の子向けの時間帯でやっていたときと、もっと深い時間帯のときや、あるいはOVAのような作品とでは、当然そこに求められるものが違ってきますからね。それに"時代の要請"というものもありますから。実写化に関しては、なまじ原作通りにしようとするより、むしろそこから離れてくれたほうが、僕としては“ひとりの映画ファン”として素直に観られるんですよ。そういった意味では、今回はおおいに楽しまさせていただきました。

「空中元素固定装置」誕生の真実

──もうずいぶん以前の話になりますが、『キューティーハニー』誕生の経緯についてもお伺いしたく思います。原作漫画とアニメは同時進行だったそうですが?

永井:最初は僕から言い出したというわけではなく、当時の東映動画で企画部長をされていた有賀(健)さんからのお話がきっかけでした。『デビルマン』、そして『マジンガーZ』とやってきたので、「そろそろ次は、お得意の"色っぽいやつ"で1本お願いできませんか?」ということで(笑)。それで女の子が主人公で、ファッションが七変化的に変わるのはどうですかとアイデアをいただいたんですが、ただコスチュームが変わるだけだと『多羅尾伴内(*5)』シリーズなどがすでにありましたから新鮮味が無いだろうというのと、その色っぽさを持続させるためにも、毎回必ず着替えのシーンを入れてはどうかと提案したんですよ。

*5:昭和20年代から続く探偵ミステリ作品。比佐芳武原作。主人公の多羅尾伴内は変装を得意とする「七つの顔を持つ男」として有名であり、「あるときは○○、またあるときは○○、しかしてその実体は……」の決めセリフは、本作がオリジナル。

──それが「ハニーフラッシュ」になったんですね。

永井:そうです。そして一瞬にして裸になって着替えるというのをどうやったら説得力を持たせられるだろうって考えた末に、まずハニーが人間ではなくアンドロイドだということにしてみたり、「空中元素固定装置」なんて設定を考えてみたり。少しでも説得力が出ればいいなと思って、わざと漢字を並べた固めのネーミングにしたんです。

──空中元素固定装置、その発想が、本当に素晴らしいと思います! もともとは着替えのシーンを入れるためのエクスキューズから、空中の元素を操作するというところに行き着いたのは、もはや"発明"と言ってもいいほどのアイデアなのではないかと。

永井:毎回ハニーが着替えるシチュエーションを考えていたのでは、アニメのシナリオライターが大変すぎるだろうと思ったんですよ。普通にやっていたら、いちいち毎回のように不自然にならない形で着替えのシーンを入れるなんて、ほとんど不可能なんじゃないかって。

一同:(笑)。

──でも、そこにSF的な発想があったからこそ、今回の映画にもつながった気がしますね。

永井:今回の映画では、空中元素固定装置の使われ方も驚きましたね。そこは映画のテーマにも関わることですので、どのように扱われるのかも楽しみにしていただきたいなと思います。

時代を超えて愛されるハニー

──先ほどアメコミ原作の映画の話が少し出ましたが、「マーベル・シネマティック・ユニバース(*6)」のような違う作品とのクロスオーバーのようなことは、それこそ国内では『マジンガーZ対デビルマン(*7)』などで永井豪先生が非常に早い時期から積極的に取り組まれていたように思うのですが?

永井:なんでも他の作品をもってきて、ひとつにくっつけちゃうのが好きなんですよ。許されるならば他の人が作ったものも持ってきちゃいたいぐらいなんですけど、残念ながら勝手にそれをやると怒られちゃいますからね。『けっこう仮面(*8)』では、かなりパロディ的なものを描いてはいますけど(笑)。

*6:マーベル・スタジオ製作のアメコミ映像化作品が共有している架空の世界。詳しく説明しているとあまりにも長くなるので、とりあえずは『アベンジャーズ』を観ていただきたい。
*7:1973年公開の劇場用作品。「東映まんがまつり」の一編として公開されたが、まったく世界観の異なる作品のクロスオーバーは、当時としては革命的な企画であった。また、現在では定番となっている「テレビ放映されている作品の劇場用オリジナル作品」としても、さきがけとなった作品である。
*8:顔だけ隠して体をまったく隠さない、あまりにも強烈なヒロインが活躍する作品。初出は1974年の『月刊少年ジャンプ』9月号読切。その後、連載に至るが、ほとんどのエピソードで敵として登場するのが、国内・海外作品を含めた有名キャラクターのパロディ。最後は「○○先生ごめんなさい」と言い残すのが定番となっている。

──ハニーもクロスオーバー作品にはしばしば登場していて、特に近作の『グレンダイザーギガ(*9)』でのハニーの凄まじい活躍は印象的でした。

永井:あれはどうしても描きたくなっちゃって、無理矢理に登場させちゃったんですよ(笑)。そして、もともと『キューティーハニー』にも『グレンダイザー』にも『あばしり一家(*10)』の悪馬尻駄ェ門(*11)と同じ顔した団兵衛が出ていましたし、これはいけるぞってことでそれらのコラボになった次第です。

*9:2014年から『チャンピオンRED』にて連載された作品。単行本は全2巻。永井豪自身の手による『グレンダイザー』のリメイク作品だが、オリジナルとは大幅に異なるアレンジが導入されている。なかでもヒロインの牧葉ひかるがキューティーハニーとなり侵略者と戦うのは、まさに驚愕の展開。近年のインタビューでは再開の構想もあることが語られているので、続編に期待しよう!
*10:ギャグとエロとバイオレンスが融合した、永井豪ワールドの集大成とも言える作品。1969年より『週刊少年チャンピオン』で連載された。全員が犯罪者というとんでもない一家を主軸に、モラルの壁をぶち壊したかのような表現が炸裂する快作。血みどろなのに能天気、それでいてストーリー展開の妙も楽しめる。
*11:あばしり一家の家長。作中では超能力者のうえ剣の達人で、世界最強の魔人という扱い。そして『キューティーハニー』の早見団兵衛や『UFOロボ グレンダイザー』牧葉団兵衛にそのルックスがそのまま流用されているが、能力は大幅に弱体化している。漫画版の『キューティーハニー』では、「やっとテレビに出られるもんね」など、メタ的なセリフもある。

──先生自身も時代や作品の枠を超えて描き続ける、ハニーの魅力は何だとお考えでしょうか?

永井:まぁ、言ってみれば"男の願望"が全部詰まったような存在ですからね。エロティシズムだとか永遠の美しさというのもそうですし、優しさや弱い者を守るといった姿勢、それに男だって「守ってくれる人がいるなら、どんどん甘えていくぞ」って思うじゃないですか(笑)。

──原作ではもちろん大胆にヌードを披露しつつも、「人目があるところでは着替えたくない」といった恥じらいを見せるのもキュートでした。

永井:それもありますね。そしてそういった可愛さや美しさと強さがひとつになったキャラクターが、男性だけでなく、意外と女性にも支持されたことも、いまだにハニーが愛される理由として挙げられるんじゃないでしょうか。ハニーのファッションだとか、次々に着替えていくというところは、むしろ女性にとって憧れに映ったのかもしれませんしね。今回の映画は特に、西内まりあさんがファッションモデル出身ということもあって、女性のファンに喜んでいただける要素もたくさんありますので。

──では、これから映画をご覧になられる方に向けて、先生からのメッセージをお願いいたします。

永井:そうですね、まったく新しいハニーちゃんの誕生に、ひょっとしたら戸惑われるファンの方もいるかもしれませんが、そこを差し置いても非常に面白い作品に仕上がっていますので、ぜひ楽しんで観てください。また新たな世界でハニーが活躍することによって、今後の作品にも広がりが出てくると思いますので。

──ところで少々余談になりますが、今回も先生ご自身が映画にカメオ出演されていますよね?
永井:ええ、「ハニーちゃんをいやらしい目で見て」という演技指導がありまして(一同笑)。うまいこといやらしい目つきになっていればいいんですけど。

──これまでも、マーベル作品でのスタン・リー(*12)さんと同じように、映像化作品には必ずと言っていいほど出演されていますが。

永井:本当のことを言えば、自分の作品と関係ないところにもどんどん出たいぐらいなんですよ。今のところ、それが実現してるのは『悪魔の毒々モンスター 東京へ行く(*13)』だけですからね!(笑)

*12:『スパイダーマン』『X-MEN』などのコミック原作を手掛けた、マーベル・コミックのドン。90歳を超えてもなお編集委員や映画の総指揮など重責を果たし続けており、本当に超人かミュータントではないかとの噂もチラホラ。多くの映像化作品にカメオ出演していることでもファンに親しまれ、どこに彼が出ているか発見するのも楽しみのひとつとなっている。
*13:B級映画メーカーとして一部で名高いトロマ・エンターテインメントの代表的作品である『悪魔の毒々モンスター』シリーズ第2弾。日本パートは実際に東京でロケが行われるなど、トロマ作品としてはかなり力が入っていると思われる一作。永井豪先生は「佃煮評論家」の役で出演している。

──それも含めて、今後も各方面でのご活躍を期待しておりますので! 本日はありがとうございました。

[取材・文章 大黒秀一]
 

西内まりや
三浦貴大 石田ニコル
高岡奏輔 永瀬匡 今井れん エリック・ジェイコブセン 深柄比菜 仁科貴
倉野章子  笹野高史
岩城滉一

原作:永井豪「キューティーハニー」
監督:A.T. ヒグチリョウ 脚本:中澤圭規 田中靖彦
主題歌:西内まりや「BELIEVE」 SONIC GROOVE

西内まりや初主演!
美しく、儚い、愛の戦士 「キューティーハニー」誕生!!
1973年、永井豪により誕生した「キューティーハニー」。アニメ化されるやいなや「ハニーフラッシュ」のコールと共に一世を風靡し、現在まで世代や国境を超えて愛される続ける名作となった。
そして、2016年―。幅広く支持されてきた「キューティーハニー」が、最先端の映像表現を駆使して描かれる近未来を舞台に今、降り立つ。
強く、しなやかなキューティーハニーをスタイリッシュに演じるのは、10代、20代の女性に絶大な人気を誇る西内まりや。全身全霊で体現するまっすぐ過ぎるメッセージが、世代を超えて痛いほど突き刺さる。

ストーリー
AIに支配された漆黒の世界─。街は富裕層の暮らす上層階と貧困層の暮らす下層階に分けられていた。下層の人々は、快適な生活を維持する為に垂れ流される上層階からの汚染物質が生み出す有害な雨の中を生活していた。そんなある時、上層階から1体の美しいアンドロイド・如月瞳が上層階から落下してくる。彼女は、産みの親である如月博士の実の娘の記憶を移植された感情を持ったアンドロイドであった。下層階で生まれ育ったジャーナリストの早見青児との出会いがきっかけとなり運命の歯車が回り始める。向かうは世界を支配する感情を持たない新型アンドロイド・ジル。人々を守るために如月が下した衝撃の決意とは。



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(C)2016「CUTIE HONEY-TEARS-」製作委員会
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