構成Tこと構成作家・田原弘毅さんに聞く「ラジオの作り方」第3回

構成Tこと構成作家・田原弘毅さんに聞く「ラジオの作り方」――連載第3回「ラジオは生き物ですから始まってみないとわかりません」

 アニメイトタイムズでラジオ番組を制作することになった新米編集者・石橋による、理想のラジオ番組を目指す連続企画が進行中! 『さよなら絶望放送』『下ネタという概念が存在しない退屈なラジオ』など数々の人気番組を生み出してきた構成Tこと構成作家・田原弘毅さんにアドバイスを貰いながら、ラジオ番組作りの裏側に迫っていきます。

 第3回となる今回では、そもそもラジオ番組における構成作家とはどのような仕事をする存在なのかを改めて聞きつつ、いよいよ作成した企画の添削作業に入っていきます。いち視聴者から制作側になった石橋が考えた企画書に、プロはどのような反応をみせるのか。

 過去の連載はこちらからチェック!
>>構成Tこと構成作家・田原弘毅さんに聞く「ラジオの作り方」第1回
>>構成Tこと構成作家・田原弘毅さんに聞く「ラジオの作り方」第2回

番組作りにおける拘りと気配り
 前回まででラジオ番組が産まれるまでの流れを学んだ石橋。宿題としていくつかの番組案を考えてくることを約束したが、まだまだ自分に自信が持てていません。そんな中、今回は田原さんから構成作家としてのラジオとの関わり方について伺うこととなりました。要所要所に散りばめられているリスナーへの気配りから、ラジオ作りのポイントを分析していきます。


――今回もよろしくお願いします。早くも連続企画の第3回ということになります。

田原:前回まではフロンティアワークスの寺田さんに来ていただいて、アニラジのプロデュースについて話してもらいましたね。ただ、あまりに昔馴染みすぎるせいで僕たちの仕事の変遷とかの話題が多くなってしまいましたが(笑)。


――そうでしたね(笑)。でも楽しかったです!

田原:寺田さんは、アニメイトTV時代から10年間携わって『ぱにらじだっしゅ!(以下、ぱにらじ)』や『みなみけのみなきけ(以下、みなきけ)』『アニメ『生徒会役員共』が全部わかるラジオ(以下、全ラ)』『下ネタという概念が存在しない退屈なラジオ(以下、下ラジ)』『らじかもん』と、錚々たる作品を作り出した名プロデューサーですから(笑)。せっかく来ていただいたので構成作家に発注する前の話をしてもらいたかったんですけど、少々とっ散らかってわかりにくい内容になってしまいましたね。

前回までのあらすじ的に第1回~第2回を掻い摘んで話すと、プロデューサーの仕事は以下の流れですね。

(1)アニメの製作委員会やレコード会社から「宣伝ラジオ番組やりませんか?」と提案
(2)パーソナリティが決まったら事務所に了承を貰ってスケジュールを整える
(3)構成作家やディレクターにラジオ制作を発注
(4)収録が始まったら各回のスケジュールを押さえる
(5)収録が終わったあとはラジオの更新
(6)Twitterでの宣伝など、ラジオがスタートした後も運営の仕事がたっぷり



――なにからなにまでやってらっしゃるんですねプロデューサーさんって。

田原:そういうことになります。そのプロデューサーの回からの第3回です。今回は企画やラジオの構成について僕が1人で話すことになるんですよね。

構成作家はまず、プロデューサーさんからラジオ番組制作の話が来たときに、番組タイトルや企画決めに関わります。とくに初めのうちだと番組タイトル決めは大事なんですよ。タイトルを決めたら、パーソナリティ、コーナー、配信or放送期間などを決めて、メールを募集する……。というのが、大まかな流れになりますね。


――番組タイトルも構成作家さんが全部決めてるんですか?

田原:そういう場合もあるし、まったく関わらないで全部決まった段階で企画書をもらうこともあります。『上坂すみれの文化部は夜歩く』なんかは、上坂すみれちゃんが自分でつけましたし、『シェ―WAVEおそ松ステーション(以下、シェ―WAVE)』はエイベックスの方がつけていますよ。でも大体9割位は僕ですね。

番組タイトル決めのときのつまらないこだわりを言うなら、タイトルロゴはなるべく原作タイトルロゴのフォントに合わせるようにすることですね。『パンチライン』だったら『パンチラジオ』でフォントを一緒にしろとか、『さよなら絶望放送(以下、絶望放送)』も同じフォントを使えとか、結構うるさく言ってます(笑)。

――デザインまで(笑)。

田原:WEBラジオが多いのもありますけど、自分が物書き出身なところもあるので、ぱっと見たときにどのアニメのラジオなのかわかるようにしたいんですよね。


――なるほど。その他に構成作家として意識してることはありますか?

田原:アニラジならアニメの原作を全部読んで、キャラクターと世界観を把握するようにしています。原作のないオリジナルアニメならラフや脚本を預かったりして、キャラクターの口癖や人物像を考えるのに使っていますね。


――その流れで、番組の回し方も最初の時点から決めてるんでしょうか?

田原:いろいろですよ。『下ラジ』なら小林裕介くんと石上静香ちゃんがガッツリ回してくれましたし、この前までやっていた『田中くんはラジオもけだるげ』では高森奈津美さんと、諏訪彩花ちゃんが監督やアーティストを招いて司会進行のような形になりましたし、それは始まってみないとわかりませんね。ただ、原作の世界観に合わせた番組にしたいなとは思っています。

僕はフリートーク主体のラフな番組よりもキッチリと構成や雰囲気を作りたい方なので、コーナーをしっかり作ってパーソナリティさんにメールを読んでもらうことが多いですね。でもアニメについてのトークはやっぱり聞きたいので、アニメの感想を語るコーナーは毎回考えています。


―一つの番組でどれくらいのコーナーを考えるものなんですか?

田原:コーナーの多さって結構流動的なんですよね。『絶望放送』は全てのキャラクターにコーナーを持たせようとしてましたから、20くらいはあったんじゃないかな。普通はそんなにたくさんあっても番組が回らないんだけど、あれは毎回送られてくるメールが爆発的に多かったですからね。その辺りは番組を立ち上げてみないとわかりません。

ちょっと面白いところでいうと、『パンチラジオ』のときに「メインキャラのコーナーをすべて立ち上げたけど、メールがたくさん届いた順番にやるよ」っていうコンペみたいなことをしたんですよ。伊集院光さんのラジオの、「勝ち抜きカルタ合戦」(※)みたいな。

※:TBSラジオ『伊集院光 深夜の馬鹿力』の恒例コーナー。リスナーに新たなカルタを作ってもらい、投票で勝者を決める。


――コンペは面白いですね。リスナーが一緒に番組を作っている感覚を味わえそうです。

田原:そうなんです。しかし、コーナーを作るにしてもキャラクターの数にもよりますし、なにより一番つらいのは例えば「6回目の配信で終わりますよ」と、最初から終わりが決まってる番組です。コーナーをたくさん作っても、コーナーが回りきらずに終わっちゃうことになりますから。ただ作ればいいというわけでもないんです。番組が続けられるようになってから、新しくコーナーを考えることもありますね。だから結果的に長寿番組のほうがたくさんのコーナーをやりやすいんですよ。


――番組の構成だけでもかなりやることがあるんですね。

田原:そんな感じで作品の世界観にそったコーナーを考えて番組を作っていきます。他に工夫するところだと、『絶望放送』ではネガティブなことをあえてネタにするようにしたり、『パンチラジオ』では時間が戻るって設定があったので、最後に振り返りトークをしようと思ったり、作品と絡めたものを考えることもあります。

『下ラジ』ではアニメで流れたBLネタをすぐに拾ったりして、原作やアニメからフィードバックしたミニコーナーも出来るならガンガン作るようにしてますね。予め大枠を作っておいて、盛り上がったり求められたりしたときを見極めてどう番組を動かしていくかを考えるようにしてます。「ラジオの地図を書く」ってやつですね。『下ラジ』も意外と女の子のリスナーが多かったので、そっちに向けたコーナーをやってみたりして。反射的にやりたくなっちゃうんですよね。


――臨機応変な対応が求められるんですね。それにしても凄い作り方です(笑)。

田原:ラジオって生き物ですからね。これはあくまで僕の考えでしかなくて、ラジオをバラエティ番組のように面白くする作家さんだってもちろんいると思いますよ。ただ僕はリスナーがラジオに反応してメールをくれて、それにまたパーソナリティが反応してっていうのが好きなんです。だからリスナーありきだとはよく言われるんですけど、僕はそれがラジオだと思ってますから。

とはいえ、いろんなパターンがあるんですよ。「文化部は夜歩く」なんかはメールをあまり読まない代わりにTwitterで画像や曲を募集したりしてますし。Twitterってすごいスピードで反応がくるんですよ。しかもどれも高クオリティ。そのイラストを公開録音でアイキャッチとして使ったり、曲を作って歌ったり、そういうお祭りみたいなこともできましたね。リスナーから始まっていく番組って好きなんですよ。コーナーなんていらないって人もいますけど、僕はコーナー至上主義ですから(笑)。


――プロデューサーは番組の素材を用意して、構成作家はそれをどう料理するのかを考える、といったイメージですね。

田原:確かに、僕たち構成作家は料理人に近いところがあるかもしれませんね。

いよいよ企画書の添削がスタート! 反応は如何に……?
 勉強になる話が数多く飛び出しましたが、どこか心ここにあらずな様子の石橋。その手には約束通り、今日のために考えてきた企画書が握られています。そしていよいよ運命の添削をお願いする時間へ。石橋の企画書は紙飛行機にされるのか、はたまた鼻かみになってしまうのか、それともわざとらしくコーヒーをこぼされてしまうのか!?

――そして今回のメインである企画添削の時間です……。とりあえず前回のお話を踏まえて企画の案をいくつか作ってきました。まあ、まだ企画書と呼べるものではないんですが(笑)。

(用意した企画書を並べる石橋)

田原:いや、(企画書を見ながら)でも大体こんなものですよ(笑)。


――本当ですか!? 現状、僕がやりたいと思った企画を5つ用意してみました。

田原:ではでは、まずは企画その1からですね。

●企画その1:男性パーソナリティによる下ネタ番組
【企画内容】
・世の女性がなかなか聞けない異性の悩みを男性声優さんに聞いていく
・鉄板の下ネタ構成のラジオを作ってみたい
・アニメイトタイムズは女性ユーザーが多いため、その層を狙っていく
・質問はアンケートで募集


――いかがでしょうか。まだ企画書と呼べる段階にはなっていませんが……。

田原:みんな大体A4で1ページくらいのもので提出してますから、こんな感じで大丈夫ですよ(笑)。企画書となると、誰が、どんな感じの番組を、こんなテーマで、いつからいつまでやる、みたいなのをまとめる感じなので、大体同じだと思ってください。


――良かったです(笑)。

田原:で、これは下ネタを扱った番組ですよね。……うん、良いと思いますよ(笑)。ただここにも書いてありますけど下ネタって鉄板というか、どこでもやっていることではあるので、もう一捻り欲しいところですね。例えば、凄く若い女性声優さんが下ネタをバンバン言うのは珍しくて、かなり喜ばれるんですよ。ただまあ、これって性別や年齢も関わってくるし、声優事務所とか本人の意志もいろいろあるので、許可を貰える人がいるかは難しいところですよね。もしくはそういうイメージがある人にやってもらうか。小野坂昌也さんなんかはもう名人芸の域ですからね。


――確かにあれは名人芸ですね(笑)。

田原:それよりは「この人こんな話するんだ!?」 みたいな感想が生まれたほうが面白いと思いますけどね。だから、そういう人を見つけて、キャスティングできるかが肝になると思います。狙いは良いと思いますよ。女性リスナーさんって下ネタ番組が好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きですから(笑)。ただし、あまり下品すぎたり、女性をバカにするような内容でなければ聴いてもらえると思います。『下ラジ』や『全ラ』も大っ嫌いな人はいたでしょうけど、かなりの人気番組になりましたから不思議ですよね。

今回の場合だと、女性の投稿体験を男性声優さんが聞くとかだったら、普通にやってもお面白くなりそうですよね。だからパーソナリティさんの人選次第かな。あと、質問内容はアンケートで募集って書いてありますけど、Twitterとかあまり大っぴらなのは使わないほうが良いですよ。こういうのって、みんな秘密だから送ってくれるものなので(笑)。


――た、確かに……。

田原:でも、男性声優さんが女性の投稿を聞くっていうのは、アニメイトタイムズさん的にはどうだろう。これって『きいてますよ、アザゼルさん。』でやってるんですよね。だから、もし企画が通るのであれば、女性声優さんによる下ネタ番組にするとか、もしくはもの凄い大御所声優さんを呼んでみるとか工夫を加えてみてほしいですね。珍しい番組が始まったと思ってもらえたほうが、みなさん食いつくでしょうし。

『下ラジ』とか『全ラ』がウケたのって、男性と女性が下ネタに関して話するのが珍しかったからなんですよ。男女のトークって案外ハードル高いですから。特に女性パーソナリティさんはイメージを大切にしていますし。なので、この企画自体は僕もう一工夫欲しいかなと思うけど、すぐにでも出来るものだと思いますね。


――ちょっとありがち過ぎましたかね……。

田原:基本を外さないのは大事ですよ(笑)。この前までやっていた『虹色ラジオデイズ』は、松岡禎丞くんと江口拓也くんがパーソナリティで、頻繁に内山昂輝くんと島崎信長くんがゲストに来てくれたんです。原作が少女漫画系のアニメだったので、女性にときめいた体験なんかを送ってもらって、それを男性声優陣が女声で呼んでもらってときめきを共有しようということをやりましたね。リスナーさんも自分の体験をお芝居にしてもらえるのって嬉しいじゃないですか。

それにこの4人ならメールは間違いなく女性がたくさん送ってくれるでしょうし、そこまで考えた上での企画ですよね。だから下ネタ番組を作るのであれば、「誰がどんな反応をしたら面白いのか」というところまで考えていければ良い番組になると思いますよ。結局パーソナリティさんの個性が重要ですから、どの人が番組に合っているかも考えたいですよね。それを含めて、誰でどんなネタを扱いたいのかまで踏み込んだら良いんじゃないでしょうか。


――いやあ、勉強になります(笑)。

田原:いえいえ(笑)。ではふたつ目ですね。

●企画その2:女子的流行最前線
【企画内容】
・男性声優さんが最近の女性の流行を勉強していく番組
・流行のものはリスナーから募集、こちらから提示
・意外な内容に男性パーソナリティが挙動不審になる姿や、リスナーがパーソナリティに流行を教えてあげている感覚を味わえるところがポイント


 さて、第3回はここまで。今回は田原さんに企画書を添削していただきましたが、みなさんならこの2つ目の企画書を読んでどんなアドバイスを出しますか?

 第3回では構成作家としての仕事や、田原さんと共にラジオ番組を作っていく上で大事にしていきたいことなど、ラジオの方向性が少しずつ形作られてきました。石橋は最初に見せた企画の評価が思いのほか良かったことで、少し気が楽になってきた様子。続いて用意した“女子的流行最前線”に田原さんはどのような評価をくだすのか。第4回目では、ついに素人石橋の考えた5つの企画に対する田原さんの総評が明らかとなります。

 最後に、今回のポイントはこちら。

“構成作家はラジオの企画決めから立ち合い、最終的に構成台本を作る”
“田原さんとラジオを作るならコーナーは大事にしたい”
“基本を外さないのは大事。だが、鉄板のネタは何か捻りが必要”
“声優さんのイメージを活かしたり、伸ばすことが大事”


[インタビュー/石橋悠 文/原直輝]

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