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アニメイトタイムズ×FUN’S PROJECT 特別企画 vol.8 山口勝平【後編】

アニメイトタイムズ×FUN’S PROJECT 特別企画 vol.8 山口勝平さんに聞く、声優・表現者 としての本質とは?【後編・山口さんと落語】

「アニメイトタイムズ」と「FUN'S PROJECT CHANNEL」の合同でお届けしているクリエイターインタビュー企画「クリトーク!」。

第8弾では、1988年に声優としてデビューし「らんま1/2」、「名探偵コナン」、「ONE PIECE」など数多くの人気作品に出演している山口勝平さんが登場します。

後編では、山口さんが2017年から新しい挑戦として、スタートした落語について。高座名である「のゝ乃家ぺぺぺぇ」の裏側に迫ります。デビュー31年を迎えてた山口さんの言葉には表現者、モノを生み出す方にとっての本質が詰まっていました。

前編はこちらから


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落語との出会いは「昭和元禄落語心中」

──ここからは山口さんと落語についてお聞かせ下さい。

山口勝平さん(以下、山口):「昭和元禄落語心中」に出演したことが出会いですね。落語をはじめたキッカケは「声優落語天狗連」の声優落語チャレンジに出ることが決まったからなんです。最初は関智一くんとサンキュータツオさんとの「智一&勝平の落語放浪記」で色々な落語に縁のある土地を回って。その最終回でオファーを受けたんです。

ただ、落語をしっかりとはじたのは、色々なタイミングが重なったことも大きかったと思います。

──詳しくお聞きしていいですか?

山口:そうですね。僕も50歳を超えて、このまま声優と舞台の仕事をしながら、これからも過ごしていくんだと思っていたんです。

そんな時に「キャッ党忍伝てやんでえ」の頃から親交のある高木渉くんが大河ドラマの「真田丸」に出演することが決まりました。言ってみれば、凄いチャンスですよね。

役者とは悲しいもので、いくら自分がやりたいと思っても求められなければ、絶対にその仕事はできないので。自分が企画して何かをしない限りは、オファーが無い限り役を演じることはできません。

そうした環境の中で、高木くんは50歳を超えてから新しい分野に飛び込んだ。声優業界では長年活躍していても、そっちの業界ではキャリアゼロの新人なわけですよ。

ひょっとしたら、20歳くらいの人たちよりも新人として振る舞うことになるわけで。でも、敢えてそこに挑戦をしている。

そんな高木くんを見ていたら僕の中にクエスチョンが浮かんだんですよね。自分はこのままでいいのかなって。

それが丁度、「落語をやってみませんか?」って言われたタイミングと近かったんですよ。

心のどこかで、何か新しいことをしないと、このまま停滞してしまったり、胡座をかいてしまうんじゃないかなって思っていたんでしょうね。それがすごく怖いと思って、落語にチャレンジしてみたんです。

──そうだったのですね。実際に落語を初めてみていかがですか?

山口:実際にやってみると大変ですよ。「声優さんって落語に向いてるんじゃないですか?」って言われがちなんですけどね。声を変えるとか、演じることは共通だと思われるので。

ただ、本当に対極にある芸なんですよ。芝居と落語って。

芝居で培ってきたノウハウみたいなことが全然通用しない。ともすると、邪魔になるくらいなので。

新しい芸事を始めてみると学ぶことは多いですよ。師匠の方が若いですけど、本当にけちょんけちょんに凹まされるくらい指導いただいていますし(笑)。

──そうなんですね。お芝居と落語が対極にあるというのは興味深いです。

山口:役者って演じ手の気持ちや感情をお客さんに伝えて、何かしら感じてもらうのが仕事ですよね。一方で落語は逆にそういったものが余計なんですよ。お客さんに情報を与えて、後は想像してほしいというのが落語なんです。

話に身も心も委ねてもらうためのリズムが大切で、そこに感情は必要ない。なので、芝居と落語は真逆にあるイメージなんですよ。

──実際、最初にお師匠さまから指摘されたりもしましたか?

山口:一番最初に言われましたね。落語が前面に出ていなければならない、と。役者の場合は、前面に芝居が出てしまいがちなので、そこが難しいでんすよ。

──確かに、「智一&勝平の落語放浪記」に柳家わさびさんがご出演されて落語を披露していましたが、演じているというニュアンスではなかった気がします。

山口:そうですよね。今は、そこの違いやバランスの取り方を模索しています。この場では、言葉で「芝居と落語」は違うとお話していますけど、体系的に掴んでいるのかと聞かれたら、まだ自分としてはその域に到達していないんです。

なので、今は色んな人の落語を聞いています。落語の話芸とはどういうものなのか?について探求している段階ですね。

場に慣れること。選ばれる自分になること

──想像はしていましたけど、やはり落語の世界は深いんですね、

山口:はい。特に古典と言われている落語は、色んな人がやってきているので、形が決まっている部分が多いんですよね。まずそこを押さえなくちゃいけない。それができた上で、それぞれどういった味を出していくのかという世界なんです。

一方で、新作落語はまだ歴史自体が浅いので、自由にやれる幅が広いんですよ。僕も師匠の創作落語を教えていただいて、一本やったりしていますし。現代の落語の方が自分で聞いていても、気にならない感じはありますね。

──山口さんがこれまでに習った演目を教えて下さい。

山口:最初に教えていただいたのが、「粗忽長屋」というお話ですね。実は難しい話なので、最初に覚える話でもないんですけど。イベントのために挑戦したと言うか。それ以降は師匠が選んだお話をやっています。

「子ほめ」や「権兵衛狸」、「たらちね」、「道灌」。落語立川流として順番に教わっていく話ですね。他にも「花色木綿(出来心)」だったり、「寄合酒」も教わりましたよ。

落語会に出席するときには、この中からお話を選んでいますね。

──山口さんが好きな演目などをお聞きしてもいいですか?

山口:それは難しいですね(笑)。今は立川志ら乃師匠のリズムをどう習得していくかという段階なので、自分の味や色を出す段階ではないんですよ。本当に。

芝居にもそういった側面があるんですけど、落語もはじめた頃は楽しい楽しい!って感じなんです。

ただ、続けていくうちに色々なことが分かっていくと、壁にぶつかったり悩んだりするので、楽しいだけでは済まされなくなってくるというか。

物事をプラスに考えるのはとても大切なんですけど、楽しいだけでは済まされない状況が芸事の世界にはあるんですよね。本当に落ち込もうと思ったらどこまでも落ち込めちゃうくらいですから(笑)。

──そんなに落語の稽古は厳しいのですね。

山口:はじめて落語の稽古をしていただいた時はビックリしましたよ。師匠がやっている演目を動画で撮影して、その次から稽古をはじめますという感じだったんです。

僕は、落語の稽古ってどんなことをするのかな?と思っていたら「じゃあ、やってみて下さい」という感じだったんですよ。

──いきなりですか! そういった世界なんですね。

山口:そうなんです。芝居ってセリフを覚えるという作業がありますよね?落語も覚えることは覚えるんですけど、ちょっと違うんですよ。落語は一言一句を全く同じにする必要がないんです。

話の筋を落語のリズムで最後まで話せばそれでいいので。だから、「一回聞いて話の筋を覚えればできるよね?」という世界なんです。

芝居と落語のそういうところの違いも面白いですよ。

──お芝居の場合だと演出家さんと一緒に台本を見ながら稽古しているイメージがありました。

山口:そもそも落語には台本がないですからね。でも、話を書いて覚えたら暗記する覚え方になってしまうんです。

これでは、落語ではなくなってしまう。だから、聴いて覚えるしかないんですよ。自分で練習する時のために、ちょっと書き留めたりとかはするんですけどね。

でも、基本は繰り返し、繰り返し聴いて喋って覚える。

実際、落語は言葉を覚えていくわけではないと分かっているのですが、それが中々難しい。これまでは役者としてセリフを刻み込んで演技をしてきたので、組んず解れつ落語と格闘を続けている。今は、そんな印象です。

──役者としての経験と落語家としてのギャップを埋めながら、日々芸を磨いているということですね。おおよそどれくらいの期間で演目は覚えているんですか?

山口:落語会の出演日が決まっていたら、そこまでになんとか仕上げていますよ。平均すると2週間くらいで一つの話を覚えて、3週間目で師匠に見ていただいています。そこでオッケーが出れば嬉しいという感じです。

──なるほど、締切があるとそこまでになんとか仕上げるという力学が働きそうです。

山口:締切は大切ですよね(笑)。今、落語会とは別で学んでいる「たらちね」は特に締切がないものですから、ちょっとだらけちゃったりもするんですよ。何事もゴールラインを決めて、守るというのは大切かもしれません。

──なるほど。実際に落語会で高座に座る緊張感はいかがですか。やっぱり舞台とは別物ですか?

山口:とてもありがたいことにこの1年半で様々な場所に出演する機会がありました。でも、高座に座った最初の頃は大変でしたよ。

舞台の時って勿論お客さんはいるんですけど、そんなに目が合うことはないんです。勿論、芝居の流れの中で目が合っちゃったりすることはあるんですけど、そんなに気にならなくて。

でも、落語って上手下手のお客さんに向けて、目線をふるじゃないですか。ともすると、ずっと同じ方と目が合うわけですよ。

にこやかに見ていただいていれば、嬉しいんですけど、吟味されている感じで見られていると堪らないですね(笑)。ここには戸惑いました。

そうそう。最初に高座に立ったのが大きなホールだったんですよ。「大きな会場の方が緊張するんじゃない?」って思われがちなんですけど、大きなところの方が照明や距離もあって、客席がそこまで気にならないんです。

一方で、キャパ50人くらい会場がすごく緊張します。全員の顔や表情や目の動きまで分かるので。凄くドキドキしてました。でも、初体験ではなくなると、少しずつ慣れてはいくんですけどね。

──やっぱり場馴れは大切ですか?

山口:そうですね。声優のお仕事でもマイクの前で喋るということに慣れているか慣れていないかって、パフォーマンスに雲泥の差が生まれるんですよ。

例えば、スタジオに入って、毎週マイクの前で仕事ができている人の方が、一年間に一つ大役を掴んでいる方よりも絶対的に慣れていくと思うんです。

業界問わず、常に場に居続けることが大切です。少しの仕事でもいいから回数を経験していくことで、パフォーマンスが上がっていくと思います。

つまり、その場に居続けられるように努力をしなければいけない。ですが、ただ「居たいです」と臨んでも求められなければそれすら叶わない。すごいジレンマがありますよね。

新しい挑戦が生む変化

──役者としての活動と並行して、落語家としての経験を積んできた中で、山口さんにはどんな学びがありましたか?

山口:芝居の方には落語で学んだことが反映されている点は多いと思いますよ。言葉遣いがべらんめぇになってきたりとか。これは冗談ですが(笑)。

師匠に教えていただいているお話の中で「権助」というキャラクターが登場する時に、ちょっと声を作ったりするんですね。この経験が「ゲゲゲの鬼太郎」の一反もめんに反映されたりとか。役者としての表現方法が広がっているなって感じることはあります。

他にも、舞台を組み立てて行くときに、落語と同じ様に話の筋で覚えていくというか。少しこれまでと変化を付けて覚えてみることにチャレンジしてみたり。

──まだ試行錯誤の段階だと思うんですけど、実際に覚えて方を変えてみていかがですか?

山口:芝居って相手とのやり取りが重要ですよね。なので、話の筋を覚えて相手の掛け合いで完成度を上げていくような取り組み方は、台本と睨めっこしてブツブツセリフを入れるよりも、ひょっとすると完成度を上げる近道なのかもしれません。

ある程度の流れを覚えた上で、台本をじっくり見てセリフを覚えていく。新しいことに挑戦してみると、既存の仕事にも変化が生まれて楽しいですよ。

その仕事の本質から逃げずに向き合うこと

──ここまでお話を聞かせていただいて、山口さんは、本当に謙虚な姿勢でお仕事に取り組まれているなという印象を受けました。30年以上経ってもそういったスタンスで物事に向き合えるのはどうしてなのでしょう。

山口:ありがとうございます(笑)。そうですね。“ダメ出し”の話があったじゃないですか?

僕、自分が上手いと思ったことないんですよ。そういう勘違いをしない環境で育ったので。ひょっとするとそれが良かったのかもしれないですね。

ただ、役者として過ごしていると相手の方とお芝居をしていて、引き出されるセリフもあったりします。「自分だけだとこういった表現はできなかったな」って思うことが、自然にできたような感覚です。

それをオンエアーで見た時に、少しだけ自分を褒めてあげる時はあります。「凄いじゃん」って。

でも、決してそれで自分が上手いと勘違いするわけではないんです。役者って自分が上手いと思ったらそこで終わっちゃうと思うんで。きっとそれはクリエイター、何かを表現する人にとって共通なんでしょうね。

──決して上手いと思わない、謙虚な気持ちがあれば、成長は続くということですね。

山口:はい。でも、何かを生み出している自分が好きじゃないと、続けられないところもありますよね。

例えば、絵にしても自分が描いた絵が嫌いだったら発表したりもできないでしょうし。

人間なので「自分が上手いかも」って思うこともあるでしょう。でも「いやいや、まだまだよ。そんなわけはない」と言い聞かせるというか。

周りから上手いですね?って言われて気分を悪くする人はいないと思うんですよ。心のどこかで嬉しいと思うし、褒められたいという気持ちは絶対あるはずです。

役者やクリエイターって自己顕示欲の塊みたいなところもあるので(笑)。でも、そこをオブラートに包みながら、仕事に向き合うといいのかもしれませんね。

──ありがとうございます。では、最後に山口さんが今後、どんな新しいクリエイターの方とお仕事がしてみたいか。そして、その方へのメッセージをお願いします。

山口:オリジナルを持っている人は素晴らしいですよね。しっかりと個性を持った人とお仕事をするのは楽しいです。独特でもその人の個性が表面に出ている方が楽しいと思いますし。

僕、今って「なんとなく」が流行っている時代だと思っているんです。なんとなくこんな絵が流行ってたりとか、なんとなくこんな芝居が流行っててみたいな。

そういった時代だからこそ、自分がしっかりしていないと、すぐに足元をすくわれるというか。

声優業界も垣根がなくなってきて、マルチに仕事ができなくてはなりません。でも、それはあくまでもプラスアルファなんです。根本として、声優にとって一番大事なのは演技力。これは間違いないんです。

なんですけど、演技力を磨けば報われるのか?と言われれば、そうでもない時代でもあるわけで。 悔しいことですが、今の時代だと演技力がマルチな才能に負けるケースはあります。

そんな現実だとしても、そのポジションで一番何が大切なのか?という点から逃げずに追求して欲しいですよね。

その人が「大きな勝負を仕掛ける時にモノを言うのは、その仕事の本質」なので。

自分にとって大事なものは何か。それを常に自分の中で持っていて欲しいですね。

──ありがとうございました!

[取材・文:川野優希/撮影:佐藤ポン]

掲載情報

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