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【ネタバレ注意】監督語る、映画『まほプリ』とプリキュアのあり方!

【ネタバレ注意】田中裕太監督語る、映画『まほプリ』とプリキュアのあり方! 『映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』田中裕太監督インタビュー【後編】

 『Go!プリンセスプリキュア』(15~16年)のシリーズディレクターを務めた田中裕太さんによる映画初監督作『映画 魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』が、10月29日より全国で公開を迎えます(短編『キュアミラクルとモフルンの魔法レッスン!』との2本立て)。

 今作で描かれるのは、幼いころからずっと一緒だった、みらい(CV:高橋李依さん)とモフルン(CV:齋藤彩夏さん)の強い絆。100年に一度の大魔法フェスティバルで、謎のクマ・ダークマター(CV:浪川大輔さん)に連れ去られてしまったモフルン。助けに来たやって来たみらいたちは、《願いの石》に選ばれたモフルンが「キュアモフルン」に大変身するという"奇跡"にふれます。

 田中裕太監督インタビュー【後編】では、ネタバレありで今作を詳解! アクションシーンへのこだわりや、キュアモフルンと対をなすもう一人の主人公・クマタのドラマについて語っていただきました。

※結末を含むネタバレがあるため、映画の鑑賞後に読まれることを強くオススメします。
※この記事は、キュアモフルンは、初のズボン着用プリキュア!? その理由はなぜ? 『映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』田中裕太監督インタビュー【前編】の続きとなっています。

田中監督ならではの“仕掛け”があるアクションシーン
――キュアモフルンはダークマターとのバトルシーンがあるようですが、どんなアクションをするのですか? サポート系というわけではなく、殴るし蹴るのでしょうか。

田中裕太監督(以下、田中):殴るし蹴ります(笑)。あと、キュアモフルンはスカートではないので、変身の決めポーズも大きく足を広げたりできましたし、戦い方も他のプリキュアらしからぬ感じかもしれません。テレビシリーズのほうで第1話以降あまりやっていない、魔法のほうきを使ったアクションもやっています。


――スカートではないぶん、アクションさせる自由度も高くなる?

田中:シチュエーションにもよりますが、基本的にはそうですね。キュアモフルンとダークマターのタイマンガチバトルは、いい感じで戦っていると思います。
キュアモフルンにはテレビシリーズの新プリキュア同様に、いわゆる初回補正がついていますが、今回はそもそもダークマターがラスボスで強いから相殺されて、そんなに楽勝モードにはなっていないです。モフルンの一生懸命さみたいなもの前面に出ていると思います。

 
――ミラクルとマジカルは、4つフォーム(ダイヤ、ルビー、トパーズ、サファイア)を全て使って戦うシーンがあるそうですが。

田中:テレビシリーズでは基本的に毎週ひとつのフォームですけど、せっかく60分の尺があるなら、全部使わないともったいないなと思いまして(笑)。なおかつ、バラバラに4回変身するのではなく、ひとつの戦いの中で流れるようなフォームチェンジにしたほうがかっこいいと思って、今回の形になりました。


――戦闘シーンの中で力の新しい使い方をするようになったり、何かしらの仕掛けがあるのは、田中監督らしさのひとつかと思います。

田中:仕掛けというか、やはり何かしらのギミックをアクションに組みこめないかとは思っています。やっぱり、ただの殴り合いだとおもしろくないので。持っている力のすべてを使うことはなくても、どのように使って戦うのかは常に考えています。

 プリキュアって、必殺技こそありますけど、基本的に剣や銃みたいな武器は持たないじゃないですか。そうすると、やれることは格闘だけなんです。たとえば『ふたりはプリキュア!』(04~05年)の西尾さん(*1)なんかは、めちゃめちゃ格闘技に詳しいので、初代プリキュアのふたりは関節技も使ったりしていましたよね。西尾さんの場合、格闘技の知識という下地があるからそれができるんです。でも、僕はそういう知識は残念ながら持ち合わせていないので同じことはできません。だったらその代わりに、設定の中にあるものをギミック的に使って、初見でおもしろいバトルを作れないかな、と。自分(プリキュア)の持っている能力と、敵の能力と、地形効果――その3つをどう組み合わせておもしろいバトルを作るか、というのは『Go!プリンセスプリキュア』(以下『ゴープリ』)でも常に意識していました。

*1フリーの演出家・西尾大介さん。『ふたりはプリキュア』、『ドラゴンボール」シリーズなどシリーズディレクターを務めた代表作多数。

 
――確かに『ゴープリ』でも、街灯を鉄棒のように使って戦ったりと、フィールドを活かしたアクションが多々ありましたね。

田中:アクションシーンってやっぱり、作画さんの力に大きく影響されるんですよね。でも常に力のある作画さんがいてくれるとは限らない。例えば単純な殴り合いのコンテを作ってしまうと、担当する作画さんによってものすごく画面のクオリティにブレ幅が出てしまいます。でも僕はアニメーターではないので、力づくで上から絵を直すようなこともできません。なので、先にコンテの段階で、バトルの中に思いもよらない要素というか、驚きみたいなものを作っておいて、そこで視聴者の興味を刺激できれば、それほど作画頼りでなくてもおもしろいものができるというのがなんとなく経験則としてあります。

 今回の映画でいうと、テレビシリーズではやらない連続フォームチェンジがひとつ、それにあたるわけですね。もちろん、劇場版なのでさすがに良いアニメーターさんが集まってくれています。見応えのある作画だと思いますよ(笑)。

 連続フォームチェンジ関連でいうと、そのシーンでかかる挿入歌『キラメク誓い』が、ダイヤ、ルビー、サファイア、トパーズ、それぞれの変身シーンの曲とメインテーマをミックスしたものになっています。音楽の高木(洋)さんのお力で、5曲のメロディーラインを組み合わせて、新しい1曲を作っていただいたんです。これがかかる時はアツい……はずです(笑)。


――音楽にもそんな仕掛けが……。

田中:英語のラップが入ったキュアモフルンの曲『鮮烈!キュアモフルン』も、高木さんがハッスルして素晴らしい曲になりました。これまで女性コーラス入りの華やかな曲を多くお願いしていたので、高木さんに「今回はラップでどうですか?」とお話をしたら、すごく戸惑っていらっしゃいましたけど(笑)。高木さんに、新しい扉を開いてほしかったんです(笑)。

田中監督からみた「良い演出家」とは
――『Go!プリンセスプリキュア』でも、カナタのヴァイオリン曲と、トワのヴァイオリン曲の旋律が重なってひとつの曲になる、印象的な仕掛けがありましたよね。

田中:あれは高木さん発信のアイデアだったんですが、うまいことシナリオに組み込むことができました。シリーズをやっていると、結構こういうことがあるんです。「プリキュア」には原作がないので、いろんな人のいろんな思いつきが、キャラクターなり物語なりの血肉になっていくというか。シナリオも、演出も、作画もそうです。『ゴープリ』のSDを通じて改めて感じましたけど、「プリキュア」をやるおもしろさのひとつだと思っています。


――『Go!プリンセスプリキュア』のSDを1年間担当されて、演出家としてのご自身に何か変化はありましたか?

田中:うーん……シナリオ決定稿ができるまでのプロセスにも関わったことで、以前よりもシナリオを尊重するようになったかもしれません(笑)。演出の仕事って、シナリオ決定稿をもらったところからスタートするんですけど、そこから自分なりに行間を埋めて、より精度の高いドラマに成立させていく……というのは、結構やっていたんです。それも演出の仕事のうちだろうと、なんとなく思っていたんですけれど。僕が演出助手だった頃に近くにいた先輩、例えば大塚さん(*1)、松本さん(*2)、黒田さん(*3)なんかは完全にそのタイプで、僕はそれが当たり前だと思っていたんですが、実際はそうでないのかもしれません(笑)。でも、僕から見て「この人、良い演出だな」と思える人は、その傾向が強いです。

*2 フリーの演出家・大塚隆史さん。東映アニメーションでのSD作に『スマイルプリキュア!』(12~13年)がある。
*3 フリーの演出家・松本理恵さん。東映アニメーションでの監督(SD)作に、『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』(11年)、『京騒戯画』(13年)がある。
*4フリーの演出家・黒田成美さん。監督作に『映画 スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』(12年)がある。

――大塚さん、松本さん、黒田さんのお名前が出ましたが、田中監督にとってお三方は「影響を受けた演出家」でもあるのでしょうか?

田中:演出的なところはわかりませんが、仕事のしかたという意味では影響を受けていると思いますね。何がおもしろいのか、何がジャスティスなのかを見極めて、演出という裁量の中で何ができるのか。そう考えるのが演出家である、といった部分は、知らず知らずのうちに影響を受けているんじゃないかと思います……たぶん(笑)

手をつなぐ相手がいたモフルン/いなかったクマタ
――映画の話に戻りますが、ゲストキャラクターであり敵でもあるクマタ/ダークマターのキャラクター像は、どんなところから発想していったのでしょうか?

田中:映画的な見どころや、キュアモフルンにどうやって変身させるかなど、いろんな要素を複合的に考えていく中で、クマタはモフルンと対比させる形になりました。モフルンもクマタも奇跡の存在ですけれど、生まれ方が違ってしまった。モフルンにはみらいがいたけれど、クマタにはそうした存在がいなかった、と。クマタは、残念ながらモフルンのようにはなれなかったクマなんです。

 ネーミングとしては(脚本の田中)仁さんが最初に「ブラックマ」って書いてきたんですけど、それはいろいろまずいだろうということになり……(笑)。完全にダジャレで、クマ→クマタ→ダークマターという名前に落ち着きましたね。


――クマタ/ダークマターとも浪川大輔さんが演じていますが、キャスティングの決め手は?

田中:高い声で、一見可愛いところのあるクマタ。低い声でうなるような、ストレートに悪役イメージのダークマター。その2形態を1人で演じられる、声幅の広さを条件にして役者さんを探していきました。安全策を取って役者をふたりに分ける手もありましたが、個人的にそれはしたくなかったんです。ダークマターとクマタはドラマの中で無意識的に内面が変化していくような、すごく繊細な芝居が必要だったので、そこはやはりどうしても一人の方に演じてもらいたかったんです。声質と芝居の両立できる方を、という事でおのずと候補が絞られていきました。

 浪川さんは声幅も広いし、ちょっとしゃがれた癖のあるイケメン系の声ができるのも僕好みでした。映画の終盤に、クマタのさわやかな一面が垣間見えるシーンがありますけれど、単純なイケメンにはしたくなかったんです。最初の想定よりかはさわやかになりましたが、うまいことクマタっぽい塩梅にしていただけたかと思います。


――ゲストキャラクターでもあり、いわゆるラスボスでもあるから、ほぼ全編にわたって登場していますよね。

田中:今回、キャラが本当に少ないんですよね(笑)。メインどころは、いつもの4人とクマタ/ダークマターしかいなくて。ふつう劇場版というと、ゲストキャラがもうちょっと出てきて、敵側もボスと手下がいて……みたいな感じですけど、今回は本当にミニマムな物語で、変わった造りになりました。

――テレビシリーズの『魔法つかいプリキュア!』に関しても、どこかそれに通じるような、地に足のついた印象を受けます。

田中:テレビでは主人公たちの関係性をかなり重点的に描いているので、映画もその延長線上になった気がしますね。1本の映画としておもしろいのはもちろんですけど、プリキュアの秋映画はテレビシリーズが前提になるので、そこはないがしろにできないポイントです。脚本作りに取りかかる時も、まずは今後の放送回のシナリオを読んだり、展開を三塚さんから聞いたりして、テレビシリーズをよく知ることから始めました。

 テレビシリーズで大切にしている「手をつなぐ」というテーマも、映画の物語の発端になっています。モフルンがなぜモフルンなのかというと、小さいころからみらいと一緒にいたからです。ある日突然、奇跡の力によって動くこともしゃべることもできるようになったモフルンには、みらいという手をつなぐ相手がいたからモフルンのままでいられた。ところが、同じように奇跡の力を持って生まれたクマタには、手をつなぐ相手がいなかった。宙ぶらりんの手をどうすればいいのかわからないまま、長い時を経てひねくれてしまったのがクマタなんです。


――手をつなぐ相手のいなかったクマタが、変わっていく物語でもあるわけですね。

田中:モフルンとみらいは、一度離れてしまった手をもう一度つなぎなおす。クマタは、これまでいなかった手をつなぐ相手とようやく出会う。今回の映画のメインテーマは、「みらいとモフルンの絆を再確認する」ことでしたけど、「クマタが手をつなぐ相手を見つける」話でもありましたね。

[取材&文・小林真之輔]

『映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』 作品情報

※本作は短編と長編の2本立てとなります。

短編「キュアミラクルとモフルンの魔法レッスン!」
監督:真庭秀明
演出:日向 学

長編「奇跡の変身!キュアモフルン!」
監督:田中裕太
脚本:田中 仁
キャラクターデザイン・作画監督:上野ケン
音楽:高木 洋
美術監督:西田 渚
色彩設計:竹澤 聡
撮影監督:安西良行
製作担当:大町義則 

【ストーリー】
この秋、モフルンがプリキュアに!
わたし、朝日奈みらい!みんな、"願いの石"って知ってる?どんな願いも叶えてくれるすっごい石なの!今日はその復活をお祝いする、100年に一度の大魔法フェスティバル♪リコもはーちゃんも一緒に"願いの石"にお願いごとをしたんだけど、なんと石のちからに選ばれたのはモフルンだったの!ほんとワクワクもんだぁ!!なのに…とつぜんあらわれた謎のクマ・ダークマターに、モフルンが連れさられてしまったの!!モフルンは絶対に助けてみせる!離ればなれになっても、みんなの願いが奇跡をおこすよ!!と思ったら、え~~~!!モフルンがプリキュアになっちゃった~!?

【テーマソング】
「正しい魔法の使い方」 渡辺麻友(ソニー・ミュージックレコーズ)

【声の出演】
高橋李依、堀江由衣、早見沙織、齋藤彩夏、浪川大輔  ほか

映画魔法つかいプリキュア!製作委員会
東映アニメーション 東映 ABCアニメーション バンダイ アサツー ディ・ケイ マーベラス 木下グループ

配給:東映

>>『映画 魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』公式サイト

(C)2016 映画魔法つかいプリキュア!製作委員会
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