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『劇場版 SAO』井上芳雄さんが謎の青年剣士・エイジに込めた想い

『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』井上芳雄さんインタビュー/謎の青年剣士・エイジに込めた想いとは

 2017年2月18日(土)より全国ロードショーとなる映画『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-(以下、劇場版 SAO)』。電撃文庫より発売中の川原礫先生による小説『ソードアート・オンライン』を原作としたアニメーション作品で、シリーズ初となる劇場版ではこれまでのVR(仮想現実)ではなくAR(拡張現実)を題材とした、川原 礫先生に書き下ろしの完全新作ストーリーが展開されることになります。

 そんな『劇場版 SAO』の物語の鍵を握るキャラクターである謎の青年剣士・エイジを演じるのは、ベテラン俳優である井上芳雄さん。舞台・ミュージカルの分野で数多くの実績を残されてきた井上さんが、アニメ業界という異なるフィールドで『ソードアート・オンライン』に出演するにあたり、どんなことを考えていたのか。今回はそんな井上さんにインタビューする機会を得ましたので、その模様をお届けしていきます。

 

抜擢当初は、喜びよりも驚きや戸惑いが上回った
――世界的にも人気の高い『ソードアート・オンライン』という作品に出演されることが決まった時の心境はいかかでしたか?

エイジ役 井上芳雄さん(以下、井上):とにかくびっくりしました。声優のお仕事も一度やったきりというくらいで、今までご縁のない世界だったので、最初は僕にお声をかけて頂いた理由もわからなかったですし。『ソードアート・オンライン』に関しても、名前を知っているという程度だったので……資料などをいただいて作品のことを知っていくにつれ、これはドッキリなのかと疑ったり(笑)。それくらい驚きというか、戸惑いに近いものがあったと思います。

――役が決まるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

井上:最初にお話と資料をいただいた後、そこから自分でも原作やアニメの方をチェックして、劇場版から新たに登場するキャラクターであるなら、僕でよければとお引き受けさせていただいた流れでした。

僕を選んでいただいた理由まではお聞きしていなかったのですが、今回のキャスティングにあたって監督が仰っていたのは、アニメならアニメ、舞台なら舞台での演技の仕方というように小さい世界の中だけで完結すると、非現実的な方向に発達してしまうこともあるのではと。声優さんと同じように演じることは難しいかもしれないのですが、そういう中に俳優さんや僕のような人間が入ることで、普段とは違う風が吹いたら嬉しい、といったことは伝えられていました。

――同じくミュージカルで活躍されている、神田沙也加さんや鹿賀丈史さんといった方々とも共演となります。

井上:実はお二方とも、僕はミュージカルで共演したことはなかったんですよ。ただ、気持ちの上では同じ舞台をやられている方々と一緒というのは心強かったですね。

――なんでも、ユナ役を演じられる神田さんは、キリトよりもエイジ推しなのだそうです。

井上:エイジは決して善人というわけではないのですが、すごく強い想いをもっているという意味で印象的なキャラクターだと思っています。戦っている姿や見た目もカッコイイですし。

――『ソードアート・オンライン』という作品への印象を教えてください。

井上:今までアニメやゲームに触れてこなかったので、こちらのジャンルにはすごく疎いのですが、ゲームの中に入って人間の生死が関わってきて……という発想にとにかく驚かされましたね。

最初にお話を聞いた時は、そうしたギミックはあくまで物語の中のものだなという認識だったのですが、その内にARやVRというものが現実でもよく話題に出てくるようになって、これは現実も近いところに来つつあるんだなと。ただ、その中で行われていることはあくまで人間同士のドラマなので、どんなに技術が発達したとしても、芯となる部分は変わらないんだなという安心感もありました。

――あくまで人間ドラマが主軸にあるので、ゲームなどの分野に疎い人でも楽しめると。

井上:そう思います。僕自身も最初は専門用語の多さに苦労した部分もあって、これは造語なのか、このジャンルでは一般的なものなのか区別がつかないくらいでした。収録が進んで画を見ていくにつれ、「ああ、そういうことなのか」と理解できるようになりましたし、ちょうどアフレコが行われていたのがスマートフォンのARゲームが話題になり始めった時期だったのもあり、いろいろとタイムリーでしたね。

――大人気作品に出演されるということで、周囲からの反応はありましたか?

井上:作品を知っている方々からはやっぱり驚きのリアクションが多かったですね。僕のファンの方々だと「息子が前から好きで……」という声はよくいただきました。「なんでお前がやってるんだ」と怒られないか不安なくらいでしたが(笑)。


アニメのアフレコと舞台の大きな違いとは

――収録の感想はいかがでしたか?

井上:以前声優をやらせていただいた時は完全に一人での収録で、今回は大勢で集まっての収録だったのですが、いろいろとカルチャーショックの連続でした。分からないことだらけで、自分の場面も気づいたら終わっていたみたいな(笑)。本当に専門職で、技術が必要なことなんだなと、声優の方々の凄さを実感しました。

――キャストの方々からアドバイスをもらったりということも?

井上:皆さん本当に優しくて、大変よくしていただきましたね。例えばアフレコでは事前にセリフの秒数を書いておいたりするのですが、僕も以前に声優をやらせてもらったことがあったので、その知識はあったんです。なので監督さんに確認したら「(とくに書いておかなくても)大丈夫ですよ!」と。ところが当日行ってみたら、全然大丈夫じゃない(笑)。隣の声優の方がセリフの秒数から入るタイミングまで細かく教えてくださり、皆さんに助けていただきながらの収録でしたね。

――複数人でのアフレコということで、一人の時と勝手は違いましたか?

井上:一人の方が落ち着いて演技はできるのですが、やはり掛け合いなどは一緒に録った方がやりやすかったです。ただ、どうしても慣れなかったのは、秒数に合わせて自分の気持ちをどう準備するかということですね。舞台では自分自身がその気持ちになるまで、台詞は口にするなと言われるくらい、自分で間をとっても良いとされているんです。なので秒数で区切られると、俺の心はどうすればいいんだと(笑)。

ただ、待ったからといって良い芝居ができるとも限らなくて、急に行けと言われて演じた時の方が良いものができることも少なくないので、どちらがいいと一概には言えないのですが、自分自身にそれに合わせられる技術がないというのを痛感させられました。

――演じていて印象的なシーンや出来事はありましたか?

井上:ラストシーンでは、舞台では出したことのないような声も出しました。舞台だと身体の動きも入ってきますし、声だけの芝居というのはミュージカルとはまったく勝手が違うので面白かったです。他にも、例えば戦闘での叫びであるとか、皆さん台本にない部分でもどんどんアドリブを入れていらっしゃっていて、とにかく圧倒されました。

役者として気持ちを込めるという意味では同じですが、本来きちんと専門的な勉強をされたプロフェッショナルの方々と、僕のようなポッと来た人間が並ぶのはおこがましいくらい、専門的なお仕事だと感じました。

――ミュージカルの世界でも同じようなことを感じられていたのでしょうか?

井上:「ミュージカルっぽい」イメージや歌い方というのはやっぱりあります。この「~っぽい」という捉え方は実態がないのですごく危険なことなんですが、それっぽくしていると見ている方も演じる方も安心してしまうんですよね。だからどんなジャンルにいっても、自分がそこにいる目的を忘れないように意識しています。

個人的に、その世界の中でどんどんキャリアと積んで偉くなっていくのは気持ちのいいことではあるのですが、その中で成長していくのは難しいとも思っているんです。だから機会はあれば、新しい世界にはできるだけ飛び込んでみるようにしています。

そこで得られるのはどんなものでも良いと思っていて、例えば自分は坂本真綾さんとミュージカルでご一緒させていただいているのですが、今までは坂本さんが具体的に「どう凄いのか」ということを理解しきれていなかったんです。今回の経験で、それが分かるようになっただけでも収穫だったなと思いますね。

――逆に、ミュージカルや舞台での演技と通じる、やりやすかった部分というのはありましたか?

井上:感情を激昴させて声を張り上げる演技ですかね。普通の方は日常生活で叫ぶ機会はそんなにないと思いますが、僕の場合は舞台で大声を出すのに慣れていましたから、比較的やりやすかったです。あくまで自分で思っているだけですから、実際に自分の利点がどうだったかはよく分かってないんですけどね(笑)。

――役作りの上では舞台との違いはありましたか?

井上:声優さんは最初の本読みの段階で、ほぼ自分の中で役を作って来られますよね。役者によって個人差はありますが、僕の場合は舞台だとあまり役作りはせず、真っ白な状態にしていくんです。どういう人物にしたいか演出家の意図を組む必要がありますし、一ヶ月くらいの稽古の期間で、じっくりと役を作っていくことの方が多いので、その点で戸惑いはありました。

他には、舞台は本番や稽古で台詞を噛んでしまった時でもどうにかなるのですが、アニメは映像としてしっかり残りますから、正確に喋るのが前提になりますよね。他の役者さんが長い台詞の同じ箇所で何度も噛んでリテイクをしていると、見ているこっちが汗をかくくらいで、舞台とは違う緊張感というのも感じていました。そうしたプレッシャーに常に立ち向かっているという意味でも、声優さんはすごいなと。


新しい分野に挑戦する時は、憂鬱な気分になることも!?

――新しいフィールドでお仕事される時は、やはり緊張されるのでしょうか?

井上:話が来た時はワクワクするんですよ。ところが2、3日前になると「なんで受けちゃったんだろう……」と憂鬱になったり(笑)。ただ、やらない方がよかったと思ったことは一度もなくて、「大変だけどやりたい!」という相反する気持ちが常にあります。何が縁になるか分からないですし、今回のようにもう二度とこないだろうなと思ったジャンルからお話をいただけた時はすごく嬉しいです。今後も、いろいろな場で自分の表現ができる機会というのは大事にしていきたいと思っています。

――もし、本作にも登場しているAR端末《オーグマー》が現実にあったら、やってみたいことはありますか?

井上:もしあれを皆が付けられるようになったら、演劇のセットもいらなくなるかもしれないですね。今でも舞台上に映像を映したりはしますが、その比ではないいろいろな演出ができるでしょうし。そうなると生でやる必要性も薄れてくるので、難しさもあるのですが……僕たちがやっているのはとてもアナログな世界ですか、両極端な二つのジャンルが融合するようなことが起これば、とても面白いのではないかと思います。

――まもなく公開となる『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』ですが、作品としての見所を教えてください。

井上:最先端のテクノロジーがふんだんに登場する世界と、そこで展開する人間臭いストーリーのギャップや距離感というのは大きな魅力だと感じました。近い内に現実でも起こりうるかもしれない世界が描かれる一方で、人間同士の関係性というのが根底にあり、常に進歩していく技術を人間がどう使うかという普遍的なテーマも含まれていて、現在の僕たちにとって無関係の問題ではないなと。

これまでの『ソードアート・オンライン』のファンの方々はもちろんですが、僕のように『ソードアート・オンライン』を知らなかった方でも理解できる内容になっています。舞台もそうなのですが、知らないままでいるのは本当に勿体ない世界なので、できるだけたくさんの方々に見ていただきたい作品だと思います。

――特に女性ファンに注目して欲しいポイントはありますか?

井上:やっぱりエイジの魅力ですね。やり方には賛否両論あるかもしれませんが、すごく人間臭くて共感しやすい部分も多い、本当にカッコイイキャラクターだと思っています。そんな彼がどういった最後を迎えるのか……僕の中ではやりきった感も強いのですが、是非みなさんの目で確かめていただければなと。僕自身も出来上がりを楽しみにしています!

――本日はありがとうございました。

[取材・文/米澤崇史]


作品概要



■『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』
公開日:2017年2月18日(土)全国ロードショー
配給:アニプレックス
上映時間:119分

●イントロダクション
TVアニメ『ソードアート・オンライン』シリーズは、第15回電撃小説大賞<大賞>を受賞した川原 礫氏による小説が原作となる、謎の次世代オンラインゲーム《ソードアート・オンライン》を舞台に繰り広げられる主人公・キリトの活躍を描いた作品である。2009年4月の原作小説第1巻発売以来高い人気を誇り、日本国内での累計発行部数は1,250万部を突破(全世界1,900万部)。そして2度のTVアニメ化やゲーム化、コミカライズ、グッズ制作などを行っており、幅広くメディアミックス展開されている。そして2017年春、川原 礫氏の完全書き下ろしによる『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の公開が決定。世界中のファンがその日を待ち望んでいる。

●ストーリー
2022年。天才プログラマー・茅場晶彦が開発した世界初のフルダイブ専用デバイス≪ナーヴギア≫―― その革新的マシンはVR(仮想現実)世界に無限の可能性をもたらした。それから4年……。≪ナーヴギア≫の後継VRマシン≪アミュスフィア≫に対抗するように、一つの次世代ウェアラブル・マルチデバイスが発売された。≪オーグマー≫。フルダイブ機能を排除した代わりに、AR(拡張現実)機能を最大限に広げた最先端マシン。≪オーグマー≫は覚醒状態で使用することが出来る安全性と利便性から瞬く間にユーザーへ広がっていった。その爆発的な広がりを牽引したのは、、≪オーディナル・スケール(OS)≫と呼ばれる≪オーグマー≫専用ARMMO RPGだった。アスナたちもプレイするそのゲーム に、キリトも参戦しようとするが……。

●オーディナル・スケールとは
≪オーグマー≫専用ARMMO RPG。最新技術を用いた次世代的ゲームとして話題となり、発売と同時に世間を席巻した。現実世界をフィールドとして、各所に出現するアイテムの蒐集、モンスター討伐などを経てプレイヤーの≪ランク≫を上げていく。≪オーディナル・スケール(OS))の特徴はこの≪ランキング・システム)で、全てのプレイヤーのステータスは、基数(カーディナル数)ではなく序数(オーディナル数)であるランクナンバーによって決定される。ゆえに、ランク上位のプレイヤーには圧倒的な力が与えられ、ソロのPvPにおいては、ランクの順位が勝敗の大きな要因となる。

●AR(拡張現実)型情報端末《オーグマー(Augma)》とは
小型のヘッドホンのような外見の次世代ウェアラブル・マルチデバイス。そのコンパクト性はVRマシン≪アミュスフィア≫をはるかに凌駕する。フルダイブ機能の代わりに、AR(拡張現実)機能を最大限に広げた。覚醒状態の人間に視覚・聴覚・触覚情報を送り込むことが可能で、フィットネスや健康管理をゲーム感覚で楽しんでいるユーザーも増えている。

●STAFF
原作:川原 礫(「電撃文庫」刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:伊藤智彦
脚本:川原 礫・伊藤智彦
キャラクターデザイン・総作画監督:足立慎吾
モンスターデザイン:柳 隆太
プロップデザイン:西口智也
UIデザイン:ワツジサトシ
美術監督:長島孝幸
美術監修:竹田悠介
美術設定:塩澤良憲
色彩設計:橋本 賢
コンセプトアート:堀 壮太郎
撮影監督:脇 顯太朗
CG監督:雲藤隆太
編集:西山 茂
音響監督:岩浪美和
音楽:梶浦由記
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
製作:SAO MOVIE Project

●CAST
キリト(桐ヶ谷和人):松岡禎丞
アスナ(結城明日奈):戸松遥
ユイ:伊藤かな恵
リーファ(桐ヶ谷直葉):竹達彩奈
シリカ(綾野珪子):日高里菜
リズベット(篠崎里香):高垣彩陽
シノン(朝田詩乃):沢城みゆき
クライン(壷井遼太郎):平田広明
エギル(アンドリュー・ギルバート・ミルズ):安元洋貴
茅場晶彦:山寺宏一
ユナ:神田沙也加
エイジ:井上芳雄
重村:鹿賀丈史

●主題歌
LiSA 「Catch the Moment」

>>『劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール-』公式サイト
>>アニメ「ソードアート・オンライン」公式ツイッター(@sao_anime)
(C) 2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project
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