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『ゴースト・イン・ザ・シェル』押井監督と田中敦子さんはどう観た?

『ゴースト・イン・ザ・シェル』を押井守監督と田中敦子さんはどう観た? 二人のインタビューから見る、新たな魅力

士郎正宗原作による『攻殻機動隊』シリーズ初の実写化作品として、この春に大きな話題を呼んだ映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』。本作のDVD&Blu-rayが8月23日にリリースされます。

『スノーホワイト』(2012年)で知られるルパート・サンダースが監督を務め、日本でも人気の女優スカーレット・ヨハンソンが主人公の少佐(草薙素子)役を演じた本作。

ハリウッド制作ならではのCGやVFXを駆使したゴージャスな視覚効果はもちろん、原作コミックやアニメ版へのリスペクトを感じさせる描写も多く、あらゆる面で見ごたえのあるSFアクション作品となっています。

今回は、そんな本作に多大な影響を与えた映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)の押井守監督と、日本語吹き替え版の少佐役を務めた田中敦子さんとの対談インタビューを実施。

アニメ版における草薙素子という存在のイメージを作り上げたお二人に、『ゴースト・イン・ザ・シェル』という映画の魅力について語ってもらいました。

ハリウッドのすごさ
──お二人がご一緒されるのはいつぶりでしょうか?

少佐役・田中敦子さん(以下、田中):前にお会いしたのは『攻殻機動隊2.0』(2008年)の舞台挨拶ですから、もう9年近く前でしょうか。

押井守監督(以下、押井):仕事の現場でお会いするくらいですからね。〈攻殻〉で初めて一緒に仕事をして、いまだに〈攻殻〉でおつきあいしてるというか。


──そんなお二方の縁を結んだ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が、今回ルパート・サンダース監督によってハリウッドでリメイクされたわけですが、作品をご覧になった率直な感想を訊かせてください。

田中:監督はいかがでしたか?

押井:いやいや、僕から先に言わないほうが良いと思う(笑)。

田中:私は発表になったときからずっと楽しみにしていました。最初に観たのは吹き替え用の素材だったので、完成版ではなかったんですよね。

それはまだCG処理が済んでなかったり、どのシーンを使うかはっきり決まってない状態だったんですけど、それでも本当に楽しめましたし、ハリウッドはすごいところなんだと改めて思いました。

──やはり映像にせよ音楽にせよ、すべてのクオリティーが高いですものね。

田中:そうですね。それと『攻殻機動隊』は大人向けのアニメーションでしたから、本当にお好きな人はハマると思うんですけども、誰でもわかるという作品ではない部分もありまして。

でも、それをエンターテイメントとして、みんなにわかりやすく作られているという印象を受けました。

押井:ハリウッドというのは基本的にそういうものだと思うんだけど、やはり自分が作った映画と比べると、わかりやすいですよね。

昔に「映画は10人が観たら9人はわからなくてはいけない。あなたの映画は10人が観て1人しかわからない」って言われたことがあるんだけど(笑)。

でも、僕の立場からすると10人のうち1人がわかれば充分だと思うし、〈わかる〉ということ自体が〈おもしろい〉とは別の話だから。


──簡単に理解できないからこその面白みというものもありますし。

押井:ただ、ハリウッドはそれじゃ済まさないというか わかったうえでおもしろいことが大事なんですよ。そういう意味で、この映画は少佐が素子になる話だから、彼女の葛藤の中身が非常にわかりやすい。

自分の記憶は全部ウソだと気付いた少佐が、自分は何者なのかを探すという。哲学的な方向ではなくて、誰にでも伝わりやすい表現をしているので、逆にアニメを観た人間からすれば、単純化してるように見えて不満があるかもしれない。

でも、僕はそういうよくできたSFアクション映画として観て楽しんだから、それで充分じゃないかと思う。

──なるほど。

押井:いままで4人の監督が『攻殻機動隊』を映像化してますけど、キャラクターの解釈も世界観もみんな違う。むしろ違ってるのはいいことだし、前の作品が消えるわけではないので。

〈2.0〉という作品のときも「なぜ手を加えるんだ?」って言われたから。前のものがなくなるわけじゃないから〈2.0〉と言ってるのに(笑)。

ファンというのは結構頑迷なものなので、自分のイメージが否定されたような気がするんだろうね。でも、基本的に映画は連作することによって変わっていくものなので、それを楽しんだほうがお得でしょう。僕や神山(健治)や黄瀬(和哉)の作品がなくなるわけではないので。

そもそも〈GHOST IN THE SHELL〉というタイトル自体が、士郎(正宗)さんの原作のなかの一冊なわけだから、もとをただせば『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』という作品もオリジナルでも何でもない。僕が言いたいのは「みなさんもっと映画に対して寛容になったほうがお得ですよ」ということですよ。


──今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』も、『攻殻機動隊』という作品のルパート監督による新しい解釈というか、別の見方で作られた作品ということでしょうか。

押井:日本語吹き替え版も、アニメ版の役者さんをもう一回使うということの意味がありますから。もちろん全然違う人でやるという判断もありますけど、僕は逆におもしろかった。

もっと言えば、僕は最初3Dのスクリーンで観たんだけど、仰天しましたよ(笑)。2Dの良さもあるんだけど、3Dで観ると全然違って見えた。

──ルパート監督はそういった効果も意識して、新しい『攻殻機動隊』を作られたんでしょうね。田中さんは吹き替え版の少佐を演じられたわけですが、いままで演じてこられたアニメ版の少佐との違いや、演じるにあたって意識したことはありますか?

田中:田中:演じること自体は一緒なので、特に意識はしませんでしたね。吹替にも大塚(明夫)さん、山寺(宏一)さん、仲野(裕)さんというオリジナルのメンバーを揃えていただいてましたので、みなさんの胸を借りて付いて行けば自然に少佐が降りてくるという思いでやっていました。

ただ、アニメーションは監督がトップにいて、出来上がりは監督の頭の中にあり、アフレコはあくまで制作過程として進行しますけれども、吹き替えの場合は作品自体がすでに完成した状態で、それを日本語版にするときのトップというのは音響監督なんですね。

今回は、アニメ版の攻殻機動隊とは別の音響監督さんでしたので、オリジナルキャストとディスカッションをしながら作っていきました。


──それは例えば?

田中:いちばん気を使ったのは、アニメの人間関係や用語を翻訳にどう生かすかということでした。言葉遣いや呼びかけ方で人間関係や立ち位置がわかるようにしなければいけないので。

具体的にはトグサは少佐に対して必ず丁寧語を使うとか、九課メンバーは課長に〈荒巻課長〉とは呼びかけないなどですね。

ただ、観てる方にわかるように冒頭でどうしても〈荒巻課長〉と言っておきたいという吹替ならではの宿命もあったりと、日本語版では細部をみんなで考えて作りましたね。

押井:やっぱり人称の問題はあるよね。〈あなた〉と呼ぶのか〈お前〉と呼ぶのか、あるいは名前で呼ぶのか。

英語だと全部〈You〉になっちゃうけど、日本語は全体的に少し引いたところで会話するわけだから、その細かいニュアンスの違いというのが決定的にあって。だから全部同じであるわけがない。

たぶん僕の作品を英訳するときは、能書きが多すぎて大変だと思うよ(笑)。

田中:そう思います(笑)。

押井:役者さんはもちろんプロだから最後はリップも合わせるわけだけど、いわゆる行間の含みとか、言葉のダブルミーニングみたいなものを出していくというのは相当大変だと思うよ。だから映画は基本的に翻訳できない。そこは想像するしかないから。

仮にルパート本人が日本語版の監修をやったとしても、たぶん無理だと思う。僕は自分の作品の英語版の制作に立ち会ったことあるけど、これは不可能だと思ったもん(笑)。


──言語はもちろん表現や文化の違いがありますものね。

押井:映画は基本的に国境を越えない、その土地ごとの文化なので。アニメなんて一見するとインターナショナルな気がするだけで、あれこそもっともローカルな文化だから。

あんなシンプルな絵柄に声優さんが声を乗せることでやっと魂が入るわけで、そういう意味で言えば、声と音楽と効果があって初めてキャラになるんですよ。その声の部分をハメ変えるというのは逆も同じで、そりゃあスカーレット(・ヨハンソン)が演じた少佐と、敦子さんが演じた少佐が同じなわけがない。

田中:うふふ(笑)。

スカーレット・ヨハンソンの魅力とは?
──お二人ともスカーレットさんの演技については賞賛されていましたが、彼女の演じる新しい少佐の魅力はどういったところにあると思いますか?

田中:スカーレットさんはブロンドのイメージが強い女優さんなので、実際の映像を見るまで少佐のイメージが思い浮かばなかったんですけど、もう圧倒的な美しさが義体を演じるに余りあるというか(笑)。人形のように美しく整った顔立ちが実写での全身義体感を見事に表現していましたね。

少佐を実写で演じるのはとてもハードだと思うんですけど、身体を作って激しいアクションもこなされていましたし、首の傾げ方であったり身体の角度であったり、全身義体ということをものすごく意識した細かい演技をされていて、そういった意味でもハリウッドの女優さんの素晴らしさを痛感しました。

押井:ぶっちゃけた話、これはもうスカーレットの映画と言って差し支えないと思うよ(笑)。

田中:本当にそうですよね。

押井:スカーレットがこの作品を背負ってるのは間違いないし、彼女がいなかったらどうにもならないですよ。たまにそういう、ひとりの女優が世界観から何から全部表現してしまう映画というのがある。

敦子さんが言ったように、義体としての身体の使い方については、僕は撮影現場でも見ましたけどすごかった。最初、あの歩き方にビックリしたんだよ。

ただ歩くというのは普通、役者さんにとっていちばんハードな芝居なんだけど、本当に見事でしたね。身体も相当作ってたし、上腕二頭筋なんて僕より太かったからね(笑)。

田中:へえー! すごいですね。

押井:彼女は本当にお人形さんみたいだよね。役者が義体を演じるというのはこういうことなんだと思った。表情をあまり付けない分、まず身体で演じるっていう。

それとたしかにスカーレットはブロンドの印象は強いけど、僕は今回のブルネットのショートボブというのが、いままででいちばん良い。彼女の顔の作りが活きるヘアスタイルだと思った。


──たしかにそうですね。

押井:もちろんウィッグなんだけど見事に馴染んでて、あれはアニメの髪型に合わせましたっていう髪形ではないですよ(笑)。あの髪型は本当に顔の作りが難しいので、アニメでやっても上手い下手がすぐわかっちゃうんです。よほど上手いアニメーターが描かないとキツいんですよ。それに首の太さとかね。

少佐は基本的に戦う女なので、ほっそりしたコケシみたいな首では戦えるわけないですから。スカーレットの身体の存在感というのは賞賛するべきもので、やっぱり身体がキチッとできてないとああいう演技にならないんだと思う。なんでも3か月以上トレーニングしたらしいんだけど、撮影中も毎日トレーニングしてたみたいですね。まあ有体に言ってスカーレットの映画だよ。

──映画のテーマ的にも完全に少佐を描く物語になっていますしね。では最後に、お二人の印象に残っているシーンを教えていただけますか。

押井:この映画のオリジナルの部分なんだけど、少佐が自分の生みの母親に会いに行くシーンがいちばん印象に残ってる。あそこは撮影もすごいんだけど、母親役の桃井かおりさんとのお芝居が良かったですね。

田中:あそこは実は吹き替えも録り直しまして。桃井さんの声を吹き替えられた大西多摩恵さんとは別の収録だったので、私が先に録っていたんですけど、最初に私が出した芝居だとちょっとウェットになりすぎるから、もう少し素子のままでという演出を受けて本番を録ったんです。

その後に桃井さんの芝居を吹き替えてみたら、やはりもう少しウェットでもいいんじゃないかという話になって、録り直しさせていただいたんです。

押井:あれを別録りはキツイよね。

田中:そうなんですよー!

押井:あの二人の芝居は合わないようで合ってる感じで、微妙な感情のタイムラグみたいなものがあって、なかなかたいしたものだと思う。僕が最初に観たときは引きっぱなしのシーンで、これはこれで間と緊張感がすごかったの。結局切り返しになってたけど、実際引きの絵がいちばん良かったんですよ。

田中:そうだったんですね。

押井:桃井さんだけが行ったり来たりして、その間の取り方がめちゃくちゃ良くて。あのシーンのスカーレットは基本ずっと受けの芝居じゃないですか。その芝居のなかで感情が微妙に揺らいでいくのも良いんだよね。でも、あれは監督の演出云々というより、演技者の格ですよ。

田中:あそこは母親が「あなたが私を見る目に素子を感じる」と言って、瞳の中に移ってる自分を見てるという設定ですよね(注:少佐は素子としての記憶を失くし、見た目も義体化で変化しているため、母親は少佐が素子であることを知らない)。

私はそこで『イノセンス』(2004年)の冒頭の押井監督の仕掛け、劇場でしか見られない目の中に映る仕掛けを思い出して。もしかしてルパート監督はそこまで意識して作られてるのかなと思いました。

押井:いやあ、それはどうだかわからないけど(笑)。あのときに初めて桃井さんが揺らいで、それをスカーレットがもう一度見つめ直すというのもなかなかすごいですよね。普通SFアクションだとあまりそういう感情表現にはいかないんだけど。それと桃井さんの英語が本当に素晴らしかった。〈アジアのおばちゃん〉って感じでね(笑)。

田中:そうですよね。英語でもやっぱり桃井かおりさん節だなあと思いました。

押井:あの二人は本来全然違う芝居をする人だから、微妙な齟齬みたいなものがあって、それが絶妙な間を生んだというか。たぶんキャスティングの勝利だと思う(笑)。あれは演技指導がどうこうという話ではないからね。あそこは地味だけど重要だし、いいシーンですよ。

[取材・文/北野創 写真/アイザワヒロアキ]

パッケージ情報

◆ゴースト・イン・ザ・シェル ブルーレイ+DVD+ボーナスブルーレイセット(※初回限定生産)
品番:PJXF-1103/価格:3,990円+税/3枚組/画面サイズ:16:9 ビスタ 本編約107分/音声:1英語 ドルビー Atmos 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 本編約107分/音声:1英語 5.1ch DD 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 ◆特典映像(約93分)
約52分 (※)はDVDにも収録
義体の中の人間性 「ゴースト・イン・ザ・シェル」メイキング/諜報部隊・公安9課(※)/人と機械(※) 約41分
義体の創造/芸者ロボット:美しき殺人マシン/ルパート・サンダース(監督) インタビュー

◆ 【数量限定生産】『ゴースト・イン・ザ・シェル』&『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』
ブルーレイツインパック+ボーナスブルーレイセット

品番:PJXF-1104/価格:7,590円+税/3枚組
本編約107分/画面サイズ:16:9 ビスタ/音声:1英語 ドルビー Atmos 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 コピーライト:(c)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGAENTERTAINMENT
本編82分/画面サイズ:16:9[1080p Hi-Def・一部1080i Hi-Def]/音声:日本語 リニアPCM(ドルビーサラウンド・一部ステレオ)/字幕:1日本語 2英語 ◆特典映像(約132分)
約52分 ※PJXF-1103 ブルーレイディスクと同内容
39分
劇場特報/劇場予告編/先行プロモーション/DIGITAL WORKS[押井守監督他メインスタッフによるメイキング映像]
劇場公開告知CM/ビデオ販売告知CM/VC・LD販売告知CM 約41分
※PJXF-1103に付属のボーナスブルーレイと同内容

◆ゴースト・イン・ザ・シェル [4K ULTRA HD + Blu-rayセット]
品番:PJXF-1105/価格:5,990円+税/2枚組
本編約107分/画面サイズ:16:9 ビスタ/音声:1英語 ドルビー Atmos 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 本編約107分/画面サイズ:16:9 ビスタ/音声:1英語 ドルビー Atmos 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 ◆ブルーレイ特典映像(約52分)
※PJXF-1103 本編ブルーレイディスクと同内容

◆ゴースト・イン・ザ・シェル 3Dブルーレイ+ブルーレイセット
品番:PJXF-1106/価格:5,990円+税/2枚組/画面サイズ:16:9 ビスタ 本編約107分/音声:1英語 ドルビー Atmos 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 本編約107分/音声:1英語 ドルビー Atmos 2日本語 5.1ch DD/字幕:1日本語 2英語 ◆ブルーレイ特典映像(約52分)
※PJXF-1103 本編ブルーレイディスクと同内容
★ブルーレイ&DVD同時レンタル
※発売日、仕様、特典、デザインは都合により予告なく変更する場合がございます。
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