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川上氏×庵野氏×西村氏の『メアリと魔女の花』トーク付き試写会レポ

庵野監督は『メアリと魔女の花』をどう見た? 川上量生氏×庵野秀明氏×西村義明氏のトーク付き試写会をレポート

『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の米林宏昌監督最新作『メアリと魔女の花』。日本を代表するクリエイターが集結し作り上げられた美しいアニメーション、さらに豪華出演陣が多彩なキャラクターたちに息を吹き込み作り上げられた、新しい魔女映画が2017年7月8日(土)より全国にて公開中です。

映画の公開を記念し、7月1日にイイノホールにて、イベント付き試写会が開催。背景美術スタジオ「でほぎゃらりー」の設立者であるドワンゴ・川上量生氏、カラー・庵野秀明氏、スタジオポノック・西村義明氏の3者による貴重な鼎談(ていだん)が行われました。

イベントでは、手描きの背景美術についてや、「でほぎゃらりー」設立の経緯など、アニメーション界のディープな部分についてもトークを展開。その貴重な鼎談の内容を、写真付きでお届けします!

▲写真左より、ドワンゴ・川上量生氏、スタジオポノック・西村義明氏、カラー・庵野秀明氏

▲写真左より、ドワンゴ・川上量生氏、スタジオポノック・西村義明氏、カラー・庵野秀明氏


 

「背景美術がその作品の世界観を決める」。アニメーション作りにおいて、大切にすべきこととは

西村義明さん(以下、西村):まずは「でほぎゃらりー」の名前の由来ですけど、「でほぎゃ」とうのは秋田弁で“適当”という意味なんです。これは結構大事なコンセプトで、アニメーション案件というのは一つ一つが美術品ような価値があるものだとは思っているんですが、一方で少ない期間で仕上げる必要がある。ある部分はちゃんと描いて、ある部分は手を抜くんだという、職人のような感覚が必要なんです。

庵野秀明さん(以下、庵野):確かにそうですね。

西村:デジタルが主流の中、庵野さんの作品では、手描き背景の美術スタッフを集めてらっしゃいます。それについて、何か思いというものがあったのでしょうか?

庵野:手描きは状況的に厳しくなってくると思うんですね。やっぱりデジタルの方が効率が良いし、儲かるので。しかしそういった状況の中で、手描きのような“伝統工芸”はなるべく残していきたいという思いもあります。

西村:以前庵野さんが言われたことでハッとさせられたものがあって。「アニメーションの画面の7割は背景美術でできている」という言葉なんですけど。普段アニメーションを見ていると、キャラクターに感情移入して見ていくので、背景にはあまり意識が向かわない所ではあります。

庵野:背景美術がその作品の世界観を決めます。背景だけのカットで、どれだけ長回しが持つのかということも重要です。美術が厳しいのであれば、カットを切り分けて、キャラクターのアップで持たせるといった手法に切り替えることもできるので。

雰囲気を作るにはやっぱり背景が重要なんですよ。キャラクターがどこにいて、何をしているのかというのは、周りの風景だったりその場所なので。キャラクターと同じくらい、背景美術も大切なんですね。

西村:背景は品格を決めるとも言いますよね。

川上量生さん(以下、川上):アニメ業界って背景が大事だって言ってる割に、全くお金を掛けてないじゃないですか。全予算の中でも、美術のレートは凄く少ないですよね。これは僕の感覚では無いなと。ウェブサービスだと、世の中に見せる部分ですよね。そういう所で、お金をかけた方が良い所なんだけど。

だから『メアリと魔女の花』を見てすごく安心しました。ジブリの背景のクオリティと違いが分からないものになっていたので。


 

「もっと手を抜くやり方の方が良い」。庵野監督が『メアリと魔女の花』で気になった部分を指摘

西村:庵野さんに作品のことを聞くのはアレなのですが…(笑)。今回の背景美術について、どうご覧になられましたか?

庵野:僕に聞かない方が良いですよ(笑)。

西村:(笑)。

庵野:全体的に部屋の描写が上手だなと。ただ、もうちょっと壁紙を凝った方が良いな(笑)。細かく言うと、書き込みすぎなので、ディティールがある部分とない部分といった、メリハリがついた方が良いです。光と色の使い方も、もうちょっと他にあったんじゃないかなあと。

西村:なるほど。

庵野:もっと手を抜くやり方と、光を感じさせる技術が出てくればすごく良くなるかと。ただ、最初でこれだと本当に大したものですよ、素晴らしいと思います。アニメーションの画面というのは“情報量”と認識しているんですけど、その情報のコントロールができるのがアニメーションが強いところ。実写と違って、アニメの場合は必要のない部分は描かなければ良い。例えばキャラクターの目がぱちぱちして、口が3枚で動いているだけで、そこに存在しているとお客さんは感じてくれるわけです。

川上:単純に線の数を増やせばいいというものでもなくて。ユーザーが見ない部分、パッと目が行く部分と視線が行かない所を判断するのが大切なんですね。

西村:「背景は目の前に見たものでなく、目の端でとらえたものを描く」という話を聞いたことがあります。何故かと言うと、映画の主人公はあくまでキャラクターで、背景はあくまで背景だから主役じゃないと。

庵野:時間と画面のどの部分を切り取って、写し、描いているか。その全てをコントロールできるのが映像の良いところですね。お客さんに対してどう感じて欲しいかを、なるべく誤差を少なくして見せていくためのコントロールは、アニメーションが一番向いていると思います。手描きの場合は、白い画用紙の上に線を描いて色を付けるという足し算なんですね。それと手で描くから、どこかで必ず誤差が出る、そこが良いところなんです。

宮崎さんは一点透視法や二点透視、三点透視を嫌がる。レイアウトを取る時に必ず同心円で描くんです。宮崎さんのレイアウトって本当にいい加減なんですよ(笑)。でもそこが良い所で、宮崎さんのレイアウトって宮崎さんにしかできないんですね。

(編集部註:一点透視法とは、背景を立体的に見せるための技法。軸の基準によって、二点透視、三点透視法に分かれる。「同心円で描く」というのは、自分が強調したいキャラクターや、アイテムを中心として描く手法だと思われる。)

高畑さんはそんなこと許さない(笑)。宮崎さんの良い所は、自分が描けないレイアウトはやらない所です。高畑さんは自分で描かないので絵描きに強要します(笑)。

西村:あの二人の差は凄く面白いですよね。

庵野:宮崎さんの場合「じゃあ俺が描くよ」と言って、アニメーターも「じゃあ宮崎さん描いてください」ってなっちゃう。宮崎さんの下にいると人が育たないですよ(笑)。こんなこと言っちゃいけないか(笑)。

▲スタジオポノック・西村義明氏

▲スタジオポノック・西村義明氏


▲ドワンゴ・川上量生氏

▲ドワンゴ・川上量生氏


▲カラー・庵野秀明氏

▲カラー・庵野秀明氏


 

「庵野監督に怒られるんじゃないかと思った」。西村プロデューサーが、「でほぎゃらりー」設立の経緯を語る

西村:庵野さんとお会いしたのは『かぐや姫の物語』を制作している時。鈴木敏夫プロデューサーから、「庵野さんがお前に会いたいといってる」と言われて。その時に僕は怒られるんじゃないかなと思って(笑)。

庵野:いやいや(笑)。

西村:どこかのメディアのインタビューで、アニメーターを全部使ってる『かぐや姫』が遅れているせいで『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』が遅れるんだみたいなこを言ったことがあったので(笑)。でも違って。庵野さんから、ジブリがなくなるなら会社を作ったらどうかという話をされたんです。宮崎さんの作品と、児童文学的な流れを残したいということを仰って頂いて。それから川上さんに相談して、協力して頂いたという流れですね。

川上:縁というのがありますからね。僕は基本人と会わないので、せめて知っている人の相手はしようと思っています。

西村:今回はゼロからの立ち上げだったのですが、こんなに大変だとは思っていませんでした。庵野さんもカラー設立の際はご苦労されたのではないですか?

庵野:『エヴァンゲリオン』で世間にある程度認識されていたから、一から始めるよりは楽でしたね。

川上:西村さんも、庵野さんみたいに締め切りが無かったら楽だったかもしれないですね(笑)。

一同:(笑)。

「アニメーションは本当に面白い」。3人それぞれが、本作に込めた思いを語る

川上:「でほぎゃらりー」というのは元々ジブリの美術背景をしている人を中心に作った会社です。僕らが立ち上げた時にはスタジオジブリを後世に残すんだという気持ちだったんですけど、スタジオジブリまた制作を始めましたから(笑)

庵野:思った通りですよ(笑)。

川上:『メアリと魔女の花』にてその成果が見られると思います。これからもどうぞよろしくお願いします。

庵野:アニメーションはご存知の通り、本当に面白いんです。そして面白いの中にも、色んな幅があっていいんだと思います。手作り感のあるジブリの系譜はあった方が良いと思うので、僕らがアニメーションを作る時は協力して欲しいです。

米林さんであれば「これジブリでしょ!」って言われてもパクリって思われないから(笑)。色んなアニメーションに貢献していくためにも、こういうプロジェクトは進めていきたいと思います。よろしくお願いします。

西村:『メアリと魔女の花』を制作するのは大変でした。手書きの背景をこだわって、アニメーションを作りました。こういう作品ができたのは、クリエイターが頑張ってくれた成果と思います。ぜひ皆さん見て下さい!

[取材・写真・文/島中一郎]

イベント概要

【でほぎゃらりー株主鼎談 ~いま、アニメーション背景を語る。~『メアリと魔女の花』公開記念企画 概要】
・日時:7月1日(土)17:30開場/18:00開演
・会場:イイノホール(千代田区内幸町二丁目1-1 飯野ビルディング4F)
・登壇者:川上量生(ドワンゴ)、庵野秀明(カラー)、西村義明(スタジオポノック)

 
 

作品情報

 
2017年7月8日(土)より全国東宝系にてロードショー

【スタッフ】
原作:メアリー・スチュアート
脚本:坂口理子
脚本・監督:米林宏昌
音楽:村松崇継
プロデューサー:西村義明

【キャスト】
メアリ:杉咲花
マダム・マンブルチューク:天海祐希
ドクター・デイ:小日向文世
赤毛の魔女:満島ひかり
ほうき小屋の番人・フラナガン:佐藤二朗
赤い館のお手伝いさん・バンクス:渡辺えり
メアリの大叔母・シャーロット:大竹しのぶ

>>『メアリと魔女の花』公式サイト
>>『メアリと魔女の花』公式Twitter(@mary_flower_jp)

 

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(C) 2017「メアリと魔女の花」製作委員会
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