
キスショットは何百歳だろうと女であり“乙女”である――映画『傷物語〈Ⅲ冷血篇〉』神谷浩史さん&坂本真綾さんが始まりの三部作、その幕引きを語る
多くの人を惹き付ける、原作者・西尾維新先生の物語
――〈物語〉シリーズをこれから触れる方へ向けて、『傷物語』がどういう作品なのか、そしてシリーズ全体の魅力をおふたりの言葉で教えてください。
坂本:お話としては『傷物語』がエピソード0なので、逆に今がチャンスです。〈物語〉シリーズをどれから見ればいいんだろうって方は、これがいいきっかけになると思います。もちろん楽しみ方としては、ほかのシリーズを見てから最後に行き着いても構いません。何にせよ、私は自分の演じている役がフィーチャーされているので、特に思い入れがありますね。ほかのストーリーを見る上でも、『傷物語』を知っていればより楽しめるので、見たことの無い人はまずここからおススメします!
「普段はアニメ見ないんだけど〈物語〉シリーズだけは見ちゃうんだよね」といった話を知り合いから聞き、年齢層も色々な人が居て、コアなものかと思いきやそうでもない。すごく色んな人に、色んなツボに入っていく作品なんだなと思いました。完成した映像を見るとすごいポップなものだったり、普通の表現じゃない概念的なものを映像化していったりと、実験的なことをされているなと思ったんです。だから、人によって何をこの作品に求めているのか、実は全然違うんじゃないかなって。それを見つけて欲しいと思います。
神谷:この作品は事実として非常に多くの人に受け入れられているのですが、何故、ここまでみんなに受け入れられているのか、理由は僕もよく分からないんですね。やっぱり西尾先生の作品を生み出すペースを考えると、こんな濃密な作品を描き続けられるのは、ちょっと普通じゃないと思います。本当に才能の塊。「文章という点においての才能を、凝縮したような人間」だと僕は思うんです。その人が生み出す作品を、一番いい形で映像化したのが〈物語〉シリーズなんです。
新房昭之監督ならびに今回は尾石監督ですが、基本的に「ある文章しか使わない」。もちろん、アニメーションならではの言い回しに変える部分はありますし、そこは僕も意識しながら演じている部分でもあります。しかし「基本的には一言一句原作ままやる」、そういうこだわりで作られているんですね。
それは、西尾先生の描く物語に魅力があるからだと思うんです。そもそも、それを忠実にやっていこうという志の下にみんな集まっているので、その結果出来上がったものがみなさんに受け入れられているということは、正しかったと思っています。だから具体的に「これが魅力です」というのは分かりませんが、売れている作品であることは間違いないです。
それで今回の『傷物語』は、そんな売れている作品群のなかでもエピソード0にあたる物語なので、ここから物語がスタートしていますよと。だから本作から見て、後は時系列順、『猫物語 (黒)』、『化物語』、『偽物語』という形で見ていけます。もし『傷物語』でこの作品のことを気に入ってくれたとしたら、この後の『暦物語』も含めて80話近い作品群が待っています。それだけの楽しい時間を提供できることは自信を持って言えます。
――色々な思惑があって対立する暦とキスショットですが、おふたりはどちらに共感されましたか?
坂本:自分が演じているので、なんとなくキスショットの気持ちに寄り添える感じがしました。客観的に見たらどうなのかは、ちょっと分からないですね、もう。
神谷:僕はキスショットの立場だったら暦のことは許せないですねぇ。
坂本:(笑)。女心はねぇ。
神谷:して欲しいことに対して正反対のことをされましたので、それは1クールの間喋らなくなるよねぇ……。
坂本:1クールで済んだんだから良かったと思う(笑)。
神谷:(笑)。それは一言も発さなくなるよなぁって。僕は暦の声を任されている立場なので、その立場を考えると暦の行動は理解はできるんです。ただ逆の立場だったら、本当に嫌だろうなって素直に思いますね。
――今回のアフレコで印象深い出来事があれば教えてください。
坂本:出演者が少ない作品なので、暦とのシーンは本当にふたりっきりで録りました。いい意味で濃密、それでいつも思うんですけど、何回も演じられないようなシーンが必ずあるんです。そこは本当に1回で、やり直しだったり途中から切り返したくない気持ちがあるので、緊張感を感じます。それが心地よく感じる二人三脚感が出ていました。
神谷:人間同士の戦いなら想像できるんですが、今回は吸血鬼同士の戦いなので「我々声優という人間が、どういう風に吸血鬼に声をあてていきましょうか?」って相談しに行ったら、そのシーンを録るにあたって尾石監督が1カットずつ説明してくれたました。でも「このカットはこういうカットになっていて~」みたいな説明はあったんですが、どういうアプローチをしたらいいかまでは教えてくれなかったんです。
坂本:(笑)。
神谷:「なんなんだろうこの時間」とは思ったんですが、想いはすごく伝わってきたので、それに応えなきゃという気持ちにはなりました。
――今回の忍野メメの活躍について教えてください。
坂本:どうなんですかね、でもアイツが全部悪い。
一同:(笑)。
坂本:そういう話だと思いますし、あの風貌と声のせいか言葉にすごい説得力があるように聞こえるんですよね。こういう人いるなぁみたいな。本当は適当なことを言っているんじゃないかと。でも、どこまで計算なのか本当に読めないし、なんかズルいですよね。いつもの通り、そのズルさが格好いいんだか悪いんだかもよく分からないし、色っぽいんだか汚いんだかもよく分からないし、なんかズルいキャラです。
神谷:〈Ⅲ 冷血篇〉では相当珍しい登場の仕方をするんですよね。大体「こんなところで会うなんて奇遇だね」みたいな、飄々としていると思います。でも今回に関しては異なる言い回しで登場したりするので、よっぽどおかしい事態になっていることの表れだと思います。そこに至って、最終的にメメを頼らざるを得ないことに、もう「暦情けないなぁ」とは思いました。ただ、そういう風に追い詰められて最終的に何とかしちゃう忍野は、〈物語〉シリーズにおいて欠かせない存在だと思い知りました。
――羽川さんについて、今回の〈Ⅲ冷血篇〉で神谷さん的に可愛いと思ったシーンを教えてください。
神谷:羽川さんはずっと可愛いですよ!
坂本:(笑)。
神谷:羽川さんはずっと可愛いですねぇ。ただ今回の話は……。
――やはり今回はキスショットがメインと。
神谷:そうなんです、残念ながら。
坂本:残念ながら!?
神谷:羽川さんの話を今されていたから、その質問には反するんですけど……という意味での「残念ながら」なんだけど、そんな冷たくする?(笑)。
坂本:だって『傷物語』のヒロインはキスショットなんだよ(笑)。既に過去2作で出張ってるから! 可愛いところを持って行き過ぎてるから! あと「キスショットの可愛いところは?」という質問は受けたことがないですね! キスショットに可愛いところは誰も求めてない(笑)。たまにはあると思うんです。
神谷:ありますよ。最終的には全部キスショットが持って行ってしまいます。羽川さんはとにかく、いつ見ても可愛いです。
坂本:(笑)。
神谷:だけど、この物語のヒロインはキスショットであり、一番最後に集約されるポイントはキスショットになります。
――最後に、これから映画をご覧になるみなさんへメッセージをお願いします。
坂本:劇場で見るために作られた、生まれたシリーズなので、ぜひ劇場でご覧になってください。
神谷:僕も同じですね、ぜひ劇場に足を運んで見ていただきたい作品です。劇場というのは、その作品を楽しむためだけに作られた贅沢な空間ですし、その贅沢な空間での鑑賞に耐えうる作品だと思っています。僕もこれを見て「声優をやっていて良かったと思いたいなぁ」と考えながら作った作品なので、それを確認するために必ず劇場に足を運ぼうと思っています。
>>「傷物語」公式サイト>>西尾維新アニメプロジェクト公式ツイッター(@nisioisin_anime)
作品概要
■『傷物語〈III冷血篇〉』
2017年1月6日(金)より全国公開中
配給:東宝映像事業部
PG-12指定 上映時間:83分
第一部「鉄血篇」
主人公・阿良々木暦と吸血鬼キスショットとの衝撃的な出会い
第二部「熱血篇」
彼女のために過酷な戦いに足を踏み入れた暦の姿
はたして、三部作の終結部となるこの「冷血篇」で、
暦を待っているものとは……。
決して消えない青春の〈傷〉が今、スクリーンに刻みつけられる。
【STORY】
ドラマツルギー、エピソード、そしてギロチンカッター――怪異の専門家・忍野メメの助力も得て、3人の強敵との戦いに勝ち抜いた阿良々木暦。彼はついに、吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの四肢を奪い返すことに成功する。すべては、普通の人間に戻るため……。しかし再びキスショットのもとを訪れた暦は、吸血鬼という存在、その恐るべき本質を知ることになるのだった。決して取り返しのつかいない自分の行為を悔やみ、そしてその顛末に困惑する暦。後悔にさいなまれる彼の前に現れたのはほかでもない、暦の「友人」羽川翼だった。そして彼女が暦に告げた、ある提案とは……。
【解説/〈物語〉シリーズとは】
2006年に講談社BOXより発表された第一作『化物語』から、2016年1月刊行の最新作『業物語』までで20巻に達し、またアニメ化作品も2009年の『化物語』を筆頭に、現在までで6作・全75話を数える人気シリーズである。吸血鬼体質となった高校生・阿良々木暦が、“怪異”に悩まされる少女たちを助けるべく奔走する本シリーズは、巻数を追うごとに、ヒロインそれぞれにスポットを当て、より深くキャラクターを掘り下げていく構成が採られている。ほぼすべての作品がシリーズの出発点であり、また阿良々木が“吸血鬼”になった経緯を描く『傷物語』から、わずか1年以内の出来事を描いているというのも、特筆すべきポイントである。
【スタッフ】
原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
総監督:新房昭之
監督:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫 守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前 暁
アニメーション制作:シャフト
製作:アニプレックス 講談社 シャフト
【キャスト】
阿良々木暦:神谷浩史
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾
羽川翼:堀江由衣
忍野メメ:櫻井孝宏




















































